#03【2020J1第4節 サガン鳥栖×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。2020年は全試合やりたいとか言ってたのにもう1試合飛ばしてしまいましたね。まあこの過密日程ですし……一応Twitterに簡単な図をあげたのでセーフということにしたいところです。

さて今回は鳥栖戦です。鳥栖は未だ勝ちなしかつ無得点と苦しい状況のようですが、どのような試合だったか振り返りたいと思います。スタメンは以下。

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鳥栖は4-2-3-1。原川にやられた記憶ばかりがあると思っていたらベンチスタートなんですね。一方の広島は前節から3人変更。連戦のさなかですがDF陣はそのままで来るあたり信頼が表れています。

鳥栖の広島対策?

さて、この試合では広島がボールを持った際の鳥栖の追い込み方に対策が垣間見えました。

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広島は3バックの中央である荒木がボールを持った際に豊田が強烈なプレッシャーをかけてサイドに逃げさせます。サイドのCBには鳥栖のSHがプレッシャーをかけ、WBにはSBが出てくることでボールの前進を阻害します。

広島はもともとWBにボールを預けてから展開するビルドアップを多用するため、そのルートを潰しに来たのだと思われます。広島としては鳥栖のSBが出てきた裏を使いたいところですが、鳥栖がきっちりスライドしてくるため中々それも難しかったものと思われます。

ただ、サイドがふさがれている分中央のシャドーに簡単に縦パスが入ることもありましたし、GKの林を使って数的優位を確保してプレス回避していることもありました。こういうのをアドリブの単発で終わらせるのではなく、試合中に狙いどころを共有して修正できるようになってもらえると頼もしいなと思います。

正確さと個の強さ

GKをビルドアップに使うという点で言えば鳥栖はより積極的に行っていましたね。

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CBが開いてGKが中央に位置することで3バックのような形になり、SBが高い位置を取ります。広島の3トップが同数プレスをかけられる形ですが、ここで行ってしまうと中央の数的優位を活かされたり最終ラインで1vs1の勝負を仕掛けられる局面が発生するため迂闊にプレスをかけられません。鳥栖としてはプレッシャーが来れば前に蹴ってアタッカーを走らせればよく、プレッシャーが来なければ中盤と連携しながら落ち着いて前進を図れるという理想的な二択を迫りながら試合を進められていたのではないでしょうか。

ただ前進したとして、鳥栖のアタッカーは対人に絶対の自信を持つ広島のCBと1vs1で戦うことになります。ここがなかなか突破できなかったことが鳥栖の攻撃が最後にうまくいかない要因だったのではないでしょうか。

正確なポジションチェンジ

そうした中で輝きを放っていたのが鳥栖の左サイドでのポジションチェンジです。左SBの内田と小屋松はどちらかが外に開けばどちらかが中央に絞るというポジショニングの基本を押さえつつ、さらにそこからのポジションチェンジで崩しにかかるという連動性を見せました。53分のシーンを例に出します。

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ここからさらに内田が中に入ってリターンを受け、本田は裏に走る

サイドでボールを持った内田に対して、インサイドに位置していた小屋松が外に開きながらの裏抜けで野上を引っ張ってパスコースを作り、そこにトップ下の本田が降りてきます。荒木は中央で豊田とマッチアップなのでここは青山が見ていますが、さらに内田が中央に入ってきてリターンを受けることができます。

この一連のシーンにおいて広島は東が近くにいたのですが、対面の選手がいない状態だったので見ているだけになってしまいました。広島の守備は人意識が強いだけに、自分の対面の選手が遠くにいる場合はこういった状況が起きやすくなるかもしれませんね。

このシーンでは内田に頑張ってついて行ったハイネルがボールを奪うのですが、すぐさま松岡と内田に囲まれてボールを失います。こういった切り替えの際の松岡や梁の迅速な対応もこの試合光っていたと思います。広島は試合の終盤に速い攻撃から立て続けに決定機を迎えるのですが、梁がいなくなったことと無関係であるとは思えません。

鳥栖はDHの2人が瞬時に中央のスペースを消してしまうため、広島側が横パスを1~2本繋ごうものならすぐにカウンターが封じられてしまいます。ボールを失った際の対応も行き届いている鳥栖のクオリティに驚くと同時に、広島はカウンターの時にまずどこを目指すのか、チームとして明確な基準が欲しいなと感じました。

終盤のカウンター攻撃も決まらず試合は0-0のまま終了しました。

試合を終えて

いやあ、鳥栖が大変良いチームで驚きました。鳥栖戦は地味な試合になることも多かったので今回も固められて塩試合かと侮っていました。申し訳ありません。このチームが得点ゼロの2分け2敗というのはちょっと信じがたいものがあります。ただ点を取るというのはアタッカーの個人勝負みたいなところもありますからね……豊田が今シーズン初先発だったのも、その辺の事情があるのでしょうか。

さて広島のブログなのにまた広島のことを全然書きませんでしたね…… 正直前節の大分戦からは特に個人の能力とひらめきに依存している部分が多いように感じられます。柏のケガによって去年チームをけん引した左サイド攻撃が機能不全に陥っているのも大きな要因でしょう。

ここまではカウンターからうまく点を取れましたが、今日みたいにきちんと対応してくるチームだとカウンターすらも個人能力依存では厳しくなってきます。チームとしてどういう形で守り、ボールを奪って得点するのか、そうした意図を共有できるかが試される時期が来ているのかもしれませんね。

ではでは

#02 【2020J1第2節 ヴィッセル神戸×サンフレッチェ広島】

はしがき

どうもご無沙汰しております。開幕戦から早4カ月、J1もようやく再開となりましたね。まあ中断してる間にいろいろあったわけですが言葉はいらないでしょう。サッカーがある日常に感謝するのみでございます。

さて広島の再開初戦、相手はヴィッセル神戸。昨年度はシーズンダブルを決めるなど、相性の良さを感じさせる相手です。スタメンは以下。

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広島はいつもの3-4-2-1で、開幕戦と同じメンバーとなりました。一方の神戸は3-1-4-2。4バックを採用しているという話もありましたが、昨シーズンの対戦時と同じ並びを採用してきたことになります。

神戸が上手だったビルドアップ

さて、試合開始から神戸がボールを握る局面が多く見られました。これはどちらかの意思でそうなったというより、両チームのビルドアップの練度やプレスのかけ方の違いによるものという印象を受けました。

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神戸が最終ラインでボールを持った際、広島の1トップ2シャドーはミドルゾーンに待機。中央のペレイラがアンカーであるサンペールへのパスコースを遮断します。

