【城福監督退任に寄せて】城福体制振り返り記事

はしがき

どうも皆さまお久しぶりです。今年10回しか更新していない弊ブログですが、さすがに今回は書かねばならんだろうということで筆を執っています。
ご存じの通り、10月25日をもって城福監督が退任となりました。2018シーズンから4年間指揮を執ってきた監督の退任ということで、サンフレッチェ広島というクラブにとってひとつの節目と言えるでしょう。

そういうわけで、せっかく2019年から始めたブログですので、過去の記事も見ながら4年間の城福体制(2018年の記事はないけど)について振り返っていこうと思います。

2018シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001643p:plain

内容について

前年に何とかチームを残留させたヨンソン監督から引き継ぐ形で就任した城福監督の1年目は4-4-2を採用。前年度の4バックシステムの引継ぎ、パトリックティーラシン渡工藤といった強力なFW陣の存在を考えれば4-4-2の採用は妥当なのではないでしょうか。不足していたSBには新加入の和田とCBが本職の佐々木を置いてスタートすると、堅守を武器に開幕からスタートダッシュに成功。中断期間までの15試合を12勝1分2敗という圧倒的な戦績で駆け抜けます。このまま優勝待ったなしかと思われましたがチームは秋口から失速。25節の鹿島戦を最後に6連敗を含む2分7敗となり、最終節では3-4-2-1への回帰によって辛くも1ポイントを積み上げ、2位でシーズンを終えました。

このシーズンにおける注目点は、やはり4-4-2の強度でしょう。守備の堅さもさることながら、ボールを持つと右サイドに密集してスペースを圧縮、ボールを奪われても即時奪回して再び押し込むというモデルが高い完成度で実装されていたのではないでしょうか。そして、このゲームモデルの確立に大きな存在となったのがパトリック。ボール前進の際には前線でターゲットマンとなり、相手を押し込んだ後はクロスの目標地点となれる高さと強さはこのチームに必要不可欠でした。

最終的にはパトリックへの依存度の高さか、あるいはメンバーを固定し過ぎたことが仇になったか大失速して優勝を明け渡すこととなりました。この失速の原因は僕はよくわかっていません。(というかこういう事象が起こった時に後から振り返れるようにブログ書き始めたわけなので……)
ともあれ、旋風を巻き起こした城福体制初年度はスタートダッシュからの大失速で2位に終わることになりました。

戦績

J1リーグ戦:最終成績2位、17勝6分11敗(勝ち点57)47得点35失点
カップ戦:GS敗退
天皇杯:4回戦敗退

2019シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001655p:plain

内容について

前年度2位のためACLプレーオフからスタートしたこのシーズンは、序盤戦でリーグとACLを並行するハードな日程ながらもACLを5勝1分と抜群の成績でグループ通過を成し遂げます。リーグ戦も序盤は5勝2分と好調ながら、過密日程による疲労の蓄積か5連敗して上位争いから脱落。
ここまでは2018シーズン同様に堅守が目立つ展開でしたが、A浦和戦、H湘南戦あたりからはシャドーとWBの連携でハーフスペースに侵入していく崩しのパターンを確立。攻撃の形を手に入れたことで6勝5分の11戦負けなしと好調を維持。終盤はやや息切れしたものの、それでも五分以上の戦績で最終成績は6位となりました。

このシーズンは若手の躍進が目立ちましたね。開幕から先発に定着した大迫を筆頭に、いきなりCBの中央にルーキーの荒木が定着、森島も攻撃の核として覚醒し、青山のケガで松本泰志も出番を掴むなどスタメン争いが熾烈でした。シーズン通して安定して出場していたのは最終ラインの野上、佐々木と柏、川辺くらいでしょうか?

戦術面で言えば目立ったのはハーフスペース奥(城福監督が言うところのポケット)を攻略する動き。野津田、森島らシャドーが裏に抜ける動きでポケットを取りに行き、サイドで幅を取った柏がシャドーへのパスかカットインの2択を迫るというモダンな崩しのパターンがシーズン通して見られたのが印象的でした。

syukan13noblog.hatenablog.com

ポケットを取った後はマイナスの折り返しに稲垣が走り込めることもあり、左サイドからの攻撃は威力十分。後半戦の好調に大きく貢献したと思います。ホーム神戸戦などは象徴的ですね。

syukan13noblog.hatenablog.com

一方で右サイドからの前進、崩しは終始整備されていなかったなという印象。柏のようにカットインして選択肢を持てる選手がいないという事情もあったかと思いますが、左サイドの完成度は持っている戦力をうまくつなぎ合わせた属人的なものなのかなとも感じられました。

