#5 【2025J1第6節 サンフレッチェ広島×柏レイソル】

はしがき

毎度お世話になってます!今回は柏戦。ACL2を不本意な形で失った広島にとってはリスタートを期す一戦。今季リカルド監督のもと好スタートを切り、ボールを保持するスタイルも相まってポジティブな驚きをもたらしている柏との一戦です。スタメンは以下。

広島は前節の横浜FC戦から中島と中野の2人を変更。柏は前節の鹿島戦から犬飼と渡井の2人変更となった。お互いに3-4-2-1を採用とあって、どのようにズレを作り出していくかがカギになりそうなスタメン図である。

いつもと違うプレスの配分

序盤は両チームともある程度はボールを保持しようとするものの、お互いのプレスによって長いボールを蹴らざるを得ない展開だった。その中で、広島のプレッシングにおける役割分担にはいつもとやや違った点が見られた。

それが左シャドーの加藤の中盤残りである。マッチアップ的には加藤は右CBの原田を見るところだが、この試合では中盤に残ってDHの熊坂や原川を監視することが多かった。この試合では右CBの原田は高い位置を取ってSBかのように振る舞うことが多く、そうなると加藤がついて行くには負担が大きすぎるということだろう。
原田が上がると4-2-3-1のような形になるので、そうなると加藤と中島で相手のDHをマークするという形は自然な対応と言える。フリーになりがちな原田とその前の久保は東と佐々木で管理し、中盤に残った川辺が小泉をケアするといった分担になっていたように思う。実際に原田を起点に加速されるような場面は少なかったはずで、ここは日程が厳しい中柏の予習をしっかりして対応できていたと言えるだろう。

列落ちで流れを引き寄せる柏

ただ、この広島の対応に対してすぐに応じ手の引き出しを探せていたのが柏のいいところだった。具体的には両DHの列落ちで解決を図る。

前半途中からよく見るようになった熊坂の列落ちは4-2-3-1からのシンプルな可変と考えることができるが、広島にとっては加藤を中盤に残したはずが別のところから人が降りてくる形なので中島が出るのか加藤が行くのか放置するのか判断が難しいところだった。

これによって中盤にスペースが空けば渡井がボールを受けられるし、そのケアのため塩谷が出てくるとその裏に小屋松が走ってくるリスクもある。広島としては原田をフリーにしてそこへ攻撃を誘導できれば制御できそうだったが、柏の素早い対応を前にボールを奪えなくなっていく。

また、後半から増加した原川の列落ちも広島にとっては悩みの種だった。

左サイドの底に落ちていく原川に対してまず川辺がついて行くかの選択を迫られ、さらにそれに呼応して小屋松が侵入してきたり渡井が降りてきたりと役割を入れ替えていく。
総じて柏の方は古賀犬飼ともう一人でバックラインを構成し、そのもう一人が作ったスペースを周囲が使いながら侵入していくというのが大きな原則になっているようで、広島はそこに対してなかなか有効な制限手段を見いだせなかったというところだろう。

流れ上見いだせなかったとは書いたが、実際には複数の選手がその時々で違う動きをしながら登場するわけで、広島でなくてもこれにプレッシングで全部対応するのは無理だろう。新潟やG大阪もそうだが、GKを活用しつつポジションチェンジを使ってビルドアップしてくるチームに対してGKを使うわけにはいかないプレッシング側はどうしても人数が足りなくなる。ビルドアップとプレッシングを突き詰めるとどうしてもこの問題は出てくるので、プレッシング側としては誰かが無理して二度追いするか、ハイプレスを諦めて別のアプローチによる解決を探るしかないというところ。
この試合の広島は序盤に加藤を引かせてのミドルプレスを試みたがDHの列落ちでバラされた。そしてこちらの方が問題だと思うのだが、もう一つの解決策であるボールを取り上げるという手段もうまく機能していたとは言えなかった。

柏のプレスにハマる広島

広島のボール保持に対する柏のプレスはシンプルで、両サイドのCBがボールを持ったらシャドーがしっかりと中を切ってWBに誘導、WBにはWBを出してその背後はCBがスライドしてケアという形だった。

シンプルながらここのタスクの徹底度合いが素晴らしく、特に両シャドーのプレスの速さと中切りの正確性には目を見張るものがあった。広島は左サイドでは中島のボール引き出しと東、加藤のポジションチェンジで前進できるタイミングがあったものの、右サイドについては柏のプレスによってほぼ沈黙させられていた。

この試合の広島で改善できる点があるとするならこのボール前進のところだろう。特に中村草太はCBに潰される場面が多かったが、ここではCBがしっかりついてくるのだから60分のシーンのように背後に抜けてボールを引き出す動きが欲しかったところ。サイド起点にしっかりと配置が噛み合ってしまっている状態なので配置を動かしていく必要があり、その起点の一つとして中村の裏抜けは十分に可能性があったと思う。
逆に交代で入ってきた越道はそのあたりの指示を受けていたのではないだろうか。得点シーンや69分の抜け出しなど、背後を狙うことを第一に考えている様子が見て取れた。

とはいえ試合を通してみれば多くの時間で柏の方がボール保持率で上回っており、広島がボールを持てた時間は多くはなかった。保持型チームは苦手としているが、ボール保持に手を入れていると思われる今季でもその傾向は続きそうだ。

雑感

と、ここまで全体的に柏の方が優勢だったような書き方をしてきたが、データを見てみれば広島の方がシュート数およびゴール期待値で上回っており、ミスからの失点はあったものの苦しい展開を乗り越えてリードを奪うところまでたどり着いている。
こういった苦しい展開でも持ち前の強度と守備陣の対応力で凌げるのが広島の強みなのだと改めて認識する試合となった。これは決して悪いことではなく、タイトルを取るにはこうした理不尽とも言える強さを発揮する場面は必ず必要になってくるだろう。もちろん苦しい展開にならないことが第一だが、そうなるまでの間の苦しい時を乗り越えられるというのは立派に強みの一つだ(この試合は引き分けに終わったわけだが)。

逆に言えば柏は先制された後にバタついてミスが続いてしまったところが気になった。浦和vs柏の96さんのレビューで浦和が1点取ったら柏は焦ったのではないかという記述があったが、それが具現化されたような時間だった。

www.urawareds96.com

もしあの時間帯で広島が2点目を取っていたらそこで試合は終わっていただろう。そしてゴール期待値を見る限りそれは決して低い確率ではなかった。
広島を崩す場面は何度もあったがゴールを陥れるには85分の時間と交替で入った細谷のカウンターが必要だったわけで、このゴールまでのコストの高さも今後の課題にはなるのだろう。1トップ 2シャドーも含めてすべての選手に高い戦術的負荷がかかっているのでゴール前でのクオリティを維持するのは大変そう。この試合のように耐えた相手に先行されるという展開も多々あると思うが、やっている選手たちがそういった逆境でも自信を失わずにやるべきことを続けられるかは重要なポイントになりそうだと感じた。やっぱりサッカーって人間がやるスポーツなんですね。

それではまた次回。