#21 【J1第23節 サンフレッチェ広島×浦和レッズ】

はしがき

毎度お世話になっております。湘南戦は飛ばしてしまいまして、今回は浦和戦となります。スタメンは以下。

広島は負傷したエゼキエウに代わり、ケガ明けの満田が先発起用となりました。浦和は左SHが早川→明本の1人変更。両チームともリーグ戦ではしばらく結果が出ていませんが、メンバー変更は少なめでした。

ロングボールを見据えた起用法

さて、この試合は開始から長いボールが目立つ展開となりました。両チームが相手のビルドアップに対して積極的にプレッシャーを仕掛けていったのが理由ですね。

浦和の保持に対して、広島は1トップ2シャドーで浦和の2CB+岩尾を監視します。さらにSBに対してはWBが出てきて対応するため、ほとんどオールコートマンツーマンのような様相を呈していました。という訳で唯一フリーになれるGKの西川はロングボールを選択することが多くなっていましたが、その時にターゲットになっていたのは主にホセカンテと酒井の2人です。

トップのホセカンテにボールを届けられれば一気にチャンスに繋がりますし、サイドの酒井はポジション的に背の高い選手とマッチアップしづらいわけで、プレスからの脱出ルートとしては合理的な選択ですね。GKから酒井に長いボールで脱出、というのは日本代表でもやってましたし。

しかしこの試合についてはホセカンテには荒木、酒井には志知とそれぞれ長身の選手がマッチアップしており、浦和が想定していたほど空中戦での優位は取れなかったと思います。特に志知の起用は明確に酒井への対応を想定してのことでしょう。ここで負けないことでプレスが空転せず、主導権を渡さないことに繋がっていたと思います。

広島のプレスは割とうまくいっていましたが、その中にあって浦和の先制点のシーンはロングボールに寄る脱出が成功したシーンでした。ここでは明本が背後への抜け出しで荒木をホセカンテから引きはがすことに成功し、そのわずかな時間でホセカンテがシュートを打つことができました。
あの位置からシュートを打たれて失点することはあまりないかもしれませんが、前線の選手の動きで荒木を釣って引いてきたトップをフリーにするというのは広島のプレス回避の一つの回答といえるかもしれません。

脱出ルートを設定していた広島

また、この日の広島はボールを持てた際にどうやってチャンスに繋げるかについてもきちんと設計されていることがうかがえました。

浦和は保持時に両SBが高めの位置を取る傾向があるので、ボールを奪ったらSBの裏をシャドーやトップが狙っていくシーンが非常に多く見られました。特に荻原の裏ですね。高い位置と言ってもCBよりもやや中盤寄りに立ってる程度なのですが、奪ってから直線的に人とボールを送り込んでいたので荻原が戻ってくる前に侵入することができていました。ナッシムの決勝ゴールもこの位置からのシュートでしたし、終始狙っていた展開だったのではないでしょうか。

広島はこれまでボールを奪ってからシュートまでが遅いという傾向があったので、奪ってからのショートカウンターに明確な形があったことは素晴らしかったと思いますね。

また、保持時の前進ルートもシンプルながらしっかりと確保されていました。「ハーフスペースにピエロスを流してキープ」と、「中盤の数的優位を活かしてフリーになった野津田」の2つですね。プレス時にマンツーマンで仕掛けていた広島に対し、浦和はCBを1人余計に残しているため中盤は数的優位を得られます。ピエロスのポストプレーと合わせて広島は浦和のプレスを回避できる場面が時々あり、浦和が先制したという展開も相まって広島がボールを持つ時間が増えていきました。

シンプルな広島の保持

ボールを持つようになった広島は普段よりもシンプルなサイド攻撃を仕掛けていきます。

CBがボールを持った際にWBを高めの位置に上げてボールを渡し、SBと単純な1vs1を仕掛けていくのが敵陣での主な振る舞いでした。普段ならWBを低い位置に下げてシャドーをサイドに流しているところですが、この日はWBがサイドの高い位置に出て1トップ2シャドーは中央でクロスに備える形が多かったですね。ピエロス、ドウグラス、加藤とストライカータイプを揃えているからこそできるシンプルな攻撃です。なおここにWBも入ってくることがあります。

逆にこれまでよくやっていたハーフスペースへの飛び出しはこの試合ではそんなに見られませんでした。DHの位置から飛び出していく動きが持ち味の川村もこの日は自重気味で、後半に得点が必要になったタイミングで解禁していったように見えました。
WBを高い位置に上げているので、その上DHも飛び出してしまうとカウンター対応がかなり厳しくなってしまいます。実際にDHを中央に残しておくことでカウンターを遅らせることができているというシーンは何度かありました。この辺りのバランス感覚はこの試合で良かったポイントだと感じましたね。

ただ、結局得点に繋がったのは加藤のハーフスペース抜け出しだったように、大外一辺倒ではなかなか得点に繋がりにくいのも事実です。得点シーンでは大外への展開を振りにして関根と荻原の内側へのケアが甘くなったところを突けましたし、44分にも満田の抜け出しからチャンスができました。WBに高い位置を取らせてシャドーがその内側を抜けていく、という動きを混ぜることでより相手は対応しづらくなるのではないかと思います。

雑感・次節に向けて

広島にとっては大きな大きな勝ち点3となりました。6試合勝利がなかった中で上位の浦和相手に内容の伴ったゲームができたことは大きな自信になるでしょう。個人的には保持時にWBを高い位置に上げてうまくいったのが嬉しかったですね。ぜひこの試合の方針でこの先の戦いを見てみたいと思います。

一方の浦和は優勝争いから後退する敗戦となってしまいました。やはり脱出ルートとして想定していたホセカンテと酒井が思ったほど優位を取れなかったのが痛かったでしょうか。広島はマンツーマンとはいえ、もう少し保持で駆け引きしたかったかもしれません。

それではまた次回。