#29 【J1第31節 FC東京×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はアウェイFC東京戦。2019年を最後に勝ちがなく、スキッベ体制になってからも3戦連続1-2負けと地味に相性の悪い相手です。スタメンは以下。

東京は4-2-3-1。前節中盤で起用されていた小泉がSBに下がり、松木が先発に入っています。また、右WGには俵積田に代わって仲川が起用されました。

広島は3-4-2-1で、DHは再び満田と川村のセットに戻しました。シャドーにはエゼキエウが起用されています。

中盤の数的優位で起点づくり

さて、この試合は両チームとも中盤のミスマッチを利用して前進を試みていました。

東京は2CB+2DHの形になるため、広島の前線3人がプレスをかけようとすると人数が足りず、満田か川村のどちらかはヘルプに出ていくことになります。そこでDHを引き出してできた背後のスペースを使って前進していました。また、前線は3vs3の数的同数なので当然背後へのボールも多用してきます。ただしここは広島のCBの強さが光りましたね。特にアダイウトンのところはもう少し勝てる計算だったのではないかと思いますが、塩谷と時には中野がきっちり監視していた印象です。マークを外してしまうと失点シーンのようになってしまうわけですからね。

一方の広島は中盤に4人いるので、東京がプレスをかけようとすると満田か川村が中盤の底で余ることになります。実際は川村と満田が縦関係になってフリーになった方がボールを受け、そこからサイドに展開する形を繰り返していました。加藤のヘディングシュートのシーンなど、WBにボールが入ると早めにクロスを上げてゴールに迫ろうという意識も感じられましたね。

サイドからの脱出方法は

キックオフから時間が経って両チームのプレス方法が見え、脱出ルートが明らかになっていくと、そこから先の前進方法も見えるようになってきました。

広島はシャドーをサイドに流す展開が多く見られました。こうすることで東京のSBは前に出られず、WBはフリーでボールを前線に供給することができます。特に左サイドの東はフリーでボールを受ける局面が何度も見られました。キック精度の高い東がWBに起用されたのはここで時間をもらえることを見越してのことだったかもしれませんね。
一方で、東のサイドは非保持では東京の前進ルートとして利用されている側面もありました。

広島は前からプレスをかけて東京のSBまで追い込んだ際に寄せきれず、WGやDHに展開されて脱出する場面を多く作られていました。狙い通りSBまで追い込んでWBとシャドーで挟んだはずがボールを奪えていなかったため、展開された先で数的不利となりピンチに繋がります。佐々木のマークから逃れるように引いてきた仲川がボールを受けたり、中央の松木が慌ててカバーに来た満田を剥がしたりと、SBの脱出を起点に一気にボールを運ばれるシーンが目立ちましたね。佳史扶のシュートがバーを直撃したシーンなどもこの形でした。

両チームともがそれぞれのプレスに対してそれぞれに脱出ルートを見つける、互角の形で試合を折り返します。

コンセプトは強度と背後

後半になっても両チームの配置などはそれほど変わらなかったように思います。強いて言えば東京の3トップのサポートに対して広島のCBがついて行くようになったか?という感じ。加藤の先制ゴールのシーンでは仲川に対して佐々木が結構高い位置まで追いかけていました。

ただ、時間が進むにつれて広島がゴールに迫る場面が増えていきましたね。これは単純に広島の選手たちの方は強度がよく持続していてセカンドボールを拾えているという印象で、特にCB陣は圧巻でした。
また、WBからのアーリークロスを始め執拗に背後を狙い続けることで相手を消耗させ、陣形を間延びさせているようにも感じました。陣形を引き延ばすことはマンツーマンで守る広島にとってもリスクで、実際に失点シーンのような場面もできています。それでもトータルで見れば優位に持ってこれるという自信があるからこそ、プレスに出ていって強度勝負に持ち込んでいるのかなと感じる後半でした。

雑感・次節に向けて

リスタートで隙を逃さなかった東京が一時同点とするも、前プレを得点に結びつけた広島が勝利。連勝こそないものの好調をキープしています。強度と背後狙いのコンセプトはそのままに保持が安定してきており、より強みを発揮できているように映りますね。

一方でこの試合でも終盤までカードを切らなかったように交替策の少なさはやや不安かもしれません。リードした展開でスタメン組が揃ってハイパフォーマンスだったという事情はありますが、今後過密日程は避けられない状況になってきており、強度の維持に交替策の充実は不可欠でしょう。とりわけ好パフォーマンスの目立つCB陣はそれだけ替えが効かなくなってきており、ここにどう取り組むかは今季~来季序盤のテーマになってきそうに思います。

