#14 【J1第26節 横浜F・マリノス×サンフレッチェ広島】

はしがき

どうもお世話になっております。更新自体はリーグ戦2試合ぶりですが代表戦やルヴァンカップがあってずいぶん空いてしまったような気がしますね。

さて今節は横浜Fマリノス戦。3位vs4位の6ポインター、負けた方は優勝争いが大きく遠のくことになりそうな一戦です。スタメンは以下。

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横浜はエジガルジュニオが不在ということで仲川が前線の中央に配置。あとは松原が久々に先発のようですね。広島はドウグラスレアンドロもケガでいないため渡ワントップ。青山が先発に入って川辺と東がシャドーに起用されています。

広島の守備タスクと偽サイドバック

さて、かねてよりボール保持を磨いてきた横浜のビルドアップに対し、広島は個々人のプレッシングにおけるタスクをわりと整備してきたな、という印象を受けました。

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まあいつもの同数プレスと言ってしまえばそれまでなのですが、誰が誰を見るかがちゃんと決められていましたね。2CBに対してはワントップの渡とシャドーの東がアプローチ。左SBのティーラトンに対してはシャドーの川辺が出ていき、右SBの松原に入った場合は柏がスライドし、エリキを佐々木が捕まえる形になっていました。ティーラトンは川辺が見ているのでハイネルはステイ。左WGの遠藤に対応します。

もともと配置が噛み合っていないのでどうにかズラさないとプレスがかかりにくいのですが、このような分担をした理由はそれだけではないように思います。攻撃をけん引する存在である柏に高い位置を取らせ、守備に難のあるハイネルに複雑な役割を与えない効果もあったのではないでしょうか。

こうした対応で横浜の前進を防げればよかったのですが、実際にはそうはいきませんでした。

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横浜のSBは中央に入ってくる、いわゆる偽サイドバックとして振る舞うことがあります。特に左サイドのティーラトンはこの動きを積極的に行っており、時には扇原と入れ替わるくらいに内側まで入ってくることもありました。立ち上がりに広島のプレスが厳しいと見るやポジションチェンジで揺さぶってくる対応の速さには驚きました。

この動きに対して広島側が対応しきれておらず、青山は扇原に迷わず出ていくものの川辺はティーラトンについていって良いのか迷っているシーンも見られました。この状況をうまく利用していたのがマルコスジュニオールで、青山が出ていった背後のスペースに入り何度もボールを受けることに成功していました。8分の遠藤のシュートはまさにティーラトンからマルコスに綺麗にパスが通って決定機となったシーンですね。その他にも前半10分までにマルコスが青山の裏で受けて前を向くシーンが2回ありまして、広島としては完全に弱点を殴られてボール前進を許している状態でした。

ここを使われないために青山は次第に出ていくのをやめ、チーム全体のプレスも徐々に緩くなっていきます。20分ごろからは横浜がボールを保持して押し込み、広島は5-4-1で撤退という状況が増えていきました。

空いているサイドから裏を狙うなら……

広島は押し込まれてなす術がなくなったかと思いきや、自陣でボールを奪ってからでも割と前進することができていました。

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ボールを奪った後の広島は青山が最終ラインに落ちて4バック化、横浜はそれに対して前線の4人を中心にプレスをかけてくる、という展開です。しかし、解説の岩政さんが指摘していたように右WGのエリキはサイドを捨てて中央の荒木、青山にアプローチをかけてくる傾向がありました。柏が高い位置を取っていて松原が出てこられないためこの状況だと佐々木は完全にフリー。そこにGKの大迫を経由してボールが出てくることが何度もありました。この展開を正確に行える大迫のキック精度は素晴らしかったですね。

ここでボールを受けた佐々木から直接ボールを出すこともありましたが、主な攻撃ルートは中央に展開して渡かハイネルの裏を狙うルートでした。横浜の最終ラインは挑戦的といっていいくらいに高いため、その裏をスピードのある選手に突かせるのは至極まっとうな攻略法でしょう。ただ気になったのは出し手の人選です。

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今節の11人のうち最も質の高いパスが出せるのは青山のはずですが、彼は最終ラインに降りていて裏へのボールを蹴ることはできません。主な出し手は川辺や稲垣でした。彼らもいいボールを出していることはありましたが、ロングパスの精度で言えばおそらく青山に分があるはず。であれば稲垣を最終ラインに落としてビルドアップし、空いた中盤から青山が長いパスを連発する形の方が良かったのでは?と感じました。なつかしきミシャ式でも彼がいたのはMFのポジションでしたし。

そんなわけで両チームともプレスがかからないためゴールに迫り、チャンスも結構できていましたが得点は生まれず。スコアレスのまま前半を折り返します。

両監督、修正の差

後半に入り選手の交代はありませんでしたが、横浜の方に変化が見られます。

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前半は中央に入ってくる傾向があったエリキをサイドに張らせます。これによって佐々木へのパスコースを遮断。広島は最終ラインからの脱出法を失い、ロングボールに頼らざるを得なくなりだします。しかし、単純なロングボールでは渡は不利。城福監督はボールが収まると期待したのか森島を投入しますがそれだけでは改善できず。横浜がボールを保持して攻め続ける展開となります。

また、森島の投入と同じ時間帯からハイネルに明らかに疲れが見え始めます。足だけでボールを狩りに行って外される、カバーリングに戻れなくなるなど守備面での粗が目立つようになっていました。もともと守備がうまい選手でもないのでそこには目をつむって起用されていた感もありますが、ボールが握れずカウンターもままならないこの状況では攻撃によって守備面でのマイナスを取り返すこともできず。失点シーンでは遠藤に釣られて外に立ちすぎた結果裏を取られてしまいました。

ハイネルが後半開始15分くらいでガス欠になることはここ数試合で分かっていたと思いますし、エミルへの交代がもうちょい早くても良かったかもしれません。まあ構造的に押し込まれることはそれだけでは解決できないのですが。

押し込まれ続けて解決策が見えないまま失点した広島に、反撃する力はありませんでした。そのままボールを支配され続け、ミドルシュートとPKからさらに2失点。11戦無敗は3失点完敗によって終わりを告げることになりました。

