#10 【2024J1第10節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は川崎戦。2試合連続で引き分けに終わっている広島としては久々のホームで勝ち点3がほしいところ。川崎はリーグ戦での無得点が続いており、まずはゴールで雰囲気を変えたいところです。スタメンは以下。

川崎は遠野、家長、上福元が前節から変わって先発。上福元は先発予定のチョンソンリョンにアクシデントがあったため急遽先発のようですね。広島は川村が不在で満田をDHに下ろし、ルヴァン杯で復帰したマルコスが先発に入っています。

流れてくる家長の対処

さて、川崎の配置は4-3-3ということで、保持時には佐々木と大南、橘田を起点とした前進を試みていました。この3人に対して広島はCBに対して大橋とマルコス、橘田に対して加藤がマークに着く形を徹底。中央からの前進はほとんど許していませんでした。

この状況を見てなのか、川崎は家長が左サイドに流れてくるようになります。川崎と並びをかみ合わせている広島ですが、完全なマンツーマンではないので家長の対面にいる佐々木が家長について逆サイドまで行くことはありません。よって川崎は左サイドで数的優位となり、ここを起点に前進する場面が増えていきました。
本来であればSBの際に対しては越道が出ていくのが広島のプレスですが、出ていってしまうと家長とマルシーニョに対して塩谷が1人になってしまいます。これを避けるべきか際へのプレスを優先すべきかを判断しかねて、広島の右サイドは後手を踏むことになっていました。

川崎はこの配置を基本にしてボール前進を行っている節があり、前半の途中からは家長を中央、エリソンを右サイドに配置するように変更していました。
ただ、家長をサイドに流すことでフィニッシュに関与するのがエリソン1枚になることもあり、ここを佐々木がしっかりと抑えていたので決定機にはつながっていなかったという印象です。
また、川崎はボールを前進させた後のつなぎでミスが多く、それも決定機を作り出せない原因となっていたように思います。

サイドの崩しに上乗せされるマルコスの技術

一方、広島がボールを持った際にはよく見られる光景ですが、この試合も左サイドからのボール前進が多く見られました。

東がサイドの低い位置へ降りていき、マルコスがサイドに流れることでSBの瀬川を足止めして東がフリーでボールを持てる状況を作り出します。ここから大橋や松本、サイドに流れたマルコスにボールを出せる状況を作れていました。
ここでマルコスがボールを受けて危険な位置にクロスを供給するシーンが何度か見られました。また、ボール前進の起点ができたことでボールを失う位置を高い位置に設定することができ、強みであるトランジションからの速攻を活かしやすい状況になっていたと思います。

前半の20分頃からは広島が押し込む展開が続いていましたが、そのあたりの時間からマルコスや大橋を気にした瀬川がプレスに出てくるのをためらっていたので、左サイドでボールを落ち着けられるのが広島が主導権を握る要因となっていたといえるでしょう。押し込んだ後の川崎にミスが多く、攻撃が続かなかったというのもあるでしょうけれど。

試合は20分頃のセットプレーの決定機を皮切りに押し込み続けた広島がそのまま先制点を取り1-0で折り返しました。序盤こそ川崎が左サイド変調攻撃で押し込みましたが、その後は広島のペースで進んだ前半だったと言えると思います。

プレス回避には当然のやり方

さて、後半から川崎はエリソンに替えて小林を投入。そこまでロングボールに強くなさそうなエリソンに替えて立ち位置を調整しながらポストプレーを行える小林を入れることで、プレスを受けた際の逃げ場所を作る算段です。
さらに、60分頃にロングボールから起点を作ったシーンが川崎に前進の手掛かりを与えることになります。

それが家長と小林の2人を集めてロングボールの的にするという方法ですね。小林が中央で中野と競り合いをする際には佐々木がその後ろにカバーに入るので家長がフリーとなり、その家長が中央に入ってくることで小林と組んで競り合いで勝てる確率を上げよう、というやつです。家長は前半にも何度かロングボールの競り合いで競り勝っていましたし、もともとヘディングが強いのでこういう仕事もできるわけですね。
60分のシーンでは満田がこの競り合いのカバーに入ろうとした結果遠野がフリーとなりこぼれ球を拾って前進できました。プレスに対してロングボールを蹴るという発想は当然ですが、そこをCBの強さで跳ね返せるのが広島の強みです。しかしこの試合では中央へ人を集める+家長の競り合いの強さという2つの要素の合わせ技で川崎がプレス回避を決める形となりました。

川崎が押し込む展開を作ったのは60~75分の間くらいでしたが、大迫のミスもあったとはいえその間に2点をとれたのは見事でした。やはりアタッカーの質の高さは健在ですね。

クロスへの準備は良いものの……

しかし、直後のサイド攻撃で広島が同点に追いつきます。ここは中央に入ったピエロスの後ろから加藤が飛び込んでくる形になっていました。80分の大橋のヘッドもそうでしたが、この試合の広島はクロスに対して中央に2人以上飛び込ませる場面を割と作れていたと思います。大外からWBが入ってくる形もあっていいですが、加藤大橋ピエロスの3人を中央に揃えたからにはやはり複数人クロスに入ってきてほしいところ。
この形は昨シーズン後半から今シーズン序盤にかけてベースとなっていたやり方ですが、ピエロスの復帰後すぐにスムーズに機能していたのは好材料だと思います。

一方で、クロスを上げる側はもう一工夫欲しいところ。特にクロスを上げるWBが高い位置を取れるようにしたいかなと思います。後半から入ってきた志知は高い位置からクロスを上げたりコンビネーションで中央に入っていくほうがよさそうですが、それまでずっと左サイドのWBは低い位置からスタートしていたからかあまりそういった場面は作れませんでした。

この辺は人選も含めて検討したいところかもしれませんね。中央に高い選手3人並べるならWBはクロッサーの越道と志知、満田やマルコスを起用してサイドからのビルドアップ重視ならそのサイドは低い位置でプレーできる東や新井を起用するとか。
負傷者の帰還に伴ってバリエーションは増えると思いますので、このあたりどうしていくかは見守りたいと思います。

雑感・次節に向けて

広島としては2試合続けて痛い引き分けと言えそうです。今日の内容と決定機数ならもう1点とるかもう1失点減らすかしたかったなというのが正直なところ。この試合は大迫が2失点に関与してしまいましたが、ここまで複数失点のない守備陣ですから攻撃陣が助けてあげたかったような気もします。
内容は悪くないと言いつつ勝てないまま迎えるのが昨シーズン最も内容で圧倒された新潟戦というのは試練を感じさせます。

川崎も勝つチャンスはあったという気持ちでしょうが、5試合ぶりの得点もありチーム状況は上向いていそう。家長がロングボールの的としてあれほど効果的とは知りませんでした。ショートパスによる前進が使えずロングボールに頼ることを忌避する向きもあるかもしれませんが、その場でできることを探して結果に繋げられることもまた強さなのではないかと思います。

それではまた次回。