東京は後半になるにつれ保持で脱出できなくなっていったのが気になりました。3トップの裏抜けが止められ始めた段階でいったんボールを回し。試合を落ち着にいく選択はあっても良かったかもしれないですね。

それではまた次回。

#28 【J1第30節 サンフレッチェ広島×セレッソ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はC大阪戦。代表ウィーク明けで久々の試合となります。ルヴァンカップ決勝から1年が経ち、加藤は古巣対戦となります。スタメンは以下。

広島はピエロスとマルコスがコンディション不良とのことで、トップにドウグラス、シャドーに満田を起用して野津田と川村のDHセット。3連敗中と苦しいセレッソはヨニッチが久々の先発、中盤は奥埜香川上門のテクニシャンタイプで固めています。なお、DAZNでは4-4-2表記でしたが実情としては4-3-3が近いだろうということで4-3-3にしています。

CBのピン止めに一工夫

さて、序盤からセレッソがボールを保持して広島がプレッシャーをかけるというこのカードではおなじみの展開で試合が進みます。広島の対4-3-3では2CBとアンカーを1トップ2シャドーで監視し、SBにはWBが出ていくというやり方が常ですが、この日はWBがなかなか前に出てこない場面が目立ちました。
その理由はセレッソのWGとIHのポジショニングにあります。

セレッソはIHが広島のCBの前に立ち、WGが広島のWBの前に立つような位置取りをしていました。こうすることで本来セレッソのWGを監視するはずのCBと本来SBまで出ていくはずのWBが足止めされ、セレッソのSBはフリーになることができます。逆にこの場合広島のDHは対面の選手がいなくなっていますね。

こうしてフリーになったSBから前進するという場面が何度かありました。19分のカピシャーバの決定機なんかはまさにこの形ですね。

さらに、最終ラインがボールを持った際に逆サイドのSBが中央に入ってきてDHみたいな振る舞いをするという方法も実装されていました。広島のWBはセレッソのWGを監視しているか、WBを見ていたとしても中央まで入っていくことは想定しておらず、ここも非常にフリーになりやすい場面でした。
この時はセレッソのIHは広島のDHと対面するように立っているわけで、セレッソはこうしたポジショニングによる相手の動かし方が絶妙でした。

広島の非保持はかなり人意識が強いですが、完全なマンツーマンというわけでもありません。そういうわけで、対面の相手があまりにも遠くに行ったり、逆に自分の正面に別の選手がやってきたりといった移動に対して混乱が生じやすくなります。セレッソはそうした傾向をよく観察して前進ルートを計画してきてるなーと感じましたね。

噛み合わせればこっちのもの

30分頃まではセレッソの保持をつかみきれずシュートを打てなかった広島ですが、徐々に配置を噛み合わせてボールを奪えるようになっていきます。

配置の噛み合わせにあたっては、やはりWBがしっかり前に出ていけるようになったのが大きかったですね。というより、WBはSBまで出さないと話にならない、後ろはなんとか帳尻を合わせる!という感じで対応しているように見えました。また、GKのキムジンヒョンを放置しておくと高精度のロングボールが飛んでくるので、そこはシャドーが二度追いすることで時間とスペースを奪うという作戦に出ていましたね。

広島が配置を噛み合わせてのプレスを開始したことで、セレッソの方もロングボールが増え、間延びした展開となっていきます。こうなるとセレッソは中盤の底に香川しかいないデメリットが目立つようになり、広島がチャンスを増やしていきます。一方で柴山や新井を投入したセレッソにも決定機は複数ありました。

最終的には両チームのGKが存在感を示し、試合はスコアレスドロー。上位対決はお互いに勝ち点1を分け合う結果となりました。

雑感・次節に向けて

広島としては苦しい前半を何とかしのぎ、プレスが本領発揮するようになってからはやや優勢に試合を進められました。一方で後半にも被決定機はあり、ドローに文句を言える内容ではないでしょう。スキッベ監督もインタビューで話していましたが、これまでのセレッソ戦もあれだけ勝てているのが不思議なくらいの内容でしたので、0-0という結果は受け入れられるものだと思います。

