#19 【J1第32節 サンフレッチェ広島×鹿島アントラーズ】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節は鹿島戦ですね。3週間ぶりの公式戦な上タイトル獲得のような分かりやすいモチベーションもないという難しいシチュエーションで上位チームとの対決となりましたが、どんなパフォーマンスを見せてくれたのでしょうか。スタメンは以下の通りです。

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鹿島はおなじみの4-4-2。前回の対戦では若いメンバーの目立つ編成でしたが、今回は僕でも知っている選手が多く起用されていますね。白崎やベンチにいる相馬など、いつ鹿島来たの!?という選手もいますが。そういった選手がすぐに馴染んでいるのも鹿島の凄いところかもしれませんね。

一方の広島もいつもの3-4-2-1。ただ、1トップにはドウグラスヴィエイラに替わりレアンドロペレイラが起用されました。高い得点能力を持った選手ですが、起用の意図は何でしょうか。

 

ボール前進できなくても別にいいかも?

さて、両チームの陣形は噛み合っていないので、お互いにそのままの形でビルドアップを試みる序盤戦となりました。

鹿島は4バックのままで、レオシルバが度々DFラインの近くまで落ちてくる形。広島は鹿島のSBにボールが入ったタイミングでシャドーが寄せていきますが、降りていくレオシルバには無理について行こうとはしていなかったため、比較的自由にボールを受けられていました。

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ただこれ以降の形は正直そんなにはっきりとはしておらず、レオシルバが何とかスペースを見つけて2トップや中に入ってきたSHにボールを渡して前進しようとしている、という印象でした。例えばSHが受けてDFラインから人を引き出し、その裏に走った土居にボールが出るみたいなことを狙ってくるかなと思ったんですが、敵陣奥深くに侵入できることは少なく、むしろパスコースがなくなって長いボール蹴ってミス、みたいな場面の方が目立っていた気がします。

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SBが高い位置でボールを持ってWBが対応に出てきた場合には、SHやFWが裏に走って空いたスペースを狙うというのはありましたが、これも回数は多くなかったですかね。総じて、ボール保持で相手を動かして崩そうという意図はそんなに感じられませんでした。

もしかすると鹿島はボール持って相手を崩すというのはできなくてもいいや、と考えているのかもしれません。別にセットされた守備を崩せなくても、プレスかけて奪ってカウンターすれば相手の守備整ってないし、それもダメならセットプレーあるし、みたいな。トランジションの局面でバランスが崩れないように、あえて配置をあまり動かさないようにしているのかもしれませんね。まあ事実としてはボール前進することはあまりできず、広島にボールを持たれる時間はだんだん増えていきました。

 

やっぱりポジショニングは大事

一方の広島も、4-4-2を相手に3-4-2-1からあえて配置をいじる必要もないのでそのままビルドアップをしていきます。

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広島のCBがボールを持った際、鹿島のSHは結構ボールを奪いに前に出てきます。そこでWBにボールを渡すとSBを引き出せるので、空いたスペースにシャドーを走らせることができます。CBは中央でペレイラがピンどめしているため動けず、DHは中央を空けてついて行くかサイドを捨ててその場に留まるか選ばなくてはなりません。こうしてDHに①CBSB間②中央のFWMF間 のどちらを捨てるか選ばせて、空いたスペースにボールを出します。①ならそのまま突破してクロス、②なら入ってきたDHに預けるなりWBがカットインするなりして中央突破、あるいは逆サイドへの展開を目指します。

この試合に限らず、僕は今期の広島の狙いはこういう前進だと解釈しています。①②いずれかのルートで前進して主にCBSB間をとってマイナスのクロス、走りこんだ稲垣が合わせるという攻撃は11戦負けなしの原動力でした。この試合でも鹿島は逆サイドのSHがカウンターに備えてやや前目にポジションを取ることが多かったこともあり、これが狙い通りできているシーンはあったと思います。30分ごろの攻撃なんかはまさにこの流れですね。

ただ……この試合ではそれがうまくいってないことが多かったんですよね。僕はこのエラーは複数のポジショニングに関わるミスによって引き起こされていたと考えています。

まず、内側にいるCBとそれによるWBの後退です。

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特に右サイドで多く見られた光景ですが、左右のCBがサイドに開いていないと鹿島のFWが1人で2人のCBを監視できるため、2トップに対する3バックの数的優位を活かすことができません。2トップで3CBを止められるならSHはWBを見ていれば良く、結果としてSBを動かせないので相手の守備に穴を空けられません。こうなってしまうとDHかシャドーに縦パスをつけるくらいしかありませんが、DHは相手のDHに見られていますしシャドーへのパスコースも広くありません。CBはサイドまで開いて2トップの脇を取る方が、最終ラインでの数的優位を有効に使えるはずです。

