#07 現在地 【J1第17節 鹿島アントラーズ×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今節でJ1も折り返しですね。鹿島とはACLを含めて3連戦になりますが、ACLは観戦環境がなくて見られませんでした。なのでこの試合だけを見て書こうと思います。ひとつよしなに。

で、スタメンは以下。

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広島は荒木リベロ、吉野と柴崎のDH、川辺のシャドーと変更点多め。鹿島は相変わらずの442ですが、若い選手の台頭が印象的なメンバーに見えます。特に左サイド。

不均衡なサイドの攻防

さて、試合は開始直後にいきなり鹿島が先制します。ボールが落ち着かない状態で入った吉野からの縦パスをカットしてカウンター、一気に中盤を通過してのクロスから最後はレアンドロという流れでした。この得点によるものかどうかは定かではありませんが、広島がボールを保持して試合を進め、鹿島が対応するという構図が明確になります。その中で、広島のボール保持および鹿島の対応は左右のサイドで大きく異なったように見えました。

まず広島の右サイドについてですが、こちらは鹿島が狙い通りにコントロールしている印象を受けました。具体的には右CBの野上がボールを持つと鹿島はSHの山口とSBの小池が縦にスライドしてアプローチしてコースを消し、さらに中央のレオシルバも連動して攻撃を封殺するという場面がたびたび見られました。これが起こった原因として、広島の右サイド陣の立ち位置が挙げられます。

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DHの吉野は鹿島のFWとMFライン間を使おうとするのですが、ここにシャドーの川辺も降りてきてしまい、使いたいスペースが被ってしまっていたんですね。もともとDHということもあってか川辺は列を降りる動きをかなり頻繁に行っており、裏抜けは少なかったため攻撃に深さを作ることができていませんでした。ハイネルもボールに触りたいのか低いポジションを取っていることが多く、広島の右サイドは狭いエリアに3人が密集しているような状態になっていました。こうなると鹿島のDF陣は狙いどころを絞りやすく、結果として右からの前進はほとんど見られませんでした。

一方、広島の左サイドは何度か効果的な前進を見せていました。こちら側はレアンドロが出てこないので佐々木が比較的自由にボールを持てたという事情もあるのですが、何より利いていたのは森島の位置取りでした。

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常にDFとMFの間でボールを受けようと動き続け、時にはシンプルにDFラインの裏へ抜けようとする動きも織り交ぜることで、鹿島のDF陣には簡単に前に出て行けないように、またレアンドロが簡単に外に出て行けないようにピンどめすることに成功していました。この動きによって柏は大外、柴崎はFWとMFの間と各々の使うスペースもきちんと分担でき、佐々木は常に選択肢を持ってプレーできたのではないかと感じました。

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また、柏にボールが渡った際には必ずと言っていいほどCBSB間に走っており、柏がカットインしたり柴崎が出てきたりとその後の展開につなげるための動きも怠りませんでした。実際に広島の同点ゴールもこの形で、ボールを受けた森島が鹿島のCBを釣りだしてから柏にはたいたことで柴崎が時間とスペースを得ることができ、そこから逆サイドのハイネルに展開できました。左サイドでの整備された動きによって鹿島の圧縮守備を崩すことができた、広島にとっては狙い通りの同点弾であったと言えそうです。

ボールを保持する鹿島

同点になったことで、鹿島もボールを保持する姿勢を見せ始めます。ボール保持の際にはDHを落として3バック化していました。鹿島が4-4-2のままであれば、広島はシャドーがSBを、WBがSHを捕まえれば前方からプレスをかけ、CBは後方で攻撃に備えることができました。しかし、鹿島が3バックになったことでシャドーがCB、WBはSBを捕まえなければならなくなったためCBも前方にスライドする判断を迫られるようになります。この一連のスライドがうまくいかないことが何度かあり、鹿島はそこを突いて裏抜けや土居の間受けによってチャンスを作り出していました。

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後半に入ってからは広島は自陣に引いてブロックを構えることが多くなり、鹿島は攻めあぐねることが多くなります。広島は広島で相手のハイプレスが弱くなってきたから落ち着いてボールは持てるけどDHSH間が前半よりも閉められていて使えず……といった感じでやや試合が膠着する様相を見せます。そんな中でセットプレーから小池のゴラッソによって鹿島が勝ち越し。広島は再び得点を奪いに行くための変化を余儀なくされます。

4-4-2の是非

追い詰められた広島は川辺に替えてパトリックを投入し、4-4-2に変更します。

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高さのある2トップを鹿島の2CBにぶつけ、2人いるサイドからクロスを多用して攻めようということなのだと思いますが、この試合に関していえばほぼ機能していなかったという印象です。SBとSHがクロスを上げるという以前にそこまでボールを運ぶことができず、高い位置で潰されてカウンターを受ける場面が目立ちました。4-4-2同士のぶつかり合いとなったことで鹿島としても捕まえる相手がはっきりして守備がしやすくなり、得意のショートカウンターが決まりやすい展開になったものと思われます。個人的には2トップにしたいなら3-1-4-2のような形の方が、この試合の鹿島相手ならボールを前に運びやすくなってチャンスが増やせたんじゃないかなあと思いました。

いよいよ終盤になり、なりふり構っていられなくなった広島は後方から2トップへのロングボールも用い始めます。すると2トップが守備陣に対して脅威を与えられるようになり、終了間際にロングスローから2トップがヘディングで繋いでからの柏のゴールで同点に追いつきました。鹿島としては目に見えて疲労していたレアンドロが自陣まで戻ってこられず、最後の最後で人数が足りなくなってしまいました。後半はおおむねゲームを支配できていただけに勿体ない失点という感じが強いですね。