試合を終えて

前半は互角と言ってもいい内容だったものの、後半に大きな差が現れました。チーム力の差と言ってしまえばそれまででしょうが、横浜はプレーの指針が明確で問題点に対する修正が迅速に行えていた印象です。対する広島は、事前に決めていたチームの方針が行き詰まった際に打開するための策を用意できませんでした。相手の偽サイドバックへの対処は撤退以外になかったのか。左からのビルドアップが封じられた時、他にルートは用意できなかったのか。たらればではありますが、これらに対する策が用意されていればと思わずにはいられません。

城福監督は相手への対策よりも自分たちのスタイル構築に時間を割くと宣言してこの3か月やってきたということですが、相手を見てサッカーをすることの大切さをこの試合の横浜は教えてくれたような気がします。優勝争いからも残留争いからも遠ざかった今、改めて内容に期待したいです。自分たちの理想とするスタイルがあるのはもちろん重要なことですが、それが対策されたときのプランBを用意できるか、どのように対応していくか。残りのシーズンはそのようなことに着目したいと思います。

それではまた、次回があれば。

 

#13 【J1第24節 サンフレッチェ広島×大分トリニータ】

はしがき

平素より大変お世話になっております。前節は首位との我慢比べを制したサンフレッチェ広島。さらなる上位への進出に向けて、今節はホームに大分トリニータを迎えました。スタメンは以下。

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広島のスタメンは前節と同じ。大分は藤本が電撃移籍したことで、1トップにはオナイウが入っているようです。手痛い戦力ダウンかと思いきやなにげに今季すでに10得点しているオナイウ。まったく油断はできません。

デュエルを覚悟する広島の守備

 さて、広島の選手からは試合前に「相手にボールを持たれても焦れないことが大事」というコメントが聞かれました。なので前節と同じように前半は我慢して後半に勝負をかけるつもりなのだろうと予想していました。しかし、始まってみればピッチには予想と違う光景が広がります。

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大分は主にDHを1枚落としてミシャ式に近い形でビルドアップを試みていましたが、広島は1トップ2シャドーが4バックに対して積極的にプレスを仕掛けていきます。両サイドのCBがボールを持つと1トップ2シャドーがプレスに出ていき、疑似的に同数プレスを実現していました。

で、大分を相手にこれをやるとCBから、もしくは高木に下げてから直接ロングボールを蹴られるというリスクが生じます。いや大分が相手でなくてもそのリスクはあるのですが、大分は特にそうした疑似カウンターを売りにしてきたチームなので、いわば相手の土俵に乗って戦うことを選択したわけです。

そのリスクに対して広島はどのように対処したかですが、まあぶっちゃけこのリスクについては許容していたと言えます。言い方を変えれば、裏に蹴られた場合はDFが頑張って何とかするという状態になってました。この仕組み上負担がかかっていたのは中央の荒木、右サイドの野上とハイネルでした。

荒木は何度もオナイウとの1vs1に晒されており、カバーも間に合っていない状態になっていました。全体を通してみればよく抑えていたとは思いますが、何度かボールキープされて前進されかかっていてリスクの高い守り方だなあと感じました。野上とハイネルに関してはスピードのある田中に何度か裏を取られる形で前進されていましたね。こっちは純粋にスピードでぶっちぎられている感じだったので、なかなか守るのは難しかったと思います。まあ帰陣は早く、決定機を作られる程ではなかったですが。

ただ、このようにスペースがある状況で躍動していた選手もいまして、それがDHの稲垣です。ボールを狩らせたらリーグ屈指の稲垣にとってセカンドボールが多くなる展開は大得意であり、ハイプレスやDFライン近くでのセカンドボールを狩りとって攻撃につなげる機会も結構ありました。

また、ハイプレスを仕掛けるばかりでなく撤退して守るときは割り切ってスペースを消すこともやっており、そういう意味では試合前のコメントも嘘ではなかった感じがします。

そんな感じで、試合全体を通して大分の攻撃を抑えることができており、守備についてはきっちり機能していたと言えそうです。事実、試合を通して浴びたシュートは3。大分の得意な土俵に乗りながらもこの数字を残せたのは素晴らしかったと思います。

広島のボール保持時タスクとは

この試合で問題だと思ったのは、シュートを20本も打った攻撃面です。サッカーというスポーツではシュートを20本も30本も打っても点が取れないことはしばしばあり、時にそれは運が悪かったとして片づけられます。しかしこの試合に限って言えば、運の他に原因があったと思います。

これは鹿島戦の時の図ですが、広島が今季継続して狙っている攻撃を僕はこういうものだと解釈しています。

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つまり、直接もしくはハーフスペースに陣取るシャドーを通すかしてWBにボールを届け、その後シャドーがDFラインの裏を狙う形です。この裏抜けにDHがついて来ればスペースが空いてWBはカットインしてクロスや逆サイドへの展開を狙えるし、ついてこなければ裏抜けしたシャドーにパスを出せばいいという訳です。

広島サポなら、PA脇に抜け出したシャドーからマイナスのパスが入ってのシュートで得点、という形を今季何度か見ているはずです。先週もそうでしたよね。今節の大分戦ではこの動きが少なかったという話です。

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図はだいたいのイメージで実際の局面とは異なりますが、多かったのは図で言う森島の動きです。裏に抜けるフリをしてCBの前でボールを受けようとします。もちろんこれも有効なのですが、裏抜けがないとだんだんCBも慣れてきて、簡単に迎撃できるようになってきます。すると攻撃に深さがなくなり、前進ができなくなっていくわけです。前半8分ごろと30分ごろに右サイドの東が出てくるCBの裏に走って突破したシーンがありましたが、こういうパターンをもっと出せればよかったと思います。

で、こうした動きが少なかった理由について、それはシャドーの意識だけの問題だったのか?ということを試合を見てて思いました。具体的に問題だと思ったのは2つです。

1つめが、同サイドでのポジションチェンジです。広島は同サイドにシャドー、WB、CB、あとDHの4人がいるのですが、この4人のポジショニングがしばしば入れ替わります。

