はしがき
毎度お世話になっております。2023シーズンはとっくに終了し、2023年ももうすぐ終了ということで、サンフレッチェ広島の2023シーズンを振り返っておこうと思います。
概要
今シーズンの成績はこちら。
J1リーグ……勝ち点58、42得点28失点の3位
ルヴァンカップ……グループステージ3勝3敗の2位で敗退
天皇杯……3回戦敗退
昨シーズンと比較するとカップ戦こそ早期敗退しているもののリーグ戦の勝ち点は増えており、シーズン中の主力流出や負傷離脱があったにしては頑張った成績なのではないかなと思います。
で、今シーズンの戦いぶりを振り返るにあたり、満田の負傷離脱とそこからの復帰がターニングポイントであったことは今更指摘するまでもないでしょう。満田の負傷前、離脱中、復帰後それぞれのリーグ戦の成績は以下の通りです。
1. 離脱前(第1節札幌~第12節福岡まで11試合)
→7勝2分2敗の勝ち点23、16得点8失点
2. 離脱中(第12節神戸~第22節湘南まで11試合)
→2勝2分7敗の勝ち点8、8得点14失点
3. 復帰後(第23節浦和~第34節福岡まで12試合)
→8勝3分1敗の勝ち点27、18得点7失点
もう明確に違いますね。今回は、
①なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わってしまったのか?
②満田離脱前と復帰後でどのように戦い方が変わったのか?
の2点について考えてみようと思います。また、昨シーズンの振り返り記事で今後の課題について書いていたので、その答え合わせと来季に向けての展望も少し書いてみます。
①なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わってしまったのか?
さて、なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わったか?を考えるにあたっては、広島がどのようなサッカーをしていて満田がどういう役割を果たしていたかを整理してみる必要がありそうですね。
例としてシーズン初勝利を挙げたガンバ戦のスタメンを見てみます。
シーズン当初の広島は割と2トップもやっていて、満田はWBに配置されることも多かったですね。この時期の広島は昨シーズンの延長戦上という感じで、基本的にはWBを下げてその裏に人とボールを送り込み、サイドを起点に相手を押し込むというスタイルで戦っていました。
このやり方をするとシャドーやトップをサイドに流すことになるため中央から人がいなくなってしまい、最終的にシュートを打つ人がいなくなりがちになるという問題があります。しばしば2トップを採用していたのはその対策という面もあるのでしょうが、2トップにした結果プレスがハマらなくなるという場面も見られました。
また、DHをハーフスペースの高い位置まで進出させるのも崩しの人数を確保するためには必要なことだったと思いますが、こちらもカウンター対応がおろそかになってしまうという弱点があります。
総じてサイドに人を流すという前進の方法にやや難があり、それを解消するためにほかのところにゆがみが生じているという印象でした。
そうしたスタイルの中で満田は貴重なWBとシャドーを両方こなせる選手であり、2トップにした結果中央からサイドに配置が変わるなど、複数のタスクをハイレベルに行う何でも屋としての側面が強かったように思います。シャドーではサイドに流れてビルドアップに関与し、WBとしては逆サイドのクロスに飛び込んでいく動きも求められます。強度の部分だけでなく、戦術の維持にも高い貢献度を誇るアタッカーですね。
また、点が欲しい終盤には満田を中央に入れて強度を維持しつつフレッシュなアタッカーを投入するという采配が多く、終盤まで点の取れない試合が多かったことで満田には負担の大きい展開が続いていました。
そういった中で満田が負傷離脱したことで、なかなか点が取れないのはそのままに強度を維持できなくなっていき、相手を押し込み続けたり終盤で逆転したりといった展開が見られなくなっていったというのが失速の大きな要因ではないかと思います。
満田の離脱後もサイドからのビルドアップやDHの侵入は続けていましたが、前進した後に押し込めず中央に空いたスペースからカウンターを受ける、終盤まで強度を維持できないので拮抗した展開で耐えられないなど、リーグ戦の序盤では見られなかった負け方をするようになっていきます。
もちろん手をこまねいていたわけではなく、6月には4-3-3にチャレンジするといった取り組みもありました。
中盤がよく動くサッカーをしていたので3センターにして穴をあけにくくするという狙いは良かったと思うのですが、実際には急ごしらえのためかプレスもハマらず、中盤3センターが連動していないため山崎が過重タスクに陥るという結果になってしまいました。
満田離脱後はゲーム全体での強度の最大値という意味でも、強度の持続力という意味でも遅れを取るようになり、既存戦術のマイナスの部分が目立つようになってきた時期だったと言えるでしょう。さらに森島の移籍も発表され、いよいよこれまでの戦術を維持するのは難しいという状況になっていきました。
②満田離脱前と復帰後でどのように戦い方が変わったのか?
