#1 【2024J1第1節 サンフレッチェ広島×浦和レッズ】

はしがき

平素は大変お世話になっております。今年もリーグ戦のレビューをやっていきます。
今年はチーム数が増えて38試合ありますが、何とか1試合でも多く書けるように頑張ります。新スタジアムだから見るのも楽しいし。よろしくお願いします。

という訳で開幕戦の相手は浦和。エディオンピースウイング初の公式戦が今シーズンのJリーグ開幕を告げる一戦となりました。スタメンは以下。

浦和は新監督ヘグモさんの宣言通り4-3-3でスタート。新加入選手の起用は渡邊、グスタフソン、松尾、サンタナと多めです。
一方の広島は昨年とほとんどメンバー変わらず。新加入の大橋はシャドーで起用され、それに伴って満田がDHでの起用となっています。オフをケガの治療に充ててこけら落としをお休みした大迫も間に合いました。

綺麗に噛み合った配置

試合は序盤からショートパスでのビルドアップを試みる浦和に対し、広島が前から圧力をかけていく展開。WBをSBまで突撃させ、最終ラインが数的同数になる光景はもうおなじみですね。

序盤だけは伊藤とグスタフソンのマークを加藤と川村のどちらにするかで戸惑っていましたが、20分頃からは加藤がアンカー番という形でほぼ固定し、2CBにピエロスと大橋、SBには東と中野、DHには満田と川村という形でマンツーマンでぴったり監視する体制を確立していました。

この状況に対して浦和はあまりポジションを動かさずに長いボールで対応しようとしますが、サンタナへのロングボールが荒木に跳ね返され、WGにもなかなかボールが届かない状況が続いたことで徐々にビルドアップの出口を失っていきます。
こうして20分過ぎからは広島がボールを持って浦和陣内に攻め入っていく頻度が上がっていきました。

幅を活かすロングボールと東の異能

さて、ボールを持った広島の前進ルートとして目立ったのは主に2つ。一つが低い位置から対角へのロングボールで、もう一つは左サイドのユニットによるショートパスでの前進でした。

対角へのロングボールはそのままの意味で、サイドの低い位置から逆サイドの高い位置へのロングボールのことですね。浦和は4バックで守っているわけですが、そこに1トップ2シャドーに加えて大外からWBが突っ込んでくるので、単純にDFラインは人が足りなくなって守りづらくなります。これで大外から折り返せればよし、跳ね返されてもシャドーなりDHなりで回収して二次攻撃に移れるという寸法ですね。誰かが言っていましたが、トランジションが速いという広島の特徴とかみ合ったよいアタックだと思います。
特に右サイドの中野が渡邊の外側に入ってくる場面は何度となく見られました。中野はこの試合走行距離とスプリント数がともに1位であり、WBから最前線に入っていくという過酷な役割を何度もこなしていたことがうかがえます。
ちなみに対面のSBはこのポジションがやや不慣れな渡邊だったわけですが、ロングボール攻勢はここを狙って仕込んできたという訳ではなく、単純に東より中野の方がこの役割に適性あるから何回もやってたという話だと思っています。なので、たとえ中野の対面が酒井だったとしても同じような攻め筋で仕掛けていたんじゃないかなと。

もう一つの左サイドのユニットというのは、主に東と加藤の関係性を指します。サイドで東がボールを受けた際、加藤が中央からサイドに流れる動きを見せることで伊藤の注意を引き付けます。ここで伊藤がついてくればフォローに来た満田や川村に渡して逆サイドへ展開、ついてこずに加藤がフリーなら斜めのパスを刺して23分のシュートシーンのように加藤が前を向いて仕掛けられるという形です。

先制点のシーンではピエロスがサイドに流れる動きをしているので、チームとして設計している前進ルートなのだと思います。これは東という出し手として優秀な選手をWBに配置しているからこその攻撃であると言えるでしょう。
広島の最終ラインはプレスを受けると大きく蹴ってしまうことも多かった中で、この左サイドからの前進については常に信頼できるルートであり続けたと思います。昨シーズンの終盤からやっている形ですが、東のWBはしばらく動かせない重要なポジションなんじゃないかなと感じました。

