#1 【2024J1第1節 サンフレッチェ広島×浦和レッズ】

はしがき

平素は大変お世話になっております。今年もリーグ戦のレビューをやっていきます。
今年はチーム数が増えて38試合ありますが、何とか1試合でも多く書けるように頑張ります。新スタジアムだから見るのも楽しいし。よろしくお願いします。

という訳で開幕戦の相手は浦和。エディオンピースウイング初の公式戦が今シーズンのJリーグ開幕を告げる一戦となりました。スタメンは以下。

浦和は新監督ヘグモさんの宣言通り4-3-3でスタート。新加入選手の起用は渡邊、グスタフソン、松尾、サンタナと多めです。
一方の広島は昨年とほとんどメンバー変わらず。新加入の大橋はシャドーで起用され、それに伴って満田がDHでの起用となっています。オフをケガの治療に充ててこけら落としをお休みした大迫も間に合いました。

綺麗に噛み合った配置

試合は序盤からショートパスでのビルドアップを試みる浦和に対し、広島が前から圧力をかけていく展開。WBをSBまで突撃させ、最終ラインが数的同数になる光景はもうおなじみですね。

序盤だけは伊藤とグスタフソンのマークを加藤と川村のどちらにするかで戸惑っていましたが、20分頃からは加藤がアンカー番という形でほぼ固定し、2CBにピエロスと大橋、SBには東と中野、DHには満田と川村という形でマンツーマンでぴったり監視する体制を確立していました。

この状況に対して浦和はあまりポジションを動かさずに長いボールで対応しようとしますが、サンタナへのロングボールが荒木に跳ね返され、WGにもなかなかボールが届かない状況が続いたことで徐々にビルドアップの出口を失っていきます。
こうして20分過ぎからは広島がボールを持って浦和陣内に攻め入っていく頻度が上がっていきました。

幅を活かすロングボールと東の異能

さて、ボールを持った広島の前進ルートとして目立ったのは主に2つ。一つが低い位置から対角へのロングボールで、もう一つは左サイドのユニットによるショートパスでの前進でした。

対角へのロングボールはそのままの意味で、サイドの低い位置から逆サイドの高い位置へのロングボールのことですね。浦和は4バックで守っているわけですが、そこに1トップ2シャドーに加えて大外からWBが突っ込んでくるので、単純にDFラインは人が足りなくなって守りづらくなります。これで大外から折り返せればよし、跳ね返されてもシャドーなりDHなりで回収して二次攻撃に移れるという寸法ですね。誰かが言っていましたが、トランジションが速いという広島の特徴とかみ合ったよいアタックだと思います。
特に右サイドの中野が渡邊の外側に入ってくる場面は何度となく見られました。中野はこの試合走行距離とスプリント数がともに1位であり、WBから最前線に入っていくという過酷な役割を何度もこなしていたことがうかがえます。
ちなみに対面のSBはこのポジションがやや不慣れな渡邊だったわけですが、ロングボール攻勢はここを狙って仕込んできたという訳ではなく、単純に東より中野の方がこの役割に適性あるから何回もやってたという話だと思っています。なので、たとえ中野の対面が酒井だったとしても同じような攻め筋で仕掛けていたんじゃないかなと。

もう一つの左サイドのユニットというのは、主に東と加藤の関係性を指します。サイドで東がボールを受けた際、加藤が中央からサイドに流れる動きを見せることで伊藤の注意を引き付けます。ここで伊藤がついてくればフォローに来た満田や川村に渡して逆サイドへ展開、ついてこずに加藤がフリーなら斜めのパスを刺して23分のシュートシーンのように加藤が前を向いて仕掛けられるという形です。

先制点のシーンではピエロスがサイドに流れる動きをしているので、チームとして設計している前進ルートなのだと思います。これは東という出し手として優秀な選手をWBに配置しているからこその攻撃であると言えるでしょう。
広島の最終ラインはプレスを受けると大きく蹴ってしまうことも多かった中で、この左サイドからの前進については常に信頼できるルートであり続けたと思います。昨シーズンの終盤からやっている形ですが、東のWBはしばらく動かせない重要なポジションなんじゃないかなと感じました。

そして、優勢に進めていた広島は45分に川村のミドルのこぼれ球を大橋が詰めて先制。前半の広島はちょっとシュート打つの早すぎないか?というシーンがいくつかあったのですが、高いシュート意識が奏功する形で大きな先制点を得ました。

試行錯誤するグスタフソンと小泉

ビハインドとなった浦和は、保持の意識を強めることで変化をもたらそうとします。前半と比べると、配置を動かすことで広島のプレスをかいくぐろうという取り組みが印象的でした。

例えば50分のグスタフソンのシュートシーンでは、小泉が下がりながらグスタフソンが高い位置に進出することで広島のプレスを回避し、そのまま高い位置まで入っていったグスタフソンがフリーでクロスに合わせています。
また、その前の48分にも小泉とグスタフソンがそれぞれ列を降りたところからピエロスの背後を取ったグスタフソンを起点に綺麗に前進するシーンが見られました。浦和はなんとか中盤の入れ替わりで広島のマンツーマン守備を外そうとしており、それは一定の成果を上げていたように思います。