また、シーズン当初は吉野が起用されていた3バックの中央に対人に強い荒木が定着したことで、対人の強い3バックが中央に揃うことになりました。今や広島にとって一番の強みと言って良い3バックの強さの原点となったのがこのシーズンと言えるでしょう。ボール保持だけでなく、守備の堅さを活かして勝ち点をもぎ取った試合もたくさんありました。

戦績

J1リーグ戦:最終成績6位、15勝10分9敗(勝ち点55)45得点29失点
カップ戦:準々決勝敗退
天皇杯:4回戦敗退
ACL:ラウンド16敗退

2020シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001721p:plain

内容について

ハイプレスへの挑戦を合言葉に幕を開けた2020シーズンは、開幕戦こそ鹿島に狙い通りの展開で完勝したものの、コロナ禍による中断を経ての再開後は波に乗り切れず。プレッシングがはまらずに自陣にこもる展開も増えていき、次第に「堅守で凌いでペレイラの得点力で何とかする」がパターン化。8試合負けなしの好調期も3勝5分など、終始パッとしない成績という印象でした。ペレイラ不在となった最後の3試合はそろって0-1での敗戦となるなど、2019シーズンとは打って変わり攻撃面に不安を残すシーズンだったと言えるでしょう。

このシーズンはハイプレスへの挑戦がテーマでしたが、実態としては先に述べたように3バックの強さとペレイラの得点力を前面に押し出したゲームが増えていきました。原因としてはハイプレスにおける策の乏しさが挙げられるでしょう。ペレイラを筆頭に前線の選手の守備意識を高めることには成功していたと思いますが、「人を捕まえる」以上の策がなく、うまく噛み合わせをずらされて前進されることも多くありました。H鳥栖戦の永井龍のように相手の選択肢を削りながらプレッシャーをかける動きがもっと多ければ良かったと思いますが、なかなかそこまで落とし込めていないのかなーと感じました。

syukan13noblog.hatenablog.com

前シーズンにうまくいっていたボール保持攻撃に関しては稲垣の移籍によるユニット解体と柏のフリーダムな動きが増えたこともあって下火に。ボールを保持についてはWBを高い位置に上げてできたスペースを使う、というやり方があったくらいでペレイラへのクロスが中心となっていました。

また、引いて守備をした時の守り方に疑問を持ったのもこのシーズン。5バックなのに3CBをゴール前から動かさず(横スライドせずに)守っているような現象が見えてどうなのかなあ……と感じていました。

syukan13noblog.hatenablog.com

 

戦績

J1リーグ戦:最終成績8位、13勝12分9敗(勝ち点48)46得点37失点
カップ戦:GS敗退
天皇杯:不参加(レギュレーション変更のため)

2021シーズン

基本布陣

f:id:syukan13:20211102001731p:plain

内容について

再びハイプレスへの挑戦を掲げた城福監督は4バックへの変更を決断。東をSBで起用して開幕戦に臨みました。序盤戦は勝ちきれない試合も多かったものの、時には6バックにして引きこもるなどあらゆる手立てを使って堅実に勝ち点を積み上げます。しかし、次第に陣形が間延びする場面が多くみられるようになり、6戦勝ちなしとなるなど苦戦。残留争いの足音も聞こえてくる中、14節H徳島戦の敗戦をもって3バックに戻すことになりました。
そこからは比較的安定した戦いぶりを見せますが、後半ATに追いつかれる試合が複数あるなど勝ちきれないところは相変わらず。敗北しながらも残留が確定した33節A仙台戦をもって城福監督は退任となりました。