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で、サンペール番を後ろの青山か川辺に受け渡してから大崎にプレス。左右のCBにパスが出たらシャドーが寄せ、そこからサイドへの展開はWBが、IHやFWへの縦パスはCBが潰すという仕組みです。神戸の3センターに対して広島の2DHは数的不利となるわけですが、プレスをかける前はサンペールをペレイラが、プレスをかけた際は山口に対して佐々木が出ていくことで配置を噛み合わせていることが多かったように思います。

ただ広島のプレスは実際にはそこまで強いものではなく、CBに寄せていったペレイラがドリブルであっさり剥がされたり、前線3人がうまく連動してサイドに追い込んだのにWBの位置が低くてサイドで余裕を持って受けられたりという場面も見受けられました。

イニエスタやサンペールに良いパスが入らなければOKということなのかもしれませんが、もうちょっとプレス強度を上げればショートカウンターを仕掛けられる場面も増えるかもなあと思ったのは確かです。

一方広島がボールを持った時ですが、この時も佐々木と山口のマッチアップが発生していました。

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神戸の2トップは広島の3Cbに対して数的不利なので、山口を前に出して佐々木にプレッシャーをかけてもらうことで同数プレスを実現。2DHはサンペールとイニエスタで監視します。しかしこうなると山口が出ていった裏のスペースが空くので、底に降りてきた森島がボールを受けてプレス回避するシーンが何度か見られましたね。

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が、しばらくするとこれをダンクレーか潰してくるようになったので広島はビルドアップの出口を失い、ボールを縦に蹴っ飛ばすしかなくなっていきます。柏がケガしちゃう直前のシーンみたいにうまく前進できることもあったんですが、あれその場のノリでやってそうだよなあ……という気もします。やっぱりCBがもっとサイドに開いたりドリブルで1枚剥がせたりするとだいぶ選択肢も広がると思うので、そういったところに今後期待したいですね。

そんな具合でボールを手放すことが多かった広島。決定的なパスは入らないにせよ、神戸がボールを握る時間が増えていきます。

ボールは持てるけど

しかし、神戸が問題だったのはここからでした。5-4-1でセットして自陣に引いた広島を全くと言っていいほど崩せなかったのです。

おそらく神戸がやりたかったのは22分のシーンのようにFWの列を降りる動きで広島のDHと2vs1を作り、そこにパスを通していく攻撃だったと思われます。

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このエリアでイニエスタや古橋、ドウグラスが前を向ければ決定機につながる可能性が高いです。

しかし、実際には広島のCBがFWの降りる動きについてきて潰してしまうことがほとんどだったように思います。

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そうなるとCBが出ていった裏のスペースに誰かが走ってくれればいいのですが、この試合の神戸にはその動きがほとんど見られませんでした。本来そういった動きが得意なはずの古橋や山口までもが列を降りる動きを意識しすぎてしまい、最も怖い裏へのランニングが減ったのかもしれません。こうなると神戸は広島の守備陣が密集する中央をなんとか突破しようとあがくことになり、それはさすがのイニエスタやサンペールでも困難を極めます。

43分に神戸が迎えた決定機では佐々木を前に釣り出してから裏に抜けた山口がイニエスタからダイレクトのパスを受けてゴール前に侵入していましたが、こういったシーンを多く作れれば広島側も対応するのが難しかっただろうと思います。

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中央からの攻撃がうまくいかないと見たイニエスタが左サイドの底まで降りて来たり、古橋がサイドで幅を取って酒井が中に入ってくるポジションチェンジをしたりと工夫も見られました。が、広島からすれば最も怖い選手がいてほしくない場所から離れてくれているわけなので、これは逆効果だったんじゃないかなあと感じました。

日本っぽい?神戸

後半開始早々に広島がリードを2点に広げると、神戸は渡部を下げて小川を投入。4-2-3-1へと変更します。

広島のゴールをこんなあっさり流していいのかとは思うんですが、セットプレーとセットプレーの流れからのカウンターなので正直あんまり書くことがないんですよね……2点目の川辺のパスは本当に素晴らしかったと思いますが。

で、4バックになった神戸はSBの西と酒井が高い位置を取るようになります。

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これによってサイドにいた小川と古橋が中央に入ってくることになり、ただでさえ混雑していた中盤にさらに人があふれることになりました。広島がラインを下げて裏のスペースを消し始めたこともあり、神戸の選手たちはより密になった中央で動きにくそうにする場面が多発。イニエスタドウグラスのワンツーで打開する場面なんかもあるにはありましたが、基本的には4バック変更はあまりハマっていなかったかなと思います。

唯一可能性を感じられたのは右サイドの西のところ。柏に代わって入った浅野は守備面での対応に難があり、純粋な1vs1で西が突破してチャンスにつながるシーンが多くありました。ある意味中央に人を集めているからこそサイドでこうした1vs1ができるわけで、これは狙い通りだったのかもしれません。浅野はゴールという結果こそ出しましたが、あれくらい1vs1であっさり抜かれているとちょっと厳しいかもな、と感じます。

裏に走る選手がいなくなって選手が中央に集まった結果中央が渋滞し、自分たちでどんどんスペースをなくしてしまうという光景はアジアカップの日本代表を思い起こさせました。アジアカップだけでなく度々日本代表の悪い点として挙げられる現象ですが、イニエスタを擁し欧州化を目指している神戸でもこういう状況に陥るんだなあとフットボールの難しさを感じた次第です。

結局神戸は広島のゴールをこじ開けられず、逆に広島がカウンターからペレイラの2点目で3-0として勝負あり。広島が同一カード3連勝を果たしました。

課題は先送りかも

開幕戦に引き続き先制してからカウンターで加点して3-0という展開に持ち込むことに成功した広島。戦術面にあまり触れませんでしたが、我慢強い試合運びと勝負所を逃さない狡猾さが光る試合であったと思います。一方で、今日の試合も見られたようなビルドアップの不安点に関してはいったん先送りされたという印象です。この先必ず先制されて追いかけなければならない状況があるはずなので、その時にどういった振る舞いを見せてくれるか注目したいです。同じような状況で課題を抱えたまま失速していった2年前の二の舞にならないことを願っています。

最後に今日良いなと思った攻撃の形を紹介したいと思います。

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20分のシーンです。ハイネルがサイドでボールを受けたところで、川辺が対面のイニエスタを置き去りにするロングランで渡部の裏まで走ってペレイラのシュートに繋がりました。こういった大胆なランニングが川辺の持ち味ですし、彼がこういった動きをすることでペレイラヴィエイラが良い形でフィニッシュに持ち込めるのではないかと思います。DHの位置からここまで走るのはきついと思いますが、隙があれば狙っていってほしいと思います。