一方、SBを経由したビルドアップは前半から大きな変化がなく、浦和は後半開始から何度となく広島のプレスによってSBのところでボールを失っていました。そして52分、出しどころを失った渡邊から小泉へのパスを加藤と大橋が引っ掛けてPKを獲得することになりました。
このPKは失敗に終わり直後に関係ない形で広島が追加点を挙げるという謎の展開になりましたが、浦和としては小泉とグスタフソンの工夫が及ばないところで広島のプレスに屈した形になったと言えるでしょう。

トーンの落とし方が広島の課題

追加点を挙げた広島はしばらくしてピエロスに替えてドウグラスを入れ、プレスの強度を下げてやや引き気味に対応するようになります。
ただ、ここの対応はやや中途半端だったかなという風に映りました。

広島はプレスのラインは下げるのですが、SBに対してWBが出ていくという形は継続していたようで、結果的にWGとCBが大外で1vs1になるシーンが結構ありました。特に佐々木と東のサイドで顕著。前半のようにプレスに出ていって剥がされて自陣で佐々木とWGの1vs1ならまだしも、ミドルゾーンで構えているのに大外でCBとWGの1vs1が発生する状況は結構危険です。ここはWGに対してWBとCBが対応し、SBはシャドーに任せておくのが良かったんじゃないかなと思います。

なおCBが引き出されたスペースはDHがカバーすることになりますが、満田はここのカバーにかなり無頓着だったのでそこも怖いポイントでした。満田は前半からカウンター対応でCBが引き出されたスペースのカバーに走れていなかったり、64分のシーンなど中盤にかなりスペースがある状態でハイリスクなチャレンジを仕掛けたりと、中盤の守備者としては怖い対応が見られました。ボールを持った時の視野の広さやキック精度は抜群ですしロングカウンターの中継点にもなれるのですが、リードした展開で中盤に置いておく選手ではないかなという気がします。
この試合は82分に松本泰、92分に山崎が入ってきて中盤の守りは厚くなっていきましたが、満田をいつまでDHに置いておくかは今後の試合でも重要なポイントになっていきそうです。

雑感・次節に向けて

試合は広島が逃げ切って2-0で勝利。終盤はやや怪しさも残りましたが、チームとしての成熟度の高さは見せられたのではないでしょうか。トランジションの速さを活かすロングボール攻勢にショートパスでの前進、待望のゴールゲッターの鮮烈デビューなど、上出来の船出と言えそうです。昨年からの課題である得点力不足には改善の見られそうな中で、今日のようなリードした展開での試合の終わらせ方、あとはスカッドの底上げが伸びしろかなといったところ。

浦和は随所にアイデアの光るボール保持を見せましたが、全体的にはこれからといったところでしょうか。この試合では広島のプレスの的になったサイド起点の前進にどれだけ選択肢を用意できるかは重要になりそうです。とはいえ他のチーム相手なら前線3人がもう少し優位を取れるでしょうし、勝ち点に困ることはないんじゃないかなという感覚でした。

それではまた次回。

【サンフレッチェ広島2023シーズンレビュー】

はしがき

毎度お世話になっております。2023シーズンはとっくに終了し、2023年ももうすぐ終了ということで、サンフレッチェ広島の2023シーズンを振り返っておこうと思います。

概要

今シーズンの成績はこちら。

J1リーグ……勝ち点58、42得点28失点の3位
ルヴァンカップ……グループステージ3勝3敗の2位で敗退
天皇杯……3回戦敗退

昨シーズンと比較するとカップ戦こそ早期敗退しているもののリーグ戦の勝ち点は増えており、シーズン中の主力流出や負傷離脱があったにしては頑張った成績なのではないかなと思います。

で、今シーズンの戦いぶりを振り返るにあたり、満田の負傷離脱とそこからの復帰がターニングポイントであったことは今更指摘するまでもないでしょう。満田の負傷前、離脱中、復帰後それぞれのリーグ戦の成績は以下の通りです。

1. 離脱前(第1節札幌~第12節福岡まで11試合)
7勝2分2敗の勝ち点23、16得点8失点
2. 離脱中(第12節神戸~第22節湘南まで11試合)
2勝2分7敗の勝ち点8、8得点14失点
3. 復帰後(第23節浦和~第34節福岡まで12試合)
8勝3分1敗の勝ち点27、18得点7失点

もう明確に違いますね。今回は、
①なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わってしまったのか?
②満田離脱前と復帰後でどのように戦い方が変わったのか?

の2点について考えてみようと思います。また、昨シーズンの振り返り記事で今後の課題について書いていたので、その答え合わせと来季に向けての展望も少し書いてみます。

syukan13noblog.hatenablog.com

 

①なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わってしまったのか?

