#4 【2022 J1第4節 FC東京×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素は大変お世話になっております。FC東京戦でございます。スタメンは以下。

f:id:syukan13:20220315230316p:plain

今季からアルベル監督が就任し初のホームゲームとなる東京は4-3-3。前節退場処分で出場停止の青木に代わって木本がアンカーの位置に入っています。
広島は前節左WBで途中出場となった満田がスタートから起用され、それ以外は前節と同じです。

アンカーの塞ぎ方

試合は序盤からボールを保持しようとする東京に対し、広島が高い位置からプレッシャーをかけていくという戦前の予想通りの展開。アンカーの木本に対してはサントスがマンマーク気味に張り付き、CBに対して浅野と森島の2シャドーが出ていくという形がよく見られました。SBに展開された場合はWBが前に出て対応します。
広島のプレッシャーのかけ方は前節の神戸戦と同じでしたが、神戸戦と比較すると格段にビルドアップを阻害できていた感じがしましたね。

f:id:syukan13:20220315233658p:plain

理由としては2つ考えられまして、1つが広島のタスク整理です。前節はサントスがアンカーへのコースを切りながら最終ラインへプレッシャーをかけるというタスク配分でしたが、サントスが前に出ていった際に中盤で数的不利が生じてしまうという問題がありました。
そこでこの試合ではサントスはアンカー周りからあまり動かさず、CBにプレスに行った2シャドーの方がコースを切りながらGKまでそのまま出ていくというやり方を採用しているように見えました。また、SBまでボールを逃がされた時もアンカーにサントスが貼りついていることでコースをなくし、選択肢を前方への長いボールに限定させることができます。
ロングボールへの対応なら広島の3バックはお手の物。ディエゴとアダイウトン相手にもほとんど仕事をさせていなかったのはさすがでした。当然のように跳ね返していましたがとんでもないことだと思いますよ、これは。

また、単純に東京がアンカーを使ったプレス回避を実装しきれていないというのもあったでしょう。アンカーやCBの動き直しによってコースを作るという場面は少なかったように感じます。スウォビィクをビルドアップに組み込んでいないというのもあり、東京のビルドアップはまだまだ発展途上に感じました。

相手を見ていた森島

一方の広島がボールを持った際も東京はプレスに出てくるのですが、それをうまく利用していたのが森島でした。東京は3トップ+2IHが広島のビルドアップ隊に対してプレッシャーをかけに出てくるのですが、そのIHの裏でボールを受けることができていました。

f:id:syukan13:20220315234342p:plain
ここは森島の位置取りが絶妙で、CBの森重やアンカーの木本が絶妙に移動しづらい位置を探してボールを受けていたという印象があります。さらにSBの渡邊が前に出てくればその裏に走ることもできます。東京のプレスに改善の余地があるという見方もできますが、相手を冷静に観察していた森島は素晴らしかったと思います。

こうして前進した後はこれまでと同様にシャドーのCBSB間のランニングで相手を動かしてスペースを使う攻撃を多用。相手がついて来なければ裏抜けしたシャドーにボールを出せば良いし、相手がついてくれば中央が空くのでWBがカットインできるという具合ですね。
10分頃に浅野がネットを揺らしたシーンはオフサイドでしたが広島のやりたいボール保持が形になった場面でしょう。

前節より増えたプレッシングのタスクをこなしながらビルドアップの出口となり、さらに崩しの局面でもフリーランを惜しまない森島は替えの利かない存在だなと感じますね。

東京の修正

東京は後半から中盤に三田を投入して木本をCBに下げる交替。これによって4-2-3-1のような並びになります。サントスにアンカーを消しづらくする&非保持で中盤を空けにくくするという意味でとても納得できる交替です。

f:id:syukan13:20220315235333p:plain

広島は東京の2DHに対して中盤から野津田を上げることで対応しようとしていましたが、後半開始からしばらくはやや誰を捕まえるかボケていたという印象です。また後半はボール保持時にサントスがサイドに流れることが多くなり、保持非保持とも前半に見せた機能性に陰りが見えていました。

そんな中でセットプレーと自陣でのミスから2失点。特に2点目についてはビルドアップのミスはさほど多くなかっただけに、失点直後に出てしまったのは痛かったですね。東京が長谷川監督体制で培ったものを発揮してきた一方でナイーブな一面を見せてしまいました。

攻めるしかなくなった広島は鮎川と柴崎を投入して保持モード。2点ビハインドなのに最も得点能力のあるであろうサントスを下げたあたりがスキッベ監督の色のような気がしますね。サントスはサイドに流れる癖が出ていたので替える判断はとてもよく分かります。

結局広島の反撃はトランジションから鮎川のゴール1点どまり。終盤は青山と川村を入れて右サイドからのクロスで攻めようとしたのだと思いますが不発に終わり、今シーズン初黒星となりました。

今後に向けて

広島は負けはしたもののプレッシングの整備については向上が見られましたし、ボール保持の狙いも交替の方針も理にかなっているように感じました。リーグ戦4試合勝ちなしとなりましたが、このまま折れずに続けてほしいところ。次の川崎も厳しい相手ですが配置的には4-3-3なのでここ2試合の教訓は生かせるはず。ぜひとも序盤戦の集大成となる内容で3ポイントを期待したいところです。

東京は改善の余地が多かったものの長谷川監督の面影が見えるしたたかさで連勝ゲット。勝ちながら課題を見つけて修正していけるのは何よりなので、進化した姿でEスタで戦える日が楽しみですね。

それではまた次回。

#3 【2022 J1第3節 サンフレッチェ広島×ヴィッセル神戸】

はしがき

どうもお世話になっております。今回は神戸戦です。スタメンは以下の通り。

f:id:syukan13:20220308223514p:plain

広島はいつもの3-4-2-1で、塩谷と野津田のDH。1トップにはサントスが起用されました。一方の神戸は4-3-1-2。武藤がケガという報道のあったFWは大迫も不在で小田とリンコンのチョイスになりました。

中盤の数的優位とロングボールによる神戸の前進

試合の図式としては自陣から丁寧なビルドアップで繋ぎたい神戸とそれを高い位置からのプレッシャーで阻害したい広島の真っ向勝負になりました。お互いの目指すスタイルが真っ向からぶつかり合う形でしたが、前半に優勢を取ったのは神戸。
立ち上がりこそ広島のプレスに怯みますが、すぐに2つの脱出ルートを見つけ出します。

f:id:syukan13:20220308224255p:plain

一つがサンペールを使ったショートパスによる前進です。広島は1トップ2シャドーがサンペールへのコースを切りながらCBに寄せていくという形で神戸のGK入りビルドアップに対抗しようとしていました。これによってGKとCBから直接サンペールにボールが入ることは少なかったのですが、神戸はSBを経由することで角度をつけてサンペールにボールを入れてきます。