それではまた次回。ミッドウィークの試合もやれるかは怪しいですが……

#01 【2020J1第1節 サンフレッチェ広島×鹿島アントラーズ】

はじめに

ご無沙汰しております。今シーズンもサンフレッチェ広島のリーグ戦についてレビューを書いていこうと思いますので、良ければお付き合いのほどよろしくお願いいたします。今シーズンの目標はリーグ戦全試合やることですかね。何かいきなり日程がずれてますが……

さて今シーズン初戦は鹿島戦。ショートカウンターを今季のキーワードに掲げ、変革を目指す鹿島と戦ったわけですが、早速振り返りたいと思います。スタメンは以下。

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広島は昨シーズン同様の3-4-2-1で、先週のルヴァンカップからの変更はなし。一方の鹿島はこちらも昨シーズン同様というか伝統とも言えそうな4-4-2でのスタートとなりました。

 

前がかり過ぎたDH

さて、試合は序盤から激しいプレスの応酬となりましたが、前半2分に鹿島がいきなり決定機を迎えました。DFラインの裏に抜けたアラーノのシュートがポスト、こぼれに詰めた和泉のシュートもポスト。得点にこそなりませんでしたが、このシーンをはじめ序盤の広島は中盤を簡単に通過されるシーンがいくつか見受けられました。

その主な要因が川辺と青山の2DHのポジショニングだと感じました。例えば先ほどのピンチ直前のシーンでは柏にボールが入ったタイミングで青山と森島が同じようにSBの裏のスペースにランニングを開始。カットされたボールが中央で数的不利となったゾーンに繋がり、簡単に通過されてしまいました。

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また、このプレーの前にもロングボールの競り合いからDHが2人とも置き去りにされる場面があったりと、DHが前寄りのポジションを取ることで置き去りにされ、中盤が空洞化してしまうことが何度かありました。森島と青山が同じようなスペースを狙っていたことも含めて、誰がどこに立っておくのか明確な決まりごとはあんまり無いように感じました。

鹿島のプレッシャー

一方で、鹿島は広島のビルドアップルートをきちんと洗い出して対策をしてきたように思います。

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広島のビルドアップはCBから直接、もしくはDHを経由してWBに渡すという形をとっています。そこでCBにはSHが、WBにはSBが列を上がる形でプレッシャーをかけます。まあ単純ですが効果的な形で、DHどうしがマッチアップしていることもありこのプレスで広島のWBからボールを回収できていました。

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これを回避するためにシャドーがSBの裏に走るというシーンもありましたが、まあ数は多くなかったです。全体として広島は鹿島のプレスに対する準備ができていないのでは?と感じるシーンが多く見られました。こういうプレスのかけ方は昨シーズンもやってくるチームいたと思うので、なんとか対策してほしいなと思います。シャドーが裏に走る意識を持つだけでかなり変わるはずなので。

 

鹿島のビルドアップ

さて、鹿島のビルドアップについては、ミスも見受けられましたが狙いも何となく分かりました。

SB、もしくはサイドの底に降りたDHがボールを持った所からスタート。そこで広島のWBが出てきた場合にはその裏に走りこんだSHにボールを通します。

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また、広島のWBが出てこずにシャドーが寄せてきた場合にもSHが開き、広島のCBがついて来なければサイドに出すしついてくればCFにくさびを打ち込む、という前進方法を取ります。

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ここからDHに落としてシュートでもいいし、逆サイドに展開もできます。

この辺はうまく回避されてんなーという感じで、広島はどういう風にビルドアップを抑え込むのかが明確ではなかったように思います。例えばDHがもっとスライドしてきて中央のパスコースを遮断するなど策はあると思いますが、プレッシャーをかけるために陣形が間延びしていたのでそれも難しかったでしょう。おそらく先制点がなければそのうちプレスをあきらめて撤退するという選択になっていたと思います。

という感じで、前半20分までどちらかといえば鹿島が優勢、広島はやりたいことや良さが出せない展開となります。

脈絡のないゴール、広島の撤退

しかしご存知の通り、鹿島の自陣深い位置でのミスをレアンドロが奪ってドウグラスが流し込み20分に広島先制。さらに25分には大迫の正確なロングパスからの疑似カウンターでレアンドロが2点目を奪います。サッカーの理不尽さが詰まったような5分間で、鹿島は2点のビハインドを背負うことになります。

こうなると堅いのが広島。5-4-1で撤退してスペースを消しにかかります。鹿島はボールを持ったは良いもののスペースがないため序盤のようなコンビネーションも通用しなくなり、攻め手を失っていきます。

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それでもSHがDFラインの間から抜け出すシーンなんかもありましたが、攻め手としてはかなり乏しくなり、決定機を全くと言っていいほど作りだせませんでした。鹿島の反省点があるとすればここでしょうか。ただ5-4-1でぎっちり引いた相手を崩して得点するというのはそう簡単なことでもないのですが……

鹿島はこの後和泉をSBに置いてみたり交代で入った荒木が活きの良いプレーを見せたりしたものの目立った見せ場は作れず、逆に84分に再び自陣でのボールロストから森島に3点目を奪われてゲームエンド。開幕戦は広島の勝利で幕を閉じました。

試合を終えて

鹿島としては序盤良い試合をしてたのにもったいない、という感じでしょうか。何か評判を聞いてると今年はずっとこんな感じみたいですね。ボールの動かし方やプレスのかけ方からを見る限りは別に出来が悪いわけではないように見えたのですが……鹿島の強さは言語化できないようなところにあるのかもなあと対戦するたびに感じますね。

一方の広島は序盤かなり厳しかったもののうまいこと2点取れてその後も塩漬けに成功。ルヴァンカップと合わせて連勝スタートとなりました。ただ内容面ではビルドアップが満足に行えず、キャンプで取り組んだショートカウンターも結果にはつながりましたがまだまだ改善点が多いように思えました。また、この試合ではビルドアップできなかったことと早めに撤退したことであまり見られませんでしたが、昨シーズンから取り組んできたポケットを取りに行く攻撃の出来についても気になるところです。

シーズンがしばらく中断するわけですし、勝って兜の緒を締めよということでさらなる質の向上を望みたいと思います。

【サンフレッチェ広島 2019シーズン反省会】

毎度お世話になっております。かんだ(@syukan13)です。

あけましておめでとうございます。せっかく今シーズン21試合もレビュー書いたんだから今シーズンの振り返りもやっておかねばなるまい、ということで 12月半ばになって書こうとして挫折していたこの振り返りですが、なんとか完成だけはさせようと思い、2020年になったのにこうして書いています。

 

 

今シーズン超ざっくりした振り返り

さて、今シーズンがどんな感じだったかを考えると、僕は3つの時期に分かれていたなと思いました。で、それを今シーズンの勝ち点グラフに当てはめてみたのでここに貼ります。

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図を作るのがへったくそですみません。もっとおしゃれにできれば良いのに。

