#31 【2022J1第31節 サンフレッチェ広島×浦和レッズ】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は浦和戦です。リーグ戦も残り4試合と佳境を迎え、広島はACL出場権の3位をキープしつつ隙あらば川崎をまくって2位でのストレートインを目指すという立ち位置。一方の浦和はカップ戦も含めて4試合勝ちなしでACL争いからも後退という状況。まずは自分たちのフォームを取り戻したいという現状でしょうか。スタメンは以下。

広島は最近定着しつつある野津田と川村のDHセット。最近流動的な右WBとCFには茶島、ドウグラスがそれぞれ入りました。中3日で天皇杯準決勝を控えていますが、ここはベストメンバーを組んできました。
一方の浦和は4-3-3。DAZNの予想では松尾1トップの4-2-3-1でしたが、彼は左WGでトップの位置には江坂が入っていました。サブにユンカーと、離脱していたリンセンがいる中でトップに江坂というのが面白いですね。流動性を意識しているのかもしれません。

ちなみに西日を気にしたのか、佐々木がコイントスでいつもと逆のエンドを選択していました。

DH周辺問題への回答

さて、この試合では浦和が最終ラインからのビルドアップを試み、広島が最前線からそれを捕まえに行くという場面が再三見られました。浦和の配置は4-3-3ということで、広島はドウグラスがアンカーの岩尾を捕まえて2シャドーで浦和の2CBにプレッシャーをかけるといういつもの形でプレッシャーをかけに行きます。IHの伊藤や小泉が降りてきたらDHの野津田川村がついて行くというのもいつも通りで、相手が4-2-3-1だろうが4-3-3だろうがオートマチックにできていますね。この辺りは今シーズン広島が積み重ねてきたものの表れだと思います。

さて、ここ数試合の広島の課題として、DHが空けたスペースを起点にボールを収められてプレスを回避されるということがありました。この試合ではそこに対する回答が見られたというのが印象的でした。

その回答というのがWBの絞りです。相手にプレッシャーをかけてボールをサイドに出させた際、ボールと逆サイドのWBがセンターサークルまで絞ってきて中央のスペースを消しに行きます。これによってDHが前に出ていった後のスペースを埋めることができ、中央からの前進は防ぐことができます。特に右WBの茶島は明らかにこれを意識的にやっていて、センターサークル付近に立っている姿が何度も目撃されました。
WBを中央に持ってくるわけなのでサイドは捨てることになりますが、ボールがサイドの高い位置にある時に逆サイドの低い位置までボールはなかなか飛んでこないのでリスクもそこまで高くありません。

この解決策を見たときはなるほどと唸りました。DHの背後を埋めるには誰かがほかのスペースを捨てないといけない訳ですが、CBが出てくれば背後が空いてしまいますしDHが出ていくのをやめれば降りていく相手の中盤をフリーにしてしまいます。そんな中で逆サイドのスペースは捨てても比較的危険度の低いエリアであり、DHの背後が空くという問題に対してリスクを最小限にして解決できるのはおそらくこの仕組みだと思います。

この仕組みに難しい点があるとすれば、WBに非常に高い戦術理解が要求されるという点です。なにせ広島のWBはボールを持っている対面のSBに対して非常に高い位置までプレッシャーをかけに行くという役割もあるわけです。というわけで、常にボールの位置を見ながら縦にスライドしてサイドの高い位置に出ていくか、それとも横にスライドして中央を埋めるかを考え続ける必要があります。単純に対面の相手についていって勝てばいいという単純なものではなく、常に集中して判断し続ける必要があるということで、非常に難しいタスクだと思います。

で、WBが中央を埋めていないとこれまで通り中央が空いてしまうので、そこを起点に前進されてしまいます。前半の35分くらいからハーフタイムまでは降りてきた江坂を起点にプレスを裏返されてゴールに迫られるシーンが何度かありました。

スペースの埋め方については方針が決まったようなので、こういう場面をいかに減らせるか、というのがここからの課題になってきます。特に茶島が絞ってくることで相手の右サイドからの前進を食い止められるか、というのがポイントでしょう。