さて、なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わったか?を考えるにあたっては、広島がどのようなサッカーをしていて満田がどういう役割を果たしていたかを整理してみる必要がありそうですね。
例としてシーズン初勝利を挙げたガンバ戦のスタメンを見てみます。

シーズン当初の広島は割と2トップもやっていて、満田はWBに配置されることも多かったですね。この時期の広島は昨シーズンの延長戦上という感じで、基本的にはWBを下げてその裏に人とボールを送り込み、サイドを起点に相手を押し込むというスタイルで戦っていました。

このやり方をするとシャドーやトップをサイドに流すことになるため中央から人がいなくなってしまい、最終的にシュートを打つ人がいなくなりがちになるという問題があります。しばしば2トップを採用していたのはその対策という面もあるのでしょうが、2トップにした結果プレスがハマらなくなるという場面も見られました。
また、DHをハーフスペースの高い位置まで進出させるのも崩しの人数を確保するためには必要なことだったと思いますが、こちらもカウンター対応がおろそかになってしまうという弱点があります。
総じてサイドに人を流すという前進の方法にやや難があり、それを解消するためにほかのところにゆがみが生じているという印象でした。

そうしたスタイルの中で満田は貴重なWBとシャドーを両方こなせる選手であり、2トップにした結果中央からサイドに配置が変わるなど、複数のタスクをハイレベルに行う何でも屋としての側面が強かったように思います。シャドーではサイドに流れてビルドアップに関与し、WBとしては逆サイドのクロスに飛び込んでいく動きも求められます。強度の部分だけでなく、戦術の維持にも高い貢献度を誇るアタッカーですね。

また、点が欲しい終盤には満田を中央に入れて強度を維持しつつフレッシュなアタッカーを投入するという采配が多く、終盤まで点の取れない試合が多かったことで満田には負担の大きい展開が続いていました
そういった中で満田が負傷離脱したことで、なかなか点が取れないのはそのままに強度を維持できなくなっていき、相手を押し込み続けたり終盤で逆転したりといった展開が見られなくなっていったというのが失速の大きな要因ではないかと思います。

満田の離脱後もサイドからのビルドアップやDHの侵入は続けていましたが、前進した後に押し込めず中央に空いたスペースからカウンターを受ける、終盤まで強度を維持できないので拮抗した展開で耐えられないなど、リーグ戦の序盤では見られなかった負け方をするようになっていきます。

もちろん手をこまねいていたわけではなく、6月には4-3-3にチャレンジするといった取り組みもありました。

中盤がよく動くサッカーをしていたので3センターにして穴をあけにくくするという狙いは良かったと思うのですが、実際には急ごしらえのためかプレスもハマらず、中盤3センターが連動していないため山崎が過重タスクに陥るという結果になってしまいました。

満田離脱後はゲーム全体での強度の最大値という意味でも、強度の持続力という意味でも遅れを取るようになり、既存戦術のマイナスの部分が目立つようになってきた時期だったと言えるでしょう。さらに森島の移籍も発表され、いよいよこれまでの戦術を維持するのは難しいという状況になっていきました。

②満田離脱前と復帰後でどのように戦い方が変わったのか?

こうした中でターニングポイントとなったのが、8月のホーム浦和戦だったと考えています。
8月の浦和戦で最も大きなトピックは当然満田の復帰だったと思いますが、それ以外にも大きな変化が見られた試合でした。それがWBの人選とビルドアップの役割変化です。

まず浦和戦の一つ前の湘南戦からWBは志知と中野のセットになっており、このセットにすることでビルドアップに詰まった時にサイドにロングボールで逃げることができるようになります。それまではビルドアップに困ったらとりあえず背後に蹴るという形だったので、ここで勝算のある逃げ先を用意できるようになりました。

これに伴いWBが高い位置を取って相手を押し下げ、CBも高い位置でビルドアップに関与するようになっていきます。これまではトップやシャドーがサイドに流れる、いわば横移動で相手を押し込みに行っていたのをWBとCBの縦移動で押し込む形に変えました。より自然な配置のまま相手を押し込めるようになったわけですね。

ここは本当に素晴らしかったと思います。保持時にピッチを広く使って攻めるにはどうしても大外に人を配置する必要があり、それまではそれをシャドーがやっていて全体のバランスを取るのが難しかったところがありました。そこをWBが担うようになることで、シャドーは中央でのフィニッシュに、DHはカウンター対応に専念できるようになり攻守にバランスの良い陣形を保つことができるようになります。
シャドーとDHが中央に待機していることで大外には短期突破が求められるようになりましたが、志知と中野がこの役割に適応できていたのも素晴らしかったですね。

そして、塩谷と佐々木の両CBの活躍も見逃せません。ただでさえ少ない人数で相手のカウンターに対処していたのを、保持時に高い位置まで持ち上がって効果的なパスを出すことまで要求されるようになったわけですからね。この役割をしっかりこなしていた2人には頭が上がりません。リーグ後半戦でもっとも多くのタスクを背負っていたのがこの両CBかもしれませんね。
この路線は最終的には左WBに東を起用して、高さを維持しつつコンビネーションでの前進も織り交ぜていく方向でまとまりました。

それ以外にも川村が中央にポジショニングしてトランジションで絶大な存在感を発揮するようになったこと、加藤が早々にフィットして中央でのクロスに合わせられる選手が増えたことなど、様々な要素が噛み合ってリーグ後半戦の好調に繋がっていきました。

③昨シーズン上がった課題の答え合わせと来季への展望

昨シーズン書いたレビュー記事では2023シーズンの課題として
・広島対策への対応
・シーズンを走り切る体力

の部分を挙げました。

昨シーズンの広島に対する策としては、相手のボール保持時にWBやDHの配置を操作して押し込むこと、広島の保持時には最終ラインにプレスをかけてビルドアップさせないことが考えられました。
これらのうち、WBが動かされる点についてはCBとマークを受け渡して対処している場面が多く見られましたし、保持でプレスをかけられた場合には前述のようにWBへのロングボールで逃げることができていました。DHが動かされるところにはまだ少し弱いかなと思いますが、DHが中央に留まっている分対処しやすくなっているのではないかと思います。

