#31 【2022J1第31節 サンフレッチェ広島×浦和レッズ】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は浦和戦です。リーグ戦も残り4試合と佳境を迎え、広島はACL出場権の3位をキープしつつ隙あらば川崎をまくって2位でのストレートインを目指すという立ち位置。一方の浦和はカップ戦も含めて4試合勝ちなしでACL争いからも後退という状況。まずは自分たちのフォームを取り戻したいという現状でしょうか。スタメンは以下。

広島は最近定着しつつある野津田と川村のDHセット。最近流動的な右WBとCFには茶島、ドウグラスがそれぞれ入りました。中3日で天皇杯準決勝を控えていますが、ここはベストメンバーを組んできました。
一方の浦和は4-3-3。DAZNの予想では松尾1トップの4-2-3-1でしたが、彼は左WGでトップの位置には江坂が入っていました。サブにユンカーと、離脱していたリンセンがいる中でトップに江坂というのが面白いですね。流動性を意識しているのかもしれません。

ちなみに西日を気にしたのか、佐々木がコイントスでいつもと逆のエンドを選択していました。

DH周辺問題への回答

さて、この試合では浦和が最終ラインからのビルドアップを試み、広島が最前線からそれを捕まえに行くという場面が再三見られました。浦和の配置は4-3-3ということで、広島はドウグラスがアンカーの岩尾を捕まえて2シャドーで浦和の2CBにプレッシャーをかけるといういつもの形でプレッシャーをかけに行きます。IHの伊藤や小泉が降りてきたらDHの野津田川村がついて行くというのもいつも通りで、相手が4-2-3-1だろうが4-3-3だろうがオートマチックにできていますね。この辺りは今シーズン広島が積み重ねてきたものの表れだと思います。

さて、ここ数試合の広島の課題として、DHが空けたスペースを起点にボールを収められてプレスを回避されるということがありました。この試合ではそこに対する回答が見られたというのが印象的でした。

その回答というのがWBの絞りです。相手にプレッシャーをかけてボールをサイドに出させた際、ボールと逆サイドのWBがセンターサークルまで絞ってきて中央のスペースを消しに行きます。これによってDHが前に出ていった後のスペースを埋めることができ、中央からの前進は防ぐことができます。特に右WBの茶島は明らかにこれを意識的にやっていて、センターサークル付近に立っている姿が何度も目撃されました。
WBを中央に持ってくるわけなのでサイドは捨てることになりますが、ボールがサイドの高い位置にある時に逆サイドの低い位置までボールはなかなか飛んでこないのでリスクもそこまで高くありません。

この解決策を見たときはなるほどと唸りました。DHの背後を埋めるには誰かがほかのスペースを捨てないといけない訳ですが、CBが出てくれば背後が空いてしまいますしDHが出ていくのをやめれば降りていく相手の中盤をフリーにしてしまいます。そんな中で逆サイドのスペースは捨てても比較的危険度の低いエリアであり、DHの背後が空くという問題に対してリスクを最小限にして解決できるのはおそらくこの仕組みだと思います。

この仕組みに難しい点があるとすれば、WBに非常に高い戦術理解が要求されるという点です。なにせ広島のWBはボールを持っている対面のSBに対して非常に高い位置までプレッシャーをかけに行くという役割もあるわけです。というわけで、常にボールの位置を見ながら縦にスライドしてサイドの高い位置に出ていくか、それとも横にスライドして中央を埋めるかを考え続ける必要があります。単純に対面の相手についていって勝てばいいという単純なものではなく、常に集中して判断し続ける必要があるということで、非常に難しいタスクだと思います。

で、WBが中央を埋めていないとこれまで通り中央が空いてしまうので、そこを起点に前進されてしまいます。前半の35分くらいからハーフタイムまでは降りてきた江坂を起点にプレスを裏返されてゴールに迫られるシーンが何度かありました。

スペースの埋め方については方針が決まったようなので、こういう場面をいかに減らせるか、というのがここからの課題になってきます。特に茶島が絞ってくることで相手の右サイドからの前進を食い止められるか、というのがポイントでしょう。

この試合でも左WBの柏はあんまり絞ってくる様子がなかったので、恐らく中央への絞りに関しては彼はそんなに求められていないのではないか、と思います。得点に絡んできてくれれば別にいいよ的な。
逆に茶島は中央のスペースを埋めに走っている場面が何度も見られたので、明確にタスクとして設定されているはずです。8月後半から右WBに藤井の欠場が続いて茶島と野上の起用が増えたことについて、右WBにこのタスクを課すのであればたしかに納得がいきます。これなら藤井より茶島野上だろうな、という感じですね。

この試合であまりプレスを剥がされなかったのは茶島単独の功績というわけでもなく川村の起用で中盤での強度負けが減ったとかそもそも前線で奪えるシーンが多かったとかあると思いますが、タイトルのかかった10月にこれまでの課題に対する合理的な回答が見つかったのは大きいと思います。

ドウグラスの存在の大きさ

さて広島のプレッシングで2000文字も使ってしまったわけですが、広島のボール前進についてはそんなに書くことがありません。いつも通り相手を引き出してから裏返すという前進方法をしていたのですがまずドウグラスが驚異的にボールが収まり、セカンドボールについても広島の中盤が強度で勝って回収できるシーンが多かったのであんまり複雑なことしなくても前進できていた、という印象です。

浦和のミドルプレスはかなり整備されていて広島はショートパスによる前進はほとんど見られませんでした。ただ広島の長いボールでの回避がことごとくうまくいってたのでプレスが無力化されてしまったというのが浦和のつらいところ。本来ならミドルプレスで引っ掛けるか長いボールを蹴らせて最終ラインで回収、岩尾を中心として保持で落ち着きたかったという狙いなのではと思います。しかしドウグラスへの長いボールをなかなか回収できないため落ち着けず、保持するつもりだった中盤がトランジションに長い時間晒されたというのは浦和にとって誤算だったかもしれません。

ボール保持した後の広島はサイドにボールを流してSBを引き出してからその裏に人を送り込んでクロス、という攻撃が印象的でした。まあこの辺もいつもの奴ですね。そしてこのクロスに対して大外で合わせられる位置取りをするのもWBの仕事です。本当に大変ですね。

まとめ・次節に向けて

試合全体の構図として、両チームともプレッシングは整備されていたものの脱出を防げていた広島と防げなかった浦和で明暗が分かれた、という感じでしょうか。70分までに3‐0はできすぎな感じもしますが、広島が終始優勢であったとは言えそうです。浦和は62分の3枚替えから3バックに変更したのは広島対策として効きそうと思ったのですが、交替直前に得点を重ねられてしまい試合を覆すには至りませんでした。広島は3トップで3バックに同数プレスをかけるという方針があまりうまく機能したことがないので、その辺を使われると怪しかったと思うのですが。やはり試合中に急に並びを変えるのは難しいということなんですかね。

広島はWBの絞りによってDH周りのスペースをカバーしようとしていたのが好印象。この試合で押し込めたのはそれが原因かというと微妙な気もするのでもう何試合か見てみないとわかりませんが、少なくともルヴァン決勝では確実に狙われるポイントだと思うので、今週あと2試合で練度を高められるといいですね。その上で天皇杯も決勝まで行ければ最高です。期待して待ちたいと思います。

それではまた次回。