この試合でも左WBの柏はあんまり絞ってくる様子がなかったので、恐らく中央への絞りに関しては彼はそんなに求められていないのではないか、と思います。得点に絡んできてくれれば別にいいよ的な。
逆に茶島は中央のスペースを埋めに走っている場面が何度も見られたので、明確にタスクとして設定されているはずです。8月後半から右WBに藤井の欠場が続いて茶島と野上の起用が増えたことについて、右WBにこのタスクを課すのであればたしかに納得がいきます。これなら藤井より茶島野上だろうな、という感じですね。

この試合であまりプレスを剥がされなかったのは茶島単独の功績というわけでもなく川村の起用で中盤での強度負けが減ったとかそもそも前線で奪えるシーンが多かったとかあると思いますが、タイトルのかかった10月にこれまでの課題に対する合理的な回答が見つかったのは大きいと思います。

ドウグラスの存在の大きさ

さて広島のプレッシングで2000文字も使ってしまったわけですが、広島のボール前進についてはそんなに書くことがありません。いつも通り相手を引き出してから裏返すという前進方法をしていたのですがまずドウグラスが驚異的にボールが収まり、セカンドボールについても広島の中盤が強度で勝って回収できるシーンが多かったのであんまり複雑なことしなくても前進できていた、という印象です。

浦和のミドルプレスはかなり整備されていて広島はショートパスによる前進はほとんど見られませんでした。ただ広島の長いボールでの回避がことごとくうまくいってたのでプレスが無力化されてしまったというのが浦和のつらいところ。本来ならミドルプレスで引っ掛けるか長いボールを蹴らせて最終ラインで回収、岩尾を中心として保持で落ち着きたかったという狙いなのではと思います。しかしドウグラスへの長いボールをなかなか回収できないため落ち着けず、保持するつもりだった中盤がトランジションに長い時間晒されたというのは浦和にとって誤算だったかもしれません。

ボール保持した後の広島はサイドにボールを流してSBを引き出してからその裏に人を送り込んでクロス、という攻撃が印象的でした。まあこの辺もいつもの奴ですね。そしてこのクロスに対して大外で合わせられる位置取りをするのもWBの仕事です。本当に大変ですね。

まとめ・次節に向けて

試合全体の構図として、両チームともプレッシングは整備されていたものの脱出を防げていた広島と防げなかった浦和で明暗が分かれた、という感じでしょうか。70分までに3‐0はできすぎな感じもしますが、広島が終始優勢であったとは言えそうです。浦和は62分の3枚替えから3バックに変更したのは広島対策として効きそうと思ったのですが、交替直前に得点を重ねられてしまい試合を覆すには至りませんでした。広島は3トップで3バックに同数プレスをかけるという方針があまりうまく機能したことがないので、その辺を使われると怪しかったと思うのですが。やはり試合中に急に並びを変えるのは難しいということなんですかね。

広島はWBの絞りによってDH周りのスペースをカバーしようとしていたのが好印象。この試合で押し込めたのはそれが原因かというと微妙な気もするのでもう何試合か見てみないとわかりませんが、少なくともルヴァン決勝では確実に狙われるポイントだと思うので、今週あと2試合で練度を高められるといいですね。その上で天皇杯も決勝まで行ければ最高です。期待して待ちたいと思います。

それではまた次回。

#30【2022J1第30節 名古屋グランパス×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は名古屋戦。広島は前節の川崎戦での大敗で優勝争いはかなり厳しくなりました。1週間空いて切り替えの時間はあったので、残っているルヴァンと天皇杯に向けて弾みをつけたい一戦です。
一方の名古屋はミッドウィークの川崎戦から中2日。最近は戦績も上向いており残留争いからもほぼ逃げ切れそうな様子。今シーズン3回敗れている広島にぜひともリベンジを果たしたいというモチベーションもあるはずです。スタメンは以下。

