#03 走撃【J1第7節 ヴィッセル神戸×サンフレッチェ広島】

はしがき

すみません、ご無沙汰しております。3月に入ってから忙しく、何試合か飛ばしてしまいました。ただまあ短くても毎試合やった方がいいか、ということでちょっと書こうと思います。なので特に前置きもなくスタメンは以下。

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神戸はビジャが不在で1トップにはウェリントンポドルスキは戻ってきたようですね。広島はドウグラスヴィエイラと柴崎が不在で、代わりにパトリックと渡が先発となりました。ハイプレスのカギを握っていたのがドウグラスなのでその部分が心配です。

ハマらないプレス、あるいは神戸の前進手段

 試合開始から神戸がボールを握る展開が続きました。というのも広島のプレッシングが全くハマらなかったからですね。神戸のビルドアップは2CB+2DHのボックスを中心に両SBとイニエスタポドルスキが入れ替わりながら関わるため、広島の1トップ2シャドーは守備の基準点を見つけられていませんでした。唯一形として見られたのは大崎がボールを持った際に渡が前に立ち、それをスイッチにエミルや泰志が連動して前に出てくる、というシーンです。前半10分過ぎに渡が右サイドに移ってからこの形を狙っていると感じました。ただこれもGKの前川まで下げて回避されていましたね。

広島の状況をより難しくしていたのがこの前川のロングキックで、ビルドアップが詰まればボールを受けてウェリントンに長いボールを入れる場面が何度もありました。大分戦では3バックの対人性能でどうにかロングボールをしのいでいた広島でしたがウェリントンが相手ではそうもいかずに陣地回復されることが多かったですね。

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ということでボールを奪えない広島は撤退して5-4-1になる場面が多かったわけですが、この撤退守備に対する揺さぶりも神戸は非常にうまくやっていました。SBやSHが4の脇で起点を作り、そこにイニエスタの間受けを交えながら広島の守備陣を崩していました。神戸のDHは2人とも出し手として優秀で、特に山口が中央に縦パスを何度か通していたのは成長を感じました。

かつてないほど守備を揺さぶられた広島はファウルで止める場面もしばしばあり、そこからのFKで2失点。どちらも守備時に集中を欠いていたのは問題ですが、まあ原因はそれだけではないでしょう。

広島は神戸のミスを見逃さずに1点はとりましたが、構造上の問題を抱えたまま前半を終えることになります。

運動量でボールを取り上げよう!

後半になってこの問題はどうにかしなきゃなと思っていたところ、城福監督は60分にパトリックoutで皆川in。どうするんだと思ったら、皆川を走り回らせて神戸のビルドアップ部隊から時間を奪いに行きます。前半は割と自由にボールを持てた大崎やダンクレー、さらには前川までプレスに行き、ロングボールの精度を下げさせていました。ウェリントンが競り勝てなくなったのは後半になってガス欠になったというのもあるとは思いますが。また、実際にはあまり起きていませんでしたが、皆川の二度追い、三度追いイでボール保持者をサイドに追い込んでからシャドー・SH・DHを動員して自由を奪っていくつもりだったのだと思われます。

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ウェリントンへのロングボールによる陣地回復の成功率がダウンしたことで、神戸はボール保持ができなくなります。神戸からボールを取り上げたことで、広島はボール保持攻撃を実現できるようになります。

前半からたびたび見られたのですが広島は神戸のCBSB間は弱点だと認識していたようで、野津田や川辺がそのエリアに進出していく動きを繰り返し見せました。2点目、3点目はそこから生まれたもので、広島のWBが開いてSBをピンどめすることでCBSB間にスペースを生み出し、川辺がそのスペースをドリブル、サンペールを振り切ってクロスという形でした。もともとここを使う攻撃は仕込んでいたこともあり、割とスムーズに連動できていたように思います。ただ立ち位置を決めて再現性のある攻撃をしていたというほどきちんと並んでいたわけでもなかったのでまだ整備の余地はあると思いますが。前半には左サイドに5人固まることもあったし。