また、後者の体力については正直不安な部分が多いです。ターンオーバーもしつつ臨んだカップ戦で早期敗退となったためシーズン後半は基本的に週1回の試合でしたが、それでもコンディション不良が相次いでいました。特にピエロスとマルコスあたりはもっと稼働してほしかったところでしょう。来シーズンはACL2出場の可能性も高いので、どうやってプレー時間を管理しつつ結果も出していくかは重要なポイントとなります。

そして来季に向けてですが、まず戦術面では大きな不満はありません。リーグ後半戦でボール保持の部分が大きく改善されたと思いますし、もともとの持ち味だったプレス強度もしっかり維持できています。もうすこしだけシャドーがサイドの崩しに関与してもいいかな?とは思いますが、基本的にはリーグ後半戦の内容を維持してもらいたいというところです。

それよりも編成面で、いまだに絶対的な主力が定まっていないと言えるCFと川村の相方となるDHを誰が担うかという点がキーポイントではないでしょうか。両ポジションとも人数は十分なので、高いパフォーマンスを維持しつつ稼働を維持できる選手がいるかどうかです。特にサイドからのクロスが中心となる今の戦術ではCFは非常に重要です。リーグ優勝したいなら得点数が少なくともあと15点ほど必要になってくると思いますので、その増加分を担える選手が出てくることを期待したいと思います。

また、現在負荷の高い両CBも30代半ばに差し掛かっていますので、彼らの控えも考えておく必要がありますね。カップ戦などで試していくことになると思いますので、今季出番の増えた中野や山崎、レンタルバックしたイヨハらに期待がかかります。

おわりに

というわけで2023シーズンの振り返りでした。改めて見ると主力の流出や長期離脱もありつつよく3位という好成績でまとめたなという感じですね。戦術的にもバランスのとれたいいサッカーをしていますし、これを書いている12/30時点で目立った流出もなく、新スタジアムに向けて好材料が揃っています。

来シーズンは本格的にタイトルが目標になってくるでしょうし、今季よりも目線を高く据えて追っていけるといいなーと思います。

それではまた来年!

#31 【J1第34節 アビスパ福岡×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はいよいよ最終節の福岡戦です。勝てば3位確保でACLへの道も見えてくる広島と、勝てばクラブ史上最高順位、最高勝ち点を達成できる福岡。お互いにモチベーションのある状態での試合となりました。スタメンは以下。

広島は松本泰志が青山に代わって久々の先発。福岡は前節と同じ11人を送り出してきました。

プレスの狭間で起点を作る広島

この試合は両チームともに3-4-2-1を採用していたため配置が噛み合っており、お互いになかなかボールを落ち着けられず長いボールを多用する展開になりました。その中でも違いが見えたのがDHに対する振る舞いです。

福岡は1トップ2シャドーが広島の3バックに対して高めの位置からプレッシャーをかけてきます。このため広島はG大阪戦のように3バックが余裕を持ってボールを配給することはできませんでした。
一方で、福岡のDHは広島のDHについて行くよりも中央のスペースを埋めることを優先しているように見えました。これによって広島のDHは福岡の1トップ2シャドーの背後でボールを受けることができ、ここでボールを落ち着けて攻撃の起点としていました。

図のように塩谷がサイドに開いて金森を引き付けておいて松本をフリーにしたり、逆に松本にシャドーが引き付けられた場合は塩谷がドリブルで持ち上がっていくなど、数的優位をうまく使って前進できていました。

噛み合った配置で活きるCBの優位性

一方、福岡の最終ラインがボールを持った際の広島は1トップ2シャドーに加えてDHも前から追いかけていくことが多かったですね。いつものことではありますが。

これによって広島の最終ライン以上に時間のなくなった福岡の最終ラインは前線の山岸や紺野に長いボールを蹴らざるを得ない展開になっていきました。福岡側としてはもう少し山岸や紺野のところでボールを収めてカウンターに出ていける算段だったのだと思いますが、ここで荒木や佐々木がかなりの勝率を収めていたのが素晴らしかったですね。

こうして時間とともに広島がボールを握って押し込んでいく展開となり、次第に広島のシュート数が増えていきました。

中央からでも押し込める

後半も広島が押し込む展開には変わりませんでしたが、両チームの選手交代を機にその流れがさらに加速した感がありましたね。
広島は攻撃的な選手を投入して本職ではない満田や加藤がWBをやっていたので、結果的に中央に人を集めて突破を図っているような形になっていきました。福岡側は中央での数的不利をなかなか打開できず、前線に入った交代選手によるカウンターも不発に終わってしまいました。

とはいえ後半から入ってきたCFを荒木が抑え込んで沈黙させてしまうというのも今季の広島でよく見た図式ではありますね。前半から山岸に仕事をさせていなかったのも驚きでしたが。
終始押し込み続けた広島は最終盤にその荒木のゴールで1点をもぎ取って勝利。4月頃を思わせるジリジリした展開で見事勝ち切って自力で3位を確定させました。

雑感

広島はここ2シーズン軸となっていた強度の高さと配置をかみ合わせたプレッシングで終始優勢をキープできました。特に今季猛威を振るっていた福岡の前線を抑え込んだCB陣はお見事でした。なかなか得点までたどり着かないところも引き続きの課題ですが、ここまで培ってきたものが出し切れた試合だったと言えるでしょう。

福岡は守備の粘り強さを見せたもののチャンスは少なく、切り札のカウンターも不発となりました。苦しい展開からでもチャンスを作り出せる山岸や紺野がハマらなかった時にどのように打開するかというのは今後も問われていくことになるのかもしれませんね。

という訳で今シーズンのレビューはこれで終了です。出すのが遅くなったりサボったりもしましたが、1年間ありがとうございました。また来年お会いしましょう!