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まあイメージ図ですがこういう感じです。シャドーが中に入ってきたWBと入れ替わってみたり、WBがシャドーと近い位置に並んで幅を取るのはCBがやったり。まあちょっと無秩序な印象はありますけど、ポジションチェンジそのものは相手の守備基準をずらせるのでやってもいいと思います。ただこの入れ替わりで問題なのは、立ち位置ごとの役割が整備されていないことです。もっと言えば、裏に走る人がいなくなることです。

入れ替わりで中央に入ってきたWBはその場に留まり、サイドに流れたシャドーはパスの出しどころがなくそのまま戻す、というシーンは何度かありました。これはこの試合だけでなく、今シーズンの序盤あたりから何度も見られている光景です。裏に走ることをタスクとして与えられているシャドーがサイドに流れたことで、それを実行する人がいなくなってしまったんですね。

このことから、広島というチームにおいて裏に走るというタスクを意識として持っているのは本来シャドーの選手だけで、ポジションチェンジによってシャドーの位置に来た選手がそれを代行するという仕組みについてはおそらく実装されていないと考えられます。また、このポジションチェンジの狙いについても僕は良く分かっていません。現状では相手の守備基準をずらせるというプラスの面よりも、選手が適性の乏しい位置に移ることのマイナス面の方が大きいように感じてしまいます。

で、2つ目はこれと若干関係するのですが、WBが幅を取れていないことです。WBがPAくらいの幅までしか開いていないのでそもそも相手の守備がしっかり圧縮でき、中央はおろかハーフスペースも全然使えないという事態にしばしば陥っていました。

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WBが幅を取っていないと守備陣形も中央に圧縮するので、DFの間も狭くなり、裏抜けしてもカバーをしやすい状態になります。また、外に開いていないWBがボールを持ったとして、シャドーがその裏に抜けようとしてもパスコースを簡単に切られてしまいます。というかそもそもプレッシャーが厳しくなるのでクロスを上げることすら難しくなってしまいます。結果として、何とか頑張って中央にボールを送り込んであとはラッキーが起きるのを待つくらいしかできることがなくなってしまうのです。それであればガンバ戦のようにツインタワーをならべた4-4-2にして放り込んだ方がまだ良かったのでは?と感じました。

先ほどのポジションチェンジに関しては難しいことをやろうとしてうまくいってないだけとも言えますが、その意識が強くなりすぎることでWBが中央寄りに立つようになっているのかもしれません。WBが幅を取るというのは正直かなり基本的なタスクなので、まずはそこを最優先でやってほしいと感じました。

後半に入って川辺がシャドーに上がると裏を狙う動きを積極的に見せ、そこからクロスを入れるシーンを何度か作れました。彼はもともとハーフスペースに走る動きが持ち味でしたが、最近はDHとしてだけでなくシャドーとしてもその良さを発揮できるようになってきて個人的には頼もしく感じます。ただ大分も非保持時は5-4-1で粘り強くスライドしつつ守っていたためうまく崩せるシーンはそこまで多くなく、得点はとれませんでした。

試合を終えて

「試合を終えて」と言いますが、試合のことはあんまり書いてませんでした。すみません。ただ、今シーズンずっと思っていた内容が問題点として噴出してきた試合だと感じたので、思っていたことを書きなぐった次第です。

試合全体としては、大分に対してハイプレスを仕掛けてミスを誘うほか、オープンな展開に持ち込んで対人に強い稲垣や荒木(あと本文では触れなかったけど佐々木)あたりの能力をフルに活かしてボールを回収、というところまではとてもうまくいっていたと思います。少なくとも大分に思い描くサッカーをさせないところまではいけていました。

ただ、そのあとのボール保持では良いところを出せなかった。もちろん今節は守備に時間を割いたからかもしれませんが、これまでにもあった課題と新しい課題が合わさってけっこう厳しいことになっていたと思います。

とにかく、今後整備してほしいのはまず①「WBは幅を取ること」、②」シャドーが裏に走る動きを増やすこと」。そしてこれらをきちんと整備して初めて、③「ポジションチェンジした際に移動した選手が幅取り、裏抜け等のスキルを代行する」に挑戦できると思います。③は難しいと思いますが②はこれまで強みとしてきたことですし、①に至ってはWBにとってボール保持時の原則と言ってもいいレベルなので、速やかに修正してほしいなあと思います。

それと、大分目線の話はしていませんでしたが、正直攻め手がオナイウのポストプレーと田中の裏抜けくらいしかない程度には抑え込まれていました。得意とする疑似カウンターを繰り出しやすい展開だったとは思うのですが、広島のプレスに思ったより苦しんでいた印象です。何かいつもと違う点があったのか、大分目線の記事も読んでみたいなあと思います。

それではまた、次回があれば。

#12 【J1第23節 FC東京×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。さて首位との闘いです。東京は3連勝中、広島は8試合負けなしと好調同士の試合になりました。スタメンは以下。

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広島はいつもの3-4-2-1ですが、右のシャドーに東俊希が先発。あとは佐々木が戻ってきましたね。東京の方も4-4-2でいつも通り。右シャドーには大森を起用してきました。このチョイスは前回の対戦と一緒なので、広島にボールを持たせた前回の対戦と同じような展開を狙っているのかなと思いました。

予定調和の我慢比べ

で、試合が始まってみるとやはり広島が主にボールを保持する展開となり、東京もそれを許容してさほど強くボールを奪いに来るわけではありませんでした。その中で目立ったのは大森の動き。広島のストロングサイドである左からの前進を許さないよう、佐々木にボールが入ったら前に出ていってプレスをかける動きを行っていました。

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それに伴って柏には室屋、森島には渡辺が出ていって時間とスペースを与えないようにしていました。前節のガンバ戦ではCBを背負って受けて独力でターン、みたいなことをやっていた森島もこの試合では前を向けませんでした。この試合の広島はビルドアップ時に大迫を使う意識が割と強かったため、こういう局面でも3CB+GK+DH(主に稲垣)の数的優位を活かしてボールを失わずに済んではいたものの、前進は全くできなかったと言えます。