試合を終えて

なんとか勝ち点1は取れた広島ですが、J1も半分が終わり、現時点での立ち位置が良く表れているような内容だったかなと感じます。左サイドは自分のタスクを理解している柏と森島、さらに機転の利く柴崎がいてよく機能していた一方、右サイドは決まり事らしきものが観測できず、かなり危うい状態でした。また、ボールを保持された場合に相手の配置に対応して主体的に奪いに行くことは得意ではなく、撤退してしのぐ姿勢が今日も見られました。撤退守備自体は悪いことではないのですが、失点してしまった後に出してきたプランBがあれだけ機能していなかったことを考えると、撤退してロングカウンターに懸けるよりは相手からボールを取り上げる仕組みを実装して当初の3-4-2-1で戦う時間を増やした方がいいんじゃないか、とは思いました。

鹿島の方は前半は広島のボール保持にやや苦しめられたものの、失点以降はあっさりボール保持に切り替えて見せ、それが手詰まりになりかけるとセットプレーから1点もぎとっちゃうという展開が見覚えあってなんというか鹿島だなあと思いました。膠着した試合がセットプレーで動くのを見るたびにギャレス・サウスゲイトの正しさを思い知るというか、サッカーで大事なことは案外そのあたりなのかもなあということがよぎる試合でした。

それではまた、次回があれば。

#06 克己 【J1第15節 サンフレッチェ広島×湘南ベルマーレ】

はしがき

えーどうもお久しぶりです。毎試合やるとか言っておいてすぐにさぼりだしてしまいました。まあライフイベントというやつの関係でできなかったという事情なので、勘弁してください。ここからはぼちぼちやっていく予定です。

という訳で湘南戦。スタメンは以下。

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広島は代表招集のため大迫、泰志が不在。代わりに中林、稲垣が入っています。他にも吉野の復帰、ハイネル初スタメンなど色々といじってきました。湘南も杉岡が代表でいないようですが、このチームはスタメンが普段からいろいろ変わっていて正直よくわかりません。両チームとも3-4-2-1の並びなので、何もしなければミラーゲームになることは予想できますが。

落ち着かない序盤

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さて、システムが噛み合っていることもあり序盤はお互いにボールを落ち着かせることができず、トランジションが連続する展開となりました。特に湘南は広島のボール保持に対して5-3-2のような形で守りながらも後ろの選手がどんどん前に出て迎撃するアグレッシブな守備を見せ、広島に時間を与えませんでした。実際序盤に限っては湘南がカウンターからいくつかチャンスを作り出し、思惑通りに試合を進めている感がありました。

一方、時間を奪われた広島の振る舞いとして印象的だったのは中林に下げてからのロングボールでした。DHを最終ラインに下げて数的優位を確保しようとするのではなく、おとなしくGKを使っていたのは個人的には好印象でした。Dhを下げてもスペースが確保できずに湘南のプレスに捕まっていたでしょうし、前線にはドウグラスと渡がいるのでそれなりに勝算もあります。

そんなところで、強度の高いプレスを持続するのはなかなか難しいという事情とロングボールでプレスが空転したという展開もあり、20分過ぎからは広島がボール保持できるようになっていきました。

噛み合う狙いとウィークポイント

で、広島がボールを保持して湘南が撤退した際、湘南側が徹底していたのが、「3CBはゴール前から離れない」というルールでした。サイドからクロスを上げて中央のドウグラスか渡に合わせる、というのが広島の強い得点パターンなので、ゴール前に3人配置して何としても跳ね返す!という意思を感じました。実際、単純なハイクロスはほぼ跳ね返せていたように思います。ただ、この方針によって空いてしまうスペースがあり、広島はここを使った攻撃も多く取り入れていましたね。

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それが図に示すCBとWBの間で、柏に2人マークを付けてCB3人をゴール前に配置するため、その間には結構なスペースが空いてました。広島は神戸戦や浦和戦でもこういうスペースに川辺を走らせて崩しているなどもともとここの攻略をチームとして狙っている節があり、しかもこの試合は稲垣も起用されていたのでここに選手が入り込んでいく動きが盛んに見られました。広島の狙いと湘南の構造上空くスペースが噛み合ったことで危険な崩しを繰り返すことになりました。例えば森島が深い位置まで走りこんだり、稲垣が低い位置で受けて柏とワンツーしたり、ここの崩しについては多彩なパターンを見せた広島。後半からは右サイドでもこういう崩しを行うようになり、後半開始から20分くらいはほぼずっと俺のターン状態でした。

押し込み続けた結果として森島がPKをゲットして広島が先制。トーンダウンした広島は試合をコントロールしつつカウンターでチャンスを作り、最後に森島の突破から稲垣が2点目決めてゲームエンドという試合になりました。

試合を終えて

 広島は相手のプレスが厳しいと見るやロングボールでプレス回避したり、ハーフスペースが空いてるからDHを突撃させてみたり、右サイドでうまくいったから左サイドでもやってみたりと、相手に合わせて対応してるやん!と言えそうな試合をしていて好印象でした。もっとも、城福監督はこの試合に際して選手にスカウティングの情報はほぼ伝えていなかったようなので、試合中の修正はともかく試合前にどこまで想定していたのかは定かではありませんが。ともかく、この次には相手ががっつり中央~ハーフスペースを封鎖してきた場合にどう動かしていくか、という課題が立ちはだかってくると思うので、そのあたりを見てみたいところです。

湘南は序盤にいい形を見せたものの、トランジションゲームができなくなってからうまく機能しなかったのが厳しかった感じですかね。撤退守備の時にもうちょい頑張ってスライドして封鎖するとかあれば良かったのかもしれませんが、それはそれでカウンターの威力が削がれそうですし……とすれば、やっぱり序盤のようなプレスを持続できるような形を築いていくのが近道なのかもな、と思いました。