#30 【J1第33節 サンフレッチェ広島×ガンバ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。札幌戦を飛ばしてしまいまして、今回はガンバ戦。3位をめざす広島ですが、クラブ関係者にとってはエディオンスタジアム終戦という意味合いの方が意識されていたかもしれません。一方のガンバは引き分け以上で残留とこちらもなんとか勝ち点を確保したい状況です。スタメンは以下。

広島は荒木とドウグラスがスタメン復帰、エディオンスタジアムとともに歩んできた青山が今季初先発となりました。ベンチには今季限りで引退の林に加えて柏、柴崎のベテラン勢も顔を揃えています。
一方のガンバは3-4-2-1でスタート。苦しい状況もあってか3バックで守備の安定を図っているということでしょうか。前節からは福岡、石毛に代わって佐藤、ダワンが起用されています。

ミラーで際立つずらし方

試合は序盤からガンバが5-2-3で構えたため広島の3-4-2-1とはがっちり噛み合う形となりました。保持で相手をどうずらすかに苦労してきた広島にとっては難しい展開かと思われましたが、この試合では一味違いました。

開始早々の2得点の起点となった左サイドでは、東が中央へ入っていく動きが印象的でした。佐々木あるいは自らが縦パスをドウグラスや加藤につけて、その落としを中に入っていって受けに行く動きですね。
ドウグラスや加藤がサイドに流れていくのと入れ替わりで東が中に入っていくのでその分スペースがあり、ボールを受けた後の選択肢が多くなりやすいのがいいところです。また、DHを突撃させるのと違ってボールを奪われたとしても中央が手薄になりにくいためリスクヘッジもできているのが素晴らしいですね。

列を上下する動きならともかくレーンを移動する動きはかなりマークを受け渡しづらいというのは広島もよく知っているところ。実際ガンバもなかなかこのレーン変更はつかまえきれておらず、広島があっという間の2得点で大きなアドバンテージを得ます。

司令塔で輝く青山

ポジションチェンジにより華麗な崩しを見せていた左サイドに比べると右サイドはおとなしめでしたが、時間の経過とともに塩谷を高い位置に押し出す動きがみられるようになってきました。

このとき青山が最終ラインに降りることで食野あたりの目を引き付け、塩谷がフリーになりやすくなっていたのがグッドでした。青山の列落ち自体は以前からよくやっていたことだと思いますが、それに呼応して塩谷を上げていたのが良かったですね。以前は青山が降りて4バックになる以外の変化は特になく手詰まりがちでしたが、この試合では青山が落ち着いてボールを持てるほか、攻撃力の高い塩谷を高い位置に押し出すというメリットをしっかり生み出せていました。

また、高い位置にボールを運んだあとはしっかりとサイドのフォローに入れるのも青山の良さでしたね。

6分の加藤のシュートシーンでは、満田が裏抜けしてダワンを動かしたところにすかさず入ってきて中野からパスを受け、加藤へのクロスに繋げています。このようにWBに入ったときに中央にパスコースがなくて詰まるというシーンは今季結構あったので、ここがスムーズに脱出できるのは素晴らしかったです。

これまでの青山は前線への飛び出しや列落ちなど定位置を離れすぎてしまうことが多く、それによって保持がやりにくくなったりカウンターのリスクが増えたりといった印象がありました。しかしこの日は動きすぎずに配給役に徹し、3点目のシーンのように要所で強度も発揮するという、アンカーとして理想に近い働きをしていたと思います。

この日の先発に関しては前々から決まっていたようで記念出場という意味合いはあったでしょうが、パフォーマンスとしてはまぎれもなくチームの中核を担っていました。この先も広島の中盤で攻撃のタクトをふるってほしいと思えるだけのものをピッチで見せてくれたと思います。

保持に振ったものの……

2点のビハインドで後半を迎えたガンバはボール保持の意向を強めてきます。具体的には右サイドの半田と佐藤を上げて4バックのような形にしてきました。広島が塩谷を上げていたのと同じようなずらし方ですね。これによって右サイドから広島のプレスをかいくぐれる場面が増えていきます。

ただ、こうした場面が増えてくるころには広島が加藤のゴールで3-0としていた後であり、広島としては無理して前から追わずにミドルゾーンで構えていればよかったため大きなチャンスにはつながっていきませんでした。
結局ガンバが大きなチャンスを迎えたのは前半にカウンターでゴールに迫ったシーンくらいとなってしまいました。広島同様に相手をずらす方法は持っていたので、前半からここに取り組んでいればもっと違った展開もあったかもしれません。