名古屋は3-5-2を採用。DAZNの予想では3-4-2-1でしたが、実際に見ていると永井と仙頭の2トップに見えました。一方の広島はドウグラスとナッシムの2トップで3-4-1-2といった様子。野津田アンカーの3-1-4-2以外のオプションということでしょうか。最近流動的な右WBには満田が起用されています。

2トップ脇を使える広島

さて、試合開始から広島がボールを保持して最終ラインからショートパスで前進していく場面が目立ちました。背景には広島の3バックに対する名古屋のプレッシャーのかけ方が原因だったように思います。

名古屋は2トップなのでそのままでは広島の3バックに対してプレッシャーをかけることは難しくなります。そこで左IHの内田が塩谷にプレッシャーをかけに前へ出てくるのですが、広島はその裏を使って前進していく場面が目立ちました。
CFのドウグラスが藤井を背負った状態で塩谷からのパスを受けて、内田が出ていった裏のスペースに落とします。広島は2DHとトップ下の森島で名古屋の中盤に残った稲垣と永木の2人に対して数的優位を確保できているので、誰かが内田が出ていったスペースに入り込んでボールを受けられるという形です。

この前進ルートは名古屋の2トップ脇を有効に使えていて良かったですね。内田が出てこないのであれば塩谷が運べばいいわけですし、藤井がドウグラスに過度に食いつけばその裏に長いボールを出す、というシーンも見られました。広島の左サイドはなかなかスペースができず前進に苦慮していましたが、右サイドからはうまく進めていたというのもうなずけます。左サイドは名古屋のIHが出て来ずに仙頭が対応することが多かったのでスペースができにくかったということですね。名古屋の守り方の非対称性をうまく使っていたと言えるでしょう。

DHを剥がして進む名古屋

一方で名古屋も広島のプレッシングに対して前進手段を確保していました。

広島は2トップ+トップ下なのでこちらも名古屋の3バックに対する噛み合わせが悪くなります。これを解消するため森島が左右のCBまで出張してプレッシャーをかけに行くことがあったのですが、そうなるとアンカーの稲垣が浮いてしまうのでDHの野津田や松本が捕まえに行きます。すると芋づる式にIHの内田や永木、降りてきた仙頭が空いてしまうのでそこにWBからパスを出して一気に脱出、という場面が何度か見られました。

名古屋は試合を通して相馬が1vs1でドリブル突破を仕掛ける場面が目立ちました。右サイドの中谷、森下を起点に広島のDHを動かしてプレスを外し、左大外の相馬まで展開して勝負というプランは明確に設計されていたと思います。

広島はここ数試合でDHを動かされてスペースを使われる場面が増えていましたが、この試合ではそれに加えて最終ラインも噛み合わせられなかったのでさらに捕まえづらくなっている、という印象でした。

お互いの修正の有用性

お互いに前進手段を持っていて得点につながりかねないクロスを上げるシーンを作り出せる展開となりましたが、もちろん両チームともプレスを外されたまま放置はしません。試合が進むにつれてそれぞれの対処法が見えてきました。

先に対応したのは名古屋。25分頃からプレスラインを下げて全体をコンパクトにし、内田を前に出した3-4-2-1を維持するような場面が見られ始めます。
また、プレスに出ていく時には内田が塩谷に対して素早く寄せて塩谷に時間を与えない他、出ていったスペースを稲垣と永木がスライドして埋めることで広島がスペースを使いづらくしるように見えました。

このあたりの複数の要素で少しずつ広島からスペースを奪い、前進を難しくできていました。

一方の広島ははっきりとした修正に見えたのはエゼキエウを投入した58分から。並びを3-4-2-1にして名古屋の3バックに対して噛み合わせをはっきりさせておき、プレッシャーをかけやすくします。