それではまた、次回があれば。

#05 熟成【J1第9節 名古屋グランパス×サンフレッチェ広島】

はしがき

えー平素より大変お世話になっております。今節も書きたいと思います。

この試合も見に行きました。なんでも平成最後のJリーグだとかでキャンペーンがあったそうで無料チケットをもらえたので。ありがたい話です。豊田スタジアムは名古屋からも最寄り駅からもやや遠いのがネックでしたが、道中様々なイベントをやっていて飽きさせない工夫があり良かったですね。

試合の話になりますが、スタメンは以下の通りです。

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 名古屋はシャビエルが欠場となり、右サイドには前田直輝が入りました。その他はいつもと同じ4-4-2のようです。対する広島は前節と全く同じメンバーを組んできました。渡1トップということはクロスへの入り方を修正してきていると信じたいですね。

基準の見つからない広島、恐れずに繋ぐ名古屋

さて、この試合では開始から名古屋がボールを持つ展開となりました。名古屋は神戸と同じように2CB+2DHのボックス型でビルドアップを図っていました。特にシミッチは厄介で、渡や柴崎を引き付けて時間を作ってからの吉田への展開をはじめ、前線に時間とスペースの貯金を渡す、というビルドアップの原則を体現しているようなプレーでした。

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これに対し、広島は撤退守備を強いられる状況となります。渡が1人でボックスの4人を見ないといけないような状態になりますが当然止められず、主にシミッチを通じて左サイドに展開されて殴られ続ける展開。広島は名古屋の右サイドでボールを奪いたかったようで、中谷にボールが渡った瞬間に野津田と柏が縦にスライドしていくことが何度かありました。しかし左サイドではこうした動きはほとんどなく柴崎はポジションを守ったため、吉田まで容易につながれて突破されかかっていました。これが例えば攻撃を右サイドに誘導してそこで奪うという設計ならまだ分かるのですが、渡は誘導するわけではなく戸惑っているように見えてしまい、単にたまたま右サイドにボールが来た時に奪いに行ってるだけなのかなあ、と感じました。

例えば渡がマンツーマン気味にシミッチにつく、とかやっていれば左サイド攻撃の威力を削りつつボールを奪いに行けていたのでは?と思いますが、実際には左サイドから容易に前進されてなんとか持ちこたえている、という状態でした。奪いどころが定まらないためカウンターも繰り出しづらく、奪ったボールもすぐ回収されていました。

持ち前のブロックの堅さで持ちこたえていた広島でしたが、37分に右サイドを起点に中央を破られ失点。右にいた川辺がボールを奪いに前に出たところ、その裏を使われての失点という形でした。プレスを恐れずに繋ぐシミッチの技術とジョーの動き出しが光る見事な得点ではありましたが、広島がチームとして奪いどころを明確にしていれば空かなかった穴ではないかとも思える失点でした。

前半の広島はボールを持てないため攻撃する場面もほぼなし。名古屋はラインが高いためその裏のスペースを突こうという長いボールでチャンスになりかけることもありましたが、それで1点とれるほど甘くはなく。厳しい状態で前半を終えることになります。

広島の左サイドを活かす術は

さて後半、広島がボール保持できる時間が増えます。名古屋がリードして即時奪回の意識が弱まったことと、ジョーにボールが収まらなくなってきたことが原因ではないでしょうか。

そんな広島が使ったのは主に左サイド。ボールを奪いに来た名古屋のSH裏で野津田が受けるパターンを初め、左サイドをビルドアップの出口にしていることが多かったですね。で、この日の攻撃は主に柏にボールを渡したところから始まっていました。

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柏に渡ると野津田がCBSB間に走るのはいつも通りですが、野津田が空けたスペースにDHが入ってきて使えていたのは良かったですね。ここは成長を感じました。ここで川辺が受ければ勝負のスルーパスなんかも入れられるわけで、彼の得意な展開ですよね。55分、59分当たりのチャンスはこの展開から生まれていました。こうした動きはぜひ継続してほしいと思います。

また、この展開をすると名古屋は吉田が中央まで絞り、和泉が引くのでその前が空くんですよね。ここで野上がボールを受けてひとしきり迷ってからエミルに渡して手詰まり、みたいな場面もあったのでそこはどうするか詰めておいてほしいなあと思います。個人的にはここに1vs1を仕掛けていける選手がいるといいなあと思うので、そういう意味ではハイネルに期待したいと思います。もうちょっとコンディション上がらないと無理だと思うけど。 

そんな感じである程度狙いを持って攻撃できたとは思いますが、何度かあった決定機を決めることはできず0-1のまま試合終了となりました。

雑感

名古屋強かったですね。特に前半、ボールを持っているときのパフォーマンスは圧巻。相手を引き付けてからパス出して時間とスペースの貯金を作る、というプレーの連続からはボール保持攻撃経験の差を感じました。どこからでも点が取れるその様はまさしく最強の矛であると言えそうです。

広島としては、前半0-0でもいい雰囲気かと思いきやボール奪いに行って失点したのはちょっともったいなかったですね。後半からはある程度きちんと攻撃の形を作っていただけに得点はほしかった。前半にボールを奪う策が不足していたことと、後半に右サイドが手詰まり気味だったのが良くなかったところですかね。ボールが全く奪えないのは神戸戦でも出ていた課題なので何とかしてほしいところ。どこで奪うかをチームで共有できればおのずと誘導すべき場所も定まり、個々のタスクも決まってくると思います。

それではまた、次回があれば。

#04 意図 【J1第8節 サンフレッチェ広島×FC東京】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節も短いですがやりますので、お付き合いいただけると幸いです。