雑感・次節に向けて

後半の早い時間にリードを広げた広島は余裕を持って林、柴崎、柏に出番を与えることに成功。エディオンスタジアム終戦の空気をかみしめつつ、危なげなく3-0で勝利。他会場の結果により3位に浮上しました。一方のガンバも残留が決定して一安心。苦しいながらも最低限の成果は手にしたと言えるでしょうか。

広島としては保持が改善傾向にあるのが頼もしい限り。東と青山の移動を軸に据えた前進は整備されており、楽しく見られました。この試合では強度で勝てるマッチアップも多かったので、そこが互角の相手とぶつかった時にどうなるかがポイントでしょうか。そういう意味では福岡戦の出来には注目したいところですね。

一方のガンバは慎重な入りが裏目に出る結果になってしまいました。配置をかみ合わせることである程度全員を捕まえられるという算段だったと思うのですが、列とレーンの移動を織り交ぜた広島の保持に振り回されてしまう形に。

なまじ対面の選手がいるのでどこまでついて行くか細かい判断が必要になり、さらに広島の強度に終始押されてしまったのも誤算かもしれません。やはり吹田での対戦時のように主体的に配置をずらして相手を動かしていく方があっているチームなのではないかなと感じました。

それではまた次回。

#29 【J1第31節 FC東京×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はアウェイFC東京戦。2019年を最後に勝ちがなく、スキッベ体制になってからも3戦連続1-2負けと地味に相性の悪い相手です。スタメンは以下。

東京は4-2-3-1。前節中盤で起用されていた小泉がSBに下がり、松木が先発に入っています。また、右WGには俵積田に代わって仲川が起用されました。

広島は3-4-2-1で、DHは再び満田と川村のセットに戻しました。シャドーにはエゼキエウが起用されています。

中盤の数的優位で起点づくり

さて、この試合は両チームとも中盤のミスマッチを利用して前進を試みていました。

東京は2CB+2DHの形になるため、広島の前線3人がプレスをかけようとすると人数が足りず、満田か川村のどちらかはヘルプに出ていくことになります。そこでDHを引き出してできた背後のスペースを使って前進していました。また、前線は3vs3の数的同数なので当然背後へのボールも多用してきます。ただしここは広島のCBの強さが光りましたね。特にアダイウトンのところはもう少し勝てる計算だったのではないかと思いますが、塩谷と時には中野がきっちり監視していた印象です。マークを外してしまうと失点シーンのようになってしまうわけですからね。

一方の広島は中盤に4人いるので、東京がプレスをかけようとすると満田か川村が中盤の底で余ることになります。実際は川村と満田が縦関係になってフリーになった方がボールを受け、そこからサイドに展開する形を繰り返していました。加藤のヘディングシュートのシーンなど、WBにボールが入ると早めにクロスを上げてゴールに迫ろうという意識も感じられましたね。

サイドからの脱出方法は

キックオフから時間が経って両チームのプレス方法が見え、脱出ルートが明らかになっていくと、そこから先の前進方法も見えるようになってきました。

広島はシャドーをサイドに流す展開が多く見られました。こうすることで東京のSBは前に出られず、WBはフリーでボールを前線に供給することができます。特に左サイドの東はフリーでボールを受ける局面が何度も見られました。キック精度の高い東がWBに起用されたのはここで時間をもらえることを見越してのことだったかもしれませんね。
一方で、東のサイドは非保持では東京の前進ルートとして利用されている側面もありました。

広島は前からプレスをかけて東京のSBまで追い込んだ際に寄せきれず、WGやDHに展開されて脱出する場面を多く作られていました。狙い通りSBまで追い込んでWBとシャドーで挟んだはずがボールを奪えていなかったため、展開された先で数的不利となりピンチに繋がります。佐々木のマークから逃れるように引いてきた仲川がボールを受けたり、中央の松木が慌ててカバーに来た満田を剥がしたりと、SBの脱出を起点に一気にボールを運ばれるシーンが目立ちましたね。佳史扶のシュートがバーを直撃したシーンなどもこの形でした。

両チームともがそれぞれのプレスに対してそれぞれに脱出ルートを見つける、互角の形で試合を折り返します。

コンセプトは強度と背後

後半になっても両チームの配置などはそれほど変わらなかったように思います。強いて言えば東京の3トップのサポートに対して広島のCBがついて行くようになったか?という感じ。加藤の先制ゴールのシーンでは仲川に対して佐々木が結構高い位置まで追いかけていました。

ただ、時間が進むにつれて広島がゴールに迫る場面が増えていきましたね。これは単純に広島の選手たちの方は強度がよく持続していてセカンドボールを拾えているという印象で、特にCB陣は圧巻でした。
また、WBからのアーリークロスを始め執拗に背後を狙い続けることで相手を消耗させ、陣形を間延びさせているようにも感じました。陣形を引き延ばすことはマンツーマンで守る広島にとってもリスクで、実際に失点シーンのような場面もできています。それでもトータルで見れば優位に持ってこれるという自信があるからこそ、プレスに出ていって強度勝負に持ち込んでいるのかなと感じる後半でした。

雑感・次節に向けて

リスタートで隙を逃さなかった東京が一時同点とするも、前プレを得点に結びつけた広島が勝利。連勝こそないものの好調をキープしています。強度と背後狙いのコンセプトはそのままに保持が安定してきており、より強みを発揮できているように映りますね。