また、プレスを外して柏までボールを届けたとしても、対応するのはSBの室屋ではなくSHの大森が下がってくる、という場面が多く見受けられました。

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シャドーの森島が広く空いたSBCB間のスペースを使うという攻撃パターンは広島が今シーズン何度もやっている形であり、これを避けるために室屋をサイドに出したくなかったのでしょう。

こうした東京の対策により広島の左サイドは沈黙。右サイドのシャドーに入った東も攻撃で違いを作ることはできず、広島はボール保持率は高いものの、後ろで回すばかりで効果的な攻撃ができない、という前半を過ごしました。

もっとも広島としては大迫をよく使っていたことからも最低限ボール保持して相手を走らせることができればOKという思惑もあったかもしれません。実際東京のこの守備方法は大森に大きな負担がかかりますし。

まさしく一瞬の隙

前半をスコアレスで折り返して後半、両チームともややギアを上げる意識はあったものの、大筋では前半と同様の入りを見せます。そして56分に東に替わって青山が登場。川辺をシャドーに上げます。で、この交代の4分後、広島に得点が生まれます。

青山からサイドに展開して柏にボールが渡ったところ、ここに対して大森のスライドが遅れたのを見て室屋が出てきます。そこで空いた裏のスペースに川辺が走ってボールを受け、走りこんできた柏にリターンしてゲット。まあワンツーといえばワンツーなのですが、狙うべきスペースを共有できた良いゴールだったと思います。

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東京としては室屋が出てきて空いたスペースを大森がカバーできなかったのが痛かった。ただここまでの60分で東京がSB裏を取られたのって本当にこのシーンくらいだったと思うんですよね。それまでは大森が頑張ってスライドして耐え、渡辺のカバーリングも冴えていたわけで。特にここまで多くの守備タスクをこなして広島のサイド攻撃を完封してきた大森は責められないでしょう。長谷川監督も大森の疲労を考慮して、そろそろ三田を投入して勝負に出る算段だったのではないでしょうか。それまでの間にできる本当に一瞬の隙だったわけで、広島はよくものにしたと思います。

東京は失点直後に永井と大森を下げてジャエルと三田を投入。前線により攻撃的な選手を置いて得点を狙いに行きますが、最近の広島はこうなってからは固く、中央へは侵入できずサイドからのクロスも3バックに跳ね返されます。得点の匂いがしたのは室屋のクロスに大迫が目測を誤ってジャエルがヘディングしたシーンと、ナサンホのFKくらいだったでしょうか。逆に広島は川辺と森島という推進力のある2人が前線にいたことでロングカウンターを何度か繰り出して時間を消費。割と手堅い試合運びでそのまま勝ち点3を手にしました。

試合を終えて

終わってみれば城福監督のゲームプラン通りの試合になっていました。前半でボールを持って疲弊させ、後半にできた隙を突くという展開。まあ口で言うのは簡単ですが東京にはほんのわずかの隙しかなかったわけで、本当に良く実現させたと思います。ただ攻撃については右サイドで全然効果的な動きが見られなかったので、まあずっと言っていることですが何とかしてほしいと思いますね、やっぱり。ここ最近はハイネルが中に入ってきてシャドーが外に出るという動きがよく見られますが、何が狙いかは見えてきませんし。

 

首位との勝ち点差は9になりましたが、このまま優勝争いへ!というのはまだちょっと都合がよすぎる見方かなと感じます。右サイドからの攻撃ができない、プレスでボールを奪えないなど課題はまだまだありますし。それにしてもハイプレスでボールを回収するというのはかなり難しいことなのでは?と最近感じています。国内海外問わず、このチームのプレスは素晴らしいというのをご存知の読者の方がいらっしゃれば是非教えてください。

 

東京としては先制点が痛い試合になりましたね。今シーズン4度の逆転勝ちがあると実況の桑原さんは言っていましたが、そのうち3つは前半に逆転しています。引きこもられてスペースを消され、持ち味の縦に早い攻撃が活かせない展開は苦手であるということなのでしょうか。まあスペース消される状況が得意なチームはそんなにいないでしょうけども。この試合ではディエゴオリヴェイラがサイドに流れたり、SHが逆サイドの崩しに参加したりというシーンは可能性を感じさせたので、そういった遅攻で点が取れるかどうかがアウェイ8連戦を乗り切る肝になってくるかもしれません。

それではまた、次回があれば。

#11 【J1第22節 ガンバ大阪×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節もやりますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

さてガンバ大阪戦です。この試合は吹田スタジアムに見に行ったのですが、ゴール裏上層からの観戦だったので何が起きているか非常にわかりやすかったです。試合をじっくり見たい人にはおすすめ。

それはさておき、スタメンは以下。

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 広島は前節と変更なし。ガンバは3-1-4-2です。ガンバって3バックなんですね。それでオジェソクとか米倉とか移籍してたんだなあ。宇佐美がいるほかベンチには井手口、契約上出られませんがパトリックもいるというあの頃を思い出す陣容かと思いきや、高江、高尾、福田など若手も台頭してきています。広島としてはガンバは2トップな上にアンカーを採用しているので、3バックの数的優位を活かしてボールを運びシャドーがアンカー脇を使えれば崩せそうと思いましたが、そう簡単には行きませんでした。

 

押し込めるガンバ、耐える広島

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ガンバはミドルゾーンに構え、2トップとIHで広島のDHへのパスコースを遮断、広島のシャドーとWBにはそれぞれCBとWBがスライドして潰しに行くという形を取っていました。これによって特にDHを経由してのビルドアップは難しくなっていたためCBからシャドーへの縦パスが多くなったのですが、そこから同数で前進していくことが難しく、前半については森島が独力でターンしていくくらいしか有効な形を見つけることができませんでした。

一方の広島は、ガンバの3バック+アンカーに対して1トップ2シャドーとDHを動員して奪いに行こうとしていましたが、東口に下げて回避されるか、IHがCBの裏に飛び出した所にロングボールを合わせて前進されていました。東口のロングボールの精度は中々高く、失わずにうまく展開できていましたね。また、裏への飛び出しは広島側としてもかなり対処に苦慮していたように思え、奪えないと判断し20分過ぎからは撤退守備がメインになっていきます。