さて、首位決戦です。無敗同士の対決ということで今シーズン序盤の山場といっても良いのではないでしょうか。とはいえまだ8試合目、この試合の結果がタイトルの行方を大きく左右するというわけでもないため、あくまで34分の1という扱いで見ればいいのかなと思います。負けたから言ってるわけではなくて。そんな試合のスタメンは以下。

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広島は柴崎が復帰し、前節2得点の渡が1トップに入りました。一方の東京は今シーズンいよいよ頭角を現してきた久保が不在で、右SHには大森が入っています。おおむねいつも通り、今シーズンここまでの成果をぶつけあう形となりました。

広島のライン突破、その先の計画

さて、この両チームは共にボール保持はそれほど得意としないイメージがありますが、始まってみると広島がボールを保持していました。東京側が割とロングボールを多めに使っていたことが原因かなと思います。

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で、ボール保持時の広島は泰志を最終ラインに降ろして4バック。東京は2トップが中央のパスコースを制限し、サイドまでボールが出たらSHが寄せる、という設計で奪おうとしていたのだと思われます。この仕組みを利用して呼吸していたのが野津田。東京の右SH大森が佐々木に対してプレスをかけようとしたタイミングでその裏に入ってボールを受けることでビルドアップの出口となっていました。ただ、野津田が受けて柏に渡したけど仕掛けられなくて戻す、というシーンが何度か見られたように、最終ラインを、特にこの固い4-4-2をどう突破するのかはあまり練られていない感じでしたね。

さらにせっかくサイドまで運んでクロスを上げても全員が深い位置まで飛び込んでしまい、マイナスのクロスに誰も合わせられないという問題も生じていました。渡を1トップに据えたことで前節までマイナスの位置に入っていた選手がいなくなって起きたことだと思われます。

東京の安全地帯と何か起こせそうな2トップ

さて、東京が持った場合、広島は積極的にプレスをかけに行かず自陣に撤退していました。いつものように同数プレスをかけると2トップに長いボールを蹴られて危ないからだと思われます。これを見た東京は広島のSHまでボールを運び、そこからWBの裏を狙ったり2トップへのミドルパスを狙ったりしていました。

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結局のところ得点の気配が一番するのはディエゴと永井の2トップで、ミドルパスでもカウンターでもゴールに迫るシーンを作り出していました。ただこれは2トップの能力の高さのみならず、まずは2トップを見るという意思統一がなされていたことが要因のように感じました。

たださすがに広島も守備は固く、エリア内では攻撃陣に自由を許さずスコアレスのまま前半を終えます。

広島のプランBの是非

さて、後半に入っても試合は動かず、70分ごろに東京は永井outジャエルin、広島は柴崎out皆川inと両チームが動き、さてどうなるかと思っていたら71分に佐々木のクリアミスをディエゴが見逃さず東京が先制。広島のサイドで起点を作ってから髙萩のミドルパスという形で、形としてはなんてことのないミスからのゴールですが、2トップをしつこく狙っていればこういうこともあるわけで、狙い通りといえば狙い通りなのかもしれません。

で、失点直後から広島は配置を入れ替えてきまして、左シャドーに渡、右シャドーに野津田、1トップに皆川とします。これだけではよくわからなかったのですが、さらにエミルout清水inとしたあたりで狙いが見え始めます。

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 一言でいうとシャドーとWBのポジションチェンジです。清水が中に入り、野津田が外に出ます。で、東京のSHとSBの対応をぼやかしてフリーになった方を使ってクロス、もしくは大外への展開を狙います。ちょっとの間逆サイドの柏と渡もポジションを入れ替えていたんですが、渡がクロス上げて柏が中で待つの意味わからんなと思っていたところ柏out東俊希inとなってから入れ替わりがなくなったので安心しました。右サイドでポジションチェンジして、東は左サイドで待ち、渡は中央で合わせる担当という風に分担をしていたと思われます。

ただ……東京の守備を破れるかというとあんまりという感じでした。中で待っているのがパトリックならともかく皆川と渡なので、森重とチャンヒョンスに勝てる見込みは薄かったかなと思います。城福監督も前線からのプレスを期待して皆川を入れたところはあると思うので、交代直後に失点したのは不運だったかな、とは感じます。

一応東のクロスのこぼれ球を渡がボレー、ポスト直撃というチャンスがあるにはありましたがあれを決めろというのはなかなか厳しいというか、あれを決めていればまだ首位だったとかそういう問題ではないんだろうな、とは感じました。

雑感

悔しくないとはいいませんが、まあ正直いつかこの負け方はするだろうなと感じてはいました。むしろ前節の神戸戦がレアケースで、先制されてしまうと引きこもった相手を崩す手段に乏しい、というのが現状の課題でしょう。個人的にはクロス爆撃だけでなく、サイドでパスを交換してSBCB間をDHやシャドーが突いていく神戸戦のような攻撃の精度を上げてほしいのですが、なんにせよボール保持攻撃の熟成にはまだまだ時間が必要になりそうです。それと、渡1トップは考え直した方が良いかな……と感じます。1トップの選手には守備ができる選手を起用したいのは分かりますが、渡がいないことでクロス攻撃の威力が激減してしまいました。チームとしてクロスへの入り方を整備するか1トップを皆川やパトリックにするか、あるいはその両方が必要だと思います。

一方の東京は、割り切ったチームかと思いきやサイドからコンビネーションでボールを前進させる場面もそれなりにあり、2トップを活かしたカウンターもあり、非常にバランスの取れたソリッドなチームであると感じました。まだシーズン全体のことを言うには早いと思いますが、今シーズンを引っ張っていくチームの一つになりそうなのは間違いないと思います。

それではまた、次回があれば。

 