このパターンは野津田が1トップ2シャドーの背中をカバーすることで消す手はずになっているように見えましたが、この時の中盤は2対4で神戸が数的優位。IHの片方を広島のCBが捕まえたとしても、野津田がサンペールを捕まえに出ていけばイニエスタや山口が空いてしまいます。
この状態が気になって野津田はなかなかサンペールまで出て行けず、神戸に安全な脱出を許しているように感じました。この辺の駆け引きは長い間ボール保持をやってきたイニエスタやサンペールの力量を感じるところです。

 

そして、もう一つがロングボールを使った前進です。

f:id:syukan13:20220308230143p:plain

広島は先ほど述べた中盤での数的不利を解消するため、ボールサイドのCBが神戸のIHを捕まえに出てきます。これ自体はわかるのですが、そうなると必然的にその裏が空いてしまうので、神戸はそこに2トップを走らせることで前進を図れます。前に出たCBの裏狙いという点では前節の札幌戦と同じですね。

広島のCBは対人が強いのでこういうオープンな1対1でも何とかしてくれるというのが前提かと思うのですが、この日は特にリンコンが素晴らしい体の強さを発揮し、何度もロングボールを納めていました。
ここでボールを納められれば神戸は一気にスペースのある状態でゴールに迫れるため大チャンスです。28分の失点シーンや32分の山口のシュートシーンはこの形で前進されたところに個人のミスが重なって生まれたものでした。
広島としてはロングボールを蹴らせてしまえばCBで回収できるという算段だったはずで、ここで何度も収められたのは大きな誤算だったでしょう。

神戸の2つの前進方法はいずれもSBが起点なので、広島としてはWBがより神戸のSBに時間を与えない寄せ方をするとよかったかもしれません。ただ、広島のプレスに対して迅速につけ入る隙を見つけた神戸がお見事というのも間違いないと思います。

 

広島のハーフスペース侵入

前節に引き続きビハインドとなった広島は攻める必要に迫られます。前半は3バックが神戸のプレスに対して簡単に長いボールを蹴ってしまい、なかなか敵陣でボールを落ち着かせることができませんでした。
長いボールでの前進はサンペール付近にサントスを置いて競らせることで空中戦の勝率を上げるというものだったのでそれはそれでアリだとは思うのですが、その後の攻撃が中々続けられない感じでした。

ということで後半からは地上戦に切り替えます。

f:id:syukan13:20220309005305p:plain

広島は後半から神戸のプレッシングに対してサポートを増やして繋ぐようになります。その際に活用していたのが神戸のIH脇のスペース。ここで受けて神戸のSBを引き出してからハーフスペースへ侵入して崩す、という動きが何度も見られました。WBが受けてシャドーが侵入というパターンもあればシャドーが降りてきてDが侵入というパターンもあり、この辺はある程度役割を入れ替えることで神戸の守備陣を惑わせることができていました。右サイドでは野上も加わることでさらに役割交換にバリエーションが増えていました。
同点ゴールのきっかけとなったFKはこのエリアで受けた藤井が獲得したものですし、89分の柴咲のシュートシーンも野津田がハーフスペースに抜けて中央へのパスコースを作ったのがきっかけでした。

神戸としてはIHがサイドまでスライドするのが難しいため防ぎにくかったところ。60分過ぎに起点となれるリンコンが下がってからは前進手段がかなり限られたことも合わせて、終盤にかけては広島に殴り続けられる展開となってしまいました。

今後に向けて

お互いが持ち味を発揮して1-1で終わったこのゲーム。広島は札幌戦の反省を生かしてプレッシングを整理したように見えましたが神戸のハイレベルなビルドアップを封じられず。ここからはボールに寄せるタイミングやコース取りなどより細かいところが要求されるのではないでしょうか。
一方でボール保持で崩しの形が見えたのは良かったと思います。相手にプレスかけて引っ掛けてショートカウンター、だけでは限界があるので、ボール保持して押し込んで即時奪回して攻め続ける、という選択肢が持てるのは重要だと思います。この方向でもキャンプから取り組んできた強度は十分に活かせるわけですからね。

神戸はボール保持した際のクオリティはさすが。リンコンの存在で長いボールでのビルドアップが成立していたのが大きかったと思います。ただし攻め込まれた時の脆さもイメージ通りという感じ。
扇原と汰木を入れたタイミングで4-2-3-1っぽくなったのでスペースを埋めてしのぐのかな?と思ったんですが結局前から行っていたのでよく分かりませんでした。イニエスタサンペールを起用する以上ボール持たないと厳しいわけで、そのあたりの葛藤は変わらずありそうです。

それではまた次回。

 

#2 【2022 J1第2節 北海道コンサドーレ札幌×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節は札幌戦でございます。開幕戦引き分けのチーム同士の一戦。札幌はJ1通算100勝がかかった一戦のようですね。スタメンは以下。

f:id:syukan13:20220302142921p:plain

お互いに3-4-2-1のミラー。札幌はシャビエル興梠の新加入アタッカーコンビが先発に名を連ねました。広島はルヴァンで活躍した永井、森島、野津田がスタメンに。スピードのある永井にはプレッシングの急先鋒としての期待がかかります。

捕まらない札幌のビルドアップ隊

さて、広島はこの試合も相手のビルドアップに対して敵陣深くまで追いかけて奪いに行くという方針でスタートしました。ミラーゲームのため序盤は広島が相手をうまく捕まえて札幌のボール前進を許していませんでしたが、時間の経過とともに札幌が対応し始めます。

f:id:syukan13:20220302145706p:plain

札幌はDHの高嶺が列を降りて4-1-5のミシャ式に変形。キック精度の高い福森をサイドに押し出して前進を図ります。この時ルーカスが高い位置を取って藤井を押し下げているのがポイント。時間とスペースを得た福森の高いキック精度を活かし、1トップ2シャドーに長いボールを入れて素早い前進を狙っていました。
札幌の1トップ2シャドーは常に広島の3バックの裏を狙っており、前からのプレスに連動してインターセプトを狙っている広島の3CBとしては裏を突かれる形でやりにくそうな印象でした。また、興梠は広島のDHの背後で受ける動きも多く、総じて広島のプレスがはまっていない中で背中を取るような動きが効いていた印象です。
札幌の先制点についてはスローインからでしたが、「前から来る広島の背後を突いて早く攻める」という意味ではこの試合の札幌の狙いが現れたシーンかなと思います。