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ボールを持って広島を押し込むことに成功したガンバはエリア内にまで撤退した広島にシュートを浴びせ続けますが、広島も人海戦術で何とかブロックし続け、前半を無失点でしのぐことに成功します。

後半になってもお互いのやり方自体はさほど変わらなかったのですが、ガンバも徐々に裏への飛び出しが減って守備組織も間延びし、広島がボールを持てるようになってきます。前半はシャドーにボールを届けても詰まっていた広島の攻撃ですが、後半はワンツーを使った突破を何度か試みていました。ガンバのDFラインと広島の攻撃陣は同数になっているので、得点には繋がらなかったもののこうしたやり方は良かったと思います。

 

殴り合いを仕掛ける城福監督

さて、試合はスコアレスのまま推移したのですが、城福監督は82分に川辺に替えてレアンドロぺレイラを投入、配置を4-4-2に変更します。この交代をきっかけに試合は大きく動くことになります。

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並べてみると分かりますが、この変更によって中央ではガンバに、サイドでは広島に数的優位が生じることになります。この噛み合わせだとガンバは中央から侵入しやすく、広島はサイドから攻撃できそうです。よってこれまでよりもボール保持側が有利、得点の生まれやすい殴り合いが発生すると考えられます。そして案の定、89分にガンバに得点が生まれます。

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早いリスタートから倉田が逆サイドの小野瀬へ展開、切り込んでシュートを打ったこぼれ球を倉田が押し込むというゴールでした。

広島は4-4で守っているのでどうしても片方のサイドに圧縮しなければならず、逆サイドへのスライドは遅れてしまいます。5-4で守っていた時には逆サイドにはWBがいたので早くスライドできますが、4-4にしたことでこのスペースをうまく使われてしまったなという印象です。プレーの流れで柏と青山の位置が入れ替わっており、青山が逆サイドへのスライドという不慣れなタスクをこなさなければならなかったことも影響したでしょうか。ガンバとしては狙い通りのゴールでした。

しかし、わずか2分後に広島が同点に追いつきます。

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PA前でボールを受けた森島がクロス、ファーサイドレアンドロぺレイラのヘッドという何ともシンプルなゴールです。パワープレー感もありますが、ガンバは5-3で守っているので大外からハーフスペースにかけて最終ラインの前にはスペースができやすく、そこを突いた得点であるといえるでしょう。この前にも一度森島が同じようにクロスを上げるシーンがあり、広島はこのあたりからのクロスで2トップの高さを活かそうという狙いは持っていたと思います。

そんなわけで激動のラスト5分を経て試合は1-1で終了。両チーム勝ち点1を分け合いました。

試合を終えて

レアンドロぺレイラ投入からの試合の動き方は面白かったですね。得点が欲しい場面での4-4-2への変更で言うと、東京戦や鹿島戦での4-4-2変更は相手と配置を噛み合わせることになり、結果的に相手が守りやすくなってしまいうまく機能していませんでした。しかし今節では逆に4-4-2にすることで相手と噛み合わせを外せるので、ボールを持たれると守りにくいけどボールを持てば攻めやすい、オープンでスコアの動きやすい展開を作ることになりました。

結果的には守りやすさと攻めやすさの両方が短い時間で発露した展開となりましたが、試合を動かすために噛み合わせを外して賭けに出る、というのは理に適った選択でした。結果はさておき城福監督は狙い通りの状況を作れたのではないかな、と感じました。

 

ガンバとしては先制点はとれたもののどちらかといえば相手の土俵に乗って殴り合った結果であり、ゲームプランから言えば前半の押し込んだ時間に得点したかったところです。ボール前進はわりとうまくいっていたものの、メンバー的に最後は細かいパスで狭いところをどうにかこじ開けるしかなかったのがつらいところです。ただまあこれについてはパトリックがいれば解決するような気もするので、あんまり心配しなくても良いかもしれません。宇佐美が列を降りる動きをしてゴール前に人がいない、みたいなことが起こりそうだなと感じたので、その辺の役割分担には気を付ける必要があるかもしれませんが。

それではまた、次回があれば。

#10 【J1第21節 サンフレッチェ広島×北海道コンサドーレ札幌】

はしがき

毎度お世話になっております。この振り返りも10回目となりました。21節なのに10回目かよ!せめて全カードでやれればと思うのですが、どうですかね。

さて今回は札幌戦。この真夏に中2日はきついですよねえ。ということでスタメンは以下。

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広島は野津田が久々の先発。あとは負傷した佐々木に代わって引き続き井林が起用されています。一方の札幌は荒野が深井にチェンジ。並びは3-4-2-1です。

ミシャ式対決の命運

さて、両チームとも表記では3-4-2-1ですが、実際には様々な配置を使い分けています。特に札幌はペトロヴィッチ監督の代名詞であるミシャ式、ボール保持時に4-1-5に近い形になるおなじみのやつが実装されています。

対する広島はどうするかと思いましたが、稲垣と川辺のどちらかが降りて4バック化する動きが頻繁に見られました。まあ札幌も3-4-2-1とあって3バックだと同数プレスを喰らう可能性があったので、そこで安全にボールを進めたいという意図はあったのでしょう。

そんなわけでミシャ式対決に近い様相となった前半ですが、札幌が決定機を量産しました。

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決定機は主にサイドから生まれていまして、クロスを中で待ってるジェイのヘッドでポストに直撃ということが2回ありました。札幌はGKのクソンユンも積極的に使ってビルドアップするため広島は人数を合わせたプレスを行えず、WBまでは割とボールを運べていたかなと思います。そこから右サイドではキレッキレのドリブル突破を持つ白井に渡してのクロスというパターン。左サイドはハイネルが結構ボールに食いついて前に出てくるので菅がその裏を狙うことが何度かあり、そのうち1回はポスト直撃の決定機につながりました。