気になった点はプレスが外されるのもそうですが、保持がほぼ無策のままボールを手放していた点でしょうか。もともと最終ラインからのビルドアップにこだわるチームではないですが、この試合はあまりにも中央から進もうとする意識が希薄だったと思います。WBを経由してシャドーの裏抜けかドウグラスへのロングボールがほとんどで、効果的な前進はほとんど見られませんでした。
DHにパスを入れて中央に視線を集めるとか、WBを高い位置に上げてCBに時間とスペースを与えるとか、もうちょっとやりようはあると思います。プレスがハマらない時の解決策が「何とかして噛み合わせてプレスをハメる」だとどうしてもきつい場面はあるでしょうし、そういった時に違う切り口から打開できるカードを持っていてほしいなと思います。

セレッソは立ち位置の調整による保持は素晴らしかったものの、強度勝負になってからはやや苦戦を強いられました。思い切ったプレスを仕掛けてくるチームに対して向き合うだけでなく、シンプルに背後を狙う意識があった方が怖いかなと思いました。まあ人選も含めて両立は難しいのだと思いますが!

それではまた次回。

#27 【J1第29節 サンフレッチェ広島×名古屋グランパス】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は名古屋戦。広島は連勝ストップしたものの、勝てば順位の入れ替わる上位対決です。名古屋は最近勝利がありませんが、上位に足踏みが多い中で何とか食い下がりたいところ。スタメンは以下の通りです。

広島は佐々木が戦列復帰し、マルコスもスタメンに復帰。それに伴って満田がDH起用、野津田がベンチスタートになりました。
一方の名古屋は3-1-4-2。中盤で起用されていた内田に代わって古巣対戦の野上がWBに起用されています。

ミスマッチを許さないリスク上等の広島

さて、強度に定評のある両チームの対戦ですが、この試合は序盤からショートパスによるビルドアップが多く見られました。

名古屋がよくやっていたのはWBが高い位置を取ってIHの和泉をサイドに降ろし、広島のDHを釣り出してから空いた中央を進んでいく形です。中盤は名古屋が3vs2の数的優位なので、広島のDHが和泉についてくれば稲垣か森島のどちらが空き、ついてこなければフリーなのでそれはそれでOKという形です。また、2トップの前田も降りてきて間受けを狙う場面がしばしばありました。

これに対して広島は佐々木か塩谷を前に出して対応するという形で対応しているようでした。図では中盤でフリーになった森島に対して佐々木が出てきて対応しています。これは序盤に何度か見られた形ですね。塩谷も前田を潰しに行ってる場面がありました。

広島としてはDHやCBが前に出るリスクを負ってでも名古屋が作るミスマッチを解消してプレスをかけたいという意図でしょう。実際この形で高い位置で奪って素早く前進できる場面もありましたが、14分の前田のシュートシーンなど、DHやCBが出ていったスペースを使われて危ない場面になることもありました。この試合の名古屋は広島の選手が出ていったスペースを前田やユンカーが直接使うことでゴールに迫っており、森島がアクセントになる場面はそんなに多くなかった印象でしたね。

ミスマッチ解消より防御を優先していた名古屋

一方広島がボールを保持した際には、左右のCBが名古屋の2トップ脇から前進していく場面が多く見られました。

塩谷と佐々木はボールを受けると積極的に持ち上がっていき、名古屋の2トップのラインを超えていきます。ここに対して名古屋のIHが出てくることはあったのですが、残りの中盤は深追いせずDFラインの前を固めることを優先していました。結果的に広島は満田と川村をフリーにでき、中盤までは大した苦労なく前進できていたと思います。
一方、名古屋の5バック+センターの2人が待ち構えているため、中盤より前のエリアに侵入していくのは容易ではありませんでした。名古屋は5バックで5レーンを埋めているためシャドーが背後のスペースを狙うことも難しい状況にあり、広島は大外からのクロスを中心にした攻撃を続けることになりました。それでも川村や中野のミドルでゴールを脅かしていたのは勢いを感じさせましたが、まずは決壊を防ぐという名古屋の狙いは一定の成果を見せていたと思います。

噛み合わせてクオリティ勝負へ

しかし、名古屋は後半の頭から前田と森島に替えて永井と内田を投入。並びを3-4-2-1にして広島と噛み合わせてきました。これにより、試合はトランジションを中心とした個々のクオリティ勝負の様相を呈してきます。そんな中で生まれた名古屋の先制点はまさにクオリティの産物。中盤でのパス交換から一気に加速し、永井とユンカーの速さで広島のDF陣を置き去りにすることに成功しました。

