【サンフレッチェ広島2022シーズンレビュー】

はしがき

毎度お世話になっております。ワールドカップも終わり2022年もあと僅かということで、もう既に来シーズンへと目が向きつつある今日この頃ですが、そういえば2022シーズンを振り返っていなかったのでレビューを書いておこうと思います。せっかくリーグ戦全試合のレビューも書いたことですしね。

2022シーズンの戦績ですが、リーグ戦は15勝10分9敗の勝ち点55、52得点41失点で3位でした。天皇杯は準優勝、ルヴァンカップは優勝ということで、3大タイトルのすべてで上位、うち一つはタイトル獲得と非常に充実したシーズンとなりましたね。

今回は上位進出の理由について、

①編成の強みと戦略の合致
②課題解決サイクルの速さ
③戦力運用のうまさ
という3つの要因から振り返っていきたいと思います。

また、今季の課題と来シーズンへの展望について、

①広島対策への対応
②シーズンを走り切る体力

という2点について書いておこうと思います。

編成の強みと戦略の合致

さて、上位進出した要因の一つ目ですが、今の広島に在籍している選手の特徴に合った戦略を採用したことだと考えています。具体的には強度を前面に押し出した大胆なプレッシングですね。

ここ数年、特に2019年あたりからの広島のスカッドはCBの対人性能に大きな強みを持っており、被カウンターや押し込まれた際にCBの強さで何とかするという場面は何度も見られました。
2022シーズンに行った大胆なプレッシングは緊急避難的にCBの強さに頼るのではなく、CBの強さから逆算した戦略であると言えそうです。相手のビルドアップに対して後方が同数になってでも完全に配置をかみ合わせ続けるという方法はCBの強さなくして成立しません。CB陣としては負担のかかる方法ですが、相手がプレス回避した結果飛んでくるロングボールなら予測できる分対応しやすいかもしれません。

またCBだけでなく、中盤に野津田川村満田といった高い強度でプレーできる選手たちが現れたことも大きな要因でしょう。去年は青山とハイネルがDHをやっていたようなチームなので、それと比べると中盤でのデュエル勝率はかなり高くなっているのではないでしょうか。

CB陣の強さを前提としたプレッシングの戦略と、それを実現できる高強度の選手たちが揃ったことが一つ目の好調の要因と言えそうです。

課題解決サイクルの速さ

さて、二つ目の要因は課題解決サイクルの速さとしました。この場合の課題解決サイクルというのは一試合単位と数試合単位の両方を意味しています。

一試合単位という意味では、今シーズンの広島の試合では前半やや低調だったものの前半の途中から、あるいはハーフタイムを挟んで内容が向上し、それがスコアに反映されていくという試合が多くありました。ちなみに今シーズンの広島はリーグ戦34試合中14試合で先制されていますが、そのうち半分の7試合で勝ち点を獲得しています。今数えましたが、カップ戦含めるともっとあるでしょう。

これは単に逆境に強いという精神論ではなく、試合中にうまくいっていない点を修正するという試みがうまくいっていたという要因が大きいはずです。例えば開幕戦と第2節ではいずれも前半は相手の最終ラインでミスマッチを作られてボールを運ばれる展開を作られていましたが、いずれも後半から選手を前に出してプレッシングを強めることで打開してきました。

syukan13noblog.hatenablog.com

syukan13noblog.hatenablog.com

このように試合中に問題点を特定して適切な修正を施せるというのは今シーズンの広島の大きな強みだったと思います。

また、数試合単位で同じような問題点が続いた時はそれをトレーニングに落とし込んで解決している様子も見られました。
最も象徴的なのは、3月に相手を押し込みながら点を取れない試合が続いたのでクロスからのシュート練習を重点的に行い、4月にクロスからの得点が劇的に増えたというエピソードでしょう。ニアに1人選手を飛び込ませてその後ろの選手が合わせるというのは基本的なパターンだと思いますが、それが効果的と判断して練習に落とし込み、短期間で結果を出すというのはなかなかできないことだと思います。
他にもプレッシングに出ていったときにDHの裏が空いてそこを使われるので、WBをスライドさせて埋める仕組みにしたというのも挙げられますね。ホーム浦和戦などでやっていたやつです。

syukan13noblog.hatenablog.com

このように数試合単位で見えてきた課題を克服していくことで、シーズン中にも目に見えてチームの完成度が向上していきました。数試合戦うとすぐに分析されて対策を立てて対応されてしまうJ1リーグにおいて、その対策を克服できたことは上位進出の大きな要因だったと思います。