広島としてはクロスに合わせるにしても中央のコンビネーションにしてもジェイの高さ、強さにはかなり苦しんでいるように見えました。特に何もないところから白井のドリブル、ジェイの高さでゴールに迫れるのは札幌の大きな強みと言えるでしょう。

また、広島は今節はサイドの守備でハイネルが前に出てくる様子が目立ちました。前節はきちんと我慢してSHが絞ってきてうまくいっていたので、ここはちょっとまずかったかなと思います。城福監督もしきりに修正を呼びかけていたようですし。

一方、広島のボール保持は札幌によってかなり封殺されていました。

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広島の主な攻撃ルートはハーフスペースにおけるCBからシャドーへの縦パスからの展開なのですが、札幌はシャドーの鈴木とチャナティップがCBの前に立つことでこのパスコースを封鎖、さらにCBが広島のシャドーを捕まえに出てくることで自由を与えないようにしていました。セレッソもこうしたやり方は採用していましたが、このやり方をされると攻め手がなくなるのは広島の課題ですね。

そんな中、即興っぽかったですが13分ごろにこの守備を良い形で突破するシーンがありました。

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森島のスペースを消すために出てきた進藤の裏に柏が斜めに走りこみ、裏を取ったというシーンです。相手のCBが出てくるのであればその裏を狙う、というのは相手を見てサッカーをしているという意味でとても良かったと思います。左サイドは個々が自分のタスクを理解できていると思うので、この試合のようにそれが妨害されたときにこんな感じの動きを何度も出せると良いですね。

広島は他にも解決策としてシャドーの左右を入れ替えてみたりサイドに流してみたりしていましたがそれであまり状況が良くなったということもなく、攻撃はあまり機能しないまま前半を終えました。

深さを使った解決とその後の意思統一

さて後半、前半耐えていた広島がギアを上げるかなと思って見ていると、49分に広島が先制します。

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先ほど述べた13分の柏の突破と似た形で、柏がサイドの高い位置で受けたところから森島がハーフスペースを縦に走って受けて折り返し、エリア内に入ってきた稲垣が決めるという流れでした。やはり進藤が出てきたスペースを使えており、前半から出ていた問題に対する解答がゴールという結果として現れた良いシーンだったと思います。CBが出てライン間を封殺してくるのなら深さを使っていく、というのができるかどうかは広島が今後得点を奪っていけるかどうかを分けるポイントになりそうです。

あとはやっぱりWBが高い位置で受けられないとこういうことは中々できないんですよね。柏は結構できているのですがハイネルは割とボール触りに下がってきちゃうし、ボールを持ったらドリブルしか考えてないし……という感じなので、彼の立ち位置や選択についてももうちょっと整理してみてほしいかなと思います。

で、得点を奪ったのだから広島は前節みたいにライン間を消して引いてしまうだろうと思っていたのですが、割と変えずに奪いに行ってたんですよね。ただ相変わらずGKも使ってくる札幌からはボールを奪えず、ライン間にスペースはあるしSHDH間も空いてるしで結構危ない場面を作られていました。後半は特にチャナティップがライン間で受けてスルーパスとかシュートとか危険な仕事をする場面が目立ちました。

正直言って失点しなかったのは運が良かったとしか言いようがなかったと思うんですがギリギリでしのぎきり、また札幌も交替によって攻撃に勢いを加えることはできず。1-0のまま試合は終了しました。

試合を終えて

広島としては、結構課題が出たものの勝ち点3をとれたのはラッキーでしたね。左サイドのボール保持でCBの裏を使うという動きが見られたのはポジティブなことだと思うのでそれをスムーズに出せるようにすることと、そろそろ右サイドのタスクを整理できればな、と思います。それができれば野津田ももっと持ち味を活かせると思うのですけど……

札幌にとってはアンラッキーなゲームとなってしまいました。大外からも中央からも危険な攻撃ができるというのは大きな強みで、今節については運が悪かったと割り切ってもいいかなと思います。強いて言えばジェイや白井、チャナティップのタレントに依存するところが大きいので、この試合の後半のように彼らが疲労してきたときにどう打開するかは検討の余地があるかもしれませんね。

それではまた、次回があれば。

#09 落差【J1第16節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ】

はしがき

どうもご無沙汰しております。やっぱ毎試合は無理ですね。はしがきで何書いてたかも思い出せなくなりました。

さぼっている間に広島は鳥栖に勝ち、松本と引き分け。松本戦はあと少しのところで3ポイントが逃げていった、という試合でした。ミッドウィーク開催の今節、相手は川崎。今シーズン1つしか負けていない難敵です。広島は中10日、川崎は中3日とやや日程に差がある状態でのゲームになりました。スタメンは以下。

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広島は大迫がスタメン復帰、あとは出場停止の野上に替わって井林がリーグ初先発となりました。川崎は馬渡、守田、家長、長谷川が前節からの変更点でしょうか。このチームは誰が出ても豪華な陣容なのでこれだけ変更があっても全く力が落ちない感じがしますね。

圧縮してスペースを消す広島

さて、試合はいきなり動きました。4分にCKから佐々木のゴールで広島が先制。森島のコメントを見るとミスキックだったそうですし、守田がボール処理をミスしたことにより生まれたゴールでもあるので、広島にとってはラッキーな先制点でしたね。これによってボールを奪いに行かずとも良いという余裕の生まれた広島は、ミドルゾーンまで下がって川崎の攻撃を受け止める選択をします。

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撤退時の広島はいつもと同じ5-4-1。ただこの試合では5と4の間をきちんと圧縮し、ライン間のスペースを使わせないようにする意志を感じました。家長や阿部が下がってきて受ける動きを見せていましたが深追いはせず、ブロックを維持することを優先していたように思います。いつもならついていってボールを奪おうとするところだと感じたので、いつもよりはスペースを守る意識の強い守備だったとも言えるかもしれません。

また、中盤の4人は中央を固め、SBにボールが出るとできるだけSHがスライドして対応していると感じました。これについては、長谷川や阿部にWBCB間を使わせないようにしたいのかな?と思いました。川崎のSHはWBCB間に立っていることがあり、ここをコンビネーションで突破するという狙いは見えたので、これを封じることには成功していたと思います。川崎がここを突破できたのは前半終了間際の井林がクリアしたシーンと、後半終了間際の長谷川のクロスのシーンくらいだったと思います。突破すれば決定機になっているというのが凄いところですけど。