また、この状況では最終ラインのサイドにスペースがあるので、WBがボールをもらいに下がってきて4バックみたいになる現象も度々起きていました。WBが下がってきても鹿島はSHがついて行けばいいし、ならSHの裏を狙おうといってもSBがいるので難しいです。CBがドリブルで運ぶスペースもなくなってしまいますし、より時間とスペースがなくなってしまう動きかなと感じました。ボールと逆サイドのWBがカウンター対応のため低い位置にいるのは良いかもしれませんが、ボールサイドのWBはCBが運ぶスペースを確保するために高い位置を取ってほしいなと思います。

 

また、ボールがサイドにあるときのDHとシャドーの距離感も気になりました。

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うまくSHを引き付けてWBに渡した時にも、シャドーとDHの距離が近すぎて相手のDHに二択を迫ることができずどっちも潰されてしまうというシーンも見られました。これはシャドーの位置が低すぎる場合とDHが前に出る意識が強すぎる場合と両方あったので何とも言えないのですが、どうもチームとしてここでDHを動かすことは考えていなさそうな気がしてきました。二択を迫るとか難しいこと考えなくても、WBに相手のSBが食いついたらシャドーはその裏を取りに行く、くらい単純化してもいいと思うのですが……

こんな具合でなかなかうまく敵陣に侵入できず、支配率では上回りながらも大したチャンスのない前半になりました。

5バックの守り方を

 後半も両チームともそんなにやり方は変えていなかったのですが、お互いに前からのプレスが落ち着いていく様子は感じました。鹿島はSHが最終ラインまで出てこなくなり、広島はシャドーがSBまでプレスに行く回数が減ったかな?と思います。そうなると広島はますますSBやDHを動かせないので攻めにくくなる一方で、鹿島はSBが比較的安全に高い位置でボールを持てることが増えていました。結果として鹿島のSBがハイクロスを上げて、空中戦をしながらなんとかシュートにもっていこうとする場面が多く見られました。

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SBがカットインする形でファーサイドにクロスを上げる形が多く見られました。空中戦にあまり強くないWBのところを狙っていたのかもしれません。

また、広島が引いて守った時に中盤にスペースが空いてしまう点も気になりました。

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これは別に後半に限った話ではないし何ならこの試合にも限らない話なのですが、広島は引いて守った際にも人に強めについて行き(特に稲垣に顕著)、ギャップが生じることがあります。この試合で言うと33分にセルジーニョにシュート打たれたのはこのパターンですね。あとは神戸戦の田中順也にやられたのとかもこれですね。この時にできたスペースをどう埋めるかについて、シャドーが頑張って埋めてもいいですが、せっかく最終ラインに5人もいるのでCB一人を前に出してWBを絞らせて対応し、シャドーには前残りしてもらってカウンターに備える方が良いのではないかと感じています。

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WBはやや大変ですが、せっかくの5バックなので思い切って迎撃して5人もDFがいるという長所を活かせる守り方をしてほしいです。もともと広島は人への意識が強い守備をするので、こっちのほうが適性あるような気もしますし。

試合の話に戻りますが、広島の守備に気になる点はあったものの別に鹿島が積極的にそこを突きに行ったということもなく、ハイクロスによる攻撃を繰り返していました。しかしそれだけでゴールをこじ開けることはできず、広島もボール保持の時間が減ってチャンスを作れないまま。両チームの交替策も状況を劇的に変えるものではなく、フレッシュな選手を同じポジションに投入するくらいだったのであまり試合に変化をもたらさなかった印象です。終盤にオープンな展開になってきてようやく少し決定機ができましたが、全体として低調で決定機の少ないまま試合が終了したように見えました。

試合を終えて

なんだか両チームとも強みよりもできないことが目立った試合だったような気がします。広島はボールを保持した際のポジショニングに改善点が多く、撤退守備にもやや穴がある状態。鹿島はボールを持つと攻め手がなくなってハイクロスに頼り、カウンターかセットプレーでの得点を主に狙っているのかなという感じでした。

広島としては、シーズン序盤にできていた堅固なブロック守備も11戦負けなしの時にできていたサイド攻撃も失われてきているように感じました。もしかしたら当時からできてなかったけど結果は出ていたにすぎないのかもしれませんが。なぜ3-4-2-1を採用しているのか、この配置と選手の特徴を最大限に活かすにはどうすればいいかをチームとして共有してほしいと思います。

鹿島はボールを持つとオロオロしていたのが結構意外でしたね。ボール非保持の際にはきっちり4-4-2で構えて奪えそうと見るやすぐにスタートしてカウンター、みたいな姿勢は流石だなと思ったんですが、ボールを持たされた時に苦労しそうだなというのはかなり思いました。というかこの試合を見たらこの後の対戦相手はみんなボール持たせてきそうな気がします。その時にどうするかは気になりますね。

今年もあと2試合。優勝争い、残留争いも注目ですが、広島が今シーズンの仕上げにどのような試合を見せてくれるかもきちんと見ていきたいと思います。