ただしこちらの効果は微妙。アンカーを捕まえづらいのは変わりがなかったため、脱出される場面も引き続きあったように思います。

広島のプレッシングは後方の数的同数を受け入れて前方へ人を送るのが基本なのですが、DHを動かされた上でCBが出ていけないようなところでボールを受けられるとやはり厳しいですね。1トップ2シャドーが逆サイドのCBを捨ててアンカーのケアをするなど、数的不利を受け入れる場所を前線に設定するなどの工夫が必要なのかなあと感じる今日この頃です。

気になる広島のネガトラ

また、この試合では広島が敵陣でボールを失ってから一気にカウンターを喰らう場面が目立ちました。今の広島のボール保持における役割分担ではかなりカウンターを喰らいやすくなると思っているのですが、それが如実に出ていると感じました。

広島はWBがボールを持った際にハーフスペースに選手が突撃していくのが常套手段となっていますが、この役割はシャドーのほかにDH(特に松本)が担当することもあります。こうなると当然中央からひとりDHがいなくなってしまうわけですが、もうひとりのDHである野津田はビルドアップのサポートのためにサイドまで移動していることが良くあります。

するとどうなるかというと、ボール保持時にカウンターに備えて中央を埋めておく選手がいなくなってしまいます。名古屋戦は保持時にボールを失うとこのスペースを狙われて一気にゴール前まで持っていかれることが何度かありました。特にこの試合はナッシムとドウグラスの2トップだったため後方からスペースに飛び出していく選手が不足しがちで、ますますDHの松本や川村が飛び出していく必要が出てきていました。

もちろん後方から選手が飛び出していくおかげで相手が捕まえづらくなるという効果もあるわけで、それによって今期の広島の攻撃力が実現されているとも言えます。その分このようなカウンターを受けるリスクは増していきますので、ハイリスクな選択をしているんだということは覚えておきたいですね。また、この試合は0-0だったので問題ないですが、ここからは一発勝負の中で絶対に失点できない状況というのも出てくるかもしれません。状況によってはDHを中央に留まらせてカウンターに備えるという選択もあっていいかなと思います。

今後に向けて

広島は今後のカップ戦2つに向けて2トップをテストしたという試合なのかなと感じました。ボール前進のルートは作れていましたが、プレッシングでの課題は相変わらず。DH周りのスペースをどうするかという課題についてはまだ持ち越しと言えそうです。

名古屋は中2日とは思えないハイパフォーマンスでしたが決定機を活かせず。しかししっかりとした予習と試合中の対応には確かな自信を感じさせました。ここからは順位を1つでも上げるための戦いとなりますが、ようやく昨シーズンのような良い結果が期待できるかもしれませんね。

それではまた次回。

#29 【2022J1第29節 川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は川崎戦。2位と3位の上位対決ですね。広島はリーグ戦5連勝中、川崎も前節敗れたものの直近5試合で4勝1敗と好調。今最も勢いのある2チームによる対戦と言ってもよいでしょう。そんな重要な一戦、スタメンは以下。

川崎は4-1-2-3。左SBに佐々木が入ったのが久々くらいでほぼベストメンバーでしょうか。レアンドロダミアン不在の中1トップには知念が入りました。
一方の広島はミッドウィークの天皇杯から中2日で6人入れ替え。ターンオーバーとも取れる大胆な起用をしてきました。WBやDHで起用されていた川村がシャドーに入っているあたりが注目でしょうか。

予習ばっちりな川崎の脱出

さて、川崎の4-1-2-3保持に対して広島は高い位置からプレッシャーをかけていきます。人の配置は今シーズン何度も見た形でした。

1トップのヴィエイラがアンカーのシミッチを監視し、2シャドーが川崎の2CBにプレスをかけていきます。川崎のSBに対してはWBが縦にスライドし、WGとCBの1vs1は受け入れます。ホームでの川崎戦でもこれで川崎の前進を許さずに押し込むことに成功していました。この試合でも序盤は川崎のビルドアップをひっかけて何度かカウンターを繰り出すことができていました。

