#5 【2022 J1第5節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ】

はしがき

平素は大変お世話になっております。川崎戦です。リーグ戦未勝利のまま迎えたチャンピオン戦、スタメンは以下。

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広島は前節と同じ11人。川崎は出場停止のチャナティップに代わり小塚が先発となりました。

学んだことを活かして

前節の東京戦と同じ対4-3-3となった広島は全く同じメカニズムでハイプレスを敢行します。1トップのサントスはアンカーへのパスコースを消し、2シャドーがCBにプレス。WBがSBまで奪いに出ていき、後方は数的同数を受け入れて対人の強さで守ります。

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前節の東京戦でも通用したやり方ですが、川崎相手にも十分に効いていました。アンカーを経由させないことで川崎のビルドアップをサイドに追い込み、前線に長いボールを蹴らせて回収します。
後方は同数なのでリスクのある守り方ですが、広島のCB陣の対人能力は流石。特に荒木はJ最強のCFと言っても良いレアンドロ・ダミアンポストプレーをほとんど許さず、この試合の立役者の一人だったと思います。ダミアンがフリックして後方のスペースで3vs2の数的不利となったシーンなどヒヤリとする場面もありましたが、そのリスクに見合うだけの成果を出せていたと思います。

ただし川崎に綺麗にプレスを脱出されるシーンもあり、それはアンカーの橘田を捕まえきれない状況で起こっていました。

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プレスの役割を整理しきれていない状況でサントスがCBにアプローチしてしまうなど橘田へのパスコースが空いてしまうことがあり、そうなると中盤の数的優位を活かして一気に前進されてしまいます。
出る場所とタイミングの分かっている長いボールであればこそ広島のCB陣の対人性能を活かすことができたわけで、プレスのない状態で綺麗に運ばれてしまえば対応は難しくなります。
川崎レベルのチームともなればこういった隙は見逃してくれない訳で、プレスのスイッチを入れるタイミングはやはり重要と分かりますね。

しかし、こういったエラーがなければ川崎の前進を綺麗に阻止できていたわけで、広島のプランはしっかりと通用していたと言えるかと思います。

ミスマッチを活用した保持

また、ボール保持についてもこれまでの試合で得たものを活かせていました。

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川崎の3トップによるプレッシングに対してGKの林もビルドアップに参加して数的優位を確保して前進していきます。DHの塩谷と野津田は川崎のIHの動きを見つつ、寄せてくればフリックして背後のシャドーにつなぎ、自分がフリーならターンして運ぶという風に相手をしっかり見ながら最適なプレーを選択してボールを前進。さらに森島はこれまでの試合でも見せたアンカー脇への顔出しでビルドアップの出口となります。

この試合の保持率は川崎より低かったものの、効果的なビルドアップと素早いトランジションによって川崎陣内でのプレー時間は多く、スキッベ監督の言うように失点する73分までは川崎に対して優勢をとれていました。

得点のためには

ですが、73分に失点してからは意気消沈。DFの住吉を前線に入れておきながら長いボールを使わないなど混乱したままバランスを崩し、川崎のプレスをもろに浴びて沈むことになりました。
住吉のFW起用については練習していない中やったんじゃないかと思うのでうまくいかなかったのは仕方ないと思います。(鮎川投入の後なのでちょっと伝わりづらかったと思いますが……)

それよりも問題なのは各所で指摘されているように優勢の間に得点を奪えないこと。明らかに相手を押し込んだ後のところがうまくいっていません。ハイプレスによって敵陣に押し込む場面は作れているので尚更その課題が目立ちます。

この試合でも望み薄のクロスを放り込んではあっさり跳ね返されるシーンが目立ちました。長身の選手がサントスくらいしかいない中でハイクロスからの攻撃はなかなか無理があります。
それよりも繰り返してほしいのはシャドーのランニングによるスペースメイクによる攻撃。この試合でも良いシーンがいくつか見られました。

まずは38分のサントスのシュートシーン。

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高い位置でボールを受けた藤井は、対面の佐々木が前に出てきたのを見てその裏に走った浅野に斜めのパスを入れます。ペナルティエリアの角で受けた浅野が谷口を引き付けて折り返し、フリーとなったサントスがシュート。GKの正面に飛んでしまいましたが、シャドーがスペースを使う良い攻撃だったと思います。このペナルティエリアの角を取る動きは城福監督時代からよく見られる効果的な動きですが、今シーズンは特に意識的にやっているように思えます。

そして、このランニングを繰り返すことのメリットが出たのが60分の満田のシュートシーン。

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満田にパスを出した森島がそのまま裏抜けし、これにIHの小塚がついてきます。森島へのパスコースはなくなりますがかわりに満田が中央へドリブルするスペースができたため、これを見逃さず中央へ侵入。サントスとのワンツーでシュートまで持ち込みました。守備陣に阻まれましたが、崩しとしてはこの試合でも最も綺麗だったのではないかと思います。

このブログでも何度か言及していますが、シャドーがCBとSBの間を裏抜けするのは、それについていくかどうかでフリーな選手を作るかスペースを空けるかの2択を迫れるのが良いところ。相手が選ばなかった方を選んで攻略していくことでチャンスを作れます。

シャドーの選手は体力的にもきついでしょうが、このようなシーンを多く作って地上戦での仕掛けを挑んでいく方が今の広島のキャラクターには合っているのではないかと思います。

そして、おそらくチームもそれが分かっているはずです。だからこそ大外に開いてからのカットインを狙い続けられる満田が起用されているのでしょう。
就任から3か月やそこらであれだけのプレッシングをチームに落とし込んだ監督とスタッフですから、得点が奪えない問題についても必ず回答を用意してくれると思います。

今後に向けて

リーグ戦5試合が終わって3分け2敗の17位。結果だけ見ればスタートに失敗していますが、内容では神戸や東京、川崎といった強豪を追い詰めるだけのものを展開できています。また、課題についても明確になっています。あとはそれを改善していくだけ。

そこで最も重要なのは今のやり方を信じることだと考えています。背後に広大なスペースを晒しても前からボールを奪いに行く今のやり方は一瞬の迷いが命取り。選手がチームの方針を信じられなくなれば、その時こそすべてが崩壊してしまうでしょう。

テクニックと俊敏性に優れたアタッカーと、高い対人能力を誇るCBを多く抱える広島というチームにあって、今のやり方ほど選手の強みを引き出せるサッカーは他にないはず。近いうちに必ず結果が出ると信じて、まずは次の湘南戦を見守りたいと思います。

それではまた次回。