#03 走撃【J1第7節 ヴィッセル神戸×サンフレッチェ広島】

はしがき

すみません、ご無沙汰しております。3月に入ってから忙しく、何試合か飛ばしてしまいました。ただまあ短くても毎試合やった方がいいか、ということでちょっと書こうと思います。なので特に前置きもなくスタメンは以下。

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神戸はビジャが不在で1トップにはウェリントンポドルスキは戻ってきたようですね。広島はドウグラスヴィエイラと柴崎が不在で、代わりにパトリックと渡が先発となりました。ハイプレスのカギを握っていたのがドウグラスなのでその部分が心配です。

ハマらないプレス、あるいは神戸の前進手段

 試合開始から神戸がボールを握る展開が続きました。というのも広島のプレッシングが全くハマらなかったからですね。神戸のビルドアップは2CB+2DHのボックスを中心に両SBとイニエスタポドルスキが入れ替わりながら関わるため、広島の1トップ2シャドーは守備の基準点を見つけられていませんでした。唯一形として見られたのは大崎がボールを持った際に渡が前に立ち、それをスイッチにエミルや泰志が連動して前に出てくる、というシーンです。前半10分過ぎに渡が右サイドに移ってからこの形を狙っていると感じました。ただこれもGKの前川まで下げて回避されていましたね。

広島の状況をより難しくしていたのがこの前川のロングキックで、ビルドアップが詰まればボールを受けてウェリントンに長いボールを入れる場面が何度もありました。大分戦では3バックの対人性能でどうにかロングボールをしのいでいた広島でしたがウェリントンが相手ではそうもいかずに陣地回復されることが多かったですね。

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ということでボールを奪えない広島は撤退して5-4-1になる場面が多かったわけですが、この撤退守備に対する揺さぶりも神戸は非常にうまくやっていました。SBやSHが4の脇で起点を作り、そこにイニエスタの間受けを交えながら広島の守備陣を崩していました。神戸のDHは2人とも出し手として優秀で、特に山口が中央に縦パスを何度か通していたのは成長を感じました。

かつてないほど守備を揺さぶられた広島はファウルで止める場面もしばしばあり、そこからのFKで2失点。どちらも守備時に集中を欠いていたのは問題ですが、まあ原因はそれだけではないでしょう。

広島は神戸のミスを見逃さずに1点はとりましたが、構造上の問題を抱えたまま前半を終えることになります。

運動量でボールを取り上げよう!

後半になってこの問題はどうにかしなきゃなと思っていたところ、城福監督は60分にパトリックoutで皆川in。どうするんだと思ったら、皆川を走り回らせて神戸のビルドアップ部隊から時間を奪いに行きます。前半は割と自由にボールを持てた大崎やダンクレー、さらには前川までプレスに行き、ロングボールの精度を下げさせていました。ウェリントンが競り勝てなくなったのは後半になってガス欠になったというのもあるとは思いますが。また、実際にはあまり起きていませんでしたが、皆川の二度追い、三度追いイでボール保持者をサイドに追い込んでからシャドー・SH・DHを動員して自由を奪っていくつもりだったのだと思われます。

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ウェリントンへのロングボールによる陣地回復の成功率がダウンしたことで、神戸はボール保持ができなくなります。神戸からボールを取り上げたことで、広島はボール保持攻撃を実現できるようになります。

前半からたびたび見られたのですが広島は神戸のCBSB間は弱点だと認識していたようで、野津田や川辺がそのエリアに進出していく動きを繰り返し見せました。2点目、3点目はそこから生まれたもので、広島のWBが開いてSBをピンどめすることでCBSB間にスペースを生み出し、川辺がそのスペースをドリブル、サンペールを振り切ってクロスという形でした。もともとここを使う攻撃は仕込んでいたこともあり、割とスムーズに連動できていたように思います。ただ立ち位置を決めて再現性のある攻撃をしていたというほどきちんと並んでいたわけでもなかったのでまだ整備の余地はあると思いますが。前半には左サイドに5人固まることもあったし。

何にせよあっという間に3点をとった広島はその後はうまく時間を使いながら試合進行。右サイドでの連動した崩しも試していたのが印象的でした。神戸も古橋のヘッドなど決定機はありましたが引いた広島から2点は奪えず。2-4で試合終了、広島は5連勝を飾ることとなりました。

雑感

前半全くボールを奪えなかった広島が、後半に入って皆川の気合をきっかけに流れをつかんだのは面白かったですね。パトリックを替えてからチームに勢いが増した、という事実は今年のチームがパトリックに依存しないことを象徴するできごとといえそうです。しかし意識しなければならないのは、「困ったら運動量を増やして解決する!」という手段は1試合の中で使える時間が限られますし、そもそもフルシーズン持つはずもないということです。ですので、この手段をできるだけ使わずに済むような設計が必要であり、具体的には今日たびたび見られたサイド攻撃からのハーフスペース攻略を磨いていくべきかなと感じます。

神戸は後半ボール保持できなくなってから陣形が間延びし、電池が切れたように機能が止まってしまいました。やはりボール保持してなんぼのチームだということでしょうか。普通に考えればネガトラ対応を整備したり撤退守備の練度を上げるところですが、あれだけの選手がいるのですから「奪われなければ守備することもないんだ!」という風間八宏的解決を図る道も見てみたいなあという気がします。

ちなみに余談ですが、筆者はこの試合現地観戦しておりました。最高の雰囲気でしたね。ノエビアスタジアム神戸は駅から近くてアクセスもいいし、今年からキャッシュレスで売店の回転も速いし、何より神戸の選手紹介が世界一かっこよくて好きです。ぜひ一度足を運んでみてください。

それではまた、次回があれば。

#02 混沌【J1第2節 サンフレッチェ広島×ジュビロ磐田】

 


 