この試合では特に左SBの佐々木にボールが出た時には野上が縦へのパスコースを切ることを意識しているのが目立ちました。これによってマルシーニョにいい形でボールを供給させないという狙いだったと思います。試合前はマルシーニョと住吉のマッチアップは心配でしたが、始まってみれば長いボールからちぎられるという場面は少なく、序盤の右サイドはうまく守れていたと思います。

 

川崎の前進を阻害しながら何度か引っ掛けてカウンターを繰り出せていたことでこれはホームでの試合の再現となるかと思いましたが、15分頃から川崎が脱出する形を作り始めます。

川崎は知念への長いボールを使って前進する場面が多く見られました。ここは対人が強い荒木とのマッチアップになるのですが、知念はうまく起点を作ることに成功していました。これはもちろん知念の強さもあると思うのですが、知念が単独で納めていたというよりも知念に当ててセカンドボールを川崎が回収できていたというイメージでしょうか。

広島のDHは川崎のIHを捕まえるために前に出て行くのですが、それによってその背後、荒木の前にスペースができます。これは直近の試合で清水やセレッソも狙ってきたところですね。例えば清水ならサンタナが荒木に競り勝ってボールを収めていました。この試合の知念は単独でボールを収める場面もありましたが、それよりは荒木の前にあるスペースにボールを逃がし、そこにIHや中央に絞ってくる家長を集めてボールを回収していることが多かったですね。

このあたりは流石の川崎という感じで、セレッソや清水が暴いていた広島の弱点を見逃しませんでしたね。知念はサンタナほど収まらないので荒木が競り勝てるのではないかと考えていたのですが、スペースにボールを逃がして回収というアプローチがあるのはなるほどなーという感じでした。

唯一の脱出ルートに立ちふさがるジェジエウ

一方広島がボールを持った際にも川崎は高い位置からプレスをかけてきます。これに対する広島の脱出ルートもここ数試合でよく見られた形でした。

広島は左右のCBがボールを持った際にWBが近づいていき、SBを引き付けます。このタイミングでシャドーがSBの裏に飛び出していく形で脱出を狙っていました。清水戦で見られた形ですが、この試合では左サイドのエゼキエウが飛び出していく形がほとんどで、右サイドではあまり見られませんでした。この辺は川村野上住吉という慣れていないユニットだったのが理由なのかなーと思います。
左サイドはエゼキエウが何度も飛び出しを狙っていましたが、ここにはジェジエウが立ちはだかっており何度も止められていました。ただ結果的にほとんど通らなかっただけで、ここを狙うこと自体は適切だったと思います。特にジェジエウは前半8分にイエローカード貰っているわけで、一度でもかわせれば大チャンスか2枚目かの二択を迫れるので尚更ここを狙わない手はなかったと思います。

それよりも厳しかったのはエゼキエウを走らせる以外の脱出ルートがなかったことです。右サイドの裏に走って長いボールを出す場面が見られなかったのもそうですが、1トップにヴィエイラを起用しているのに彼への浮き球が少なかったのも気になりました。ヴィエイラはおそらく今の広島で最もボールが収まるCFであり、直近のプレータイムも短いので彼に時間を作ってもらうという選択がもっとあって良かったかなと。

この試合の広島は短いパスで脱出を図る場面が多く、ヴィエイラを使うにしても足元に早いボールをつける場面が多かった気がします。もちろんこれで剥がせればチャンスになるのですが、地上戦では日程的に有利な川崎に強度負けして潰されるという展開になっていました。ターンオーバーしたので地上戦でも行けるという判断だったのかもしれませんが、ヴィエイラがせっかくいるので彼の持ち味を活かして欲しかったですね。

押し込めば最強の川崎

お互いに高い位置からプレスをかけながらも川崎だけが脱出ルートを確保できたということで、川崎が押し込む時間が増えていきます。

敵陣に押し込んだ時の川崎はリーグでも屈指。中央突破にハーフスペースの抜け出しや左右への揺さぶりを交えて崩しに来ます。ここ数試合は前進が難しいときは自陣への撤退で防いできた広島ですが、大外からのクロスが中心だったセレッソや清水とは異なり、川崎の崩しのバリエーションは多彩でさすがに耐え切れませんでした。