これで前半にも増して守備を固めるというプランが分かりやすくなった名古屋でしたが、その狙いを打ち砕いたのも個々のクオリティでした。広島は交替で入った選手たちが揃いも揃って大当たり。ドウグラスとエゼキエウはカウンターの起点として前進からフィニッシュワークまでこなし、越道は高精度のクロスを供給し続けました。名古屋も中島、ターレスとパワーのある選手が入ったものの中島は荒木とのフィジカル勝負で力を発揮できず、ターレスの推進力もWB起用で位置が低かったため割引に感じました。

雑感・試合を終えて

結局交代で入った選手が全得点に絡む活躍を見せた広島が15分で3得点を重ねて逆転勝利。ホームゲームは4連勝となりました。決していつもよりチャンスが多い展開ではなかったものの、選手交代を活かして勝ち切ったのはお見事。前節の反省なのか、フィニッシャーとして期待の持てる加藤を前線に残しておいたのも吉と出ました。
ただやはり前半のうちに保持で相手を動かす努力は見たいのが正直なところ。WBに入ったときの裏抜けとかもうちょいあってもいいんじゃないかなと思います。

一方の名古屋はこれでリーグ戦6試合勝ちなしに。しっかりと固めてスペースのある展開で一刺しという勝ち筋は明確で強いですが、90分維持できないのが困りものでしょうか。来週にはルヴァンの準決勝が待っているだけに、何とか手札を増やしていきたいという印象です。

それではまた次回。

#26 【J1第28節 京都サンガ×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はアウェイ京都戦ですね。ここ5試合で4勝1分けと好調の広島、奇跡の逆転優勝のためには是が非でも3ポイントが必要になってきます。一方の京都は残留はほぼ安全圏となり、上位進出を目指した戦いになってきたというところでしょうか。
そんな試合のスタメンは以下。

広島はマルコスをベンチスタートにして野津田と川村のDHでスタート。腰を痛めたという佐々木のところには東が起用されています。
一方の京都はイヨハが契約上出場できないためCBは麻田とアピアタウィアのセット。豊川と福岡も前節から変わって先発に名を連ねています。

ロングボール以外のプレス回避は

さて、ゲームは序盤からお互いに高い位置からのプレスを実行し、ロングボールでそれを回避していくという展開。様子見のロングボールから試合の展開が落ち着いてくると、少しずつ両チームのプレス回避方法が見えてくるようになります。

広島がよくやっていたのは、まずWBで京都のSBを釣り出してからその裏のシャドーに縦パス入れるやつですね。序盤に東が連続でやっていましたが、この時のようにうまくいけばいきなりシャドーとCBが1vs1の状況を作れます。
一方で、この方法だとCBとWBが低い位置に降りてくるので相手のプレスに捕まった時のリスクは高くなります。また、京都は何度か裏を取られてもひるまずにプレスを仕掛けてきており、東や志知が出しどころを失って長いボールを蹴らざるを得ない場面も見られました。うまくいけば一気にゴールに迫れますが、押し込む展開を維持するのはやや難しい前進方法というところでしょうか。

また、これとは別に大迫がボールを持った際に野津田や川村がピッチ中央に降りてきてフリーで受ける場面も目立ちました。これは中盤の数的優位を活かした形で、荒木もこの形があるのをわかっているので少しサイドにポジションを取っていたのかもしれません。

一方の京都は、ポジションチェンジを多用した前進を仕掛けてきました。

まずSBが高い位置を取って広島のWBを押し下げておき、そこにIHが斜めに降りてきてビルドアップの出口となります。広島のシャドーは京都のCBかアンカーを監視しているのでこのIHまで出ていく展開にはなりづらく、本来対面のDHもレーンと列を同時に移動はしづらいので、広島としてはこのIHは非常に捕まえにくそうでした。また、アンカーの金子もすぐサポートに来ていたので、IHに入った後のパスコースも作りやすかったと思います。

で、ここから縦パスが入ると本来のマークと違うので広島のファーストディフェンダーが決まりづらくなり、どうしても遅れてアプローチすることになります。また、京都の右サイドは豊川と山崎のポジションチェンジもあるのでなおさら捕まえにくく、この辺りのパス交換でサイドの奥に侵入していく場面は何度もありました。

このように広島のプレスを外す準備をしっかりしてきた京都は、序盤こそ強度を押し出してくる広島に危ないシーンを作られていたものの、前半の終わりが近づくにつれて少しずつ保持率を高めてペースを握っていったように見えました。

高い位置に侵入する保持攻撃を!