はしがき

平素より大変お世話になっております。今節もやろうと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。

背景

開幕戦では清水エスパルスを相手に引き分けとなった我らがサンフレッチェ広島。ビルドアップや前線からのプレスはある程度うまくいったものの、結局最後はパト頼み問題が残っていたり、ネガティブトランジションや守備ブロックに危ういところが見られたりとまだまだこれからといった様子でした。

さて今節はホームにジュビロ磐田を迎えます。開幕戦では偽サイドバックを披露したという噂も聞こえますが、名波監督はどのような戦略で乗り込んできたのでしょうか。スタメンは以下。

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広島は前節ベンチスタートだったパトリックをスタートから起用。あとは前節と同じメンバーで、並びも変更ありません。

磐田は4-3-3。DAZNのスタメン紹介では4-2-3-1で、実際の試合でもどっちか微妙なこともあったのですが、こちらの方がやや実態には近いのかなと思い、この表記にしております。書きやすいし。

磐田のボール前進と広島のプレスの弱点

さて、試合開始からボールを握ったのは磐田でした。繋ぐサッカーを標榜する広島はあまりボールを保持することができなかったわけですが、その理由を考えるためにもまず磐田のボール保持の仕組みを見ていきます。

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といってもよくある4-3-3→3-4-2-1変換で、基本的にはオーソドックスなものであったと言えます。噂の偽サイドバックについては、後方で安定してボールを持てたときにやってることもある、という感じでした。

サイドバックはSBの選手(松本昌と高橋)を外に開かせる代わりに中央のDHあるいはIHの位置に置き、かわりにWGの選手(ロドリゲスとアダイウトン)を外に開かせるという配置です。WGが突破力を持っている場合にそれを生かすことができるので、ロドリゲスとアダイウトンという推進力のあるアタッカーを起用している磐田にとっては理に適った配置といえそうです。ただ、その分中央に入るSBの選手にはDH、IH並みの技術や状況判断が求められるのが難しいところで、松本昌はうまくこなしていたものの高橋はなかなか苦労していた、という印象です。

あとは図中のオレンジ矢印で示したところなのですが、大久保と山田のどちらかが最終ラインの脇まで降りてくることが多かったです。この動きによって磐田は最終ラインで余裕を持ってボールを保持できていたと思います。この試合、パトリックが磐田の最終ラインに降りたアンカーにプレスをかける場面があまり見られなかったのですが、それはパトリックの守備意識の低さだけでなく、IHが降りてくるのでどこを基準に守備を開始すればいいかが不明瞭になってしまったことも原因だと思われます。

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また、33分のシーンがそうなのですが広島がこのビルドアップに対して前節と同様にシャドーがプレスをかけに行くと、前に出たDHの裏のスペースを使ってボールを受ける場面も何度か見られました。このスペースでは前節にも何度かボールを受けられており、広島がこの並びでハイプレスを行うのなら解決しなければいけない問題と言えそうです。プレスはシャドーに任せてDHが埋めるか、もしくはこのシーンのようにCBが出て潰すかのどちらかが必要でしょう。

このようにボールを保持してDFラインの手前、いわゆるゾーン2までの前進には成功していた磐田ですが、そこから先はまだ構築できていないのかうまく崩すまでには至っていませんでした。というか磐田の攻撃陣は動きが流動的過ぎて狙いがあったのかもしれませんが読み取ることができませんでした。難しい。

うまくいかない広島の4+1とサイド攻撃

さて、広島はボールを保持できなかったのは敵陣からのプレスがはまらなかっただけではなく、自陣でのボール保持にも問題があったからだと考えます。前節では3バック+2DHでうまくボールを運べていたのですが、今節はなぜか泰志が最終ラインに降りて4バック+1DHの形になることが多かったです。

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この形だとDHへのコースが簡単に消されてしまい、ボール前進がうまくいきませんでした。また、ミシャ式よろしくあとの5人は前線にいるため縦パスを入れることができず、パトリックめがけて蹴っ飛ばすしかない状況が度々生まれていました。

敵陣からのプレスの空転、4+1ビルドアップの機能不全、そして詰まってもないのになぜかロングボールを多用するという3つの要素が合わさって広島はボールを保持できなかったと思われます。プレスの空転はともかく4+1にしたりロングボールを多用したりと変化させた理由はよくわかりません。選手の独断なのか、城福さんによって計画されたものなのか……

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そんな中でもボールを素早く再度まで運べた場合には前節でも頻繁に見られた野津田のSBCB間へのランニングによってDHを最終ラインに吸収させる動きを使っていました。やはりこの動きはきちんとデザインされたものであることがうかがえます。磐田は4バックなのでこの動きによってSBをつり出すことでバイタルエリアにより大きなスペースを生み出すことができ、DHがそこを使う形ができることもありました。ただ相変わらずここからのコンビネーションについては特に何もなく、守備を崩すには至りませんでした。磐田はただでさえスペースが生まれやすいのにアダイウトンが戻ってこないので中盤の人数が足りなくて崩しやすいと思うのですが……

そんなこんなで最終局面の崩しはできていなかった両者。広島は攻撃時に人数をかけすぎるし磐田はアダイウトンが残っていてネガトラには問題を抱えていたのでカウンターから1点くらい入るかと思ったのですがそれもなく、スコアレスで前半は折り返します。

解決策の見えない後半

それで後半なのですが……正直状況を打破するだけの変化は観測できなかったように思います。広島が野津田に替えてドウグラスヴィエイラを入れたのはアダイウトンがいない右サイドからの攻撃を重視する狙いで良いかと思ったのですが状況はよくならず、両チームとも即興頼みの攻撃に終始してしまったかなと思います。両チームともに大外のレーンに3人が並ぶみたいにポジショニングが定まらず混沌としている場面も見受けられ、得点は奪えませんでした。