この試合では押し込まれたときにシミッチがフリーになってしまって左右への展開を許している印象があったので、自陣に引いて耐えるなら5-3-1-1にしてカウンターでの収まりどころとアンカー番を両方確保するみたいな手も考えられますが、それでも90分耐え切るのは難しいでしょう。結局は押し込まれる状況を作らないことが重要で、それができなかった時点で失点は時間の問題だったと思います。

次節に向けて

後半は右サイドに森島と満田を入れて前への圧力を増しましたが決定機を作れず、逆にトランジションから2失点。ナッシムとピエロスを入れて前に打って出ますが、プレスの規律を維持することが難しくなってしまいさらに川崎が前進しやすくなった印象でした。まあこのあたりはビハインドなので仕方ないところ。プレスがハマっていない状態で出ていけばカウンターを喰らうのは必然なので、後半の展開はやむなしでしょう。

広島としてはこの数試合で使われているDHの背後のスペースをどうケアするかという宿題を与えられる試合となりました。まあ清水やセレッソに散々狙われていたのに勝った方が不思議なくらいなので、負けたのがここで良かったと考えるべきでしょうか。
幸いにもコンペティションはあと2つ残っていますので、そこに向けて対策を練ってほしいですね。

一方の川崎は予習の成果が出た充実の内容で優勝争いに踏みとどまりました。知念やジェジエウのハイパフォーマンスも光りました。
あとは最後にマリノスとどちらの勝ち点が多いかだけの勝負。直接対決はありませんがお互いにリーグ戦に集中できる状況で、優勝争いはさらに白熱していきそうですね。

それではまた次回。

#28 【2022J1第28節 サンフレッチェ広島×清水エスパルス】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は清水戦でございます。8月を公式戦全勝で終えた広島は勢いそのまま優勝争いへ。一方の清水も直近5試合で3勝2分けと好調を維持。残留争いから抜け出したい状況での一戦です。スタメンは以下。

広島は野上が不在で3バックの右に塩谷が復帰。満田マコも不在で、ナッシムがシャドーに入る形になりました。一方の清水は4-4-2。前節からはDHのホナウド→松岡の1人変更となりました。

広島対策確立中

試合は序盤から清水のペース。広島の3バックと野津田に対して4-2-3-1のような形で捕まえに行き、ショートパスによるビルドアップを許しません。特に野津田をしっかりとつかんでいるのが印象的で、ここをフリーにしないことで中央からの前進は許さないという意思が感じられました。

広島はCBからのロングボールが多くなりますが、背後を狙うというよりも中央に構えるピエロスを狙った長いボールが多くなっていました。しかしピエロスはポストプレーが強いタイプでもないのでなかなかボールを収められず。広島はなかなかボール保持の時間を作れませんでした。

また、清水はボール保持でも広島にとって対応が難しい前進方法を準備してきていました。

清水は1トップのサンタナにかなりボールが収まり、そこから広島のDHの背後にカルリーニョスが入ってくるような形が多く見られました。広島の非保持はCBがある程度競り勝てることが前提になっているわけですが、サンタナは荒木を背負ってプレーできることが多かったのでただでさえ使われやすい広島DHの背後のスペースがより使われやすくなっていました。
ここはセレッソも狙ってきていたところで、佐々木塩谷と比べて前に出てこない荒木の前のスペースは空きやすくなっているという理屈ですね。広島は松本や野津田がプレッシングで前に出ていきやすいのでなおさらここが空きやすく、ここはこの先も狙われそうです。

しかもこの試合の序盤は広島の前線のプレスに対してWBが押し上げてくるのが遅く、清水はサイドから比較的簡単に前進できていました。この点も清水が押し込む要因になっていたかと思います。
WBの押上げが遅かった理由はあんまり分かりませんが……満田マコがいないので普段ならSBまで二度追いしてくれる場面で行けなかったとかでしょうか。この試合では森島が中央の松岡を捕まえることが多かったのも原因かもしれませんね。