何にせよあっという間に3点をとった広島はその後はうまく時間を使いながら試合進行。右サイドでの連動した崩しも試していたのが印象的でした。神戸も古橋のヘッドなど決定機はありましたが引いた広島から2点は奪えず。2-4で試合終了、広島は5連勝を飾ることとなりました。

雑感

前半全くボールを奪えなかった広島が、後半に入って皆川の気合をきっかけに流れをつかんだのは面白かったですね。パトリックを替えてからチームに勢いが増した、という事実は今年のチームがパトリックに依存しないことを象徴するできごとといえそうです。しかし意識しなければならないのは、「困ったら運動量を増やして解決する!」という手段は1試合の中で使える時間が限られますし、そもそもフルシーズン持つはずもないということです。ですので、この手段をできるだけ使わずに済むような設計が必要であり、具体的には今日たびたび見られたサイド攻撃からのハーフスペース攻略を磨いていくべきかなと感じます。

神戸は後半ボール保持できなくなってから陣形が間延びし、電池が切れたように機能が止まってしまいました。やはりボール保持してなんぼのチームだということでしょうか。普通に考えればネガトラ対応を整備したり撤退守備の練度を上げるところですが、あれだけの選手がいるのですから「奪われなければ守備することもないんだ!」という風間八宏的解決を図る道も見てみたいなあという気がします。

ちなみに余談ですが、筆者はこの試合現地観戦しておりました。最高の雰囲気でしたね。ノエビアスタジアム神戸は駅から近くてアクセスもいいし、今年からキャッシュレスで売店の回転も速いし、何より神戸の選手紹介が世界一かっこよくて好きです。ぜひ一度足を運んでみてください。

それではまた、次回があれば。

#02 混沌【J1第2節 サンフレッチェ広島×ジュビロ磐田】

 


 


はしがき

平素より大変お世話になっております。今節もやろうと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。

背景

開幕戦では清水エスパルスを相手に引き分けとなった我らがサンフレッチェ広島。ビルドアップや前線からのプレスはある程度うまくいったものの、結局最後はパト頼み問題が残っていたり、ネガティブトランジションや守備ブロックに危ういところが見られたりとまだまだこれからといった様子でした。

さて今節はホームにジュビロ磐田を迎えます。開幕戦では偽サイドバックを披露したという噂も聞こえますが、名波監督はどのような戦略で乗り込んできたのでしょうか。スタメンは以下。

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広島は前節ベンチスタートだったパトリックをスタートから起用。あとは前節と同じメンバーで、並びも変更ありません。

磐田は4-3-3。DAZNのスタメン紹介では4-2-3-1で、実際の試合でもどっちか微妙なこともあったのですが、こちらの方がやや実態には近いのかなと思い、この表記にしております。書きやすいし。

磐田のボール前進と広島のプレスの弱点

さて、試合開始からボールを握ったのは磐田でした。繋ぐサッカーを標榜する広島はあまりボールを保持することができなかったわけですが、その理由を考えるためにもまず磐田のボール保持の仕組みを見ていきます。

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といってもよくある4-3-3→3-4-2-1変換で、基本的にはオーソドックスなものであったと言えます。噂の偽サイドバックについては、後方で安定してボールを持てたときにやってることもある、という感じでした。

サイドバックはSBの選手(松本昌と高橋)を外に開かせる代わりに中央のDHあるいはIHの位置に置き、かわりにWGの選手(ロドリゲスとアダイウトン)を外に開かせるという配置です。WGが突破力を持っている場合にそれを生かすことができるので、ロドリゲスとアダイウトンという推進力のあるアタッカーを起用している磐田にとっては理に適った配置といえそうです。ただ、その分中央に入るSBの選手にはDH、IH並みの技術や状況判断が求められるのが難しいところで、松本昌はうまくこなしていたものの高橋はなかなか苦労していた、という印象です。