それはともかく、2019シーズンは大きく分けて「堅守が武器の序盤」「自分たちのサッカーをやった中盤」「迷走した終盤」と分けられると思います。それぞれについてどういうきっかけでどういうサッカーをしていたのか、考えてみます。

なお、この勝ち点グラフを使った考察についてはちくわさん(@ckwisb)のノートでやってたのを見て良いなと思ったので勝手に真似しました。ごめんなさい。

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18シーズンの縮図となった序盤

さて、開幕戦のスタメンはこんな感じでした。

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2018シーズン最終戦を踏襲する3-4-2-1。また、林、青山らベテランの不在により大迫、川辺、松本泰志といった若手を積極的に起用した編成となりました。この試合を見る限りではボールを持って相手を押し込んでいくことができ、守備についてはほとんど崩される場面もなかったように思います。

しかし、次の磐田戦では満足にビルドアップができないままボールを握られてスコアレス。その後のセレッソ戦、大分戦もプレスからもぎ取った先制点を5-4-1ブロックで固めて守り切るという展開となり、試合の主導権を握れていたとは言い難かったと思います。再現性のある攻撃パターンも野津田が裏に走る頻度が高いというくらいで、まともにボールが前進できない試合も多かったと思います。

堅守を活かして第7節まで負けなしでしたが第8節東京戦からは5連敗。得点がまるで取れなくなった上に持ち前の堅守を活かせずに良いところのない試合が続き、2018年終盤を思わせる連敗地獄。浦和にこそ大勝したもののその次で札幌に完敗し、ここで城福監督は方針転換を決断します。

自分たちのサッカーと「ポケット」

まあいわゆる「自分たちのサッカー」への転換です。相手どうこうではなくて自分たちのやり方を貫いて勝つんじゃいという、ザックジャパン以降ちょっとどうなん?と言われている方向に舵を切っています。湘南戦の監督インタビューが象徴的ですが、

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「今回の相手対策はミニマムにした。我々の中で持っている情報の1割ぐらいしか選手に渡していない

 

というぐらい、相手のしてくることではなくて自分たちのやるべきことに目を向けに行っているようでした。

それでその自分たちのやるべきことというのが、「ポケット」を狙いに行くことでした。ポケットとは「敵陣奥深くで、ペナルティエリアとゴールエリアの間のスペース」くらいの意味だと思われます。いつかのインタビューでそう呼ばれていた記憶があるのですが、まあハーフスペースの一番奥と言っても良いかと思います。ここを起点にして相手の守備陣を攻略することに軸を置いたサッカーをしていたのがこの時期でした。

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図で言うと赤いエリアがポケットと呼ばれていると思われます。ここにシャドーを走らせてWBからパスを出します。すると相手DFは1人付いてくるしかなく、それによって空いたスペースに飛び込んできた広島のDHがフリーで合わせる、という形を狙っていました。

何でここを狙うことにしたのかはっきりとした根拠は分かりませんが、確かに3-4-2-1という並びにおいてはシャドーがこのスペースに走りこむという動きがやりやすく、相性は良かったと思います。実際にこのスペースへの裏抜けから生まれた得点が多くありますよね。

www.youtube.com

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例えばこのあたりです。柏のゴールはパスを出したWBがそのまま中央に突っ込んでくる変化型ですが、シャドーの裏抜けが起点という点では同じです。

この戦術のもとで躍動したのが森島でした。浦和戦で先発するといきなり全得点に絡み、そのままシャドーでレギュラーに定着、24試合で3得点を記録。WBがボールを持つ度にハーフスペースを縦に走るというタスクをきっちりこなすばかりか、そのスピードで強引に相手を剥がして突破もできておまけにセットプレーも蹴れるという高性能アタッカーに成長。広島の攻撃にとって欠かせないピースとなりました。これであと4~5点とってくれれば言うことないんですが、そうなるとJリーグでプレーしている場合ではなくなってしまいますね。

さらにWBに突破力があり相手が警戒せざるを得ない柏、DHに機動力がありクロスに飛び込んでいける稲垣を起用。この3人のユニットによる攻撃を中心に湘南戦からは調子を上げ6勝5分の11戦負けなしを記録。一時は優勝争いに絡むかというところまでいきました。

 

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この時期のスタメン



結果を求めたがゆえの迷走

しかし、シーズン終盤の大事な5試合で1勝2分2敗と失速。このあたりでは中盤の好調の原動力となった左サイドユニットを早めに解体し、レアンドロペレイラやハイネルといった決定力のある選手を中央に集めてゴリ押しする采配が目立ちました。リーグ戦中盤にも途中から4-4-2に変更してパワープレーをしてみたり、カップ戦やACLでもハイネルのシャドーやワントップをやっていた気はします。ただほとんどのケースで崩しがうまくいかなくなって迷走していた印象があります。まともに機能したのはアウェイのガンバ戦くらいではないでしょうか。それですらシステム変更してから失点しとるし。

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スクランブル4-4-2

特に印象的だったのはアウェイ川崎戦で、前半先に失点こそしたものの左サイドの崩しはそれなりに相手を苦しめ、鬼木監督も手を焼いている印象がありました。ところが後半の頭からうまくいっていた左サイドを解体して3-1-4-2にし、ハイプレスとパワープレーが軸の殴り合いに移行していきます。相手のミスから追いついたものの直後に失点。ある程度通用していた左サイドというこれまで培ってきた武器を捨てて結果も出ないという、リーグ戦終盤の迷走具合を象徴する試合でした。

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川崎戦後半の3-1-4-2



優勝するためにこの試合は勝つしかなく、そのためには得点が必要で、得点を取るためには異物感のある選手が必要というのは分かります。しかし、そこで積み上げてきたものにあっさりと背を向けてしまうのは、これまでやってきたことが無駄だったように感じられて個人的には残念でした。

 

そもそもの目標と今シーズンの反省

さて、ここまで書いて気になったのは「そもそも今シーズンの目標は何だったのか?」ということです。

僕は「ボール保持の局面を重視するアグレッシブなサッカー」くらいに捉えていたのですが、どうも城福監督のインタビューなどを読んでいると違うように思えてきました。シーズン終了後に行われた城福監督の総括会見から引用しますが、

 

そうはいっても実際に開幕すると、負けるわけにはいかなくなる。負けからスタートすると、チーム作りではないストレスや、いろんなものがかかってきます。そういった意味では、3バックの中で、いかに去年から積み上げた守備をしっかりと継続していくかに多少、重きを置いた自分がいます」

www.sanfrecce.co.jp

とあり、まずは守備を重視して負けないことを優先する、という方針だったものと思われます。シーズン開幕前の城福監督のインタビュー(TSSサンフレッチェ広島に掲載)にも「まずは守備を取り戻したい」という発言があった一方、攻撃についてはセットプレーを強調しており、ボール保持攻撃をどうしていくかについては明言されていませんでした。