背後狙いから普段の姿へ

序盤に押し込まれて多くのシュートを浴びる展開となった広島でしたが、15分を過ぎたあたりからボールを持つ展開が少しずつ増え始めます。きっかけは今季強く意識している背後への動きでした。

清水のSHが広島のCB、SBがWBまでプレスに出てきたところでシャドーがSBの裏に抜けて長いボールを受けるというパターンですね。これによってプレスを回避して前進できます。相手がプレスに出てくるならその裏を突くというのは今季ずっとやってきたことですが、改めてその重要さが分かります。
こういう形で何度か前進すると、清水のSHとSBは前に出てプレスをかけづらくなっていきます。

すると今度はCBがフリーになるのでドリブルで運ぶことができます。運んだあとは縦パスを刺すも良し、逆サイドに展開するも良し。佐々木と塩谷はフリーなら精度の高いパスを出せるので、彼らの展開力を活かして前進できるようになっていきました。
また、このあたりから清水のボール保持に対するプレスも改善されていきました。WBが積極的に前に出ていくようになり、清水のSBに時間を与えません。ボール保持で清水を押し込み、ボール保持についてもうまく阻害できるようになったことで広島が押し込む時間が増えていきました。

この15分過ぎから主導権を奪い返した一連の流れはお見事でしたね。背後の動きをきっかけに清水のプレスの出足を止め、今度はサイドチェンジと間受けを使っていく。「幅」「背後」「ライン間」の3つをバランスよく使うことが重要とはよく言いますが、まさにその組み合わせで主導権を得ていったという展開だったと思います。セレッソ戦では飲水タイム明けまでなかなか脱出できなかったことを考えると、15分で脱出ルートを思い出したのは良かったと感じます。今後も広島のビルドアップに対して強いプレッシャーをかけてくるチームは多いと思いますが、相手のプレッシャーの背後にはスペースがあることを常に意識していればしっかりと対応できるはずです。

押し込んだ後の広島はいつものようにSBCB間に突撃する形で清水の4-4-2攻略を狙います。しかし清水はこのスペースをDHの松岡と白崎が粘り強く消しており、なかなか綺麗に崩すことはできませんでした。

しかもDHがついていって最終ラインに吸収されても逆サイドのDHがスライドして中央を埋めてくるので、中央のスペースもなかなか使えません。広島は清水のブロックを完全に崩すには至らず、大外からのクロスが攻撃の中心となります。それはそれでチャンスもできていましたが得点にはつながらず。清水は何とか耐えて試合を折り返します。

数的不利によるモデルチェンジ

後半に入っても広島は清水のブロックをなかなか崩せず。何度もハーフスペース攻略を試みて時間を味方につけようとする中、清水は押し込まれながらもサンタナポストプレーを軸に鋭いカウンターを繰り出してチャンスを作ります。

49分にはスローインからカルリーニョスが決定機を迎えると、60分にはクロスを跳ね返したところからロングカウンターで乾が抜け出します。これをファウルで止めた塩谷が一発退場となり、広島は数的不利に追い込まれます。
なかなか保持の局面が作り出せないながらもサンタナがボールを収められる点を活かし、カウンターパンチを打ち続けていた清水の姿勢が実った見事なカウンターでした。

広島は森島に替えて住吉を投入し、5-3-1で撤退して構える姿勢を見せます。清水がボールを保持して広島のブロック攻略へ挑む形に局面が一気に変わったわけですが、この変化への適応には清水の方が手こずっていた印象です。

5-3ブロックに対してはサイドチェンジで3センターを動かしてその手前からのクロスやWBを手前に引き出してその裏を使いたいところですが、清水は同サイドでボールを持つことが多く広島の守備陣を揺さぶるには至っていませんでした。