プレス回避のところでも書いたのですが、この日の広島の保持攻撃で気になったのはWBの位置の低さです。また、WBがボールを持っても十分なフォロー体制が整っていないという印象もありました。

広島の保持ではCBとSBの間を取るのが一つの目標で、そのためにWBがボールを持ったらシャドーが裏に抜けていくという動きが効果的です。しかし、この試合ではシャドーが裏抜けせず、WBがそのままアーリークロスを上げている場面が多くありました。

もちろんチャンスだと思えば早めにクロスという選択肢があってもいいのですが、単純なクロスだとなかなか相手を動かせません。シャドーが背後に抜けることでフリーでポケットを取れればよし、そうでなくても相手のIHを動かし、それによってWBのカットインやDHのフォローを活かす、というように相手を動かす攻撃が見られなかったのは残念なポイントでした。

5バックで中央堅め

後半の立ち上がりにはスローインから広島陣内に侵入した京都が豊川のゴールで先制します。東はCB起用でもパス精度や高さで存在感を示していましたが、このシーンでは連携不足感が見えてしまいましたね。

先制した京都は後半途中から金子を最終ラインに下げた5-4-1のような格好で守るようになります。
この試合の広島はゴールへの最短距離を進むような選択をすることが多く、特にカウンターの時は中央3レーンでDFラインの背後を狙う場面が目立ちました。このスタイルだからこそシャドーにエゼキエウとマルコスを置くという交替になったのかもしれませんが、京都の5バック化によって中央は封鎖され、素早く前進して最終ラインの背後を狙おうとしても中央レーンで3CBに阻まれてしまうという状況が続きました。

こうなると広島は大外からクロスを入れるしかなくなり、高さのないエゼキエウとマルコスのシャドー起用が仇となってしまいます。京都の5バック化は広島の攻撃の狙いを見切った機敏な修正だったと言えるでしょう。

雑感・試合を終えて

試合は1-0で逃げ切った京都が勝利。保持で広島のプレスを空転させて流れをつかみ、セットプレーで持っていく巧みな試合運びが光りました。前半の序盤に見せたサインプレーなどもそうですが、準備してきたことがしっかりと出たことがうかがえます。シュート数は少ないながらも会心の勝利なのではないでしょうか。

一方の広島はこれで6試合ぶりの敗戦。佐々木が不在で~というよりも、前節までに見せていた丁寧な保持による押し込みを忘れてしまっているのがもったいないな~という感じでした。
京都との試合は確かにロングボールが多くなりがちですが、それ以外にどうやって相手を動かすか、というところを忘れずにやっていく必要があるというのが教訓ですね。

それではまた次回。

#25 【J1第27節 サンフレッチェ広島×ヴィッセル神戸】

はしがき

毎度お世話になっております。代表ウィークの中断も明けて、今節は神戸戦。残り4試合となったエディオンスタジアムに首位の神戸を迎え撃つことになりました。
スタメンは以下。

広島は川村が出場停止で、入れ替わるように出場停止明けの野津田が復帰。トップにはドウグラスが入っています。
神戸は4-3-3で、武藤がスタメンに復帰しています。というかなんで前節がベンチスタートだったんですかね。そして新加入のマタがさっそくベンチに入っています。

トランジションならお手の物

さて、試合は開始早々から志知が運ぶドリブルを2連発して前進するなど広島がゴールに迫る展開が続くと、7分にはその志知のゴールで広島が先制します。先制してからも流れは変わらず広島が神戸ゴールに迫るシーンを多く作り出していました。
と言ってもこの試合は保持で押し込んでいたわけではなく、むしろ広島がショートパスによるビルドアップから決定機にたどり着いたシーンはほとんどなかったように思います。先述した志知のドリブルからの2回くらいではないでしょうか。

ではどうやって決定機を作り出していたかというと、自陣でボールを奪ってからのカウンターですね。

広島は1トップ2シャドーで最終ラインを監視しつつ、シャドーのSBへのプレスが間に合わない場合はWBが出ていくというプレッシングを行っていました。中盤の数的不利はシャドーがアンカーを監視したりCBが迎撃に出ていったりで対処していましたね。特に加藤や塩谷は臨機応変に対応していたと思います。