広島としては1トップ2シャドーが背中でコースを切りながらパスコースを限定し、後方の対人強い組でボール回収といきたかったところですが、札幌はGKの菅野を使ったり、宮沢・福森・駒井あたりが役割を入れ替えたりと捕まりづらくする手段を持っており、うまくプレスの基準点を見つけられませんでした。

前半の広島はこの札幌の変化に対し、30分ごろから野津田や塩谷を積極的に前線まで出す形で対応することを選択。配置をかみ合わせてボール保持者から時間を奪うことで少しずつボールを奪える機会を増やしていきます。
札幌の方もリードしたことやボールを失う回数が増えてきたことから移動を多く伴う可変は自重しているように見えました。

徐々に攻め入る機会を増やした広島は保持で違いを生み出せる柏や森島を中心に左サイドで密集を作って突破を図ります。柏が中に入って森島や野津田が開く場面が散見されたので、このあたりはポジション交換が組み込まれていそうな予感があります。
柏は前の試合に引き続き非保持では対応に苦しんでいましたが、それでも起用されているのはボール保持でポジションチェンジしながらチャンスメイクできる存在であることが大きいのでしょう。

よりアグレッシブなプレス方法

1点ビハインドで試合を折り返した広島は、点を取りに行くべくプレスのやり方を変更しているように見えました。

f:id:syukan13:20220302165551p:plain

それが図のように藤井を前に出すプレッシングです。札幌の4バックに対する1トップ2シャドープラス1として、前半のように野津田や塩谷を上げるのではなくボールサイドのWB、というか藤井を上げる方法に切り替えてきました。これによって浮いてしまうルーカスは野上を前にスライドして捕まえる、というイメージです。
藤井を前に出すことによって彼のスピードを前向きに活かすことができますし、DHを動かさずに済むため中央のスペースを塞ぎやすくなります。これで長いボールを蹴らせてCBで回収か、中央に誘導してDHの2人で回収をイメージしているように見えました。
この方法だと野上の裏のスペースが空いてしまいますが、まずそもそも外切りしながら寄せてそこには蹴らせない、蹴らせてしまったらそこはCBが頑張ってカバーして全力で戻る、みたいな運用になっていたと思います。

広島としてはビハインドなので最終ラインにスペースを空けてでもより圧力を強めやすい選択をしていったのだと思いますが、こちらのほうがより選手の持ち味を活かせるやり方でよかったのではないかなーと思います。

一方でこのやり方のデメリットについてもしっかり出ており、特に追い付いた後は長いボールから何度もチャンスを作られていました。ビルドアップ隊への圧力がかかっていない状態だとスペースを突かれやすいやり方なので、むやみやたらに追いかけ続けて間延びしてしまうと一気にピンチになってしまいますね。この辺はメリハリをつけてやっていく必要がありそうです。

展開の選び方と今後の展望

札幌に長いボールからチャンスを作られていることを受け、広島は柴崎や青山を投入してボールを落ち着かせにかかります。終盤はいつものサイド攻撃からチャンスを作りますが、結局勝ち越せず1-1で終了。

プレッシングが決まらない場合はこうやって落ち着かせる展開を選べるのは良いですね。サイド攻撃からどうやって点を取るかは課題かもしれませんが……
鳥栖戦に引き続き後半からプレスの形を変えて流れを引き寄せた広島。ミシャ式の札幌相手にハイプレス敢行はリスクの高いやり方ですが、チームのコンセプトに準じて一定の成果を出せたのは良かったと思います。
相手のビルドアップの形を見抜いて対応するまでが弱点になりそうですが、試合数を経るごとにスカウティングで解決できる部分も増えていくでしょうし楽しみですね。

札幌はシンプルに質の高い出し手とアタッカーの質を活かしていたのが好印象。ただし、昨季までの広島のようにボールを押し付けて引きこもってくる相手とぶつかった場合にどうするんだろうという疑問はあります。
狭いスペースで相手をこじ開けるという点についても興梠やシャビエルに大きな期待がかかりそうですね。

それではまた次回。

#1【2022J1第1節 サンフレッチェ広島×サガン鳥栖】

はしがき

毎度お世話になっております。2022シーズン開幕しましたね。
サンフレッチェ広島はミヒャエル・スキッベ新監督を迎え、新体制でスタートとなりました。よりアグレッシブなサッカーを目指すということで、そのチャレンジの行方を見守っていけたらなーと思います。
今シーズンこそ目指すは全試合更新ということで……一つよろしくお願いします。

さて、開幕戦の相手は鳥栖。金監督退任、さらに選手が20人近く入れ替わるという激動のオフを過ごし、どのような出方をしてくるか読めない相手です。

昨シーズンの主力がほぼ全員残っている広島はキャンプで前線から奪いに行く意識を強めたと聞きますが、果たして完成度はどれほどのものか。ということでスタメンは以下。

f:id:syukan13:20220223111044p:plain

お互いに3-4-2-1のミラー。広島は中盤以降の安定感が目立つ一方で前線の3人は大卒ルーキーの仙波を筆頭に若く、機動力重視感のあるチョイス。
鳥栖は新加入5人という、編成からすれば当然ながらフレッシュな面々となりました。

 

列落ちの意味は

2月中旬のEスタでの開催ということで、当日は雪模様。ピッチコンディションが悪い中、序盤は長いボールのの蹴り合いに終始します。
最終ラインの強度を持ち、即時奪回の意識付けを行ってきた広島がやや優勢かなーくらいでしたが、お互いがピッチコンディションに慣れた20分過ぎから状況の違いが見え始めました。

広島は青山を最終ラインに落としてビルドアップを図りますが、CBの距離が近く鳥栖のプレッシング隊に簡単に捕まってしまいます。ボールを受けに来ようとWBが降りてくる動きもあったのですが、それがかえって鳥栖のプレスの網を狭めることになってしまい、広島の脱出ルートは狭いスペースで受けるシャドーへの縦パスかちびっこ3人へのロングボールという成算の薄いものとなっていました。

一方の鳥栖ボランチの福田を最終ラインに落とすのは共通していましたが、それだけではなかったのがお見事。

f:id:syukan13:20220223183808p:plain

福田が降りて最終ラインが4枚になった際には両サイドのCBがサイドまで大きく開いて幅を確保。WBとシャドーは高い位置を取ることでビルドアップ隊にスペースを与えつつ広島のWBとDHをピン止めし、プレスに追撃できないようにしていました。

これによって広島の1トップ2シャドー対鳥栖の3CB+2DHという構図が完成。広島の1トップ2シャドーはプレスのスイッチをどこで入れればいいのか分からないまま鳥栖が安全にボールを運べる状況となります。
特に仙波は近くの福田について行って良いか迷い続けている感じで、デビュー戦にして難しい状況に置かれていました。右サイドの浅野は藤井とタイミングを合わせて出ていける場面もありましたが、ジエゴに剥がされて裏を取られる場面もありうまくいっていたとは言いづらいところ。もしかすると降りるDHと逆サイドは比較的プレスを浴びやすいことまで考えてジエゴみたいな尖った選手を採用しているのかもしれませんね……