これらのことから、2019シーズンは「まずは堅い守備を構築して負けないチームを作ってシーズン序盤を乗り切り、そこから攻撃に着手していく」というような方針だったものと思われます。この方針そのものは2018シーズンとそんなに変わっていないですよね。2018シーズンは堅守がうまくいきすぎてそのまま行って後から手詰まりになった、というようなイメージがあります。

この方針が良いか悪いかではなく、城福監督がこういうタイプの監督であるという話なのかなと思います。チーム作りをする上では選手のモチベーションやチーム内の雰囲気もありますので、そこが崩れないように序盤は負けないことを重視する、というのは理に適った思想であると思います。哲学に殉じてコンビネーション熟成のためにシーズン序盤はある程度負けてもOK、というやり方も好きですけどね僕は。

そういった意味では、シーズン序盤の方針転換はある意味予定通りだったといえるかもしれません。序盤で守備から入って勝ち点と自信をチームにもたらし、そこから攻撃に着手していくというのは実際に行われていましたね。5連敗があったのは誤算だったかもしれませんが。2018シーズンは攻撃に着手できずズルズルいってしまった印象があるので、そこは成長したところだったと思います。

ただシーズン終盤に迷走したのはやっぱり残念ですね……あそこで中盤までのような攻撃を我慢強く続けられていればラスト5試合がもっと良い内容の試合になったと思いますし、結果だってついてきたかもしれません。

来シーズンに向けて

とりあえずは今シーズン中盤のようなサッカーをやってほしい!ということに尽きます。チームが連動してハーフスペースを攻略していくやり方は分かっていても止めるのが難しく、実に多くのチームに効いていたと思います。もちろんそのままではダメなので、裏抜けしたシャドーがそのまま高速クロスを上げるとか、よりバリエーション豊かにして行かなければならないでしょうが。

で、そのためにもうちょっと立ち位置の整備をしてほしい。今シーズンもポケットを使って攻略するという目的はあったものの、そのためにWBが高い位置取るとか、CBがドリブルで剥がして持ち上がるとかディテールは詰められていませんでした。ボール保持以外でも、カウンター対応は3バックの対人能力に任せきりだったり、自陣に引いたのに守備ブロックに急に大穴が空いたりと、ポジショニングを意識して欲しい場面が多数ありました。そのあたりがどう解決されるかを見ていきたいですね。

ただ城福監督は「アドリブが重要」という発言をしているなど、あんまり細かいこと決めたがらない監督という印象があるのでもしかしたらそのままかもしれませんが……

まあその辺はまた来シーズン見ていきたいと思います。

おわりに

ということで5000文字近い文章になってしまいました。ここまでお読みいただいた方がいましたら、お付き合いありがとうございました。

今シーズンから始めたレビューブログでしたが、やっていくうちに少しは選手、監督のやりたいことに迫れていたような気がします。ぼんやり見ているだけでは何が起きているか分からないサッカーというスポーツですが、そこには勝つための何らかの意図が隠されており、それを読み解くことでお互いの駆け引きを楽しむことができると思っています。これを読んでいる広島サポの方もそうでない方も(そんな方がいればですが)、少しでも戦術の面白さに気付いてもらえるといいな、と思います。

今シーズンはリーグ戦21試合しかできませんでしたが、来シーズンはリーグ戦全試合を目標にしていきたいと思います!

それではまた、2月末にお会いできますように。

 

#21 【J1第34節 サンフレッチェ広島×ベガルタ仙台】

はしがき

毎度お世話になっております。最終節、仙台戦です。広島はすでに順位が6位で確定、仙台も残留を決めて11位とお互いに消化試合といった趣です。結果のもたらすものが少ないゲームですが、最終節なので来年への希望が見えるゲームにしたいところ。スタメンは以下の通りです。

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広島はシャドーに東を起用して川辺がDH、青山がベンチスタートになりました。仙台は4-4-2。前回対戦時も4-4-2だったと記憶していますが、ずいぶんメンバーが違います。いろいろ編成上の苦悩があったのかもしれません。前回対戦といえば今シーズン一ショッキングな負け方だったので今回はそうならないよう願いたいところです。

ボールは進めど

さて、試合が始まってみると立ち上がりから両チームともに相手の最終ラインにプレッシャーをかけてボールを奪いに行く様子が見られました。

広島の3バックでのビルドアップに対し、仙台は2トップ+SHでのプレッシングを敢行。どちらかといえば2トップは野上、荒木を監視して佐々木にパスが出るところで田中が出ていくことが多かったように思います。仙台が攻撃を左サイドに誘導していた、というよりは広島のビルドアップは割と左偏重だからそのサイドに(少なくとも梁よりは)機動力のある田中を配置したという方が近いかな、と思います。

ただ、このプレスに対しては広島はどう回避するかの方針はあったように思います。

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柏に渡った時にSBの大岩が出てくるので、その裏にシャドーの森島を走らせてそこに渡すやり方です。森島が下がって稲垣が出ていくこともありましたね。大岩が柏のパスコースを切りに行ってるのですが、柏がダイレクトで出すことが多かったのでそれでつなげている感じでした。森島が走ることによってDHの富田を動かして稲垣へのパスコースも作るという狙いもあると思うんですが、この試合では富田は本来のポジションからあまり動かなかったので裏抜けする森島が結構放置されていた感がありました。

これについては仙台がわざと放置していた説もあります。結局プレスを突破されても陣形を崩さなければそのまま中央に人を戻してブロック作ってしまえば跳ね返せるので良いや、と考えていたのでは?と感じました。実際広島は前半かなりボールを支配していましたが決定機は全然作りだせていなかったですし。

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仙台側はDHを動かされて中央に穴が空くよりは大外~ハーフスペースを捨てても中央にスペース作らないことを優先したのかなという感じです。広島がエリア内に送り込んでくるのは多くても3人くらいでしたし、仙台には対人最強のシマオマテもいるので、単純にクロス上げられたくらいでは崩されないという計算だったのかなと思います。

ただまあ仙台は2トップの片方も自陣深くまで戻ってくることが多く、その際には長沢か石原の片方しか残っていませんでした。前残りが1人では中々カウンターに出て行けず、広島が押し込み続ける展開になったのだと思います。

守備の基準はやっぱり大事

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一方、仙台がボールを持った際にはSBに入ったところでシャドーが寄せていき、DHがDHを監視、SHにWBが出ていってパスコースを遮断していました。仙台がボールを持つ場面はあまりなかったですが広島はこうしてビルドアップを阻害してボール回収に成功していました。で、20分過ぎくらいから椎橋が時々DFラインに降りてくるようになります。