で、このプレスに対して神戸はロングボールを積極的に使うことを選択してきます。ターゲットとなるのは主に武藤と大迫で、ここで競りあったボールのこぼれ球をIHの川崎や山口が回収するという狙いだったと思われます。

ところが、ターゲットとして計算していた大迫と武藤のところで予想外にボールが収まらず、佐々木と荒木に跳ね返されてしまう事態が続出していました。ここは広島の最終ラインのハイパフォーマンスを褒めるべきところでしょう。もちろん野津田や満田、志知がサポートしていた部分もあると思いますが、まず荒木と佐々木が純粋な競り負けがほとんどなかったのがこの試合の大きなポイントだったと思います。

荒木と佐々木がボールを跳ね返すとどうなるかと言えば、高い位置を取った神戸のIHの裏にボールがこぼれることになります。広島はこのボールを2DHと2シャドーで回収し、空いている中盤を通過して直線的に神戸のゴールに迫るシーンを繰り返し作っていました。神戸はCBの山川と本多が潰しに出てくることも少なかったため実質的に中盤は大崎一人になり、広島のカウンターを阻害することは難しい状態でした。

また、広島はここ数試合カウンターでゴールに迫る際の動きもかなり整備されていますね。ドウグラスがペナ幅で背後に抜ける動きを繰り返し、そこにパスを出したり空いたスペースを使ったりとカウンターでより直線的にゴールに迫れる仕組みが確立できているように思います。
そんなわけでトランジションから何度もチャンスを作っていた広島は、30分にカウンターから加藤のゴールでリードを広げます。このシーンでは相手より早く切り替えて高い位置まで走っていた中野のランニングが光りましたね。

落ち着かせることはできたけど

2-0となった後の神戸は川崎や山口がサイドに降りてボールを落ち着かせる動きが見られるようになりました。一気に前進して広いスペースを攻略することはできないものの、ひとまずカウンターを喰らい続ける流れは脱却することに成功します。

また、後半からは3-4-2-1に変更し、広島と並びをかみ合わせてきました。

3-4-2-1にすると完全に配置が噛み合う訳ですが、そこで神戸は大迫を降ろして代わりに武藤を最前線に出すような可変を繰り返し行ってきました。
これによって荒木が前に出ていけず、大迫が降りていった先にいる広島のDHはそれぞれ大崎や山口をマークしているので、大迫は時間とスペースを得やすいという流れでした。

こうしてボールを落ち着けた神戸ですが、2点ビハインドの状況は変わりません。広島側としても2点リードでゲームが落ち着くなら歓迎とミドルブロックを敷いてカウンターに備える形をとったため、膠着状態のまま時間が過ぎていきます。
終盤にはマタを投入して4-2-3-1に戻しますが、決定的な変化を生み出すことはできず。

広島が危なげなく2-0で逃げ切ることとなりました。

雑感・次節に向けて

広島は強みであるトランジションを活かして会心の勝利となりました。この試合は何と言っても佐々木と荒木が大迫と武藤に仕事をさせなかったことが大きかったですね。ここで勝てることにより、前進に備えていた神戸のIHが空けたスペースを逆用して一気にカウンターを仕掛けることができました。もちろん素早い切り替えでカウンターを仕掛けたWBを始め前線のメンバーの功績も大きかったです。

一方の神戸は、分の悪いロングボールによる前進に30分間こだわり続けたことで手痛い代償を払うことになってしまいました。広島の2得点はいずれも神戸の守備がやや淡泊に感じましたが、カウンターを喰らって人数が少ない状態で守ることになればゴール前でのスペースの取捨選択はより厳しいものとなるわけで、やむなしといったところでしょう。
16分のように3センターによる数的優位を活かした形や、2失点後に見せたIHの列落ちのようなショートパスによる前進を織り交ぜて広島のプレスを躊躇させることができていれば、もっと違った展開があったかもしれません。

今節は上位陣に足踏みとなったチームが多く、神戸は首位キープ、広島は首位まで8ポイント差となりました。優勝を狙うとなると以前厳しい数字ですが、ACL圏までは2ポイント差とかなり現実味が出てきています。
ここ数試合好調な保持とこの試合で見せたトランジションからの速攻を両立し、勢いを維持していきたいところですね。

それではまた次回。

#24 【J1第26節 サガン鳥栖×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は鳥栖戦です。鳥栖は残留争いこそ遠いものの8月は勝ちなしと苦戦中。広島は前節連勝が止まったものの負けなしは継続中で、勢いを維持したいところです。スタメンは以下。