こうした中でターニングポイントとなったのが、8月のホーム浦和戦だったと考えています。
8月の浦和戦で最も大きなトピックは当然満田の復帰だったと思いますが、それ以外にも大きな変化が見られた試合でした。それがWBの人選とビルドアップの役割変化です。
まず浦和戦の一つ前の湘南戦からWBは志知と中野のセットになっており、このセットにすることでビルドアップに詰まった時にサイドにロングボールで逃げることができるようになります。それまではビルドアップに困ったらとりあえず背後に蹴るという形だったので、ここで勝算のある逃げ先を用意できるようになりました。
これに伴いWBが高い位置を取って相手を押し下げ、CBも高い位置でビルドアップに関与するようになっていきます。これまではトップやシャドーがサイドに流れる、いわば横移動で相手を押し込みに行っていたのをWBとCBの縦移動で押し込む形に変えました。より自然な配置のまま相手を押し込めるようになったわけですね。
ここは本当に素晴らしかったと思います。保持時にピッチを広く使って攻めるにはどうしても大外に人を配置する必要があり、それまではそれをシャドーがやっていて全体のバランスを取るのが難しかったところがありました。そこをWBが担うようになることで、シャドーは中央でのフィニッシュに、DHはカウンター対応に専念できるようになり攻守にバランスの良い陣形を保つことができるようになります。
シャドーとDHが中央に待機していることで大外には短期突破が求められるようになりましたが、志知と中野がこの役割に適応できていたのも素晴らしかったですね。
そして、塩谷と佐々木の両CBの活躍も見逃せません。ただでさえ少ない人数で相手のカウンターに対処していたのを、保持時に高い位置まで持ち上がって効果的なパスを出すことまで要求されるようになったわけですからね。この役割をしっかりこなしていた2人には頭が上がりません。リーグ後半戦でもっとも多くのタスクを背負っていたのがこの両CBかもしれませんね。
この路線は最終的には左WBに東を起用して、高さを維持しつつコンビネーションでの前進も織り交ぜていく方向でまとまりました。
それ以外にも川村が中央にポジショニングしてトランジションで絶大な存在感を発揮するようになったこと、加藤が早々にフィットして中央でのクロスに合わせられる選手が増えたことなど、様々な要素が噛み合ってリーグ後半戦の好調に繋がっていきました。
③昨シーズン上がった課題の答え合わせと来季への展望
昨シーズン書いたレビュー記事では2023シーズンの課題として
・広島対策への対応
・シーズンを走り切る体力
の部分を挙げました。
昨シーズンの広島に対する策としては、相手のボール保持時にWBやDHの配置を操作して押し込むこと、広島の保持時には最終ラインにプレスをかけてビルドアップさせないことが考えられました。
これらのうち、WBが動かされる点についてはCBとマークを受け渡して対処している場面が多く見られましたし、保持でプレスをかけられた場合には前述のようにWBへのロングボールで逃げることができていました。DHが動かされるところにはまだ少し弱いかなと思いますが、DHが中央に留まっている分対処しやすくなっているのではないかと思います。
また、後者の体力については正直不安な部分が多いです。ターンオーバーもしつつ臨んだカップ戦で早期敗退となったためシーズン後半は基本的に週1回の試合でしたが、それでもコンディション不良が相次いでいました。特にピエロスとマルコスあたりはもっと稼働してほしかったところでしょう。来シーズンはACL2出場の可能性も高いので、どうやってプレー時間を管理しつつ結果も出していくかは重要なポイントとなります。
そして来季に向けてですが、まず戦術面では大きな不満はありません。リーグ後半戦でボール保持の部分が大きく改善されたと思いますし、もともとの持ち味だったプレス強度もしっかり維持できています。もうすこしだけシャドーがサイドの崩しに関与してもいいかな?とは思いますが、基本的にはリーグ後半戦の内容を維持してもらいたいというところです。
それよりも編成面で、いまだに絶対的な主力が定まっていないと言えるCFと川村の相方となるDHを誰が担うかという点がキーポイントではないでしょうか。両ポジションとも人数は十分なので、高いパフォーマンスを維持しつつ稼働を維持できる選手がいるかどうかです。特にサイドからのクロスが中心となる今の戦術ではCFは非常に重要です。リーグ優勝したいなら得点数が少なくともあと15点ほど必要になってくると思いますので、その増加分を担える選手が出てくることを期待したいと思います。
また、現在負荷の高い両CBも30代半ばに差し掛かっていますので、彼らの控えも考えておく必要がありますね。カップ戦などで試していくことになると思いますので、今季出番の増えた中野や山崎、レンタルバックしたイヨハらに期待がかかります。
おわりに
というわけで2023シーズンの振り返りでした。改めて見ると主力の流出や長期離脱もありつつよく3位という好成績でまとめたなという感じですね。戦術的にもバランスのとれたいいサッカーをしていますし、これを書いている12/30時点で目立った流出もなく、新スタジアムに向けて好材料が揃っています。
来シーズンは本格的にタイトルが目標になってくるでしょうし、今季よりも目線を高く据えて追っていけるといいなーと思います。
それではまた来年!