さらに30分くらいからは鳥栖のGK朴一圭が福田の代わりにCB化するようになってさらにボール前進しやすくなり、鳥栖が押し込んで攻め続ける展開に。敵陣に侵入してからの鳥栖はあんまり選手ごとの役割を固定せず、サイドの選手がそれぞれにポジションを交換しながらアタッキングサードへの侵入を試みていました。
特に大外の選手がボールを持った際には内側の選手が必ず裏に抜ける動きをしていたのが印象的。広島のDH、CBについていくかどうかの2択を迫りつつ大外の選手に選択肢を与える動きですね。

得点こそ奪えなかったものの、ボールを握って相手を押し込むという鳥栖の狙いはほぼ達せられていたと言って良いでしょう。その理由はDHの列落ちを単なる数的優位の確保だけでなく、ボールを前進させるためのルートとスペース確保のために使えていたこと。広島は失点こそしなかったもののやりたいことをできないまま試合を折り返すことになります。

ハーフタイムの迅速な修正

前半はやりたいことがほとんど出せていない!ということで広島は修正を施します。

1トップの鮎川は最後方のファンソッコと朴を追いかけながら片方のサイドに追い込み、サイドのCBに対してはシャドーが待ち構えます。さらに前半は自陣に押し込められていた塩谷と青山を鳥栖のDHまで出すことにします。これによって鳥栖のビルドアップ隊の出しどころをふさいできました。

f:id:syukan13:20220223191635p:plain

後方は数的同数に近い状態になりますが、対人に強いCBがいるのでそこで勝負ということでしょう。この試合に限らず、広島は最終的に同数をCBの強さで解決できるという強みがあります。プレッシングを基本方針にしているのもそこが理由なのではないでしょうか。

これで鳥栖のビルドアップ隊から時間とスペースを奪うことに成功。裏への長いボールでWBに裏を取られるリスクはあるものの、中盤でボールを奪える機会は増えました。70分頃に塩谷ががら空きのゴールにシュートを打った場面などはまさに狙い通りだったのではないでしょうか。外れたけど。

終盤とこれからの課題

こうしてボールを持てる時間が増えた広島は柴崎を投入してボールを落ち着けたり、サントスを投入してゴール前の迫力を増していきます。サントスは保持時の裏抜け、非保持時の二度追いと必要なタスクをしっかりこなしてくれていたのが好印象。チーム単位でタスクをしっかり落とし込めていることが感じられて良かったです。
鳥栖くらい整備されたビルドアップをしてくるチームがそんなにあるとは思えませんが、もう何試合か見てみると現在の立ち位置が分かるんじゃないでしょうか。

ただ、ボールを持った時の設計には難ありという印象。柴崎と柏を集めて打開するような既視感のある手法に頼っていました。この辺はキャンプでもそんなに仕込んでないと思うので、今後どうしていくかですね。現状は柴崎や森島みたいなボールを落ち着けられる選手に任せるか、裏抜け一発くらいしかないかなあと思います。終始押し込まれて見せ場の少なかった柏ですが、押し込んだ時に力を発揮できるため残されていたのかもしれません。

 

一方の鳥栖もボール前進が難しくなった状況を打開するには至らず。チャンスは終盤に広島の中盤が出てきて裏を取ったシーンくらいだったでしょうか。噛み合わせでずらせなくなった時に質で殴ることが難しく、そこを突きつけられた格好です。この試合では飯野の突破くらいだったでしょうか。垣田も頑張っていましたが、広島のCB陣は背負って時間を作るにはやや厳しい相手だったように思います。
多く選手を引き抜かれましたが、一番大きいのは酒井や山下といったCFがいなくなったことかもしれません。

とはいえ前半に見せたボール前進の仕組みはかなり整備されており、希望を感じさせました。メンツが大きく変わったことでスタイルが失われる!という心配はあまりしなくてもよさそうですね。

今後が楽しみな両チームの対戦でした。それではまた次回。

【城福監督退任に寄せて】城福体制振り返り記事

はしがき

どうも皆さまお久しぶりです。今年10回しか更新していない弊ブログですが、さすがに今回は書かねばならんだろうということで筆を執っています。
ご存じの通り、10月25日をもって城福監督が退任となりました。2018シーズンから4年間指揮を執ってきた監督の退任ということで、サンフレッチェ広島というクラブにとってひとつの節目と言えるでしょう。

そういうわけで、せっかく2019年から始めたブログですので、過去の記事も見ながら4年間の城福体制(2018年の記事はないけど)について振り返っていこうと思います。

2018シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001643p:plain

内容について

前年に何とかチームを残留させたヨンソン監督から引き継ぐ形で就任した城福監督の1年目は4-4-2を採用。前年度の4バックシステムの引継ぎ、パトリックティーラシン渡工藤といった強力なFW陣の存在を考えれば4-4-2の採用は妥当なのではないでしょうか。不足していたSBには新加入の和田とCBが本職の佐々木を置いてスタートすると、堅守を武器に開幕からスタートダッシュに成功。中断期間までの15試合を12勝1分2敗という圧倒的な戦績で駆け抜けます。このまま優勝待ったなしかと思われましたがチームは秋口から失速。25節の鹿島戦を最後に6連敗を含む2分7敗となり、最終節では3-4-2-1への回帰によって辛くも1ポイントを積み上げ、2位でシーズンを終えました。

このシーズンにおける注目点は、やはり4-4-2の強度でしょう。守備の堅さもさることながら、ボールを持つと右サイドに密集してスペースを圧縮、ボールを奪われても即時奪回して再び押し込むというモデルが高い完成度で実装されていたのではないでしょうか。そして、このゲームモデルの確立に大きな存在となったのがパトリック。ボール前進の際には前線でターゲットマンとなり、相手を押し込んだ後はクロスの目標地点となれる高さと強さはこのチームに必要不可欠でした。

最終的にはパトリックへの依存度の高さか、あるいはメンバーを固定し過ぎたことが仇になったか大失速して優勝を明け渡すこととなりました。この失速の原因は僕はよくわかっていません。(というかこういう事象が起こった時に後から振り返れるようにブログ書き始めたわけなので……)
ともあれ、旋風を巻き起こした城福体制初年度はスタートダッシュからの大失速で2位に終わることになりました。