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この時、CB脇に降りた椎橋に対して東が寄せて、位置を上げたSB永戸に対してハイネルが寄せるべきか迷っているのが印象的でした。23分頃のシーンですね。本来3バックになったことで3-4-3どうしに近い形となり、マークははっきりすると思うのですが。

想定していた4-4-2においてハイネルが捕まえるべきは梁なのにその梁が内側にいて永戸が外の高い位置で受けているので、聞いてたのと違うぞ、と思っていたのかもしれません。3バックにしたことで全体的な配置は噛み合っているはずなのに守備の基準点が狂わされている、というのが面白いなと思いました。それは広島が仙台の4-4-2ビルドアップに対して準備をしてきたからこそ起こることだとも言えるのですが。

ひらめきも必要

後半になっても起こっていることは前半とそう変わっていなかったように思います。ただ仙台はかなり引いているので広島が攻撃に人数かけても大丈夫じゃん、と思ったのかDHやCBが裏に抜けていく動きが増えたりしてはいました。特に稲垣が下がってからも川辺がSBの裏を取る動きを継続していたのは良かったと思います。また、ワンツーやフリックといったコンビネーションが増えていたのも良かったですね。何でもかんでもアイデア、ひらめきに頼っていては疲れてしまいますが、アタッキングサードで強固なブロックを崩すにはそういう要素も必要になってくるなと感じました。そういったバリエーションの増加が結果として70分以降の決定機の多さにつながったものと思います。

試合を終えて

なんか後半は特に書くことがない感じになってしまいました。試合を通して広島がボール持って押し込める状態でしたが、最後どうやって点を取るかはまだ改善の余地ありでしょうか。でもレアンドロペレイラを入れたからといって放り込み一辺倒にならずコンビネーションを使えたのは良かったですね。空中戦が得意なアタッカーはあまりいないですし、その方が良いと思います。

また、青山をベンチスタートにして機動力のある選手で中盤を固めましたが、これもトランジションで上回りスペースへのランニングも増えていて良かったと思います。特に川辺はDHに置いて、後半のように後ろから裏に抜けていくような動きをしたほうが生きるんじゃないかなと思いました。来シーズンの編成がどうなるかわかりませんが、サイド攻撃をやるにしてもただクロスを上げるだけでなく、今シーズンやってきたサイドからの崩しを磨き上げて欲しいなと思います。

それではまた来シーズンお会いできますように。

#20 【J1第33節 湘南ベルマーレ×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。湘南戦です。片や残留のため何としても勝ち点3の欲しい湘南、一方の広島は4位になればACL出場権が取れるかどうか、というゲーム。湘南は今年のリーグ戦という意味でもJ1での広島戦という意味でもずいぶん長いこと勝利がありませんが、この試合はどうなったか。振り返ります。スタメンは以下の通りです。

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お互いに3-4-2-1のミラーマッチとなりました。湘南は前回対戦からGKが富居になったとか山田と指宿っていたっけとかいくつか変更はありますが、並びそのものは変わっていないようですね。広島の方もドウグラスヴィエイラをシャドーで起用する説が出ていましたが結局はいつも通り、ワントップは引き続きレアンドロペレイラが起用されています。

意味が異なるロングボール

さて、試合の序盤はロングボールが飛び交う展開となっていました。お互いのチームがリスクを避けた結果序盤戦がロングボールの応酬になるというのはよくある展開ですが、この試合の湘南についてはそうではなかったと思います。

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湘南はターゲットマンとして最前線に配置された指宿へのロングボールを明確にボール前進の手段としていました。そして、彼が競り合ったこぼれ球を拾うための配置をしていました。シャドーとDHの4人を中心に指宿の周りで数的優位を作り、こぼれ球を回収。ボールを奪えればパス交換で広島のCBやWBを引き出し、その裏を狙うという形で攻撃していました。

また、ボールを奪えなかったとしても、広島のビルドアップを阻害するための仕組みも湘南は持っていました。

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湘南は1トップ2シャドーが広島のビルドアップ隊に激しく圧力をかけて時間を奪い、サイドへ誘導。青山や稲垣はDHが監視し、WBに対してはWBが出ていくことでパスコースを遮断していました。

広島の主要な前進ルートはWBにボールを渡してからシャドー、DHの動きで相手のポジションを動かしてのハーフスペース攻略である、と僕は解釈しています。しかし、この試合ではそもそもWBにボールを渡しても時間とスペースが奪われていたためその後の展開ができず、最終ラインに戻すしかなくなっていました。結果として前進ルートがなくなり、CBが長いボールを蹴るしかなくなっていたと思われます。


ただハイプレスをかけた結果中央にはスペースができており、シャドーに縦パスが入ったりペレイラが長いボールをキープできたりと中央から前進できる機会はありました。ですがこの機会は全く生かせていなかったように思います。川辺や青山が前を向いてボールを受けても前線の選手が裏に抜けるなどのアクションがなく、出しどころに迷っている間に湘南の帰陣が完了する、という場面は何度か見られましたね。これがチームとしての設計の問題だったのかなと思います。せっかくWBに預けることなく中央から前進できても、そういう事態を想定していないので出し手もどこを見ればいいのか分からないし、受け手もどこに立てば良いのか分からなかったのではないかと思います。

こうした形で広島はボール前進できず、湘南の攻撃を受け続ける展開でした。セットプレーの流れから早い時間に失点したこともあり、広島はいつものペースを見失ったまま時間が進んでいきます。

動き出す森島

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悪い流れの前半でしたが、途中からは広島がボールを持てるようになっていきます。湘南のプレスが落ち着いたこともありますが、それとは別に森島のポジションチェンジが要因だったかなと思いました。

この試合はミラーマッチでマッチアップがはっきりしているので、シャドーがCBにきっちり監視されていてボールを受けられない場面がありました。まあ毎回そういうわけではなかったのでシャドーがパスを受けられる局面もあったわけですが。しかし単に列を降りる(上下にポジションを移す)だけではCBがついてきて潰される可能性が高い噛み合わせです。

そこで、前半の途中から森島がWBとCBの間のスペースに斜めに降りてくるようになりました。ハーフスペースから大外へとレーンの移動(横の移動)を交えることで、CBがついていきにくい位置取りをしていました。ここで落ち着いてボールを受けられるため、WBにボールを渡すいつもの形と似たような状況を作ることを狙ったのかなと感じました。 

ただ、広島は最終ラインで数的優位を確保するために稲垣を落としていたこともあり、サイドでボールを持った後の崩しにもバリエーションがないという状態で、大きなチャンスは青山が守備ブロックを突破した44分のシーンくらいだったでしょうか。