また、4人が中央に圧縮することで守田や下田からのダイレクトな楔を遮断することにも成功していましたね。ボール奪取能力の高い稲垣がいたこともあって、中央からの前進は許さなかったばかりか中央でボールを奪って反撃に転じる場面もありました。

川崎の方が休息が少ないからかミスが目立ったという事情もありますが、それでもリーグ1のパスワークを封じるためのリトリートには高い集中力を要したものと思いますし、広島の選手たちは良くやっていたと思います。

ハマらない川崎のプレス

さて、広島のボール保持についてですが、川崎にとってより問題だったのはこちらだったかもしれません。ビハインドの川崎は広島のビルドアップに対してハイプレスを仕掛けるのですが、なかなかボールを奪えませんでした。

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川崎は守備時は4-4-2のような形になるので、家長と小林が先頭に立ってプレスをかけ、SHやSBが連動してスライドしてきます。そこまでは良いのですが、この時に広島のDHがフリーでボールを受ける事例が頻発しました。川崎のDHである守田と下田は広島のシャドーがいたこともあってポジションをキープ、2トップも二度追いはしてこなかったため、ぽっかり空いたスペースで広島のDHはフリーでした。

図は一例に過ぎないのですが、広島はこのスペースにボールを出してから逆サイドのWBにサイドチェンジという形を多用していました。こんな感じでサイドを変えつつ前進し、WBのクロスから生まれたのが広島の2点目でした。このシーンについてはまあクロスの精度とドウグラスの位置取りのうまさもありましたが、狙い通りのゴールではあったと思います。あと得点後のドウグラスの高音叫びが好き。

城福監督は75分までパーフェクトだったと言っていましたが、前半はほぼ川崎を抑え込むことに成功していました。その上で2点も取れたわけですから広島にとっては理想的だったと言えるでしょう。

ダミアンの強さ

後半開始から、川崎は守田に替えて山村を投入。さらに阿部と家長の位置を入れ替えます。これは守備の基準を作る役割として阿部の方が適しているということ、また家長をサイドに流せば起点が作れるという思惑もあったことでしょう。山村の投入はのちのダミアン投入を見据えた高さ要員という考えなのでしょうか?あるいは中央が封鎖されているのでサイドからの前進を考えて、中央に楔を打てる守田よりもゴール前への侵入やネガトラ対応ができそうな山村、ということかもしれません。

広島がセットプレーから3点目を奪うと、さらに56分には阿部に替えてレアンドロダミアンを投入。以下のような形になります。あ、図には後々の広島の交代も反映してます。

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これでも試合の流れに変化はなく、広島がプレスを回避してボールを回す局面が続きます。川崎の策を無力化して大勢は決したかと思いましたが、75分に小林とダミアンの素晴らしい連携からゴールが生まれます。ダミアンのポストプレーを活かした良いゴールでしたね。

この直後に川崎のプレスが強まったのですが、広島としてはこれまで通りプレス回避できると思って回しにいき、ボールを失ってしまったのが悪手でしたね。失った直後にシンプルなクロスから中央でダミアンに合わせられて2点目を献上。試合は一気に分からなくなります。

このあとの川崎の攻撃はサイドからのダミアンを目がけたクロスが中心になります。広島は空中戦に強い佐々木を失っていたので良い選択だったと思いますし、実際失点してもおかしくないシーンもありましたが、広島が何とか耐えきって3-2で逃げ切り成功となりました。

 

試合を終えて

75分まで完璧に進めていた広島でしたが、残り15分で追い詰められる展開となりました。前節のいやな記憶がよみがえる展開でしたがなんとか逃げ切りましたね。WBの質という強みを活かせるビルドアップと中央圧縮による強固な守備は見事なものだったと思います。1失点目は仕方なかったにしても、そこで安全に試合を進めて終わらせられるようになればもっと安心して見られるんですけどね。世代交代中の若いチームなので、まだこういう展開は見ることになりそうです。

川崎としてはファイナルサードの攻略もプレスもうまくいかず、厳しい内容の試合となりました。それでも2点とってくるあたりがさすがとも言えますが。疲労もあったと思いますが、大分戦でもボール奪取には苦労したと聞きますし、配置の噛み合わせの悪さに対してもっと策を打っていくほうが良いのかもしれませんね。

それではまた、次回があれば。

#08 意味 【J1第18節 サンフレッチェ広島×セレッソ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。J1も折り返し地点を迎え、サンフレッチェ広島は勝ち点24。まあ去年と比べれば平凡なものですが、世代交代真っ只中であることを考えればよくやっている方だと思います。残り半分、ひとまず残留のためあと勝ち点15くらい稼ぎたいところでしょうか。

そんなリーグ後半の初戦、ホームにセレッソ大阪を迎えました。スタメンは以下。

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 広島はドウグラスヴィエイラが負傷したようで1トップにパトリックを起用。セレッソは4-4-2で、メンバーは前節と全く同じだった模様です。3月に対戦した時には3バックだった気がするのですが、どれくらい熟成されたのでしょうか。

後出しジャンケンのできるセレッソ

 ゲーム開始からボールを保持して主導権を握ったのはセレッソでした。セレッソはGKのキムジンヒョンもビルドアップに参加して最後尾から丁寧に繋いできます。そこで、前から奪いに行きたい広島はセレッソのSBにボールが入るとシャドーが出ていきます。ですが、このタイミングでSHが中央に入ってくることで広島のDHに対して数的優位を作り、DHとSHのどちらを捕まえるかの選択を迫ります。

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前半の広島はこの形でDHとWBのタスクが不明瞭になってしまい、セレッソのDHにフリーでボールを持たれてしまうことが何度もありました。

また、広島としてはシャドーがセレッソのCBにプレッシャーをかけ、SBに対してはWBが出てきて対応するという手もありましたが、その場合には出てきたWBの裏のスペースにFWを走らせることで起点を作られていました。