試合を終えて

広島はボールを保持するという狙いを遂行できず、良いところのない試合だったと言っても過言ではないかもしれません。個人的にはビルドアップをパトリックに依存するのは勘弁してほしいという思いです。DFラインの配置を変えるもよし大迫は割と繋げるんだからそこを使ってもいいと思いますし、なんにせよ繋ぐサッカーを掲げるならもうちょっとあきらめずにショートパスによるビルドアップを試みても良いのでは?と思います。また、敵陣からのプレスを外される場面が前節から目立ちます。次節はセレッソが相手ですがロティーナ監督が対策してこないはずはないと思うので、そこにどう対応するかに注目してみたいですね。

磐田は中盤まで前進したもののその後がまだ整備できていない感じを受けました。広島と似たような課題を抱えていると言えます。偽SBはアダイウトンとロドリゲスを生かす策としては理に適っていると感じるのでそこを整備するか、偽SBやらないにしても内側のレーンを活用した攻撃を仕込めるかどうかがカギになると感じます。

 

それではまた、次回があれば。

#01 設計図【J1第1節 サンフレッチェ広島×清水エスパルス】

はしがき

はじめまして。かんだ(@syukan13)と申します。
もう10年以上サンフレッチェ広島を応援していますが、今シーズンはチームの狙いや変化を追跡してみよう!と思い、ここに試合を見て感じたことや気づいたことを記していこうと思います。
恐らく拙いものになるでしょうし毎試合できるかは分かりませんが、見てくださる方がいればよろしくお付き合いお願い致します。

背景

今年も日常が帰ってきました。DAZNマネーやそれに伴う外国人枠の拡大、大物選手の参戦など変革の時期を迎えつつあるJリーグ我らがサンフレッチェ広島も、今シーズンはよりボールを大事にするサッカーへとシフトするとのこと。迎える2019シーズン開幕戦、ホームに清水エスパルスを迎えました。スタメンは以下。

 

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広島は昨年の序盤に猛威をふるった4-4-2から、昨年の最終節で用いた3-4-2-1に変更。林、青山、稲垣ら昨年チームを支えた主力がいない中、大迫や川辺に野津田、松本泰志といった若手の目立つスタメンとなりました。

一方の清水も、昨年用いていた4-4-2から3-4-2-1に。昨シーズン攻撃の中心となったドウグラスや、今オフの目玉補強であるところのエウシーニョが不在。すっかり日本代表に定着した感もある北川に期待がかかるところでしょうか。

試合の導入と両チームの狙い

両チームともに3バックシステムを採用しているこのゲーム、当然と言っていいかは分かりませんが、両チームともに3バックでビルドアップを行おうとすることになります。両チームともに3バック+2DHによるボール前進を試みていましたが、それに対するプレスのかけ方に違いが見られたのでそれを通して試合の流れを追ってみたいと思います。

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まず、清水の3バックがボールを持った場合ですが、広島の1トップの渡は立田へのパスコースを制限し、ボールサイドのシャドーがボランチへのパスコースを切りながらCBにプレスをかけていました。降りてくるDHの竹内と河井にはDHの泰志と川辺が深い位置までついていき、WBが降りてきてもWBがついていくのでフリーの選手が作れない、という状況になっていました。ただ、広島のボランチが上がっているのでその背後にはスペースがあり、中村と金子がタイミング良く降りてきてそのスペースでボールを受けてチャンスになりかける場面が何度かありました。とはいえこのスペースも毎回使えるわけではなく、しっかりサイドに追い込んだ場合には出しどころがなくてロングボールを蹴るしかないというケースの方が多かった印象です。そのロングボールも空中戦が飛び抜けて強いわけでもない北川をターゲットにしていたので回収されることが多く、広島のプレスは割とうまくはまっていたように思えます。

 

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一方、広島の3バックがボールを持った場合の清水の振る舞いはやや異なりました。最も大きく異なる点はDHに対してDHがついていかないという点で、泰志と川辺にボールが入った場合は自由を得ることができていました。野津田と柴崎に縦パスが通ってしまうリスクを嫌ったのかもしれません。では広島のように3バックに対して3トップを当てて制限したかというと、そういう訳でもありませんでした。2シャドーの中村と金子は3バックに対してプレスに行く時と行かない時とあり、3バックから完全に自由を奪えてもいませんでした。よって、後方で数的優位を得てフリーになったDHやCBから裏へのロングボールが出たり、WBを起点に攻撃を組み立てようとしていました。この状況がヨンソン監督によって計画されたものとはちょっと思えず、いまひとつ狙いが分かりませんでした。

何にせよ、広島はプレスがはまってボールを回収でき、ボールもある程度前進できていたため、広島がボールを保持し、清水が5-4-1でブロックを築いて撤退することが増えていきました。こっちの方がヨンソン監督のプランだったのかもしれません。

撤退する清水と手詰まりになる広島の攻撃

清水がブロックを組んで撤退してしまったため、広島は敵陣まで簡単にボールを運べるようになりました。ただ、相手は5-4-1なのでそう簡単には崩せません。清水の5-4-1を崩すために広島が目をつけたのは、「WBの裏」「2ライン間」の2つのスペースでした。

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WBの裏については、柏が左サイドでボールを持った場合にWBとSHが対応に出ることによってできるWBとCBの間のスペースを使った攻撃です。柏がボールを持った時に、①柴崎がWBとCBの間に走る、②①の柴崎をおとりにカットイン、③柏とボランチとのワンツー、の3パターンによって左サイドを攻略しようと試みました。ただ、クロスまで持っていったところで清水のDFはエリア内に密集しており、中央にいるのは渡や野津田であまり空中戦には期待できないため、大きなチャンスには結びついていませんでした。