役割の整理と今の限界

前半まるで良いところのなかった広島は後半の頭から稲垣に替えてドウグラスヴィエイラを投入。川辺をDHに下げます。

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ドウグラスヴィエイラをシャドーに投入し、高い位置を取らせました。彼にロングボールを出せば競り勝ってボールをキープされる確率が高いため、DHも警戒せざるを得ません。そうすることで青山にボールを渡したりハイネルがドリブルで侵入するスペースを得ることができ、割とうまく前進できていたと思います。

左サイドも森島のポジションチェンジもあり、また湘南は前からボールを奪いに来てスベースもあったことから、なんとかチャンスを作ることはできていたように思います。各ポジションが立つべき位置、やるべきことを整理できた結果、いつもと同じくらいの精度でボールを前に進めてチャンスを作り出すところまでは行けていたと思います。

ただ、それも湘南が前からプレスに来ている間だけでしたね。

湘南が1トップの野田を残して自陣に撤退し、5-4-1のブロックを築いてからは広島に堅守を崩す術がなく、ペレイラドウグラスのツインタワーによる放り込みしかなくなってしまいました。本来であればここで守備を崩すために重要な役割を果たすのが柏、森島、稲垣の左サイドトライアングルなのですが、稲垣はピッチから去り森島と柏はそれぞれ逆のサイドに配置されている状態でした。まあドウグラスを投入したのは良かったと思いますし結果論に過ぎないのですけれど、そんなことを言いたくなるくらい自陣に撤退されてからの広島には手立てがなかったように思いました。

試合を終えて

湘南にとっては勝ったばかりか内容もよく自動降格も回避できたということで、素晴らしい試合になりました。ロングボールを戦略的に利用したボール前進とビルドアップの阻害、あと書いていませんが切り替えの早さにも目を見張るものがありました。切り替えの早さというのも気持ちだの強さだけでなく、ボールを奪う場所、狙うべきスペース、奪われた後に戻るべき場所がきちんと定まっていてこそ実現できるものだと思います。チームとしてしっかり対策を考えて実装し、選手たちが正確に実行したからこその会心の勝利でしょう。

こんな風に潔くロングボールを使い、トランジションの局面で勝つ!というサッカーはJ1で採用しているチームがあまりいませんがとても面白いやり方だと思いますし、ぜひ次節も勝って残留し、このスタイルを磨き上げていってほしいなと感じました。

 

一方の広島にとっては、一言で言うと完敗だったと思います。スコアは0-1でしたが、優勢だと思えたのは後半の立ち上がりくらいだったでしょうか。特に前半の何もできなさはかなり厳しいものでした。湘南側は広島が普段やっていることを完璧に分析して封じにきていたと思います。

城福監督ほか、何人かの選手も前半の出来について「もっとひっくり返せればよかった」ということを言っていました。湘南のハイプレスに対し、前に出てくるんだからその裏のスペースをもっと使えれば良かったということだと思います。もちろんその通りなのですが、それを開始前の段階から想定して実行できるとより良かったですよね。湘南はたぶん3-4-2-1だということは分かっていたはずですし、スタイル的にはあれくらいプレッシャーかけてきてもおかしくないとは思います。そうでなくても、ビルドアップが阻害されたときのプランBは用意しておいて欲しかったところです。これまでは3バックが捕まえられてもWBやシャドーを降ろして来ればそこでボールを落ち着けられていましたが、この試合はそこにもついて来られたことでにっちもさっちも行かなくなってしまいました。

やはり相手あってのサッカーですから、相手のやり方を想定して対策を用意し、それが封じられた時の策も用意できていてスムーズに実行できる、そんなチームを見たいなと思います。次節は最終節ということで今シーズンの集大成、一週間では難しいでしょうが成長した姿を見られることに期待したいと思います。

それではまた、次回があれば。

#19 【J1第32節 サンフレッチェ広島×鹿島アントラーズ】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節は鹿島戦ですね。3週間ぶりの公式戦な上タイトル獲得のような分かりやすいモチベーションもないという難しいシチュエーションで上位チームとの対決となりましたが、どんなパフォーマンスを見せてくれたのでしょうか。スタメンは以下の通りです。

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鹿島はおなじみの4-4-2。前回の対戦では若いメンバーの目立つ編成でしたが、今回は僕でも知っている選手が多く起用されていますね。白崎やベンチにいる相馬など、いつ鹿島来たの!?という選手もいますが。そういった選手がすぐに馴染んでいるのも鹿島の凄いところかもしれませんね。

一方の広島もいつもの3-4-2-1。ただ、1トップにはドウグラスヴィエイラに替わりレアンドロペレイラが起用されました。高い得点能力を持った選手ですが、起用の意図は何でしょうか。

 

ボール前進できなくても別にいいかも?

さて、両チームの陣形は噛み合っていないので、お互いにそのままの形でビルドアップを試みる序盤戦となりました。

鹿島は4バックのままで、レオシルバが度々DFラインの近くまで落ちてくる形。広島は鹿島のSBにボールが入ったタイミングでシャドーが寄せていきますが、降りていくレオシルバには無理について行こうとはしていなかったため、比較的自由にボールを受けられていました。

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ただこれ以降の形は正直そんなにはっきりとはしておらず、レオシルバが何とかスペースを見つけて2トップや中に入ってきたSHにボールを渡して前進しようとしている、という印象でした。例えばSHが受けてDFラインから人を引き出し、その裏に走った土居にボールが出るみたいなことを狙ってくるかなと思ったんですが、敵陣奥深くに侵入できることは少なく、むしろパスコースがなくなって長いボール蹴ってミス、みたいな場面の方が目立っていた気がします。

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SBが高い位置でボールを持ってWBが対応に出てきた場合には、SHやFWが裏に走って空いたスペースを狙うというのはありましたが、これも回数は多くなかったですかね。総じて、ボール保持で相手を動かして崩そうという意図はそんなに感じられませんでした。

もしかすると鹿島はボール持って相手を崩すというのはできなくてもいいや、と考えているのかもしれません。別にセットされた守備を崩せなくても、プレスかけて奪ってカウンターすれば相手の守備整ってないし、それもダメならセットプレーあるし、みたいな。トランジションの局面でバランスが崩れないように、あえて配置をあまり動かさないようにしているのかもしれませんね。まあ事実としてはボール前進することはあまりできず、広島にボールを持たれる時間はだんだん増えていきました。

 