戦力運用のうまさ

さて、最後の要因として戦力運用のうまさを挙げました。これはシーズン開始時点のスタメンと終盤のスタメンを比べてみるとわかると思います。

まず開始時、開幕戦のスタメンがこちら。

f:id:syukan13:20220223111044p:plain

で、最終戦となった鳥栖戦がこちらです。

過去に自分が作った図から引用しています。なんか広島のユニが青いのが気になりますが。ちなみに最終戦のベンチ入りメンバーは川浪、今津、藤井、松本、柴崎、青山、ソティリウでした。

開幕スタメンから残っているのは佐々木、野上、塩谷、柏だけで、あとの7人は入れ替わっています。森島、野津田、荒木のように開幕戦と最終戦だけピンポイントでコンディション不良だった選手もいますが、それでも今期の広島の戦力の入れ替わりの激しさの一端は見えるのではないでしょうか。満田なんて開幕戦はベンチ外だったわけですからね。

しかし、満田をはじめ川村や松本、住吉など2月の時点ではリーグ戦に絡めなかった選手たちがカップ戦での起用で結果を出したこと、またスタッフ陣もその選手たちをすぐにリーグ戦で起用したことがチームの成長につながったのではないでしょうか。

また、メンバーの組み方も面白かったですね。天皇杯では2回戦からベストメンバーを組んだかと思えば、リーグ上位対決となった川崎戦でメンバーをかなり入れ替えるという大胆な運用が見られました。おそらく天皇杯はある程度まで勝ち残ることが厳命されていて、川崎戦神戸戦のメンバー変更についてはよりタイトルの可能性がある大会を優先したという格好なのだと思いますが。
それにしてもベストなパフォーマンスが出せないと判断したら潔くターンオーバーするという判断はなかなかできるものではないと思います。J1全体でも充実度は中程度のスカッドで高強度のサッカーを継続するために必要な判断だったのではないかな、と感じました。

①広島対策への対応

さて、来季への課題として挙げた2点のうち1つ目が広島対策への対応です。広島への対策としてよく見られたのはボール保持では噛み合わせをずらしてスペースを作り一気に前進すること、ボール非保持ではハイプレスで広島のビルドアップ隊に時間を与えないという2つでした。

ボール保持の方はこれまでにも言及してきましたが、WBを上げて広島のWBを押し込むタイプと、DHの背後でボールを収めて前進するタイプです。


前者は鳥栖や札幌、後者は川崎や清水がやってきたやつですね。前者に対しては主にシャドーが2度追いすること、後者に対してはWBがスライドして埋めることで対応を図ってきましたが、これがしっかりハマっている試合はそんなになかったという印象です。取り組みとしては納得できるものですが、この対策で収支をプラスにできるかどうかは来季序盤のポイントになってくるような気がします。まあ来季は配置が変わってるかもしれないけど。

ボール非保持の方は割とシンプルな対策です。広島はボール保持については割と自由にやっている部分が多いと思うのでどう整備するかではないでしょうか。
今シーズンはWBが下がって相手を釣り出してその裏に選手を飛び出させるという方針は固まっていたものの、ディテールについては選手に任されていたという印象が強いです。保持時の配置が自由なのでボール保持を安定させたり相手を動かすためにDHが動き回ることになっていました。ここで配置をずらして時間を作れるようになれば、より多くの局面に対応できるのではないかと思います。

②シーズンを戦い抜く体力

もう一つ来季への課題が、シーズンを戦い抜く体力の部分です。今シーズンはシーズン途中に新戦力が次々と頭角を現し、ターンオーバーも使いながらうまく乗り切れました。それでも終盤の試合ではなかなかいつもの強度が出せない場面が増え、けが人も多発していました。天皇杯決勝とかね……

ということで、ターンオーバーしながらでも内容を維持するための策化必要となってきそうです。特に広島のサッカーは強度が求められるので、負担を軽減する方策は必須でしょう。単純に選手を増やすというのはもちろん、ボール保持の時間を増やすということも考えられます。
ACL参加の可能性もあり今シーズンよりさらに厳しい日程になる可能性もありますが、どう乗り切っていくのか注目したいですね。

 

おわりに

いろいろ書いてきましたが、2022シーズンは近年まれにみる充実したシーズンでした。今年が素晴らしかったからこそ、これを超える成績・内容を期待するのはなかなか難しいかもしれません。それでも今シーズン見せてくれた修正力が発揮されればさらに上の景色を見られるのではないかと期待してしまいます。

今シーズン築いたサッカーをベースに、来期も素晴らしい内容のサッカーが見られることを期待したいと思います。

それではまた来年。