#30【2022J1第30節 名古屋グランパス×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は名古屋戦。広島は前節の川崎戦での大敗で優勝争いはかなり厳しくなりました。1週間空いて切り替えの時間はあったので、残っているルヴァンと天皇杯に向けて弾みをつけたい一戦です。
一方の名古屋はミッドウィークの川崎戦から中2日。最近は戦績も上向いており残留争いからもほぼ逃げ切れそうな様子。今シーズン3回敗れている広島にぜひともリベンジを果たしたいというモチベーションもあるはずです。スタメンは以下。

名古屋は3-5-2を採用。DAZNの予想では3-4-2-1でしたが、実際に見ていると永井と仙頭の2トップに見えました。一方の広島はドウグラスとナッシムの2トップで3-4-1-2といった様子。野津田アンカーの3-1-4-2以外のオプションということでしょうか。最近流動的な右WBには満田が起用されています。

2トップ脇を使える広島

さて、試合開始から広島がボールを保持して最終ラインからショートパスで前進していく場面が目立ちました。背景には広島の3バックに対する名古屋のプレッシャーのかけ方が原因だったように思います。

名古屋は2トップなのでそのままでは広島の3バックに対してプレッシャーをかけることは難しくなります。そこで左IHの内田が塩谷にプレッシャーをかけに前へ出てくるのですが、広島はその裏を使って前進していく場面が目立ちました。
CFのドウグラスが藤井を背負った状態で塩谷からのパスを受けて、内田が出ていった裏のスペースに落とします。広島は2DHとトップ下の森島で名古屋の中盤に残った稲垣と永木の2人に対して数的優位を確保できているので、誰かが内田が出ていったスペースに入り込んでボールを受けられるという形です。

この前進ルートは名古屋の2トップ脇を有効に使えていて良かったですね。内田が出てこないのであれば塩谷が運べばいいわけですし、藤井がドウグラスに過度に食いつけばその裏に長いボールを出す、というシーンも見られました。広島の左サイドはなかなかスペースができず前進に苦慮していましたが、右サイドからはうまく進めていたというのもうなずけます。左サイドは名古屋のIHが出て来ずに仙頭が対応することが多かったのでスペースができにくかったということですね。名古屋の守り方の非対称性をうまく使っていたと言えるでしょう。

DHを剥がして進む名古屋

一方で名古屋も広島のプレッシングに対して前進手段を確保していました。

広島は2トップ+トップ下なのでこちらも名古屋の3バックに対する噛み合わせが悪くなります。これを解消するため森島が左右のCBまで出張してプレッシャーをかけに行くことがあったのですが、そうなるとアンカーの稲垣が浮いてしまうのでDHの野津田や松本が捕まえに行きます。すると芋づる式にIHの内田や永木、降りてきた仙頭が空いてしまうのでそこにWBからパスを出して一気に脱出、という場面が何度か見られました。

名古屋は試合を通して相馬が1vs1でドリブル突破を仕掛ける場面が目立ちました。右サイドの中谷、森下を起点に広島のDHを動かしてプレスを外し、左大外の相馬まで展開して勝負というプランは明確に設計されていたと思います。

広島はここ数試合でDHを動かされてスペースを使われる場面が増えていましたが、この試合ではそれに加えて最終ラインも噛み合わせられなかったのでさらに捕まえづらくなっている、という印象でした。

お互いの修正の有用性

お互いに前進手段を持っていて得点につながりかねないクロスを上げるシーンを作り出せる展開となりましたが、もちろん両チームともプレスを外されたまま放置はしません。試合が進むにつれてそれぞれの対処法が見えてきました。

先に対応したのは名古屋。25分頃からプレスラインを下げて全体をコンパクトにし、内田を前に出した3-4-2-1を維持するような場面が見られ始めます。
また、プレスに出ていく時には内田が塩谷に対して素早く寄せて塩谷に時間を与えない他、出ていったスペースを稲垣と永木がスライドして埋めることで広島がスペースを使いづらくしるように見えました。

このあたりの複数の要素で少しずつ広島からスペースを奪い、前進を難しくできていました。

一方の広島ははっきりとした修正に見えたのはエゼキエウを投入した58分から。並びを3-4-2-1にして名古屋の3バックに対して噛み合わせをはっきりさせておき、プレッシャーをかけやすくします。

ただしこちらの効果は微妙。アンカーを捕まえづらいのは変わりがなかったため、脱出される場面も引き続きあったように思います。

広島のプレッシングは後方の数的同数を受け入れて前方へ人を送るのが基本なのですが、DHを動かされた上でCBが出ていけないようなところでボールを受けられるとやはり厳しいですね。1トップ2シャドーが逆サイドのCBを捨ててアンカーのケアをするなど、数的不利を受け入れる場所を前線に設定するなどの工夫が必要なのかなあと感じる今日この頃です。

気になる広島のネガトラ

また、この試合では広島が敵陣でボールを失ってから一気にカウンターを喰らう場面が目立ちました。今の広島のボール保持における役割分担ではかなりカウンターを喰らいやすくなると思っているのですが、それが如実に出ていると感じました。

広島はWBがボールを持った際にハーフスペースに選手が突撃していくのが常套手段となっていますが、この役割はシャドーのほかにDH(特に松本)が担当することもあります。こうなると当然中央からひとりDHがいなくなってしまうわけですが、もうひとりのDHである野津田はビルドアップのサポートのためにサイドまで移動していることが良くあります。

するとどうなるかというと、ボール保持時にカウンターに備えて中央を埋めておく選手がいなくなってしまいます。名古屋戦は保持時にボールを失うとこのスペースを狙われて一気にゴール前まで持っていかれることが何度かありました。特にこの試合はナッシムとドウグラスの2トップだったため後方からスペースに飛び出していく選手が不足しがちで、ますますDHの松本や川村が飛び出していく必要が出てきていました。

もちろん後方から選手が飛び出していくおかげで相手が捕まえづらくなるという効果もあるわけで、それによって今期の広島の攻撃力が実現されているとも言えます。その分このようなカウンターを受けるリスクは増していきますので、ハイリスクな選択をしているんだということは覚えておきたいですね。また、この試合は0-0だったので問題ないですが、ここからは一発勝負の中で絶対に失点できない状況というのも出てくるかもしれません。状況によってはDHを中央に留まらせてカウンターに備えるという選択もあっていいかなと思います。

今後に向けて

広島は今後のカップ戦2つに向けて2トップをテストしたという試合なのかなと感じました。ボール前進のルートは作れていましたが、プレッシングでの課題は相変わらず。DH周りのスペースをどうするかという課題についてはまだ持ち越しと言えそうです。

名古屋は中2日とは思えないハイパフォーマンスでしたが決定機を活かせず。しかししっかりとした予習と試合中の対応には確かな自信を感じさせました。ここからは順位を1つでも上げるための戦いとなりますが、ようやく昨シーズンのような良い結果が期待できるかもしれませんね。

それではまた次回。