そして、優勢に進めていた広島は45分に川村のミドルのこぼれ球を大橋が詰めて先制。前半の広島はちょっとシュート打つの早すぎないか?というシーンがいくつかあったのですが、高いシュート意識が奏功する形で大きな先制点を得ました。

試行錯誤するグスタフソンと小泉

ビハインドとなった浦和は、保持の意識を強めることで変化をもたらそうとします。前半と比べると、配置を動かすことで広島のプレスをかいくぐろうという取り組みが印象的でした。

例えば50分のグスタフソンのシュートシーンでは、小泉が下がりながらグスタフソンが高い位置に進出することで広島のプレスを回避し、そのまま高い位置まで入っていったグスタフソンがフリーでクロスに合わせています。
また、その前の48分にも小泉とグスタフソンがそれぞれ列を降りたところからピエロスの背後を取ったグスタフソンを起点に綺麗に前進するシーンが見られました。浦和はなんとか中盤の入れ替わりで広島のマンツーマン守備を外そうとしており、それは一定の成果を上げていたように思います。

一方、SBを経由したビルドアップは前半から大きな変化がなく、浦和は後半開始から何度となく広島のプレスによってSBのところでボールを失っていました。そして52分、出しどころを失った渡邊から小泉へのパスを加藤と大橋が引っ掛けてPKを獲得することになりました。
このPKは失敗に終わり直後に関係ない形で広島が追加点を挙げるという謎の展開になりましたが、浦和としては小泉とグスタフソンの工夫が及ばないところで広島のプレスに屈した形になったと言えるでしょう。

トーンの落とし方が広島の課題

追加点を挙げた広島はしばらくしてピエロスに替えてドウグラスを入れ、プレスの強度を下げてやや引き気味に対応するようになります。
ただ、ここの対応はやや中途半端だったかなという風に映りました。

広島はプレスのラインは下げるのですが、SBに対してWBが出ていくという形は継続していたようで、結果的にWGとCBが大外で1vs1になるシーンが結構ありました。特に佐々木と東のサイドで顕著。前半のようにプレスに出ていって剥がされて自陣で佐々木とWGの1vs1ならまだしも、ミドルゾーンで構えているのに大外でCBとWGの1vs1が発生する状況は結構危険です。ここはWGに対してWBとCBが対応し、SBはシャドーに任せておくのが良かったんじゃないかなと思います。

なおCBが引き出されたスペースはDHがカバーすることになりますが、満田はここのカバーにかなり無頓着だったのでそこも怖いポイントでした。満田は前半からカウンター対応でCBが引き出されたスペースのカバーに走れていなかったり、64分のシーンなど中盤にかなりスペースがある状態でハイリスクなチャレンジを仕掛けたりと、中盤の守備者としては怖い対応が見られました。ボールを持った時の視野の広さやキック精度は抜群ですしロングカウンターの中継点にもなれるのですが、リードした展開で中盤に置いておく選手ではないかなという気がします。
この試合は82分に松本泰、92分に山崎が入ってきて中盤の守りは厚くなっていきましたが、満田をいつまでDHに置いておくかは今後の試合でも重要なポイントになっていきそうです。

雑感・次節に向けて

試合は広島が逃げ切って2-0で勝利。終盤はやや怪しさも残りましたが、チームとしての成熟度の高さは見せられたのではないでしょうか。トランジションの速さを活かすロングボール攻勢にショートパスでの前進、待望のゴールゲッターの鮮烈デビューなど、上出来の船出と言えそうです。昨年からの課題である得点力不足には改善の見られそうな中で、今日のようなリードした展開での試合の終わらせ方、あとはスカッドの底上げが伸びしろかなといったところ。

浦和は随所にアイデアの光るボール保持を見せましたが、全体的にはこれからといったところでしょうか。この試合では広島のプレスの的になったサイド起点の前進にどれだけ選択肢を用意できるかは重要になりそうです。とはいえ他のチーム相手なら前線3人がもう少し優位を取れるでしょうし、勝ち点に困ることはないんじゃないかなという感覚でした。

それではまた次回。