4バックへの変更については、ハイプレスを志向したことを考えれば納得がいくものでした。前線に人数を増やせるので相手のビルドアップ隊に人数を合わせてプレッシャーをかけることができます。
また、攻撃時に片方のサイドに密集してスペースを圧縮、即時奪回を狙うやり方に関しては2018年のリバイバル的な雰囲気もありつつ、H川崎戦で見せたようなWBの立ち位置で相手を操作して空いたスペースを使いながら選手を押し出す方法については2019~2020シーズンのエッセンスを取り入れてアップデートしているようにも見えました。

syukan13noblog.hatenablog.com

しかし問題は山積み。守備時にハーフスペースのケアのためSHを下ろしてきて6バックになってしまう点や、DHが動きすぎてしまうためバイタルを開けすぎてしまう点が目につきました。
ボール保持においてはサイドに押し込んだ後のフィニッシャーがいない問題が発生。ペレイラの後釜として獲得したサントスはゴール前を離れて自由に動き回ってしまうため、クロスにはファーサイドから東を飛び込ませるなど苦肉の策で対応せざるを得なくなります。

syukan13noblog.hatenablog.com

また、前シーズンからの問題であった「人を捕まえる」以外の策がない問題も継続。以前からの強みであった3バックの対人性能を放棄することになったのもマイナスだったでしょう。シーズン中盤に3バックに戻してから成績が安定したこともうなずけます。過去の成功体験を取り入れつつも新しいことにチャレンジし、4年間の総決算を目指しましたがこれまでの強みを捨てることに見合うだけのリターンは得られず、上積みの少ないシーズンになってしまったのではないでしょうか。

戦績

J1リーグ戦:33節終了時点10位、11勝12分10敗(勝ち点45)38得点33失点
カップ戦:GS敗退
天皇杯:2回戦敗退

 

城福体制4年間の戦術的まとめ

さて、ここまで城福体制の4年間を振り返ってきましたが、城福監督が戦術的には何をやっていたのか?について4局面に分けてまとめてみたいと思います。

ボール保持

自陣からのビルドアップについてはDHを落として噛み合わせをずらすような動きは見られたものの、時間とスペースの貯金を作る方法論に関しては乏しかったという印象です。CB陣がドリブルで持ち上がったりDHが列落ちしたりといった個人レベルの工夫で何とか前進していましたが、出しどころがないままサイドに追い込まれてWBのところでボールを失う、という場面は何度も見られました。2020~2021シーズンにはハイプレスに傾倒していった城福監督ですが、ビルドアップの仕込みが難しいと判断したからこそよりカウンターアタックの比率を上げる必要があると判断したのではないか?とも思えますね。

一方で、相手陣地での崩し方に関しては割といろいろな引き出しがあるように感じます。2019シーズンのハーフスペースアタックや2020~2021で見せたWBの立ち位置で相手を操作するやり方など、相手の守備網をいかに突破するかについては重点を置いて考えられていたのではないでしょうか。
誰が出ても同じような崩し方ができる、とはいきませんが、選手の持つ個性をうまくつなぎ合わせて効果的な突破方法を構築することができていたと思います。本人もアドリブが大事と語っているように、ある程度選手の個性を尊重するタイプと言えるでしょう。

ボール非保持

ここは個人的に評価が低いポイントですね……
敵陣からのハイプレスに関しては何度か書いているように「人を捕まえる」以上の策はなかったといっても良いと思います。少なくともピッチ上にそれ以上の現象が現れてくることは少なかったです。永井のように前線から相手の選択肢を削りつつプレッシャーをかけられる選手がいれば機能するものの、それがないと相手に角度を作られて簡単に剥がされてしまっていました。ほぼ2年かけて重点的に取り組んだところだけに、もう少し目に見える成果が欲しかったと思います。ハイプレス以外の局面でもそうですが、個人戦術の落とし込みまではなかなか手が回っていないという印象は全体的にありますね。

自陣での守備ブロックに関しては5-4-1という構造上の堅さに加え、3CBの対人性能も合わさってJでも指折りの強度まで仕上がっていたと思います。
ただ気になるのはDHの挙動。WBが引き出された際にCBが横スライドするのではなくDHが降りてついていくというのがどうも約束事となっていたようで、DHがいなくなったバイタルエリアが空いて失点することがしばしば。また、そもそもDHは監視していた選手の列移動に合わせて極端に前に出たり簡単にDFラインに吸収されたりするので、バイタルエリアに人がいないというのが常態化していました。
本来動き回るタイプではない松本がDHに入った際にもこのような現象は見られるので、これはおそらく起用されている選手の違いではなくタスクとしてそう設定されているものと思われます。となると川辺の抜けたところに定着したのがハイネルというのも納得。このポジションには動ける選手が欲しいわけですからね。

