#20 【J1第33節 湘南ベルマーレ×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。湘南戦です。片や残留のため何としても勝ち点3の欲しい湘南、一方の広島は4位になればACL出場権が取れるかどうか、というゲーム。湘南は今年のリーグ戦という意味でもJ1での広島戦という意味でもずいぶん長いこと勝利がありませんが、この試合はどうなったか。振り返ります。スタメンは以下の通りです。

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お互いに3-4-2-1のミラーマッチとなりました。湘南は前回対戦からGKが富居になったとか山田と指宿っていたっけとかいくつか変更はありますが、並びそのものは変わっていないようですね。広島の方もドウグラスヴィエイラをシャドーで起用する説が出ていましたが結局はいつも通り、ワントップは引き続きレアンドロペレイラが起用されています。

意味が異なるロングボール

さて、試合の序盤はロングボールが飛び交う展開となっていました。お互いのチームがリスクを避けた結果序盤戦がロングボールの応酬になるというのはよくある展開ですが、この試合の湘南についてはそうではなかったと思います。

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湘南はターゲットマンとして最前線に配置された指宿へのロングボールを明確にボール前進の手段としていました。そして、彼が競り合ったこぼれ球を拾うための配置をしていました。シャドーとDHの4人を中心に指宿の周りで数的優位を作り、こぼれ球を回収。ボールを奪えればパス交換で広島のCBやWBを引き出し、その裏を狙うという形で攻撃していました。

また、ボールを奪えなかったとしても、広島のビルドアップを阻害するための仕組みも湘南は持っていました。

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湘南は1トップ2シャドーが広島のビルドアップ隊に激しく圧力をかけて時間を奪い、サイドへ誘導。青山や稲垣はDHが監視し、WBに対してはWBが出ていくことでパスコースを遮断していました。

広島の主要な前進ルートはWBにボールを渡してからシャドー、DHの動きで相手のポジションを動かしてのハーフスペース攻略である、と僕は解釈しています。しかし、この試合ではそもそもWBにボールを渡しても時間とスペースが奪われていたためその後の展開ができず、最終ラインに戻すしかなくなっていました。結果として前進ルートがなくなり、CBが長いボールを蹴るしかなくなっていたと思われます。


ただハイプレスをかけた結果中央にはスペースができており、シャドーに縦パスが入ったりペレイラが長いボールをキープできたりと中央から前進できる機会はありました。ですがこの機会は全く生かせていなかったように思います。川辺や青山が前を向いてボールを受けても前線の選手が裏に抜けるなどのアクションがなく、出しどころに迷っている間に湘南の帰陣が完了する、という場面は何度か見られましたね。これがチームとしての設計の問題だったのかなと思います。せっかくWBに預けることなく中央から前進できても、そういう事態を想定していないので出し手もどこを見ればいいのか分からないし、受け手もどこに立てば良いのか分からなかったのではないかと思います。

こうした形で広島はボール前進できず、湘南の攻撃を受け続ける展開でした。セットプレーの流れから早い時間に失点したこともあり、広島はいつものペースを見失ったまま時間が進んでいきます。

動き出す森島

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悪い流れの前半でしたが、途中からは広島がボールを持てるようになっていきます。湘南のプレスが落ち着いたこともありますが、それとは別に森島のポジションチェンジが要因だったかなと思いました。

この試合はミラーマッチでマッチアップがはっきりしているので、シャドーがCBにきっちり監視されていてボールを受けられない場面がありました。まあ毎回そういうわけではなかったのでシャドーがパスを受けられる局面もあったわけですが。しかし単に列を降りる(上下にポジションを移す)だけではCBがついてきて潰される可能性が高い噛み合わせです。

そこで、前半の途中から森島がWBとCBの間のスペースに斜めに降りてくるようになりました。ハーフスペースから大外へとレーンの移動(横の移動)を交えることで、CBがついていきにくい位置取りをしていました。ここで落ち着いてボールを受けられるため、WBにボールを渡すいつもの形と似たような状況を作ることを狙ったのかなと感じました。 