鳥栖は4-2-3-1のままですが、中盤より前をガラリと入れ替えてきました。それでも残っている長沼と河原には信頼を感じます。
広島は野津田が出場停止から帰ってきたもののDHは川村と満田のセットで継続。さらにアジア大会の代表に選出された山崎がCBの中央でスタメンに抜擢されています。

 

WGの立ち位置でずらしにかかる鳥栖

さて、この試合も広島はWBを相手のSBまで上げてプレスに出ていきます。広島のマンツープレスに対してよく見られる手立てはGKを使ってボールを落ち着かせたりDHの裏に長いボールを送り込むことですが、この試合の鳥栖は右WGの長沼を中心に立ち位置でプレスを外しに来ていました。

よく見られたのが長沼がDHと同じくらいの高さまで降りてくるパターンです。ここまで降りてしまうと対面の佐々木もついていくか迷うところで、しばしばマークから逃れた長沼はここでフリーになることができていました。長沼は内側を降りていくだけでなく、志知の背後の大外レーンに入ってくるパターンなどもあり、佐々木としては毎回どう対応するか判断が難しかったことと思います。

また、長沼に佐々木がついて行くとその背後にスペースが空いてしまうので、そこに西川や富樫が流れてきて受けるシーンもできていました。13分のシーンなんかは分かりやすいですね。

こんな感じで、鳥栖は基本的に長沼のところで相手をずらして前進する仕組みを作りに来ていました。長沼は広島時代にもポジショニングセンスに光るものが見られましたが、その能力を活かして鳥栖で中心になっているのは嬉しいですね。
なんで移籍しちゃったんだよ、と当時は思いましたが、この試合を見ていると鳥栖の右SHは広島のどこよりも彼の能力が生かせるポジションだと感じました。

こうして広島のプレスに対抗する策は持っていた鳥栖ですが、ゴールに迫る機会が多かったかと言えばそうではありませんでした。
単純に広島の守備陣が対人に強かったのもあるんですが、鳥栖の方はゴールへ直結する選択肢を選んでこないのが理由かな?と感じました。
プレスをかいくぐったらいったんボールを落ち着かせて、サイドに展開してからクロスという攻撃が多かった印象です。最短距離でゴールに向かっていかないので広島が帰陣する時間を与えてしまい、跳ね返されることが多かったのではないでしょうか。

そして、この試合の広島と鳥栖で明確に差があったのがまさにこの部分だと思います。

高い位置からまっすぐゴールへ

ここ数試合WBが高い位置を取る傾向のある広島ですが、この試合でもその方針は継続。特に高い位置を取っていたのは右WBの中野で、SBの菊池と空中戦をする機会が何度も見られました。先制点もここの競り合いからでしたね。菊池は160 cmなので中野が競れば勝てる可能性は非常に高く、スカウティングの段階から狙っていたものと思います。

また、中野だけでなく右CBの塩谷も高い位置を取る場面が多かったですね。岩崎を置き去りにしてサイドを前進し、ピエロスや加藤目がけてスルーパスをよく狙っていました。この試合の広島は右サイドの選手が高い位置を取ってプレスを外し、そのままゴール前のピエロスや加藤へスルーパスを送るという一連の流れを徹底していました。ここがスムーズに設計されていたのがこの試合の広島がチャンスを多く作れた要因でしょう。

そして、陰でその立役者となっていたのが山崎ですね。彼が最終ラインから速いパスを供給できるので、その分塩谷も中野も高い位置を取ることができます。また、17分のシーンのように相手がプレスに来てもワンツーなどの小技で外せるのも魅力的。不安視されていた最終ラインでの対人も上出来で、ここまで荒木のものだった3バックの中央争いに本格的に名乗りを挙げた形になりました。

雑感・次節に向けて

広島は山崎の起用とともに保持が冴えわたり、右サイドを起点に2得点で完勝。ここ数試合の勢いの良さそのままに充実の内容でした。もっとも単にチームの雰囲気が明るいというだけでなく、内容に明確な改善が見られるのがいいですよね。次は首位・神戸との一戦ということで、ここまでうまくいっている保持の良さを出しつつ鋭いカウンターに対処できるかに注目です。