戦績

J1リーグ戦:最終成績2位、17勝6分11敗(勝ち点57)47得点35失点
カップ戦:GS敗退
天皇杯:4回戦敗退

2019シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001655p:plain

内容について

前年度2位のためACLプレーオフからスタートしたこのシーズンは、序盤戦でリーグとACLを並行するハードな日程ながらもACLを5勝1分と抜群の成績でグループ通過を成し遂げます。リーグ戦も序盤は5勝2分と好調ながら、過密日程による疲労の蓄積か5連敗して上位争いから脱落。
ここまでは2018シーズン同様に堅守が目立つ展開でしたが、A浦和戦、H湘南戦あたりからはシャドーとWBの連携でハーフスペースに侵入していく崩しのパターンを確立。攻撃の形を手に入れたことで6勝5分の11戦負けなしと好調を維持。終盤はやや息切れしたものの、それでも五分以上の戦績で最終成績は6位となりました。

このシーズンは若手の躍進が目立ちましたね。開幕から先発に定着した大迫を筆頭に、いきなりCBの中央にルーキーの荒木が定着、森島も攻撃の核として覚醒し、青山のケガで松本泰志も出番を掴むなどスタメン争いが熾烈でした。シーズン通して安定して出場していたのは最終ラインの野上、佐々木と柏、川辺くらいでしょうか?

戦術面で言えば目立ったのはハーフスペース奥(城福監督が言うところのポケット)を攻略する動き。野津田、森島らシャドーが裏に抜ける動きでポケットを取りに行き、サイドで幅を取った柏がシャドーへのパスかカットインの2択を迫るというモダンな崩しのパターンがシーズン通して見られたのが印象的でした。

syukan13noblog.hatenablog.com

ポケットを取った後はマイナスの折り返しに稲垣が走り込めることもあり、左サイドからの攻撃は威力十分。後半戦の好調に大きく貢献したと思います。ホーム神戸戦などは象徴的ですね。

syukan13noblog.hatenablog.com

一方で右サイドからの前進、崩しは終始整備されていなかったなという印象。柏のようにカットインして選択肢を持てる選手がいないという事情もあったかと思いますが、左サイドの完成度は持っている戦力をうまくつなぎ合わせた属人的なものなのかなとも感じられました。

また、シーズン当初は吉野が起用されていた3バックの中央に対人に強い荒木が定着したことで、対人の強い3バックが中央に揃うことになりました。今や広島にとって一番の強みと言って良い3バックの強さの原点となったのがこのシーズンと言えるでしょう。ボール保持だけでなく、守備の堅さを活かして勝ち点をもぎ取った試合もたくさんありました。

戦績

J1リーグ戦:最終成績6位、15勝10分9敗(勝ち点55)45得点29失点
カップ戦:準々決勝敗退
天皇杯:4回戦敗退
ACL:ラウンド16敗退

2020シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001721p:plain

内容について

ハイプレスへの挑戦を合言葉に幕を開けた2020シーズンは、開幕戦こそ鹿島に狙い通りの展開で完勝したものの、コロナ禍による中断を経ての再開後は波に乗り切れず。プレッシングがはまらずに自陣にこもる展開も増えていき、次第に「堅守で凌いでペレイラの得点力で何とかする」がパターン化。8試合負けなしの好調期も3勝5分など、終始パッとしない成績という印象でした。ペレイラ不在となった最後の3試合はそろって0-1での敗戦となるなど、2019シーズンとは打って変わり攻撃面に不安を残すシーズンだったと言えるでしょう。

このシーズンはハイプレスへの挑戦がテーマでしたが、実態としては先に述べたように3バックの強さとペレイラの得点力を前面に押し出したゲームが増えていきました。原因としてはハイプレスにおける策の乏しさが挙げられるでしょう。ペレイラを筆頭に前線の選手の守備意識を高めることには成功していたと思いますが、「人を捕まえる」以上の策がなく、うまく噛み合わせをずらされて前進されることも多くありました。H鳥栖戦の永井龍のように相手の選択肢を削りながらプレッシャーをかける動きがもっと多ければ良かったと思いますが、なかなかそこまで落とし込めていないのかなーと感じました。

syukan13noblog.hatenablog.com

前シーズンにうまくいっていたボール保持攻撃に関しては稲垣の移籍によるユニット解体と柏のフリーダムな動きが増えたこともあって下火に。ボールを保持についてはWBを高い位置に上げてできたスペースを使う、というやり方があったくらいでペレイラへのクロスが中心となっていました。

また、引いて守備をした時の守り方に疑問を持ったのもこのシーズン。5バックなのに3CBをゴール前から動かさず(横スライドせずに)守っているような現象が見えてどうなのかなあ……と感じていました。

syukan13noblog.hatenablog.com

 

戦績

J1リーグ戦:最終成績8位、13勝12分9敗(勝ち点48)46得点37失点
カップ戦:GS敗退
天皇杯:不参加(レギュレーション変更のため)

2021シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001731p:plain

内容について

再びハイプレスへの挑戦を掲げた城福監督は4バックへの変更を決断。東をSBで起用して開幕戦に臨みました。序盤戦は勝ちきれない試合も多かったものの、時には6バックにして引きこもるなどあらゆる手立てを使って堅実に勝ち点を積み上げます。しかし、次第に陣形が間延びする場面が多くみられるようになり、6戦勝ちなしとなるなど苦戦。残留争いの足音も聞こえてくる中、14節H徳島戦の敗戦をもって3バックに戻すことになりました。
そこからは比較的安定した戦いぶりを見せますが、後半ATに追いつかれる試合が複数あるなど勝ちきれないところは相変わらず。敗北しながらも残留が確定した33節A仙台戦をもって城福監督は退任となりました。

4バックへの変更については、ハイプレスを志向したことを考えれば納得がいくものでした。前線に人数を増やせるので相手のビルドアップ隊に人数を合わせてプレッシャーをかけることができます。
また、攻撃時に片方のサイドに密集してスペースを圧縮、即時奪回を狙うやり方に関しては2018年のリバイバル的な雰囲気もありつつ、H川崎戦で見せたようなWBの立ち位置で相手を操作して空いたスペースを使いながら選手を押し出す方法については2019~2020シーズンのエッセンスを取り入れてアップデートしているようにも見えました。

syukan13noblog.hatenablog.com

しかし問題は山積み。守備時にハーフスペースのケアのためSHを下ろしてきて6バックになってしまう点や、DHが動きすぎてしまうためバイタルを開けすぎてしまう点が目につきました。
ボール保持においてはサイドに押し込んだ後のフィニッシャーがいない問題が発生。ペレイラの後釜として獲得したサントスはゴール前を離れて自由に動き回ってしまうため、クロスにはファーサイドから東を飛び込ませるなど苦肉の策で対応せざるを得なくなります。

syukan13noblog.hatenablog.com

また、前シーズンからの問題であった「人を捕まえる」以外の策がない問題も継続。以前からの強みであった3バックの対人性能を放棄することになったのもマイナスだったでしょう。シーズン中盤に3バックに戻してから成績が安定したこともうなずけます。過去の成功体験を取り入れつつも新しいことにチャレンジし、4年間の総決算を目指しましたがこれまでの強みを捨てることに見合うだけのリターンは得られず、上積みの少ないシーズンになってしまったのではないでしょうか。