あとは図中のオレンジ矢印で示したところなのですが、大久保と山田のどちらかが最終ラインの脇まで降りてくることが多かったです。この動きによって磐田は最終ラインで余裕を持ってボールを保持できていたと思います。この試合、パトリックが磐田の最終ラインに降りたアンカーにプレスをかける場面があまり見られなかったのですが、それはパトリックの守備意識の低さだけでなく、IHが降りてくるのでどこを基準に守備を開始すればいいかが不明瞭になってしまったことも原因だと思われます。

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また、33分のシーンがそうなのですが広島がこのビルドアップに対して前節と同様にシャドーがプレスをかけに行くと、前に出たDHの裏のスペースを使ってボールを受ける場面も何度か見られました。このスペースでは前節にも何度かボールを受けられており、広島がこの並びでハイプレスを行うのなら解決しなければいけない問題と言えそうです。プレスはシャドーに任せてDHが埋めるか、もしくはこのシーンのようにCBが出て潰すかのどちらかが必要でしょう。

このようにボールを保持してDFラインの手前、いわゆるゾーン2までの前進には成功していた磐田ですが、そこから先はまだ構築できていないのかうまく崩すまでには至っていませんでした。というか磐田の攻撃陣は動きが流動的過ぎて狙いがあったのかもしれませんが読み取ることができませんでした。難しい。

うまくいかない広島の4+1とサイド攻撃

さて、広島はボールを保持できなかったのは敵陣からのプレスがはまらなかっただけではなく、自陣でのボール保持にも問題があったからだと考えます。前節では3バック+2DHでうまくボールを運べていたのですが、今節はなぜか泰志が最終ラインに降りて4バック+1DHの形になることが多かったです。

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この形だとDHへのコースが簡単に消されてしまい、ボール前進がうまくいきませんでした。また、ミシャ式よろしくあとの5人は前線にいるため縦パスを入れることができず、パトリックめがけて蹴っ飛ばすしかない状況が度々生まれていました。

敵陣からのプレスの空転、4+1ビルドアップの機能不全、そして詰まってもないのになぜかロングボールを多用するという3つの要素が合わさって広島はボールを保持できなかったと思われます。プレスの空転はともかく4+1にしたりロングボールを多用したりと変化させた理由はよくわかりません。選手の独断なのか、城福さんによって計画されたものなのか……

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そんな中でもボールを素早く再度まで運べた場合には前節でも頻繁に見られた野津田のSBCB間へのランニングによってDHを最終ラインに吸収させる動きを使っていました。やはりこの動きはきちんとデザインされたものであることがうかがえます。磐田は4バックなのでこの動きによってSBをつり出すことでバイタルエリアにより大きなスペースを生み出すことができ、DHがそこを使う形ができることもありました。ただ相変わらずここからのコンビネーションについては特に何もなく、守備を崩すには至りませんでした。磐田はただでさえスペースが生まれやすいのにアダイウトンが戻ってこないので中盤の人数が足りなくて崩しやすいと思うのですが……

そんなこんなで最終局面の崩しはできていなかった両者。広島は攻撃時に人数をかけすぎるし磐田はアダイウトンが残っていてネガトラには問題を抱えていたのでカウンターから1点くらい入るかと思ったのですがそれもなく、スコアレスで前半は折り返します。

解決策の見えない後半

それで後半なのですが……正直状況を打破するだけの変化は観測できなかったように思います。広島が野津田に替えてドウグラスヴィエイラを入れたのはアダイウトンがいない右サイドからの攻撃を重視する狙いで良いかと思ったのですが状況はよくならず、両チームとも即興頼みの攻撃に終始してしまったかなと思います。両チームともに大外のレーンに3人が並ぶみたいにポジショニングが定まらず混沌としている場面も見受けられ、得点は奪えませんでした。

