#28 【2022J1第28節 サンフレッチェ広島×清水エスパルス】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は清水戦でございます。8月を公式戦全勝で終えた広島は勢いそのまま優勝争いへ。一方の清水も直近5試合で3勝2分けと好調を維持。残留争いから抜け出したい状況での一戦です。スタメンは以下。

広島は野上が不在で3バックの右に塩谷が復帰。満田マコも不在で、ナッシムがシャドーに入る形になりました。一方の清水は4-4-2。前節からはDHのホナウド→松岡の1人変更となりました。

広島対策確立中

試合は序盤から清水のペース。広島の3バックと野津田に対して4-2-3-1のような形で捕まえに行き、ショートパスによるビルドアップを許しません。特に野津田をしっかりとつかんでいるのが印象的で、ここをフリーにしないことで中央からの前進は許さないという意思が感じられました。

広島はCBからのロングボールが多くなりますが、背後を狙うというよりも中央に構えるピエロスを狙った長いボールが多くなっていました。しかしピエロスはポストプレーが強いタイプでもないのでなかなかボールを収められず。広島はなかなかボール保持の時間を作れませんでした。

また、清水はボール保持でも広島にとって対応が難しい前進方法を準備してきていました。

清水は1トップのサンタナにかなりボールが収まり、そこから広島のDHの背後にカルリーニョスが入ってくるような形が多く見られました。広島の非保持はCBがある程度競り勝てることが前提になっているわけですが、サンタナは荒木を背負ってプレーできることが多かったのでただでさえ使われやすい広島DHの背後のスペースがより使われやすくなっていました。
ここはセレッソも狙ってきていたところで、佐々木塩谷と比べて前に出てこない荒木の前のスペースは空きやすくなっているという理屈ですね。広島は松本や野津田がプレッシングで前に出ていきやすいのでなおさらここが空きやすく、ここはこの先も狙われそうです。

しかもこの試合の序盤は広島の前線のプレスに対してWBが押し上げてくるのが遅く、清水はサイドから比較的簡単に前進できていました。この点も清水が押し込む要因になっていたかと思います。
WBの押上げが遅かった理由はあんまり分かりませんが……満田マコがいないので普段ならSBまで二度追いしてくれる場面で行けなかったとかでしょうか。この試合では森島が中央の松岡を捕まえることが多かったのも原因かもしれませんね。

背後狙いから普段の姿へ

序盤に押し込まれて多くのシュートを浴びる展開となった広島でしたが、15分を過ぎたあたりからボールを持つ展開が少しずつ増え始めます。きっかけは今季強く意識している背後への動きでした。

清水のSHが広島のCB、SBがWBまでプレスに出てきたところでシャドーがSBの裏に抜けて長いボールを受けるというパターンですね。これによってプレスを回避して前進できます。相手がプレスに出てくるならその裏を突くというのは今季ずっとやってきたことですが、改めてその重要さが分かります。
こういう形で何度か前進すると、清水のSHとSBは前に出てプレスをかけづらくなっていきます。

すると今度はCBがフリーになるのでドリブルで運ぶことができます。運んだあとは縦パスを刺すも良し、逆サイドに展開するも良し。佐々木と塩谷はフリーなら精度の高いパスを出せるので、彼らの展開力を活かして前進できるようになっていきました。
また、このあたりから清水のボール保持に対するプレスも改善されていきました。WBが積極的に前に出ていくようになり、清水のSBに時間を与えません。ボール保持で清水を押し込み、ボール保持についてもうまく阻害できるようになったことで広島が押し込む時間が増えていきました。

