#18 【J1第30節 川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島】

はしがき

いつもお世話になっております。J1も残り4試合。ミッドウィークの浦和戦を引き分けたサンフレッチェ広島は、激闘のルヴァンカップを制した川崎のホームに乗り込みます。優勝争いに残るためにはどちらにとっても落とせない一戦、スタメンは以下の通りです。

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広島はハイネルが出場停止で不在、代わりはエミルが務めることになりました。一方の川崎は家長、車屋、谷口が出場停止、さらにケガで守田もいません。それでこの面子かよ!と思いますが。以前にも書きましたがこのチームは本当に選手層厚いですね。

ビルドアップの目的は

さて、僕はこの試合ボール持ってくる川崎に対して広島がどう対応するか見てみたいと思っていたのですが、実際に序盤は川崎がボールを保持する展開となっていました。

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川崎は2CB+2DHで最終ラインからの前進を図ってきました。田中をCB間に落とす他にも、大島をサイドの底に降ろしたりもしていましたね。広島はシャドーの森島と川辺が対面の選手に寄せたのをきっかけにプレスを開始、サイドに開いた選手はWBが捕まえ、中央に絞ってきたSHやDHは青山、稲垣を前に出して捕まえるという方針でした。ボールをどこで奪うかはまあ曖昧な気がしましたが、1トップ2シャドーのプレスで空いてから時間を奪っておき、前に出てきた中盤の選手が奪ってカウンター!というのがやりたいのだろうと思いました。

そんなに悪いやり方でもないと思ったのですが、田中や大島は時間とスペースがなくてもプレーできる選手なので、なかなかボールを奪うまでは至らないという印象でした。また、中盤の選手が前に出てくるスペースを使われることも度々ありました。14分のシーンなんてまさにそうでした。

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広島の中盤は川崎のビルドアップに対して食いついていくので、その裏のスペースは空いてしまいます。川崎はそこを突いてくるのが非常にうまかったと感じます。このシーンでは一度縦パスを入れていたのでCBの野上も前に釣りだされており、最終ラインではCB2人vsアタッカー3人の数的不利が生まれていました。この数的優位を瞬時に察知して裏に走りだしたアタッカー陣の判断も素晴らしいものだったと思います。ダイレクトにゴールまで迫れる選択肢があるならそれを使う!という姿勢は何のためにビルドアップしているかを忘れていなくて素晴らしいですね。

まあそれも狭いスペースでプレーできるビルドアップ隊の実力あってのことでしょう。特に大島には解説の岩政さんも触れていましたが、普通ならボールを奪えるか下げさせられるだろうというところで縦パスを突きさしてくるため、広島にとっては非常に厄介な存在でしたね。個人的にも好きな選手なので代表復帰期待してます。

20分には川崎が先制しますが、その発端となったのも大島がプレスを外して前進してきたところです。広島が戻り切れないところで引き出したCBの裏を取ってのクロスから最後は田中のミドルシュートでした。

広島のハイプレスはそんなに悪いとは思わなかったんですが、川崎のボール前進はそれを上回ってくるクオリティでした。ボールを持たれるとやっぱ厳しいなあという印象です。

広島のストロングと川崎の対応

さて、ボールを持った広島はストロングサイドである左からの前進を図ります。その中でも特に使おうと意識していたのがマギーニョの裏ですね。

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川崎の右SH、脇坂は広島のCBがボールを持った際に奪おうとして結構前に出てきました。それに伴ってSBのマギーニョも出てくるので、その裏に森島を走らせていました。このあたりのスペースを取ってクロス、というのは広島が今シーズン何度もやってきた形です。ただ川崎もここはしっかり対策していて、特にマイナス方向へのクロスに対してはしっかり中盤の選手を戻して塞いでいました。

さらに言えば、鬼木監督はこのマギーニョの裏のスペースを使われることを相当気にしており、途中から脇坂をあまり前に出さず柏に対してアプローチさせることでSB裏を空けないようにしていました。

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これはFC東京戦で大森がやっていたようなタスクですかね。SBを前に出さなければスペースが空くこともない、という理屈です。ただそう修正しても脇坂マギーニョのコンビは前向きで守備する方が得意なのか結構前に出てくる場面もありました。そういうわけで前半通して左サイドからの前進はそこそこ有効だったと言えると思います。

東京戦でもこうやって続けているうちに穴を空けることができましたし、このままやっていれば得点につながるかなといったところで、前半は終了します。

奇策どまりだったプランB

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そのように思っていたところ、広島はエミルに替えてレアンドロペレイラを投入。青山をアンカーに置いた3-1-4-2に変更します。

これは結構びっくりでしたね。城福監督が後半の頭からこんなに思い切った変更をしてきた試合はちょっと記憶にありません。

この変更の目的は、ひとつはプレッシャーの基準を明確化することでしょう。マークを受け渡しながら奪いに行くと外されて長いボールを蹴られてしまうことが前半で分かったので、2CB+2DHに対して2トップと2IHを当てることでより時間とスペースを削りにいきます。その分最終ラインでは同数ができてしまいますが、まあ負けてるしそのリスクは許容しますということでしょう。

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もう一つの狙いとして、ボールを持った際に前進しやすく、また長身2トップを並べることでフィニッシュの威力を上げることがあったと思います。ボール非保持の川崎は4-4-2になるので、3-1-4-2によるボール前進がうまくはまれば効果は絶大だと思われます。3バック+1アンカーで2トップによるプレスを無効化し、IHのポジショニングでDHの位置を操作しつつ前進することができる配置ですからね。

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3-1-4-2のあるべき姿

ただ、実際は急ごしらえだったのかそこまではうまくいきませんでした。3+1のビルドアップ隊になるはずが青山が最終ラインに降りてさらに稲垣も降りてきたりしていて、位置的な優位を得ることはできていませんでした。まあいつもそんな感じで中盤から人を降ろしてきて安全にWBに届けるビルドアップを行っていましたからね。いきなりポジショニングで相手を操作しろといっても難しいでしょう。

また、前半に機能していた柏と森島のユニットを崩してしまったことにより、今までできていた左サイドからの攻撃も殺すことになってしまいました。ここは森島をIHに、柏を左WBに残したままの方が良かったと思います。この前進ルートが生きていれば2トップへの効果的なクロスももっと入れられたと思いますし、それを囮に前半効いていなかったマイナスへのクロス攻撃ももっとできたかもしれません。

結局この3-1-4-2への変更は同数を作り出してオープンな展開を作り出しただけに過ぎず、攻撃も単調なクロスボールに終始していました。一方で最終ラインが同数になることによるピンチもできており、危ない場面も何度かありました。実際に一度は川崎のミスから追いついたものの、ビルドアップのミスから再び勝ち越され、そのままタイムアップとなりました。

試合を終えて

優勝を目指すならこの試合は勝たなければならず、そのためには後半に2点が必要ということで早めに博打に打って出ましたが、そのためのプランBはまだ未完成。オープンな殴り合いを仕掛けただけで逆転させてくれるほど、昨シーズンの王者は甘くありませんでした。仕込んできた同数プレスをかいくぐられ、培ってきたボール前進を壊してまで奇策に頼って結果が出なかった事実は重いかもしれません。

この結果を受けて、今後どうしていくのかは気になるところですね。今節の3-1-4-2はきちんと立ち位置仕込めれば立派なプランBとして機能することもできるはずですし、残りの3試合をそれに使う、というのもありな気がします。いよいよどこにモチベーションを求めるか難しい状況で迎える首位・鹿島との一戦。どういう方針で、どんなゲームを見せてくれるのかしっかりと見届けたいと思います。

それではまた、次回があれば。