試合を終えて

広島はボールを保持するという狙いを遂行できず、良いところのない試合だったと言っても過言ではないかもしれません。個人的にはビルドアップをパトリックに依存するのは勘弁してほしいという思いです。DFラインの配置を変えるもよし大迫は割と繋げるんだからそこを使ってもいいと思いますし、なんにせよ繋ぐサッカーを掲げるならもうちょっとあきらめずにショートパスによるビルドアップを試みても良いのでは?と思います。また、敵陣からのプレスを外される場面が前節から目立ちます。次節はセレッソが相手ですがロティーナ監督が対策してこないはずはないと思うので、そこにどう対応するかに注目してみたいですね。

磐田は中盤まで前進したもののその後がまだ整備できていない感じを受けました。広島と似たような課題を抱えていると言えます。偽SBはアダイウトンとロドリゲスを生かす策としては理に適っていると感じるのでそこを整備するか、偽SBやらないにしても内側のレーンを活用した攻撃を仕込めるかどうかがカギになると感じます。

 

それではまた、次回があれば。

#01 設計図【J1第1節 サンフレッチェ広島×清水エスパルス】

はしがき

はじめまして。かんだ(@syukan13)と申します。
もう10年以上サンフレッチェ広島を応援していますが、今シーズンはチームの狙いや変化を追跡してみよう!と思い、ここに試合を見て感じたことや気づいたことを記していこうと思います。
恐らく拙いものになるでしょうし毎試合できるかは分かりませんが、見てくださる方がいればよろしくお付き合いお願い致します。

背景

今年も日常が帰ってきました。DAZNマネーやそれに伴う外国人枠の拡大、大物選手の参戦など変革の時期を迎えつつあるJリーグ我らがサンフレッチェ広島も、今シーズンはよりボールを大事にするサッカーへとシフトするとのこと。迎える2019シーズン開幕戦、ホームに清水エスパルスを迎えました。スタメンは以下。

 

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広島は昨年の序盤に猛威をふるった4-4-2から、昨年の最終節で用いた3-4-2-1に変更。林、青山、稲垣ら昨年チームを支えた主力がいない中、大迫や川辺に野津田、松本泰志といった若手の目立つスタメンとなりました。

一方の清水も、昨年用いていた4-4-2から3-4-2-1に。昨シーズン攻撃の中心となったドウグラスや、今オフの目玉補強であるところのエウシーニョが不在。すっかり日本代表に定着した感もある北川に期待がかかるところでしょうか。

試合の導入と両チームの狙い

両チームともに3バックシステムを採用しているこのゲーム、当然と言っていいかは分かりませんが、両チームともに3バックでビルドアップを行おうとすることになります。両チームともに3バック+2DHによるボール前進を試みていましたが、それに対するプレスのかけ方に違いが見られたのでそれを通して試合の流れを追ってみたいと思います。

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まず、清水の3バックがボールを持った場合ですが、広島の1トップの渡は立田へのパスコースを制限し、ボールサイドのシャドーがボランチへのパスコースを切りながらCBにプレスをかけていました。降りてくるDHの竹内と河井にはDHの泰志と川辺が深い位置までついていき、WBが降りてきてもWBがついていくのでフリーの選手が作れない、という状況になっていました。ただ、広島のボランチが上がっているのでその背後にはスペースがあり、中村と金子がタイミング良く降りてきてそのスペースでボールを受けてチャンスになりかける場面が何度かありました。とはいえこのスペースも毎回使えるわけではなく、しっかりサイドに追い込んだ場合には出しどころがなくてロングボールを蹴るしかないというケースの方が多かった印象です。そのロングボールも空中戦が飛び抜けて強いわけでもない北川をターゲットにしていたので回収されることが多く、広島のプレスは割とうまくはまっていたように思えます。

 