戦績

J1リーグ戦:33節終了時点10位、11勝12分10敗(勝ち点45)38得点33失点
カップ戦:GS敗退
天皇杯:2回戦敗退

 

城福体制4年間の戦術的まとめ

さて、ここまで城福体制の4年間を振り返ってきましたが、城福監督が戦術的には何をやっていたのか?について4局面に分けてまとめてみたいと思います。

ボール保持

自陣からのビルドアップについてはDHを落として噛み合わせをずらすような動きは見られたものの、時間とスペースの貯金を作る方法論に関しては乏しかったという印象です。CB陣がドリブルで持ち上がったりDHが列落ちしたりといった個人レベルの工夫で何とか前進していましたが、出しどころがないままサイドに追い込まれてWBのところでボールを失う、という場面は何度も見られました。2020~2021シーズンにはハイプレスに傾倒していった城福監督ですが、ビルドアップの仕込みが難しいと判断したからこそよりカウンターアタックの比率を上げる必要があると判断したのではないか?とも思えますね。

一方で、相手陣地での崩し方に関しては割といろいろな引き出しがあるように感じます。2019シーズンのハーフスペースアタックや2020~2021で見せたWBの立ち位置で相手を操作するやり方など、相手の守備網をいかに突破するかについては重点を置いて考えられていたのではないでしょうか。
誰が出ても同じような崩し方ができる、とはいきませんが、選手の持つ個性をうまくつなぎ合わせて効果的な突破方法を構築することができていたと思います。本人もアドリブが大事と語っているように、ある程度選手の個性を尊重するタイプと言えるでしょう。

ボール非保持

ここは個人的に評価が低いポイントですね……
敵陣からのハイプレスに関しては何度か書いているように「人を捕まえる」以上の策はなかったといっても良いと思います。少なくともピッチ上にそれ以上の現象が現れてくることは少なかったです。永井のように前線から相手の選択肢を削りつつプレッシャーをかけられる選手がいれば機能するものの、それがないと相手に角度を作られて簡単に剥がされてしまっていました。ほぼ2年かけて重点的に取り組んだところだけに、もう少し目に見える成果が欲しかったと思います。ハイプレス以外の局面でもそうですが、個人戦術の落とし込みまではなかなか手が回っていないという印象は全体的にありますね。

自陣での守備ブロックに関しては5-4-1という構造上の堅さに加え、3CBの対人性能も合わさってJでも指折りの強度まで仕上がっていたと思います。
ただ気になるのはDHの挙動。WBが引き出された際にCBが横スライドするのではなくDHが降りてついていくというのがどうも約束事となっていたようで、DHがいなくなったバイタルエリアが空いて失点することがしばしば。また、そもそもDHは監視していた選手の列移動に合わせて極端に前に出たり簡単にDFラインに吸収されたりするので、バイタルエリアに人がいないというのが常態化していました。
本来動き回るタイプではない松本がDHに入った際にもこのような現象は見られるので、これはおそらく起用されている選手の違いではなくタスクとしてそう設定されているものと思われます。となると川辺の抜けたところに定着したのがハイネルというのも納得。このポジションには動ける選手が欲しいわけですからね。

この問題はハイネルがDHに入った2021シーズンに特に顕著でしたが、現象としては2019シーズンから起こっていた模様。広島の守備が人意識が強い、というのはこのDHへのタスク設定が原因なのではないかと思っています。城福監督がゾーンディフェンスの構築に失敗している、みたいな声もそうですね。
ハイプレス時は人を捕まえるだけではダメとは言え人を捕まえる必要は確実にありますし、5バックが人を捕まえに動けるのは5バックのメリットですらあるので、人に強いのはそこまで悪いことではないと思います。DHへのタスク配分を改善して動きすぎないようにすれば広島の堅守にさらに磨きがかかるのではないかと期待しています。

syukan13noblog.hatenablog.com

ポジティブトランジション

ポジトラに関してはそんなに書くことはないのですが……せっかくハイプレスでボールを奪ったのにカウンターでうまくシュートまで持ち込めなかったシーンが多いことは印象にありますね。カウンター攻撃に関しては即興でプレー選択をする必要がある場面も多いと思うのでなかなか難しいと思いますが、パスをもらう動きに決まったパターンとかあるともっと良かったのかもしれません。ここも個人戦術の問題になるんでしょうかね……

また、自陣でボールを奪った際にはまずボール保持を安定させに行く傾向が強かったように思います。もともと後ろに重たい陣形で守っているわけで、奪ったらすぐ縦にボールを入れて攻めるのは向いていないと思いますし、合理的な選択だったと思います。

ネガティブトランジション

ネガトラに関しては、即時奪回を狙う傾向が強めでした。そもそも即時奪回を見越して片方のサイドに人を集めていた2018、2021シーズンはもちろん、それ以外でもWBとシャドーによるサイドからの攻撃を基本戦略として採用していたのは即時奪回を多分に意識してのことだと思います。
「ボール保持時にサイドを集中攻撃してボールを失う位置をリスクの少ない敵陣サイドに固定し、即時奪回のリスクを減らしてメリットだけを取りに行く」というネガトラの戦略に関しては割と就任当初から一貫していたように思います。ここは非常に理にかなっていたと思いますし、ボール保持とネガトラの局面をセットにして扱うモダンな手法だったと言えそうです。

 

城福監督についてのまとめと今後のチームについて

ここまで振り返ってきましたが、城福監督はボール保持やネガトラでの考え方から、サッカーを割とマクロな視点で捉えている人なのかな?と感じました。ボールを失う位置をこちらで設定することで守備の開始地点をこちらに有利に設定する、とかは非常にわかりやすいですよね。
城福監督はよく「アドリブが大事」と言っていますが、それもマクロ視点で捉えていることの表れなのではないでしょうか。ゲームの局面ごとに大まかな設計をしておいて、細かな部分は選手の発想やその場の判断を尊重する。現代サッカーの流れではやや評価されにくいやり方のように思いますが、プレーするのは選手である以上こうした視点も必要だと思います。
逆に、CBの運ぶドリブルや一列目のプレッシャーのかけ方のような個人戦術を中心としたミクロな部分については常に課題を抱えていたと言えます。ハイプレスやビルドアップがうまくいかなかった部分については特にこの要素の影響が強く、選手の立ち位置を細かく決めないという部分もマイナスに作用していたように思います。