一方でこの試合でも終盤までカードを切らなかったように交替策の少なさはやや不安かもしれません。リードした展開でスタメン組が揃ってハイパフォーマンスだったという事情はありますが、今後過密日程は避けられない状況になってきており、強度の維持に交替策の充実は不可欠でしょう。とりわけ好パフォーマンスの目立つCB陣はそれだけ替えが効かなくなってきており、ここにどう取り組むかは今季~来季序盤のテーマになってきそうに思います。

東京は後半になるにつれ保持で脱出できなくなっていったのが気になりました。3トップの裏抜けが止められ始めた段階でいったんボールを回し。試合を落ち着にいく選択はあっても良かったかもしれないですね。

それではまた次回。

#28 【J1第30節 サンフレッチェ広島×セレッソ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はC大阪戦。代表ウィーク明けで久々の試合となります。ルヴァンカップ決勝から1年が経ち、加藤は古巣対戦となります。スタメンは以下。

広島はピエロスとマルコスがコンディション不良とのことで、トップにドウグラス、シャドーに満田を起用して野津田と川村のDHセット。3連敗中と苦しいセレッソはヨニッチが久々の先発、中盤は奥埜香川上門のテクニシャンタイプで固めています。なお、DAZNでは4-4-2表記でしたが実情としては4-3-3が近いだろうということで4-3-3にしています。

CBのピン止めに一工夫

さて、序盤からセレッソがボールを保持して広島がプレッシャーをかけるというこのカードではおなじみの展開で試合が進みます。広島の対4-3-3では2CBとアンカーを1トップ2シャドーで監視し、SBにはWBが出ていくというやり方が常ですが、この日はWBがなかなか前に出てこない場面が目立ちました。
その理由はセレッソのWGとIHのポジショニングにあります。

セレッソはIHが広島のCBの前に立ち、WGが広島のWBの前に立つような位置取りをしていました。こうすることで本来セレッソのWGを監視するはずのCBと本来SBまで出ていくはずのWBが足止めされ、セレッソのSBはフリーになることができます。逆にこの場合広島のDHは対面の選手がいなくなっていますね。

こうしてフリーになったSBから前進するという場面が何度かありました。19分のカピシャーバの決定機なんかはまさにこの形ですね。

さらに、最終ラインがボールを持った際に逆サイドのSBが中央に入ってきてDHみたいな振る舞いをするという方法も実装されていました。広島のWBはセレッソのWGを監視しているか、WBを見ていたとしても中央まで入っていくことは想定しておらず、ここも非常にフリーになりやすい場面でした。
この時はセレッソのIHは広島のDHと対面するように立っているわけで、セレッソはこうしたポジショニングによる相手の動かし方が絶妙でした。

広島の非保持はかなり人意識が強いですが、完全なマンツーマンというわけでもありません。そういうわけで、対面の相手があまりにも遠くに行ったり、逆に自分の正面に別の選手がやってきたりといった移動に対して混乱が生じやすくなります。セレッソはそうした傾向をよく観察して前進ルートを計画してきてるなーと感じましたね。

噛み合わせればこっちのもの

30分頃まではセレッソの保持をつかみきれずシュートを打てなかった広島ですが、徐々に配置を噛み合わせてボールを奪えるようになっていきます。

配置の噛み合わせにあたっては、やはりWBがしっかり前に出ていけるようになったのが大きかったですね。というより、WBはSBまで出さないと話にならない、後ろはなんとか帳尻を合わせる!という感じで対応しているように見えました。また、GKのキムジンヒョンを放置しておくと高精度のロングボールが飛んでくるので、そこはシャドーが二度追いすることで時間とスペースを奪うという作戦に出ていましたね。

広島が配置を噛み合わせてのプレスを開始したことで、セレッソの方もロングボールが増え、間延びした展開となっていきます。こうなるとセレッソは中盤の底に香川しかいないデメリットが目立つようになり、広島がチャンスを増やしていきます。一方で柴山や新井を投入したセレッソにも決定機は複数ありました。

最終的には両チームのGKが存在感を示し、試合はスコアレスドロー。上位対決はお互いに勝ち点1を分け合う結果となりました。

雑感・次節に向けて

広島としては苦しい前半を何とかしのぎ、プレスが本領発揮するようになってからはやや優勢に試合を進められました。一方で後半にも被決定機はあり、ドローに文句を言える内容ではないでしょう。スキッベ監督もインタビューで話していましたが、これまでのセレッソ戦もあれだけ勝てているのが不思議なくらいの内容でしたので、0-0という結果は受け入れられるものだと思います。

気になった点はプレスが外されるのもそうですが、保持がほぼ無策のままボールを手放していた点でしょうか。もともと最終ラインからのビルドアップにこだわるチームではないですが、この試合はあまりにも中央から進もうとする意識が希薄だったと思います。WBを経由してシャドーの裏抜けかドウグラスへのロングボールがほとんどで、効果的な前進はほとんど見られませんでした。
DHにパスを入れて中央に視線を集めるとか、WBを高い位置に上げてCBに時間とスペースを与えるとか、もうちょっとやりようはあると思います。プレスがハマらない時の解決策が「何とかして噛み合わせてプレスをハメる」だとどうしてもきつい場面はあるでしょうし、そういった時に違う切り口から打開できるカードを持っていてほしいなと思います。

セレッソは立ち位置の調整による保持は素晴らしかったものの、強度勝負になってからはやや苦戦を強いられました。思い切ったプレスを仕掛けてくるチームに対して向き合うだけでなく、シンプルに背後を狙う意識があった方が怖いかなと思いました。まあ人選も含めて両立は難しいのだと思いますが!