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一方、広島の3バックがボールを持った場合の清水の振る舞いはやや異なりました。最も大きく異なる点はDHに対してDHがついていかないという点で、泰志と川辺にボールが入った場合は自由を得ることができていました。野津田と柴崎に縦パスが通ってしまうリスクを嫌ったのかもしれません。では広島のように3バックに対して3トップを当てて制限したかというと、そういう訳でもありませんでした。2シャドーの中村と金子は3バックに対してプレスに行く時と行かない時とあり、3バックから完全に自由を奪えてもいませんでした。よって、後方で数的優位を得てフリーになったDHやCBから裏へのロングボールが出たり、WBを起点に攻撃を組み立てようとしていました。この状況がヨンソン監督によって計画されたものとはちょっと思えず、いまひとつ狙いが分かりませんでした。

何にせよ、広島はプレスがはまってボールを回収でき、ボールもある程度前進できていたため、広島がボールを保持し、清水が5-4-1でブロックを築いて撤退することが増えていきました。こっちの方がヨンソン監督のプランだったのかもしれません。

撤退する清水と手詰まりになる広島の攻撃

清水がブロックを組んで撤退してしまったため、広島は敵陣まで簡単にボールを運べるようになりました。ただ、相手は5-4-1なのでそう簡単には崩せません。清水の5-4-1を崩すために広島が目をつけたのは、「WBの裏」「2ライン間」の2つのスペースでした。

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WBの裏については、柏が左サイドでボールを持った場合にWBとSHが対応に出ることによってできるWBとCBの間のスペースを使った攻撃です。柏がボールを持った時に、①柴崎がWBとCBの間に走る、②①の柴崎をおとりにカットイン、③柏とボランチとのワンツー、の3パターンによって左サイドを攻略しようと試みました。ただ、クロスまで持っていったところで清水のDFはエリア内に密集しており、中央にいるのは渡や野津田であまり空中戦には期待できないため、大きなチャンスには結びついていませんでした。

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また、柏・エミル・渡が清水の5バックをピンどめしているからか清水の5と4の間には割とスペースがあったため、柴崎と野津田が引いてきてライン間のスペースで受け、そこからコンビネーションで崩そうとする動きも見られました。このあたりはミシャ式の波動を感じる形でした。泰志と川辺はスペースがある状態では積極的に縦パスを入れることができていたので柴崎と野津田がボールを受けることができましたが、そこからフリックやワンツーで最終ラインを突破するまでは至りませんでした。

ということで、広島はボールを前進できるものの最終ラインを崩せず、なかなか決定機を作り出せませんでした。42分の柴崎のシュートが六反に防がれたシーンくらいでしょうか。

一方の清水も5-4-1で守っているのでカウンターを繰り出しづらく、前述のプレス回避以外には有効なボール保持攻撃はあまり見られなかったように思います。しかし、ロングボールに反応した北川や残っていた金子、中村を起点としたカウンターが発動することが何度かあり、清水の先制点はそこから生まれました。広島が敵陣に押し込むと自陣には大きくスペースが空いており、北川の動き出しに合わせたロングボールはそれなりに有効だったと言えそうです。広島の撤退守備は前半にはほとんど見られなかったのですが、先制点のシーンでは川辺と柴崎の間のスペースが空いてしまい、そこにフェイクを入れてフリーになった金子が降りてきてフリック、北川が抜け出すという形でした。金子のテクニックと北川の決定力が光るゴールでワンチャンスを生かした清水がリードを奪い、広島はどうやってネットを揺らすのかという課題に直面したまま前半は終わります。

 

変わる並びと広島の揺さぶり、そしてパトリック

後半の頭から城福監督は並びを変更します。

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野津田と柴崎を入れ替えてシャドーの左右を変更、さらに川辺を一列前に上げてボール保持時3-1-5-1のような並びに見えました。