やっぱりポジショニングは大事

一方の広島も、4-4-2を相手に3-4-2-1からあえて配置をいじる必要もないのでそのままビルドアップをしていきます。

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広島のCBがボールを持った際、鹿島のSHは結構ボールを奪いに前に出てきます。そこでWBにボールを渡すとSBを引き出せるので、空いたスペースにシャドーを走らせることができます。CBは中央でペレイラがピンどめしているため動けず、DHは中央を空けてついて行くかサイドを捨ててその場に留まるか選ばなくてはなりません。こうしてDHに①CBSB間②中央のFWMF間 のどちらを捨てるか選ばせて、空いたスペースにボールを出します。①ならそのまま突破してクロス、②なら入ってきたDHに預けるなりWBがカットインするなりして中央突破、あるいは逆サイドへの展開を目指します。

この試合に限らず、僕は今期の広島の狙いはこういう前進だと解釈しています。①②いずれかのルートで前進して主にCBSB間をとってマイナスのクロス、走りこんだ稲垣が合わせるという攻撃は11戦負けなしの原動力でした。この試合でも鹿島は逆サイドのSHがカウンターに備えてやや前目にポジションを取ることが多かったこともあり、これが狙い通りできているシーンはあったと思います。30分ごろの攻撃なんかはまさにこの流れですね。

ただ……この試合ではそれがうまくいってないことが多かったんですよね。僕はこのエラーは複数のポジショニングに関わるミスによって引き起こされていたと考えています。

まず、内側にいるCBとそれによるWBの後退です。

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特に右サイドで多く見られた光景ですが、左右のCBがサイドに開いていないと鹿島のFWが1人で2人のCBを監視できるため、2トップに対する3バックの数的優位を活かすことができません。2トップで3CBを止められるならSHはWBを見ていれば良く、結果としてSBを動かせないので相手の守備に穴を空けられません。こうなってしまうとDHかシャドーに縦パスをつけるくらいしかありませんが、DHは相手のDHに見られていますしシャドーへのパスコースも広くありません。CBはサイドまで開いて2トップの脇を取る方が、最終ラインでの数的優位を有効に使えるはずです。

また、この状況では最終ラインのサイドにスペースがあるので、WBがボールをもらいに下がってきて4バックみたいになる現象も度々起きていました。WBが下がってきても鹿島はSHがついて行けばいいし、ならSHの裏を狙おうといってもSBがいるので難しいです。CBがドリブルで運ぶスペースもなくなってしまいますし、より時間とスペースがなくなってしまう動きかなと感じました。ボールと逆サイドのWBがカウンター対応のため低い位置にいるのは良いかもしれませんが、ボールサイドのWBはCBが運ぶスペースを確保するために高い位置を取ってほしいなと思います。

 

また、ボールがサイドにあるときのDHとシャドーの距離感も気になりました。

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うまくSHを引き付けてWBに渡した時にも、シャドーとDHの距離が近すぎて相手のDHに二択を迫ることができずどっちも潰されてしまうというシーンも見られました。これはシャドーの位置が低すぎる場合とDHが前に出る意識が強すぎる場合と両方あったので何とも言えないのですが、どうもチームとしてここでDHを動かすことは考えていなさそうな気がしてきました。二択を迫るとか難しいこと考えなくても、WBに相手のSBが食いついたらシャドーはその裏を取りに行く、くらい単純化してもいいと思うのですが……

こんな具合でなかなかうまく敵陣に侵入できず、支配率では上回りながらも大したチャンスのない前半になりました。

5バックの守り方を

 後半も両チームともそんなにやり方は変えていなかったのですが、お互いに前からのプレスが落ち着いていく様子は感じました。鹿島はSHが最終ラインまで出てこなくなり、広島はシャドーがSBまでプレスに行く回数が減ったかな?と思います。そうなると広島はますますSBやDHを動かせないので攻めにくくなる一方で、鹿島はSBが比較的安全に高い位置でボールを持てることが増えていました。結果として鹿島のSBがハイクロスを上げて、空中戦をしながらなんとかシュートにもっていこうとする場面が多く見られました。

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SBがカットインする形でファーサイドにクロスを上げる形が多く見られました。空中戦にあまり強くないWBのところを狙っていたのかもしれません。

また、広島が引いて守った時に中盤にスペースが空いてしまう点も気になりました。

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これは別に後半に限った話ではないし何ならこの試合にも限らない話なのですが、広島は引いて守った際にも人に強めについて行き(特に稲垣に顕著)、ギャップが生じることがあります。この試合で言うと33分にセルジーニョにシュート打たれたのはこのパターンですね。あとは神戸戦の田中順也にやられたのとかもこれですね。この時にできたスペースをどう埋めるかについて、シャドーが頑張って埋めてもいいですが、せっかく最終ラインに5人もいるのでCB一人を前に出してWBを絞らせて対応し、シャドーには前残りしてもらってカウンターに備える方が良いのではないかと感じています。

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WBはやや大変ですが、せっかくの5バックなので思い切って迎撃して5人もDFがいるという長所を活かせる守り方をしてほしいです。もともと広島は人への意識が強い守備をするので、こっちのほうが適性あるような気もしますし。

試合の話に戻りますが、広島の守備に気になる点はあったものの別に鹿島が積極的にそこを突きに行ったということもなく、ハイクロスによる攻撃を繰り返していました。しかしそれだけでゴールをこじ開けることはできず、広島もボール保持の時間が減ってチャンスを作れないまま。両チームの交替策も状況を劇的に変えるものではなく、フレッシュな選手を同じポジションに投入するくらいだったのであまり試合に変化をもたらさなかった印象です。終盤にオープンな展開になってきてようやく少し決定機ができましたが、全体として低調で決定機の少ないまま試合が終了したように見えました。

試合を終えて

なんだか両チームとも強みよりもできないことが目立った試合だったような気がします。広島はボールを保持した際のポジショニングに改善点が多く、撤退守備にもやや穴がある状態。鹿島はボールを持つと攻め手がなくなってハイクロスに頼り、カウンターかセットプレーでの得点を主に狙っているのかなという感じでした。

広島としては、シーズン序盤にできていた堅固なブロック守備も11戦負けなしの時にできていたサイド攻撃も失われてきているように感じました。もしかしたら当時からできてなかったけど結果は出ていたにすぎないのかもしれませんが。なぜ3-4-2-1を採用しているのか、この配置と選手の特徴を最大限に活かすにはどうすればいいかをチームとして共有してほしいと思います。

鹿島はボールを持つとオロオロしていたのが結構意外でしたね。ボール非保持の際にはきっちり4-4-2で構えて奪えそうと見るやすぐにスタートしてカウンター、みたいな姿勢は流石だなと思ったんですが、ボールを持たされた時に苦労しそうだなというのはかなり思いました。というかこの試合を見たらこの後の対戦相手はみんなボール持たせてきそうな気がします。その時にどうするかは気になりますね。

今年もあと2試合。優勝争い、残留争いも注目ですが、広島が今シーズンの仕上げにどのような試合を見せてくれるかもきちんと見ていきたいと思います。