鳥栖はビルドアップに光るものを見せながらもシュートが少なく無得点。保持型チームにありがちなフィニッシュの迫力不足が感じられました。クロスから富樫のヘッドなど可能性を感じる場面もあるのですが、なんとも歯がゆい部分ですね。

それではまた次回。

#23 【J1第25節 柏レイソル×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は柏戦。連続で劇的勝利を挙げた広島ですが、柏も直近4試合負けなしと勢いがついてきています。そんな両チームのスタメンは以下。

広島は野津田の出場停止に伴って満田がDHに起用され、シャドーに初スタメンとなるマルコスが入りました。体調不良者が複数名出ていたとかで、ベンチはベテラン多めの構成です。
柏は前節と全く同じ11人が起用されました。井原監督になってからは4-4-2を採用しているんですね。

DHを動かしてスペースを作る柏

さて、試合は両チームとも高い位置からプレッシャーをかける展開が目立ちます。広島はいつものようにWBを相手のSBにぶつける形でプレスをかけていきますが、柏はそれは織り込み済みで前進ルートを作ってきていました。

柏はDHの椎橋と高嶺、さらに1.5列目のような振る舞いをする山田康太が動き回ることで、広島のDHを定位置から動かしてきました。そうして中盤が空いたところで細谷やマテウスヴィオに縦パスを差し込み、シンプルなコンビネーションで抜け出すことを狙います。得点にはつながりませんでしたが、前半開始早々に細谷が抜け出したシーンなどはまさに狙い通りでしょう。
広島としてはハイボールを蹴っ飛ばさせる狙いのはずが低くて速いパスが飛んでくるので対応しづらかったと思いますが、ここは荒木を中心とするDF陣が良く対応していたと思います。

理に適った戦術とちぐはぐな役割

一方、広島がボールを持った際には柏のSHが広島のCBまでプレスに出ようとする場面が多く見られました。しかし、広島は個々の立ち位置をうまく調整して柏のプレスをいなすことができていたと思います。

左右のCBがボールを持った際にDHが柏のSHの近くまで降りていくことで注意を引き付け、CBへのプレッシャーをかかりにくくします。同時にシャドーがSBの前に立つことで前に出られないような状況を作ります。こうすることで広島はWBにフリーでボールを渡して前進できるようにできていました。
また、柏のSBが出てくればその裏にシャドーが走ればいいわけで、そういう場面も何度か見られました。サイドからの前進はしっかりと落とし込んでいるように感じますね。

一方で、各ポジションの役割に対する人選には違和感がありました。

この試合の広島の主な前進ルートは①WB経由のアーリークロスかシャドーの裏抜け、②DH経由の逆サイド展開、のいずれかがメインでした。となるとシャドーのタスクはハーフスペースを裏抜けしてクロスまで持っていくか、WBからのクロスに合わせるかの2つになってきます。加藤はどちらも十分にこなせると思いますが、マルコスにこのタスクを振るのは違うのでは?と感じてしまいます。
やはりライン間でボールを受けてコンビネーションに繋げるというのが得意な選手だと思うので、推進力とフィジカルの要求されるこの試合のシャドーは彼に合っていなかったような気がしますね。その後ろでDHやってた満田か川村の方が適任のように思います。もちろん相手の出方もあるので、マルコスをスタメンにしたのが間違いだったというわけではなく単に展開に合っていなかったという話なのですが。

それと、野津田の出場停止で強度とパス精度の両方を備えたDHがいなかったというのも原因かもしれませんね。ベンチにいた中では青山は強度、山崎はパス精度に不安があるというところでしょうか。東がいればDHで起用されていた可能性もありますし、ビハインドだったら途中から青山を起用していたんじゃないかな、と思います。

0-0で推移したことでスタメンの強度が落ちてきても思い切ったカードを切りづらく、結果的にフレッシュな選手を多く入れてきた柏に主導権を握られる終盤となったという側面はありそうです。スペースはあったので後半からマルコスを入れて差し合いに持ち込むということができればまた違ったかもしれません。

雑感・次節に向けて

広島は連勝ストップしたものの、保持がしっかり整備されたことで引き続きチャンスは作れています。前進手段があるのはもちろんですが、加藤とピエロスがしっかりとクロスに入っていく形ができているのも大きいのではないでしょうか。

柏も細谷とサヴィオを中心としたシンプルながらも鋭い攻撃で上位陣からもポイントを取れるチームになってきています。シンプルながらも洗練された攻撃と粘り強い守備がぶつかり合う好ゲームでした。

それではまた次回。