#08 意味 【J1第18節 サンフレッチェ広島×セレッソ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。J1も折り返し地点を迎え、サンフレッチェ広島は勝ち点24。まあ去年と比べれば平凡なものですが、世代交代真っ只中であることを考えればよくやっている方だと思います。残り半分、ひとまず残留のためあと勝ち点15くらい稼ぎたいところでしょうか。

そんなリーグ後半の初戦、ホームにセレッソ大阪を迎えました。スタメンは以下。

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 広島はドウグラスヴィエイラが負傷したようで1トップにパトリックを起用。セレッソは4-4-2で、メンバーは前節と全く同じだった模様です。3月に対戦した時には3バックだった気がするのですが、どれくらい熟成されたのでしょうか。

後出しジャンケンのできるセレッソ

 ゲーム開始からボールを保持して主導権を握ったのはセレッソでした。セレッソはGKのキムジンヒョンもビルドアップに参加して最後尾から丁寧に繋いできます。そこで、前から奪いに行きたい広島はセレッソのSBにボールが入るとシャドーが出ていきます。ですが、このタイミングでSHが中央に入ってくることで広島のDHに対して数的優位を作り、DHとSHのどちらを捕まえるかの選択を迫ります。

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前半の広島はこの形でDHとWBのタスクが不明瞭になってしまい、セレッソのDHにフリーでボールを持たれてしまうことが何度もありました。

また、広島としてはシャドーがセレッソのCBにプレッシャーをかけ、SBに対してはWBが出てきて対応するという手もありましたが、その場合には出てきたWBの裏のスペースにFWを走らせることで起点を作られていました。

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実際にセレッソはこの形で抜け出したブルーノメンデスが得たFKから先制しています。セレッソのビルドアップはやや左からが多い気がしましたが、松田よりは丸橋の方がボールを配給できるタイプであること、またハイネルは縦へのスライドが遅れていることが多かった為、より多く時間を得られたことも影響しているかなと思います。このように広島の動きを観察し、後出しジャンケンのごとく裏をかくようにボールと人を動かすことで、セレッソは効果的な前進を見せていました。

広島としては、これだけ整備された配置の相手からボールを奪うには、いつものような同数プレスだけでなく、もう一工夫が必要なのかなと感じました。で、そのような工夫が見られたのがセレッソのSHです。

 

ボールを奪うために必要なこと

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セレッソは広島の3バックに対して2トップとSHの縦スライドによってプレッシングを仕掛けるのですが、この時のSHの寄せ方がうまかったという話です。前節にも森島が縦パスを受けたところから得点を生んだように、広島にとってはハーフスペースに陣取ったシャドーにパスを通すことが攻撃の一つのカギと言えます。しかし、セレッソはSHが広島のCBにプレスをかける際にシャドーへのパスコースを消すことを常に意識していました。この動きによって、サイドでは3vs2の数的不利であるはずが、有効なボール前進をさせませんでした。セレッソのSHの寄せが迅速で広島のCBに余裕を与えなかったこと、広島のWBの位置が低かったこともあって前節はうまくいっていた左サイドのビルドアップも封殺されていました。

そんなわけで、セレッソのボール前進は防げず、ボールは運べず、得点もしっかり奪われて広島としてはまるで良いところのなかった前半。このままじゃダメだということで、後半開始から変化をつけてきます。

意思統一とビルドアップの変化

広島は後半から吉野に替えて稲垣を投入。さらに川辺をDH、柴崎をシャドーに入れ替えます。前半の吉野・柴崎のDHコンビと比較してボールを狩りに行ける2人をDHに置くことで、前半に迷いが見られたDHの動きを「前から奪いに行く」で統一。プレスをかける際にDHはセレッソのDHを捕まえに行くことによってセレッソのビルドアップを制限することに成功します。後半からセレッソがプレスラインを下げたことも相まって、広島は前半よりもボールを保持できるようになります。

また、ボール保持についても前半の反省を活かし、CBからシャドーへの縦パス以外のビルドアップ経路も用いるようになります。

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その一つが、セレッソのSH裏にボールを届けるパターンです。SHが出てきたことで空いたスペースにWBを経由してボールを届け、そこで起点を作ります。後半になってWBが高い位置を取るようになったため、このように降りてきてビルドアップに関わることができるようになったのかもしれません。

また、後方からパトリックに長めのボールを蹴ることもありました。

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これもアバウトにロングボールを蹴るのではなく、パトリックが収めることを狙った低めのボールが供給されていました。セレッソ守備陣がきちんと相手を捕まえてプレスをかけようとした際に、少し空いたCBとDHの間を狙って繰り出していた印象です。城福監督のコメントにパトリックの動きをハーフタイムに修正したとあったのですが、もしかするとこれのことかな、と少し思いました。

こうしてビルドアップに変化を付けた広島は、少しずつセレッソを押し込めるようになります。また、こうした変化によって当初の警戒が緩んだのか佐々木から森島に縦パスが通ることが2度ほどあり、そのうちの1回が得点に結びつきました。前節も森島への縦パスから右サイドに展開してクロスという形で得点を奪えており、やはりここを使うことを目指して攻撃を設計していくのがいいんじゃないかなと思いました。

4-4-2にする意味は

押し込まれたセレッソは77分に木本に替えて山下を投入、CBをヨニッチと山下の対人強いコンビに変更します。一方の広島は79分にハイネルに替えて皆川を投入、ここ数試合で見慣れた4-4-2に変更します。

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 この変更の直後、81分ごろに広島が約30秒間ボールを前進させられないまま最終ラインで回して林に戻し、林のロングキックがタッチラインを割ってボールを失うというしーんがありました。ここにこの4-4-2の問題点があると思っていまして、何が言いたいかというとこの4-4-2にはボールを前進させる仕組みが備わっていないのです。

当然のことながら、4-4-2同士がぶつかるとシステムが完全に噛み合ってしまい、そのままではボールを持っている選手は時間とスペースを得られません。そこでDHを最終ラインに落としたりGKを使ったりして後方で数的優位を確保する方法が良く採用されるのですが、この4-4-2にはそのどちらもありませんでした。そもそも3バックになるならもとの配置のままで良いじゃん、という話でもあるのですが。

また、システムが噛み合っているのなら1vs1が多数発生していると考えることもできるわけで、それなら対人で勝てる場所にロングボールを入れていく、という手もあります。この並びならパト皆川のツインタワーにセレッソの2CBと競り合ってもらうのが有効だと思うのですが、それもありませんでした。

敵陣に侵入することができれば前線に人数が多いのでゴールに迫ることはできていましたが、全体的にどうしても局面ごとの選手の頑張りやひらめきに依存することになってしまい、決定機を量産するには至らなかったと感じました。得点がほしい時のアプローチとして4-4-2は適切なのか、また4-4-2にした後選手たちがどのように動くのか、このあたりについて考えるべきことがまだまだ残されていると感じます。

試合を終えて

ということで1-1の引き分け。ロティーナ監督は両チームが1つずつのハーフを支配した妥当な結果と言っていましたが、まさにそんな試合でした。

セレッソは前半に素晴らしく整備されたボール保持を見せただけに、後半に守備一辺倒にならないための策が欲しかったところです。途中出場の高木のスピードをもう少し活かせる展開にしたかったという感じでしょうか。

広島としても後半に盛り返すことに成功したんですが、ボールを全く奪えなかった前半にもう少しうまく耐えられなかったか、また終盤にもっと押し込んで決定機を量産できなかったかなど、お互いに取って収穫と課題の浮かび上がるゲームだったと感じました。

 

それではまた、次回があれば。