ただ、広島は最終ラインで数的優位を確保するために稲垣を落としていたこともあり、サイドでボールを持った後の崩しにもバリエーションがないという状態で、大きなチャンスは青山が守備ブロックを突破した44分のシーンくらいだったでしょうか。

役割の整理と今の限界

前半まるで良いところのなかった広島は後半の頭から稲垣に替えてドウグラスヴィエイラを投入。川辺をDHに下げます。

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ドウグラスヴィエイラをシャドーに投入し、高い位置を取らせました。彼にロングボールを出せば競り勝ってボールをキープされる確率が高いため、DHも警戒せざるを得ません。そうすることで青山にボールを渡したりハイネルがドリブルで侵入するスペースを得ることができ、割とうまく前進できていたと思います。

左サイドも森島のポジションチェンジもあり、また湘南は前からボールを奪いに来てスベースもあったことから、なんとかチャンスを作ることはできていたように思います。各ポジションが立つべき位置、やるべきことを整理できた結果、いつもと同じくらいの精度でボールを前に進めてチャンスを作り出すところまでは行けていたと思います。

ただ、それも湘南が前からプレスに来ている間だけでしたね。

湘南が1トップの野田を残して自陣に撤退し、5-4-1のブロックを築いてからは広島に堅守を崩す術がなく、ペレイラドウグラスのツインタワーによる放り込みしかなくなってしまいました。本来であればここで守備を崩すために重要な役割を果たすのが柏、森島、稲垣の左サイドトライアングルなのですが、稲垣はピッチから去り森島と柏はそれぞれ逆のサイドに配置されている状態でした。まあドウグラスを投入したのは良かったと思いますし結果論に過ぎないのですけれど、そんなことを言いたくなるくらい自陣に撤退されてからの広島には手立てがなかったように思いました。

試合を終えて

湘南にとっては勝ったばかりか内容もよく自動降格も回避できたということで、素晴らしい試合になりました。ロングボールを戦略的に利用したボール前進とビルドアップの阻害、あと書いていませんが切り替えの早さにも目を見張るものがありました。切り替えの早さというのも気持ちだの強さだけでなく、ボールを奪う場所、狙うべきスペース、奪われた後に戻るべき場所がきちんと定まっていてこそ実現できるものだと思います。チームとしてしっかり対策を考えて実装し、選手たちが正確に実行したからこその会心の勝利でしょう。

こんな風に潔くロングボールを使い、トランジションの局面で勝つ!というサッカーはJ1で採用しているチームがあまりいませんがとても面白いやり方だと思いますし、ぜひ次節も勝って残留し、このスタイルを磨き上げていってほしいなと感じました。

 

一方の広島にとっては、一言で言うと完敗だったと思います。スコアは0-1でしたが、優勢だと思えたのは後半の立ち上がりくらいだったでしょうか。特に前半の何もできなさはかなり厳しいものでした。湘南側は広島が普段やっていることを完璧に分析して封じにきていたと思います。

城福監督ほか、何人かの選手も前半の出来について「もっとひっくり返せればよかった」ということを言っていました。湘南のハイプレスに対し、前に出てくるんだからその裏のスペースをもっと使えれば良かったということだと思います。もちろんその通りなのですが、それを開始前の段階から想定して実行できるとより良かったですよね。湘南はたぶん3-4-2-1だということは分かっていたはずですし、スタイル的にはあれくらいプレッシャーかけてきてもおかしくないとは思います。そうでなくても、ビルドアップが阻害されたときのプランBは用意しておいて欲しかったところです。これまでは3バックが捕まえられてもWBやシャドーを降ろして来ればそこでボールを落ち着けられていましたが、この試合はそこにもついて来られたことでにっちもさっちも行かなくなってしまいました。

やはり相手あってのサッカーですから、相手のやり方を想定して対策を用意し、それが封じられた時の策も用意できていてスムーズに実行できる、そんなチームを見たいなと思います。次節は最終節ということで今シーズンの集大成、一週間では難しいでしょうが成長した姿を見られることに期待したいと思います。

それではまた、次回があれば。