あと戦術とは別に大きな長所と言えるのがモチベーターとしての手腕ではないでしょうか。「靴一足分の寄せ」に代表される気持ちを前面に出したフレーズは揶揄されることもありますが、サッカーというゲームでまともに戦うためには気持ちの強さは絶対不可欠な要素だと思います。
この4年間、自陣ゴール前でシュートを打たれるときに複数の選手が体を投げ出してブロックに行くシーンを何度見たでしょうか。こうしたプレーを躊躇なく行える選手が揃っていることは、当たり前のようで今の広島にとって大きな強みだと断言できます。持っている戦力相応で、それ以上でも以下でもない戦績を出し続けるという中位力を発揮する今の広島ですが、それも球際の強さ、粘り強さというベースが揺らがなかったからこそ。戦術的な面が注目される昨今ですが、こうしたベースの部分をしっかりと絶やさなかったことは改めて評価されてほしいなと思います。

さて、城福監督の後はひとまず沢田コーチが昇格して指揮を執ることになりました。今のチームの課題は特にビルドアップとプレッシング(どの程度やるのかわかりませんが)だと認識していますが、そのあたりにどのようなアプローチをしていくかを注目したいですね。あとDHへのタスク配分のところ。

チームの今後に期待しつつ、城福監督へのあいさつとさせていただきたいと思います。
お疲れさまでした!

#10 【2021J1第27節 サンフレッチェ広島×大分トリニータ】

はしがき

平素よりお世話になっております。大分戦です。スタメンは以下。

f:id:syukan13:20210831231545p:plain

広島は土肥がスタメンに抜擢。毎試合変わっているWBには東と柏が入りました。
一方の大分は3-4-2-1の形です。

噛み合わせをずらすには

さて、お互いに3-4-2-1ということで何もしなければ配置が噛み合ってしまいビルドアップができないだろう組み合わせ。というわけで両チームとも相手のプレッシングを外すために噛み合わせをずらそうとしているのが印象的でした。

広島がよく行っていたのは
・青山を最終ラインに落とす
・野上を高い位置に上げる
・東が降りてくる
・森島が降りてくる

といったあたり。
これらは規則的に行われているというよりはめいめいが相手がどこまでついてくるかを見ながら散発的にやっているように見えました。言ってしまえばその場のノリでやってたと思います。

その中でも、前半に何回か見られた野上を上げる形は良いなと思いました。

f:id:syukan13:20210831235930p:plain

野上を上げることで柏が高い位置を取ることができ、大分のシャドーやWBが誰について行くか迷わせることができますね。WBの香川が柏について下がればできたスペースにエゼキエウが入って来るという川崎戦で柴崎がやっていたのと同じ動きもできます。また、シャドーの藤本は本来のマッチアップである野上を見るのか、降りていく青山を見るのかという問題も発生しますね。
また、野上を上げることで広島にとってここ数試合の狙いである右サイドでの密集作りにスムーズに移行することもできます。
3-4-2-1同士の噛み合わせを解消しつつ密集を作りに行くにはうってつけの手だと思ったため、試合が進むとともに見られなくなっていったのは残念。野上が上がる時間を作るには最終ラインで安定してボールを持つ必要があるので難しかったかもしれませんが、今後も見てみたい配置でした。

一方の大分はGKの高木を使うことで数的優位を作りだし噛み合わせを解消しようという姿勢が見えました。大分にとっては日常の風景なのでしょう。高木までプレッシャーが来ればフィールドのどこかでフリーの味方がいるということなのでそこに蹴ってしまえばよいわけですね。まあ毎回そううまくいくわけではないですが、高木で数的優位を作りだし、周囲にフリーの味方がいないなら長いボール、という光景はこの試合でも良く見られました。

また、高木を使う以外にもコンビネーションで前進するパターンが特に左サイドで多く見られました。三竿がボールを持った時に香川が中に絞って縦へのパスコースを空けてそこに藤本が入ってくるとか、下田が縦パスを入れて一気に追い越していくとか。人への意識が強い広島の守備陣を動かして空いたスペースを使うための方法がいくつか整備されているなという印象でした。

ビルドアップの構造的には大分の方がやや整備されていたと思いますが、実際にうまく前進できていたのは広島という感じ。
この辺は個人能力の差が出たかなーというところでした。ボール保持ではキープ力のあるヴィエイラや森島が、非保持では対人に強い佐々木や荒木のボール奪取能力で大分からボールを取り上げることに成功していたように思います。特にヴィエイラの存在は大きく感じましたね。裏抜けやポストプレーを献身的にこなし、大分の守備ブロックを広げることに成功していました。やはり今の広島においてこの人は替えが効かないですね。

密集を作るのはいいけれど

広島は前進した後は右サイドに集まって突破を図り、奪われたら数の暴力で奪い返しに行くいつもの形。この試合では自由に動く柏が右サイドで、2DHに加えて森島まで出張してくるので右サイドは超過密に。いつにもましてごちゃごちゃしてましたね。

f:id:syukan13:20210901003942p:plain

右サイドを突破する確固たる形はなかったと思いますが、人数を集めて奪われたら即奪い返すのが目的なのでまあここはそれでもいいんじゃないかなと。
ゴール前にはドウグラスヴィエイラと左WBの東が大外から入ってくるという形は確立していたので、なんか頑張って右を突破してクロス、ヴィエイラか東に合わせるというのが大まかな狙いだと思います。東は意外とヘディングも強いですしゴール前に飛び込んでこれるので、この形の左WBとしてはぴったりだと思います。この試合でもポスト直撃のシュートや3点目に繋がる折り返しがありました。左WBに東を置いて飛び込ませる形は良いオプションだと思うので引き続きやっていってほしいですね。

一方でネガトラの不安は相変わらず。特に2DHが揃ってサイドに寄ってしまうと脱出された場合に荒木と佐々木しかいないということになりかねません。
ここのリスク管理はあんまり考えていないように見えたので、DH1人は中央にとどまるくらいあってもいいんじゃないかと思いますね。

個の強さは偉大

先制した大分が広島DFに対人で負けてボールを奪われ、アタッカー陣に五分五分のボールをキープされているのを見ると、やはり個の力というのは偉大だなと思い知らされますね。特に後半に入ってからはそれが顕著でした。大分が間延びしたスペースを使って広島がカウンターを繰り出す展開が続出。スペースが大きいとより広島のこの力が際立って見えましたね。
まあこの試合はそれで良かったですが、どのチームにもこれが通用するわけではないのでどうするか。ボール保持時の振る舞いは今の方針で良いのでもうちょっとだけリスク管理してくれればいいかなーと思っています。
それではまた次回。