この15分過ぎから主導権を奪い返した一連の流れはお見事でしたね。背後の動きをきっかけに清水のプレスの出足を止め、今度はサイドチェンジと間受けを使っていく。「幅」「背後」「ライン間」の3つをバランスよく使うことが重要とはよく言いますが、まさにその組み合わせで主導権を得ていったという展開だったと思います。セレッソ戦では飲水タイム明けまでなかなか脱出できなかったことを考えると、15分で脱出ルートを思い出したのは良かったと感じます。今後も広島のビルドアップに対して強いプレッシャーをかけてくるチームは多いと思いますが、相手のプレッシャーの背後にはスペースがあることを常に意識していればしっかりと対応できるはずです。

押し込んだ後の広島はいつものようにSBCB間に突撃する形で清水の4-4-2攻略を狙います。しかし清水はこのスペースをDHの松岡と白崎が粘り強く消しており、なかなか綺麗に崩すことはできませんでした。

しかもDHがついていって最終ラインに吸収されても逆サイドのDHがスライドして中央を埋めてくるので、中央のスペースもなかなか使えません。広島は清水のブロックを完全に崩すには至らず、大外からのクロスが攻撃の中心となります。それはそれでチャンスもできていましたが得点にはつながらず。清水は何とか耐えて試合を折り返します。

数的不利によるモデルチェンジ

後半に入っても広島は清水のブロックをなかなか崩せず。何度もハーフスペース攻略を試みて時間を味方につけようとする中、清水は押し込まれながらもサンタナポストプレーを軸に鋭いカウンターを繰り出してチャンスを作ります。

49分にはスローインからカルリーニョスが決定機を迎えると、60分にはクロスを跳ね返したところからロングカウンターで乾が抜け出します。これをファウルで止めた塩谷が一発退場となり、広島は数的不利に追い込まれます。
なかなか保持の局面が作り出せないながらもサンタナがボールを収められる点を活かし、カウンターパンチを打ち続けていた清水の姿勢が実った見事なカウンターでした。

広島は森島に替えて住吉を投入し、5-3-1で撤退して構える姿勢を見せます。清水がボールを保持して広島のブロック攻略へ挑む形に局面が一気に変わったわけですが、この変化への適応には清水の方が手こずっていた印象です。

5-3ブロックに対してはサイドチェンジで3センターを動かしてその手前からのクロスやWBを手前に引き出してその裏を使いたいところですが、清水は同サイドでボールを持つことが多く広島の守備陣を揺さぶるには至っていませんでした。

75分に入ってきた鈴木唯人などはWBを引き出した裏で勝負するというプレーを仕掛けており、90分近くにはサイドからゴールに迫るシーンを作り出せていましたが時間が足りませんでした。もっとも清水は広島が非保持で前に出てくる場面とボール保持して押し込んでくる場面を主に想定しているはずなので、急に5-3ブロックを揺さぶって崩せと言われても難しい話ではあると思います。
むしろセレッソ戦に続きいきなり5バックで自陣に撤退することになっても特に問題なくしのげる広島が凄いなーと感じました。まあ森保さんや城福さんの時にたくさんやりましたからね。得意技ということでしょうか。

終わりに・次節へ向けて

広島は5-3-1撤退で0-0で凌げれば御の字のところ、ドウグラスポストプレーからハーフスペース侵入に成功した川村のゴールで望外の得点をゲット。ATにはびっくりロングシュートも決まってまさかの2-0勝利となりました。正直意味が分かりませんが、チームの勢いがなせる業でしょうか。数的不利になってから即5-3-1撤退への移行、ボールが収まるドウグラスと闘える川村の投入とできることを精一杯やった結果、少ないチャンスをつかむことができました。
ここから水曜日に天皇杯QFでリベンジに燃えるセレッソ、さらに週末には川崎との直接対決も待っています。この勢いで何とか乗り切りたいところです。

清水は効果的なカウンターで数的優位を手にしたものの予想外の展開に対応しきれず悔しい結果になりました。とはいえ前半立ち上がりに見せた狙いを持ったボール前進と試合を通して有効だったカウンター攻撃は切れ味抜群でした。負けなしこそストップしたものの充実の内容で、降格はあまり心配しなくてもよさそうですね。

それではまた次回。