#3 【2024J1第3節 サンフレッチェ広島×サガン鳥栖】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は鳥栖戦の振り返りです。両チームともすでに勝ち星を挙げており、プレッシャーという意味ではそんなにない一戦。Eスタ時代はお得意様であった鳥栖に対して、広島が引き続き相性の良さを見せられるかといった第3節でした。スタメンは以下。

広島は浦和戦、FC東京戦と全く同じメンバーでスタート。ベンチには志知と茶島が初のお目見えとなりました。一方の鳥栖は4バックでスタート。前線はアラウージョがトップ下という方が正確かもしれません。昨年10得点と大ブレイクの長沼も新スタジアムのピッチに立ちました。

予習ばっちりの鳥栖が見せたカバーリングの姿勢

さて、立ち上がりにボールを保持する機会が多かったのは広島の方でした。キックオフの中野へのロングボールをきっかけに敵陣へ押し込む機会を増やし、いつものように左サイドからの前進を試みます。しかし、加藤がサイドに流れる動きに対して鳥栖はしっかりと予習を済ませていました。

鳥栖のSHとSBがプレッシングのために前に出てくると加藤がその背後に流れるのですが、そこには鳥栖のDHがしっかりとついてきてカバーしていました。また、WBの横でサポートする川村、満田に対しても逆サイドのDHがしっかりとスライドして使わせず、広島の前進ルートを阻害することに成功していました。ここ2試合で広島の前進の核となっている左サイドの振る舞いがしっかりと分析されていたのを感じるとともに、適切な状況判断でスペースを管理できる鳥栖の中盤のクオリティを感じましたね。
また、そもそも鳥栖のSHは外切りプレスを仕掛けて広島のビルドアップを中に誘導しに来るので、広島はまずCBからWBにボールをつけるのに一工夫いる形になっており、ここも前進が難しくなる要因でした。

広島のプレス威力を削った鳥栖の立ち位置

一方、10分頃から見られた鳥栖のボール保持局面でも、広島の振る舞いをよく理解しているなという動きが見られました。

本来であれば鳥栖のCBに対してトップとシャドー、SBに対してはWBを前に出してプレスをかけたい広島ですが、鳥栖は前線の選手の立ち位置で広島にプレスをためらわせていました。10分のシーンが分かりやすいですが、2トップのアラウージョやヒアンが広島の左右CB、SHが広島のWBの近くに立つことで、CBとWBの縦へのスライドを制限。鳥栖のSBに時間を与えることに成功していました。
時間をもらえた丸橋と原田はドリブルで運ぶも良し、DHにパスを出すも良しの状況。数的不利に追い込まれた広島の1トップ2シャドーはプレスの開始地点を設定できない状況になっていました。

広島は果敢にWBを上げてプレスに行くこともありましたが、そうなると広島のCBの背後が空いている訳なので、鳥栖はそこに2トップを流して前進すればOKの構え。15分のシーンのように、ここにトップを流せば広いスペースで勝負できますね。
なお、このシーンで満田がついて行ったように広島はこのスペースをDHが下がってどうにかカバーして対応していましたが、DHの後ろ向きでの対応ということで結構怪しい感じでした。

ということで序盤は保持非保持ともに鳥栖の目論見通りの展開に見えましたが、広島はいつもの激しいプレスとは違ったやり方でこの状況を打開することに成功します。

鳥栖プレスの可動域を見極めた満田

それが13分頃から見られた満田の列落ちです。鳥栖がプレスに来る前にさっさとサイドの底に降りてしまうことでボールを受けて、長いボールで展開していきます。

本来満田の対面である鳥栖のDHは広島の保持局面ではサイドのスペースを埋めるのが仕事なので、降りていく満田にはついて行きづらくなります。また、満田の移動先にいるSHはCBにプレスをかけるのが仕事なので、降りてくる満田をどうすればいいかは難しいところ。
という訳で、満田がフリーで長いボールでの展開を決める展開が続いていました。2点目はまさにその形で、満田から逆サイドの大橋、中野がいる競り合いに勝てそうなエリアに放り込んでからの展開でした。
こうして満田が鳥栖のプレスをかいくぐる術を見つけたことで、試合のペースは広島に傾いて行きます。1点目のシーンで東の横が空いていると見るやすぐさまサポートに入ったところも含めて、満田のインテリジェンスの高さが目立つ展開となりました。

なお、満田が降りていればサイドの高い位置に留まり、加藤がサイドで受けるときにはすかさず中に入っていく東の調整能力も素晴らしかったですね。

配置を噛み合わせるメリットとデメリット

後半に入ると鳥栖は2人選手を入れ替え、3-4-2-1にして広島と並びを噛み合わせてきました。

ただ、効果があったかは微妙でしたね。おそらく非保持では並びをかみ合わせることで満田を捕まえやすくし、保持ではキムテヒョンを片上げしてそこから押し込みたかったのだろうと思います。しかし広島側も非保持で対面の相手がはっきり決まるのでプレスに行きやすくなり、そっちの側面の方が強く出てしまったという印象です。結果的に後半開始早々にビルドアップが捕まりPKを献上した鳥栖はこれを決められてほぼ終戦
広島は小原や野津田の試運転もしつつ、最後まで走り切った中野にご褒美があるという理想的な展開でホーム連勝を決めました。

雑感・次節に向けて

広島にとっては大きな勝利ではないかと感じました。4-0というスコアもそうですが、保持非保持ともに対策をしてきた相手に対して、これまでならプレスを継続して強度差による力押しでなんとか主導権を握りに行くしかありませんでした。

しかしこの試合では相手のプレスに対する応手を早い段階で確立し、そこからすぐに得点を奪うというこれまでと違う引き出しが見られました。ボールを保持してくる相手に対してプレスで正面から向き合うのではなくこっちもボールを握って対応する、という間接的な解決方法は今や世界中で見られる現象ですし、強いチームならどこもやっていることでしょう。複数の引き出しで試合の主導権を掴みに行けるようになっているのは頼もしい限りです。
また、 東京戦のレビューで活用したいねと書いた「押し込んだ後のハーフスペース」についても、この試合ではまさにそこからのミドルで先制点が生まれていてよかったです。押し込んでいればああいうことも起こるわけで、クロス一辺倒ではなくいろいろなアプローチをすることが大事ですね。

鳥栖は相変わらずかなり論理的に組み上げられたチームと感じました。DHが保持非保持問わずあれだけ走れて、チーム全体で戦術を共有できているのも好印象。

一方で、J1上位とやるにはどうしてもパワーが足りないのだろうなとも感じました。スーパーなWGやCFが1人いるだけでかなり違いそうですが…… ヒアンやアラウージョ、あるいは長沼はそうなっていけるのかが見どころ。この路線で上り詰めていく鳥栖は見たいところですが、目の前の成績という現実との闘いに打ち勝っていく必要がありそうです。

それではまた次回。