#9 【2021J1第25節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は川崎戦、スタメンは以下の通りです。

f:id:syukan13:20210823224021p:plain

広島は森島が不在で代わりに柴崎を起用。アウェー戦の流れを踏まえたハイプレスを想定していたのでおや?という感じ。
川崎は天皇杯から中2日で、さらに谷口がケガで不在。代役は車屋が務めることになりました。連戦中につきコンディションが気になるところでしょうか。

角度を変えつつ進む川崎

キックオフ直後から強い風が吹いていたこの試合、前半は風上に立った広島がハイプレスを仕掛けていく展開になります。しかし川崎の前進を阻害できたかというとそうではなかった感じでした。

f:id:syukan13:20210823232236p:plain

広島はサントスが背中でアンカーを消しつつCBへ寄せていき、シャドーがCBへ寄せていくことで川崎のビルドアップを阻害しようとしますが、サイドに追い込む前にSBやIHを経由して角度を変えてからアンカーにボールを届けられていました。川崎としてはアンカーにボールを届ければ中盤での数的優位を活かせます。広島はアンカーをケアしてDHが出ていった裏のスペースを使われたり、数的不利解消のために出ていったCBの裏を使われたりと割といいように前進を許していた印象でした。
右サイドにボールがあるときにエゼキエウが中央まで絞るように指示が飛ぶなど、広島としてはボールと逆サイドのシャドーを中盤に絞らせて対処を試みていましたが、川崎のパス交換のスピードには間に合っていませんでした。
広島にとって救いだったのはそこからの川崎の加速がうまくいっていなかったこと。長いスルーパスを入れてカットされたり、WGがボールを持っても仕掛けるところまで行かなかったりと崩しのバリエーションに乏しい印象でした。この辺は疲労や選手を抜かれたことの影響なのかなーという感じ。対人に強い広島のCB陣がいることも一因に思えましたが。

局面をつなげられた広島

一方の広島もこの試合ではきちんとビルドアップのルートを用意していました。

f:id:syukan13:20210823233808p:plain

良く見られたのが右CBの野上がSHの長谷川を引き付けてからサイドに流れてきた柴崎に渡す形。藤井は裏抜けしてSBの登里を引き付けることでスペースを作っていました。こうすることで野上には青山と柴崎の2つのパスコースが生まれ、スムーズに前進できていたと思います。
ハイプレスを仕掛けるのであれば柴崎より浅野を起用するのが良いのではと思いましたが、このようなビルドアップの起点となることを求めていたのであれば納得の人選です。藤井も動きがシンプルなので味方が合わせやすく、こういうシステマチックな前進をするには合っていたと思います。きちんとビルドアップのルートを想定してそれに合った選手を起用して実践できたことには大きな進歩を感じました。

f:id:syukan13:20210823233826p:plain

また、こうして前進した後はいつもの右サイド密集を作って突破を図ります。数的優位を作って突破できれば万々歳、引っかかってもすぐにボールを取り返しに行けます。右サイドを突破すればクロスを上げても良し、低い位置から左に展開して柏に仕掛けさせても良し。フリーダムに動く柏はどちらにも対応できるのは良い点ですね。
先制点のシーンも右サイドの密集から突破→ネガトラで回収の流れを繰り返してからの展開でした。
ビルドアップルートを確立できたことで前進→崩し→回収まで局面をスムーズに移行できる仕組みを作れていたのが良かったと思います。ボール前進は広島も川崎もできていたのですが、そこから意図する展開に持って行けてたのは広島だったかなという印象。リードして折り返したのもただのラッキーではなかったのだろうと思います。

 

2DHの悪癖

後半になると川崎は長谷川に替えて宮城を投入、家長と旗手の位置を入れ替えます。これによって中盤でためを作ってサイドから仕掛けられるように。広島も前半先制してからプレッシャーラインを下げていましたが、トップとシャドー1枚を残した5-3-2に近い形にして引き気味に構えるようになります。しかし2DHが度々トップを追い越すような位置まで出ていくことで中盤に穴が空いてしまい、そのスペースを使われる事態が多発。

f:id:syukan13:20210824000814p:plain

さらに63分にサントスが負傷を訴えて走れなくなったことでプレス強度も低下。向かい風も手伝って広島はほぼ自陣に釘付けとなり、川崎に殴られ続ける展開となります。CB陣が何とか身体を投げ出して粘るも、72分にロングボールでひっくり返されたところから失点。ボールホルダーにプレスがかかっていないのにふらふらと前に出ていってしまったことでその裏を使われる、またしてもリードしているとは思えない失点を喫してしまいます。

77分にようやく東と松本を投入して少し落ち着きますが、サントスの交代は負傷を訴えてからおよそ20分後の82分。交代直後に青山が限界を迎えるというアクシデントも重なり、広島は自陣で耐え忍ぶしかなくなってしまいました。

一方の川崎もダミアンを小林に替えますが、広島の撤退もあってスペースがなくなって活かしきれず、両者痛み分けという形で試合は終わりました。

試合を終えて

広島としては前半が素晴らしい内容だっただけに後半に悔しさが残るところ。特にサントスが負傷を訴えたあたりから既にタコ殴りにされているのは明らかだったので、迅速に下げて松本、東を投入して塹壕戦に持って行ければ何とかなったのではという気がします。青山、ハイネルの両DHは2人ともボール保持では威力を発揮しますが非保持の時に辺りかまわずボールに突っ込んでいってしまうため、勝っているときにこの2人を並べるのは危険という印象がぬぐえません。何ならイーブンの状況でもあんまり並べたくないです僕は。
今の広島はパワーが必要な状況には強いけど試合を落ち着かせるのがあまりにも下手という印象を持っていますが、それはこの2DHのカラーが色濃く反映されているものだと思います。とはいえ試合中にそう簡単にプレー選択を変えるのが難しいのもまた事実。ここ2試合では試合を落ち着かせるメッセージとして松本が投入されていますが、それをもっと早めてもいいんじゃないかなと思います。

一方の川崎は前半に疲れと悩みが見えましたが後半に修正してきたのはさすが。三笘、田中を抜かれながらこのクオリティを維持しているというのは冷静に考えれば驚くべきこと。やるべきことを整理してきちんと実行すれば十分にやれるという自信が見えます。とはいえ後ろには横浜FMが迫ってきており、チームの再構築に使える時間はさほど多くなさそう。この試合でハイパフォーマンスを見せた橘田や、背負うものの重さを感じさせた旗手がカギを握っているのかもしれません。

それではまた次回。