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また、柏・エミル・渡が清水の5バックをピンどめしているからか清水の5と4の間には割とスペースがあったため、柴崎と野津田が引いてきてライン間のスペースで受け、そこからコンビネーションで崩そうとする動きも見られました。このあたりはミシャ式の波動を感じる形でした。泰志と川辺はスペースがある状態では積極的に縦パスを入れることができていたので柴崎と野津田がボールを受けることができましたが、そこからフリックやワンツーで最終ラインを突破するまでは至りませんでした。

ということで、広島はボールを前進できるものの最終ラインを崩せず、なかなか決定機を作り出せませんでした。42分の柴崎のシュートが六反に防がれたシーンくらいでしょうか。

一方の清水も5-4-1で守っているのでカウンターを繰り出しづらく、前述のプレス回避以外には有効なボール保持攻撃はあまり見られなかったように思います。しかし、ロングボールに反応した北川や残っていた金子、中村を起点としたカウンターが発動することが何度かあり、清水の先制点はそこから生まれました。広島が敵陣に押し込むと自陣には大きくスペースが空いており、北川の動き出しに合わせたロングボールはそれなりに有効だったと言えそうです。広島の撤退守備は前半にはほとんど見られなかったのですが、先制点のシーンでは川辺と柴崎の間のスペースが空いてしまい、そこにフェイクを入れてフリーになった金子が降りてきてフリック、北川が抜け出すという形でした。金子のテクニックと北川の決定力が光るゴールでワンチャンスを生かした清水がリードを奪い、広島はどうやってネットを揺らすのかという課題に直面したまま前半は終わります。

 

変わる並びと広島の揺さぶり、そしてパトリック

後半の頭から城福監督は並びを変更します。

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野津田と柴崎を入れ替えてシャドーの左右を変更、さらに川辺を一列前に上げてボール保持時3-1-5-1のような並びに見えました。

この変更の狙いとしては主に2つあると考えます。まずより機動力に優れる野津田を左に置いたことにより、WB裏のスペースへのランニングを高頻度で使えるようになりました。次に川辺を1列上げたことで野津田をサイドのスペースに流してもゴール前の人数を確保できるようになります。前半は片方のシャドーがサイドに流れるため柏のクロスに対してエリア内に2人しかいないこともあったのですが、得点シーンではエリア内に5人入っているなど、ゴール前に人数を割けるようになっています。また、清水は前線に北川1人しか残していなかったので、3バックと1ボランチでボール前進に十分な数的優位は確保できるため、この点でも理に適っていると思います。

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55分の柏がサイドでボールを持った際などがそうなのですが、左サイドに野津田が流れていることによって柏に対してカバーリングするはずだったSHもしくはDHが野津田に釣られてカバーしきれずにクロスを上げられる、という場面が度々ありました。パトリックを投入したことによりクロス攻撃の威力も増しているため、これらの方針は効果てきめんだったように感じます。

広島の同点弾もこうした局面が伏線になっており、柏に2人マークがついたことで佐々木がバイタルエリアでフリーになってクロスを上げたところから生まれました。このように、サイドでは野津田川辺のランニングによるコンビネーションをちらつかせながら柏の質的優位を生かし、そこからパトリックへのクロスを中心に相手を押し込んで2ライン間でのコンビネーションやバイタルエリアへの侵入も狙う、という設計はよくできていたのではないかと思います。

清水の改訂版ビルドアップ

さて、点を取りに行く必要が出てきた清水は、ビルドアップの形に変化を加えます。

DHの竹内が立田とファンソッコの間に降りて4バック+1DHのような形になります。ずっとこの形というわけではなかったですが割と多くやっていて、ミシャ式でいえば森崎カズの動きに近いような感じでした。

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この動きによって困ったのは広島のシャドーで、寄せていこうとしたらDFが一人多いし、コースを切るはずのDHはいないし、とどこを基準に守備をしたらいいのかわからなくなっていました。野津田がボールを持った立田に元気よく寄せようとしたらなぜかサイドにヴァンデルソンが開いていて追うのをやめた場面が印象的です。

さらにはこの形を逆手に取り、3バックのまま2DHの横に中村が降りてくるという前半からやっていた形も織り交ぜることで広島のプレス隊をさらに混乱させる清水。広島はこれに対して5-4-1での撤退守備を選択。清水はハーフラインまではボールを前進できたもののそれ以降はWBの単騎突破くらいしかチャンスを作る術はなく、一方の広島もボールを持てないと怖さを発揮できず、トランジションからパトリックに決定機があったものの決められず。1-1のまま試合は終了しました。

試合を終えて

広島としてはビルドアップ、敵陣からのプレスについてはある程度整備できていたものの、最後の20mの攻略はやはりパトリックに依存するところがまだ大きいなと感じました。とはいえ、最終ライン攻略にはどのチームも大なり小なり問題を抱えるのが常ですので、前半戦はある程度パトリックをちらつかせつつ、コンビネーションの成熟を図っていくというくらいで良いのではないかと思います。ただ今期やりたいことの設計図が見えたとはいえ、今日はたまたまボールが保持できただけという可能性もありますし、もう何試合か見てみないと完成度についてはわかりません。また、カウンターを食らいやすかったり撤退守備が破られたりとまだまだ前途は多難、旅は始まったばかりという感も強いところです。

清水は組織的なプレスが実装できていない点が気になりました。途中からは割としっかり撤退できていたので、立ち上がりになぜあんなに中途半端なプレスのかけ方になってしまったのかはよくわかりません。しかし、ボールが保持できないなりに効果的なカウンターも繰り出していましたし、ワンツーやフリックを用いた攻撃は相手に脅威を与えるに十分なものでした。同点になってから用いたような複数のビルドアップをうまく使い分けることができれば、状況に合わせて柔軟な戦い方のできるチームになるのではと思います。

 

それではまた、次回があれば。