この変更の狙いとしては主に2つあると考えます。まずより機動力に優れる野津田を左に置いたことにより、WB裏のスペースへのランニングを高頻度で使えるようになりました。次に川辺を1列上げたことで野津田をサイドのスペースに流してもゴール前の人数を確保できるようになります。前半は片方のシャドーがサイドに流れるため柏のクロスに対してエリア内に2人しかいないこともあったのですが、得点シーンではエリア内に5人入っているなど、ゴール前に人数を割けるようになっています。また、清水は前線に北川1人しか残していなかったので、3バックと1ボランチでボール前進に十分な数的優位は確保できるため、この点でも理に適っていると思います。

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55分の柏がサイドでボールを持った際などがそうなのですが、左サイドに野津田が流れていることによって柏に対してカバーリングするはずだったSHもしくはDHが野津田に釣られてカバーしきれずにクロスを上げられる、という場面が度々ありました。パトリックを投入したことによりクロス攻撃の威力も増しているため、これらの方針は効果てきめんだったように感じます。

広島の同点弾もこうした局面が伏線になっており、柏に2人マークがついたことで佐々木がバイタルエリアでフリーになってクロスを上げたところから生まれました。このように、サイドでは野津田川辺のランニングによるコンビネーションをちらつかせながら柏の質的優位を生かし、そこからパトリックへのクロスを中心に相手を押し込んで2ライン間でのコンビネーションやバイタルエリアへの侵入も狙う、という設計はよくできていたのではないかと思います。

清水の改訂版ビルドアップ

さて、点を取りに行く必要が出てきた清水は、ビルドアップの形に変化を加えます。

DHの竹内が立田とファンソッコの間に降りて4バック+1DHのような形になります。ずっとこの形というわけではなかったですが割と多くやっていて、ミシャ式でいえば森崎カズの動きに近いような感じでした。

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この動きによって困ったのは広島のシャドーで、寄せていこうとしたらDFが一人多いし、コースを切るはずのDHはいないし、とどこを基準に守備をしたらいいのかわからなくなっていました。野津田がボールを持った立田に元気よく寄せようとしたらなぜかサイドにヴァンデルソンが開いていて追うのをやめた場面が印象的です。

さらにはこの形を逆手に取り、3バックのまま2DHの横に中村が降りてくるという前半からやっていた形も織り交ぜることで広島のプレス隊をさらに混乱させる清水。広島はこれに対して5-4-1での撤退守備を選択。清水はハーフラインまではボールを前進できたもののそれ以降はWBの単騎突破くらいしかチャンスを作る術はなく、一方の広島もボールを持てないと怖さを発揮できず、トランジションからパトリックに決定機があったものの決められず。1-1のまま試合は終了しました。

試合を終えて

広島としてはビルドアップ、敵陣からのプレスについてはある程度整備できていたものの、最後の20mの攻略はやはりパトリックに依存するところがまだ大きいなと感じました。とはいえ、最終ライン攻略にはどのチームも大なり小なり問題を抱えるのが常ですので、前半戦はある程度パトリックをちらつかせつつ、コンビネーションの成熟を図っていくというくらいで良いのではないかと思います。ただ今期やりたいことの設計図が見えたとはいえ、今日はたまたまボールが保持できただけという可能性もありますし、もう何試合か見てみないと完成度についてはわかりません。また、カウンターを食らいやすかったり撤退守備が破られたりとまだまだ前途は多難、旅は始まったばかりという感も強いところです。

清水は組織的なプレスが実装できていない点が気になりました。途中からは割としっかり撤退できていたので、立ち上がりになぜあんなに中途半端なプレスのかけ方になってしまったのかはよくわかりません。しかし、ボールが保持できないなりに効果的なカウンターも繰り出していましたし、ワンツーやフリックを用いた攻撃は相手に脅威を与えるに十分なものでした。同点になってから用いたような複数のビルドアップをうまく使い分けることができれば、状況に合わせて柔軟な戦い方のできるチームになるのではと思います。

 

それではまた、次回があれば。