この問題はハイネルがDHに入った2021シーズンに特に顕著でしたが、現象としては2019シーズンから起こっていた模様。広島の守備が人意識が強い、というのはこのDHへのタスク設定が原因なのではないかと思っています。城福監督がゾーンディフェンスの構築に失敗している、みたいな声もそうですね。
ハイプレス時は人を捕まえるだけではダメとは言え人を捕まえる必要は確実にありますし、5バックが人を捕まえに動けるのは5バックのメリットですらあるので、人に強いのはそこまで悪いことではないと思います。DHへのタスク配分を改善して動きすぎないようにすれば広島の堅守にさらに磨きがかかるのではないかと期待しています。

syukan13noblog.hatenablog.com

ポジティブトランジション

ポジトラに関してはそんなに書くことはないのですが……せっかくハイプレスでボールを奪ったのにカウンターでうまくシュートまで持ち込めなかったシーンが多いことは印象にありますね。カウンター攻撃に関しては即興でプレー選択をする必要がある場面も多いと思うのでなかなか難しいと思いますが、パスをもらう動きに決まったパターンとかあるともっと良かったのかもしれません。ここも個人戦術の問題になるんでしょうかね……

また、自陣でボールを奪った際にはまずボール保持を安定させに行く傾向が強かったように思います。もともと後ろに重たい陣形で守っているわけで、奪ったらすぐ縦にボールを入れて攻めるのは向いていないと思いますし、合理的な選択だったと思います。

ネガティブトランジション

ネガトラに関しては、即時奪回を狙う傾向が強めでした。そもそも即時奪回を見越して片方のサイドに人を集めていた2018、2021シーズンはもちろん、それ以外でもWBとシャドーによるサイドからの攻撃を基本戦略として採用していたのは即時奪回を多分に意識してのことだと思います。
「ボール保持時にサイドを集中攻撃してボールを失う位置をリスクの少ない敵陣サイドに固定し、即時奪回のリスクを減らしてメリットだけを取りに行く」というネガトラの戦略に関しては割と就任当初から一貫していたように思います。ここは非常に理にかなっていたと思いますし、ボール保持とネガトラの局面をセットにして扱うモダンな手法だったと言えそうです。

 

城福監督についてのまとめと今後のチームについて

ここまで振り返ってきましたが、城福監督はボール保持やネガトラでの考え方から、サッカーを割とマクロな視点で捉えている人なのかな?と感じました。ボールを失う位置をこちらで設定することで守備の開始地点をこちらに有利に設定する、とかは非常にわかりやすいですよね。
城福監督はよく「アドリブが大事」と言っていますが、それもマクロ視点で捉えていることの表れなのではないでしょうか。ゲームの局面ごとに大まかな設計をしておいて、細かな部分は選手の発想やその場の判断を尊重する。現代サッカーの流れではやや評価されにくいやり方のように思いますが、プレーするのは選手である以上こうした視点も必要だと思います。
逆に、CBの運ぶドリブルや一列目のプレッシャーのかけ方のような個人戦術を中心としたミクロな部分については常に課題を抱えていたと言えます。ハイプレスやビルドアップがうまくいかなかった部分については特にこの要素の影響が強く、選手の立ち位置を細かく決めないという部分もマイナスに作用していたように思います。

あと戦術とは別に大きな長所と言えるのがモチベーターとしての手腕ではないでしょうか。「靴一足分の寄せ」に代表される気持ちを前面に出したフレーズは揶揄されることもありますが、サッカーというゲームでまともに戦うためには気持ちの強さは絶対不可欠な要素だと思います。
この4年間、自陣ゴール前でシュートを打たれるときに複数の選手が体を投げ出してブロックに行くシーンを何度見たでしょうか。こうしたプレーを躊躇なく行える選手が揃っていることは、当たり前のようで今の広島にとって大きな強みだと断言できます。持っている戦力相応で、それ以上でも以下でもない戦績を出し続けるという中位力を発揮する今の広島ですが、それも球際の強さ、粘り強さというベースが揺らがなかったからこそ。戦術的な面が注目される昨今ですが、こうしたベースの部分をしっかりと絶やさなかったことは改めて評価されてほしいなと思います。

さて、城福監督の後はひとまず沢田コーチが昇格して指揮を執ることになりました。今のチームの課題は特にビルドアップとプレッシング(どの程度やるのかわかりませんが)だと認識していますが、そのあたりにどのようなアプローチをしていくかを注目したいですね。あとDHへのタスク配分のところ。

チームの今後に期待しつつ、城福監督へのあいさつとさせていただきたいと思います。
お疲れさまでした!