#9 【2021J1第25節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は川崎戦、スタメンは以下の通りです。

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広島は森島が不在で代わりに柴崎を起用。アウェー戦の流れを踏まえたハイプレスを想定していたのでおや?という感じ。
川崎は天皇杯から中2日で、さらに谷口がケガで不在。代役は車屋が務めることになりました。連戦中につきコンディションが気になるところでしょうか。

角度を変えつつ進む川崎

キックオフ直後から強い風が吹いていたこの試合、前半は風上に立った広島がハイプレスを仕掛けていく展開になります。しかし川崎の前進を阻害できたかというとそうではなかった感じでした。

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広島はサントスが背中でアンカーを消しつつCBへ寄せていき、シャドーがCBへ寄せていくことで川崎のビルドアップを阻害しようとしますが、サイドに追い込む前にSBやIHを経由して角度を変えてからアンカーにボールを届けられていました。川崎としてはアンカーにボールを届ければ中盤での数的優位を活かせます。広島はアンカーをケアしてDHが出ていった裏のスペースを使われたり、数的不利解消のために出ていったCBの裏を使われたりと割といいように前進を許していた印象でした。
右サイドにボールがあるときにエゼキエウが中央まで絞るように指示が飛ぶなど、広島としてはボールと逆サイドのシャドーを中盤に絞らせて対処を試みていましたが、川崎のパス交換のスピードには間に合っていませんでした。
広島にとって救いだったのはそこからの川崎の加速がうまくいっていなかったこと。長いスルーパスを入れてカットされたり、WGがボールを持っても仕掛けるところまで行かなかったりと崩しのバリエーションに乏しい印象でした。この辺は疲労や選手を抜かれたことの影響なのかなーという感じ。対人に強い広島のCB陣がいることも一因に思えましたが。

局面をつなげられた広島

一方の広島もこの試合ではきちんとビルドアップのルートを用意していました。

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良く見られたのが右CBの野上がSHの長谷川を引き付けてからサイドに流れてきた柴崎に渡す形。藤井は裏抜けしてSBの登里を引き付けることでスペースを作っていました。こうすることで野上には青山と柴崎の2つのパスコースが生まれ、スムーズに前進できていたと思います。
ハイプレスを仕掛けるのであれば柴崎より浅野を起用するのが良いのではと思いましたが、このようなビルドアップの起点となることを求めていたのであれば納得の人選です。藤井も動きがシンプルなので味方が合わせやすく、こういうシステマチックな前進をするには合っていたと思います。きちんとビルドアップのルートを想定してそれに合った選手を起用して実践できたことには大きな進歩を感じました。

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また、こうして前進した後はいつもの右サイド密集を作って突破を図ります。数的優位を作って突破できれば万々歳、引っかかってもすぐにボールを取り返しに行けます。右サイドを突破すればクロスを上げても良し、低い位置から左に展開して柏に仕掛けさせても良し。フリーダムに動く柏はどちらにも対応できるのは良い点ですね。
先制点のシーンも右サイドの密集から突破→ネガトラで回収の流れを繰り返してからの展開でした。
ビルドアップルートを確立できたことで前進→崩し→回収まで局面をスムーズに移行できる仕組みを作れていたのが良かったと思います。ボール前進は広島も川崎もできていたのですが、そこから意図する展開に持って行けてたのは広島だったかなという印象。リードして折り返したのもただのラッキーではなかったのだろうと思います。

 

2DHの悪癖

後半になると川崎は長谷川に替えて宮城を投入、家長と旗手の位置を入れ替えます。これによって中盤でためを作ってサイドから仕掛けられるように。広島も前半先制してからプレッシャーラインを下げていましたが、トップとシャドー1枚を残した5-3-2に近い形にして引き気味に構えるようになります。しかし2DHが度々トップを追い越すような位置まで出ていくことで中盤に穴が空いてしまい、そのスペースを使われる事態が多発。

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さらに63分にサントスが負傷を訴えて走れなくなったことでプレス強度も低下。向かい風も手伝って広島はほぼ自陣に釘付けとなり、川崎に殴られ続ける展開となります。CB陣が何とか身体を投げ出して粘るも、72分にロングボールでひっくり返されたところから失点。ボールホルダーにプレスがかかっていないのにふらふらと前に出ていってしまったことでその裏を使われる、またしてもリードしているとは思えない失点を喫してしまいます。

77分にようやく東と松本を投入して少し落ち着きますが、サントスの交代は負傷を訴えてからおよそ20分後の82分。交代直後に青山が限界を迎えるというアクシデントも重なり、広島は自陣で耐え忍ぶしかなくなってしまいました。

一方の川崎もダミアンを小林に替えますが、広島の撤退もあってスペースがなくなって活かしきれず、両者痛み分けという形で試合は終わりました。

試合を終えて

広島としては前半が素晴らしい内容だっただけに後半に悔しさが残るところ。特にサントスが負傷を訴えたあたりから既にタコ殴りにされているのは明らかだったので、迅速に下げて松本、東を投入して塹壕戦に持って行ければ何とかなったのではという気がします。青山、ハイネルの両DHは2人ともボール保持では威力を発揮しますが非保持の時に辺りかまわずボールに突っ込んでいってしまうため、勝っているときにこの2人を並べるのは危険という印象がぬぐえません。何ならイーブンの状況でもあんまり並べたくないです僕は。
今の広島はパワーが必要な状況には強いけど試合を落ち着かせるのがあまりにも下手という印象を持っていますが、それはこの2DHのカラーが色濃く反映されているものだと思います。とはいえ試合中にそう簡単にプレー選択を変えるのが難しいのもまた事実。ここ2試合では試合を落ち着かせるメッセージとして松本が投入されていますが、それをもっと早めてもいいんじゃないかなと思います。

一方の川崎は前半に疲れと悩みが見えましたが後半に修正してきたのはさすが。三笘、田中を抜かれながらこのクオリティを維持しているというのは冷静に考えれば驚くべきこと。やるべきことを整理してきちんと実行すれば十分にやれるという自信が見えます。とはいえ後ろには横浜FMが迫ってきており、チームの再構築に使える時間はさほど多くなさそう。この試合でハイパフォーマンスを見せた橘田や、背負うものの重さを感じさせた旗手がカギを握っているのかもしれません。

それではまた次回。