それではまた次回。

#27 【J1第29節 サンフレッチェ広島×名古屋グランパス】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は名古屋戦。広島は連勝ストップしたものの、勝てば順位の入れ替わる上位対決です。名古屋は最近勝利がありませんが、上位に足踏みが多い中で何とか食い下がりたいところ。スタメンは以下の通りです。

広島は佐々木が戦列復帰し、マルコスもスタメンに復帰。それに伴って満田がDH起用、野津田がベンチスタートになりました。
一方の名古屋は3-1-4-2。中盤で起用されていた内田に代わって古巣対戦の野上がWBに起用されています。

ミスマッチを許さないリスク上等の広島

さて、強度に定評のある両チームの対戦ですが、この試合は序盤からショートパスによるビルドアップが多く見られました。

名古屋がよくやっていたのはWBが高い位置を取ってIHの和泉をサイドに降ろし、広島のDHを釣り出してから空いた中央を進んでいく形です。中盤は名古屋が3vs2の数的優位なので、広島のDHが和泉についてくれば稲垣か森島のどちらが空き、ついてこなければフリーなのでそれはそれでOKという形です。また、2トップの前田も降りてきて間受けを狙う場面がしばしばありました。

これに対して広島は佐々木か塩谷を前に出して対応するという形で対応しているようでした。図では中盤でフリーになった森島に対して佐々木が出てきて対応しています。これは序盤に何度か見られた形ですね。塩谷も前田を潰しに行ってる場面がありました。

広島としてはDHやCBが前に出るリスクを負ってでも名古屋が作るミスマッチを解消してプレスをかけたいという意図でしょう。実際この形で高い位置で奪って素早く前進できる場面もありましたが、14分の前田のシュートシーンなど、DHやCBが出ていったスペースを使われて危ない場面になることもありました。この試合の名古屋は広島の選手が出ていったスペースを前田やユンカーが直接使うことでゴールに迫っており、森島がアクセントになる場面はそんなに多くなかった印象でしたね。

ミスマッチ解消より防御を優先していた名古屋

一方広島がボールを保持した際には、左右のCBが名古屋の2トップ脇から前進していく場面が多く見られました。

塩谷と佐々木はボールを受けると積極的に持ち上がっていき、名古屋の2トップのラインを超えていきます。ここに対して名古屋のIHが出てくることはあったのですが、残りの中盤は深追いせずDFラインの前を固めることを優先していました。結果的に広島は満田と川村をフリーにでき、中盤までは大した苦労なく前進できていたと思います。
一方、名古屋の5バック+センターの2人が待ち構えているため、中盤より前のエリアに侵入していくのは容易ではありませんでした。名古屋は5バックで5レーンを埋めているためシャドーが背後のスペースを狙うことも難しい状況にあり、広島は大外からのクロスを中心にした攻撃を続けることになりました。それでも川村や中野のミドルでゴールを脅かしていたのは勢いを感じさせましたが、まずは決壊を防ぐという名古屋の狙いは一定の成果を見せていたと思います。

噛み合わせてクオリティ勝負へ

しかし、名古屋は後半の頭から前田と森島に替えて永井と内田を投入。並びを3-4-2-1にして広島と噛み合わせてきました。これにより、試合はトランジションを中心とした個々のクオリティ勝負の様相を呈してきます。そんな中で生まれた名古屋の先制点はまさにクオリティの産物。中盤でのパス交換から一気に加速し、永井とユンカーの速さで広島のDF陣を置き去りにすることに成功しました。

これで前半にも増して守備を固めるというプランが分かりやすくなった名古屋でしたが、その狙いを打ち砕いたのも個々のクオリティでした。広島は交替で入った選手たちが揃いも揃って大当たり。ドウグラスとエゼキエウはカウンターの起点として前進からフィニッシュワークまでこなし、越道は高精度のクロスを供給し続けました。名古屋も中島、ターレスとパワーのある選手が入ったものの中島は荒木とのフィジカル勝負で力を発揮できず、ターレスの推進力もWB起用で位置が低かったため割引に感じました。

雑感・試合を終えて

結局交代で入った選手が全得点に絡む活躍を見せた広島が15分で3得点を重ねて逆転勝利。ホームゲームは4連勝となりました。決していつもよりチャンスが多い展開ではなかったものの、選手交代を活かして勝ち切ったのはお見事。前節の反省なのか、フィニッシャーとして期待の持てる加藤を前線に残しておいたのも吉と出ました。
ただやはり前半のうちに保持で相手を動かす努力は見たいのが正直なところ。WBに入ったときの裏抜けとかもうちょいあってもいいんじゃないかなと思います。

一方の名古屋はこれでリーグ戦6試合勝ちなしに。しっかりと固めてスペースのある展開で一刺しという勝ち筋は明確で強いですが、90分維持できないのが困りものでしょうか。来週にはルヴァンの準決勝が待っているだけに、何とか手札を増やしていきたいという印象です。

それではまた次回。