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実際にセレッソはこの形で抜け出したブルーノメンデスが得たFKから先制しています。セレッソのビルドアップはやや左からが多い気がしましたが、松田よりは丸橋の方がボールを配給できるタイプであること、またハイネルは縦へのスライドが遅れていることが多かった為、より多く時間を得られたことも影響しているかなと思います。このように広島の動きを観察し、後出しジャンケンのごとく裏をかくようにボールと人を動かすことで、セレッソは効果的な前進を見せていました。

広島としては、これだけ整備された配置の相手からボールを奪うには、いつものような同数プレスだけでなく、もう一工夫が必要なのかなと感じました。で、そのような工夫が見られたのがセレッソのSHです。

 

ボールを奪うために必要なこと

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セレッソは広島の3バックに対して2トップとSHの縦スライドによってプレッシングを仕掛けるのですが、この時のSHの寄せ方がうまかったという話です。前節にも森島が縦パスを受けたところから得点を生んだように、広島にとってはハーフスペースに陣取ったシャドーにパスを通すことが攻撃の一つのカギと言えます。しかし、セレッソはSHが広島のCBにプレスをかける際にシャドーへのパスコースを消すことを常に意識していました。この動きによって、サイドでは3vs2の数的不利であるはずが、有効なボール前進をさせませんでした。セレッソのSHの寄せが迅速で広島のCBに余裕を与えなかったこと、広島のWBの位置が低かったこともあって前節はうまくいっていた左サイドのビルドアップも封殺されていました。

そんなわけで、セレッソのボール前進は防げず、ボールは運べず、得点もしっかり奪われて広島としてはまるで良いところのなかった前半。このままじゃダメだということで、後半開始から変化をつけてきます。

意思統一とビルドアップの変化

広島は後半から吉野に替えて稲垣を投入。さらに川辺をDH、柴崎をシャドーに入れ替えます。前半の吉野・柴崎のDHコンビと比較してボールを狩りに行ける2人をDHに置くことで、前半に迷いが見られたDHの動きを「前から奪いに行く」で統一。プレスをかける際にDHはセレッソのDHを捕まえに行くことによってセレッソのビルドアップを制限することに成功します。後半からセレッソがプレスラインを下げたことも相まって、広島は前半よりもボールを保持できるようになります。

また、ボール保持についても前半の反省を活かし、CBからシャドーへの縦パス以外のビルドアップ経路も用いるようになります。

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その一つが、セレッソのSH裏にボールを届けるパターンです。SHが出てきたことで空いたスペースにWBを経由してボールを届け、そこで起点を作ります。後半になってWBが高い位置を取るようになったため、このように降りてきてビルドアップに関わることができるようになったのかもしれません。

また、後方からパトリックに長めのボールを蹴ることもありました。

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これもアバウトにロングボールを蹴るのではなく、パトリックが収めることを狙った低めのボールが供給されていました。セレッソ守備陣がきちんと相手を捕まえてプレスをかけようとした際に、少し空いたCBとDHの間を狙って繰り出していた印象です。城福監督のコメントにパトリックの動きをハーフタイムに修正したとあったのですが、もしかするとこれのことかな、と少し思いました。

こうしてビルドアップに変化を付けた広島は、少しずつセレッソを押し込めるようになります。また、こうした変化によって当初の警戒が緩んだのか佐々木から森島に縦パスが通ることが2度ほどあり、そのうちの1回が得点に結びつきました。前節も森島への縦パスから右サイドに展開してクロスという形で得点を奪えており、やはりここを使うことを目指して攻撃を設計していくのがいいんじゃないかなと思いました。

4-4-2にする意味は

押し込まれたセレッソは77分に木本に替えて山下を投入、CBをヨニッチと山下の対人強いコンビに変更します。一方の広島は79分にハイネルに替えて皆川を投入、ここ数試合で見慣れた4-4-2に変更します。

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 この変更の直後、81分ごろに広島が約30秒間ボールを前進させられないまま最終ラインで回して林に戻し、林のロングキックがタッチラインを割ってボールを失うというしーんがありました。ここにこの4-4-2の問題点があると思っていまして、何が言いたいかというとこの4-4-2にはボールを前進させる仕組みが備わっていないのです。

当然のことながら、4-4-2同士がぶつかるとシステムが完全に噛み合ってしまい、そのままではボールを持っている選手は時間とスペースを得られません。そこでDHを最終ラインに落としたりGKを使ったりして後方で数的優位を確保する方法が良く採用されるのですが、この4-4-2にはそのどちらもありませんでした。そもそも3バックになるならもとの配置のままで良いじゃん、という話でもあるのですが。

また、システムが噛み合っているのなら1vs1が多数発生していると考えることもできるわけで、それなら対人で勝てる場所にロングボールを入れていく、という手もあります。この並びならパト皆川のツインタワーにセレッソの2CBと競り合ってもらうのが有効だと思うのですが、それもありませんでした。

敵陣に侵入することができれば前線に人数が多いのでゴールに迫ることはできていましたが、全体的にどうしても局面ごとの選手の頑張りやひらめきに依存することになってしまい、決定機を量産するには至らなかったと感じました。得点がほしい時のアプローチとして4-4-2は適切なのか、また4-4-2にした後選手たちがどのように動くのか、このあたりについて考えるべきことがまだまだ残されていると感じます。

試合を終えて

ということで1-1の引き分け。ロティーナ監督は両チームが1つずつのハーフを支配した妥当な結果と言っていましたが、まさにそんな試合でした。

セレッソは前半に素晴らしく整備されたボール保持を見せただけに、後半に守備一辺倒にならないための策が欲しかったところです。途中出場の高木のスピードをもう少し活かせる展開にしたかったという感じでしょうか。

広島としても後半に盛り返すことに成功したんですが、ボールを全く奪えなかった前半にもう少しうまく耐えられなかったか、また終盤にもっと押し込んで決定機を量産できなかったかなど、お互いに取って収穫と課題の浮かび上がるゲームだったと感じました。

 

それではまた、次回があれば。