75分に入ってきた鈴木唯人などはWBを引き出した裏で勝負するというプレーを仕掛けており、90分近くにはサイドからゴールに迫るシーンを作り出せていましたが時間が足りませんでした。もっとも清水は広島が非保持で前に出てくる場面とボール保持して押し込んでくる場面を主に想定しているはずなので、急に5-3ブロックを揺さぶって崩せと言われても難しい話ではあると思います。
むしろセレッソ戦に続きいきなり5バックで自陣に撤退することになっても特に問題なくしのげる広島が凄いなーと感じました。まあ森保さんや城福さんの時にたくさんやりましたからね。得意技ということでしょうか。

終わりに・次節へ向けて

広島は5-3-1撤退で0-0で凌げれば御の字のところ、ドウグラスポストプレーからハーフスペース侵入に成功した川村のゴールで望外の得点をゲット。ATにはびっくりロングシュートも決まってまさかの2-0勝利となりました。正直意味が分かりませんが、チームの勢いがなせる業でしょうか。数的不利になってから即5-3-1撤退への移行、ボールが収まるドウグラスと闘える川村の投入とできることを精一杯やった結果、少ないチャンスをつかむことができました。
ここから水曜日に天皇杯QFでリベンジに燃えるセレッソ、さらに週末には川崎との直接対決も待っています。この勢いで何とか乗り切りたいところです。

清水は効果的なカウンターで数的優位を手にしたものの予想外の展開に対応しきれず悔しい結果になりました。とはいえ前半立ち上がりに見せた狙いを持ったボール前進と試合を通して有効だったカウンター攻撃は切れ味抜群でした。負けなしこそストップしたものの充実の内容で、降格はあまり心配しなくてもよさそうですね。

それではまた次回。

#27 【2022J1第27節 セレッソ大阪×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素はお世話になっております。今節はセレッソ戦。リーグ4連勝×3連勝の好調同士の対戦です。セレッソは6月の広島戦以来負けなしでリベンジチャンス、広島は勝てば8月全勝ということで、お互いに夏を最高の形で締めくくりたいところです。スタメンは以下。

セレッソは相変わらずの442。FWが豊富な印象がありますが上門と加藤のセットとなりました。広島は3-4-2-1に回帰。2試合連続ゴール中と好調の松本が先発で起用されています。

落ち着かないし逃げられない

キックオフ直後から目立ったのはセレッソの激しいプレス。広島の3バックとアンカーにGKを加えたビルドアップ隊に対し、2トップと2SHが最前線まで出てきて自由を与えません。

SHが広島の左右のCBまで出て行って時間を奪い、WBに対してはSBが縦にスライドして出ていきます。後方ではシャドーやCFとCBが同数になりますが、そこはヨニッチや西尾の対人能力で潰すという方針です。見覚えのある方針と思われるでしょうが、広島が普段やってることと非常によく似ています。リスクはありますが、前線で奪えれば大きなチャンスにつながるやり方ですね。

広島はここまで強いプレッシャーをかけられることは想定していなかったのか、無理に繋ぎに行ってボールを失う場面が多く見られました。また、前線への逃げ道としてナッシムへのロングボールを使っていましたが孤立していて跳ね返されることが多く、効果的な前進手段とはなっていませんでした。
今シーズンの広島はビルドアップについて、最終ラインからGKを含めて丁寧につなぐという意識は持ち続けていると感じます。しかし、立ち位置を整備したりCBが持ち上がったりといったモダンなビルドアップを実装しているわけではなく、どちらかというと人を降ろして物量作戦で保持を落ち着かせているという色が強いですね。そこに人数をかけたプレッシングを行うことで破壊する、というのはなるほどなーと唸りました。

広島のプレスを見切るセレッソ

一方でセレッソがボールを持った際には広島がかなり高い位置までプレッシャーをかけに行くのですが、セレッソは広島のプレスに対してボール前進の回答をしっかり用意してきました。

広島は1トップ2シャドーのプレスに呼応してDHがセレッソのDHを捕まえに前に出てくるのですが、その裏に2トップが降りてきてボールを受けるシーンが多く見られました。広島の左右のCBは結構前まで潰しに出てくるのですが中央の荒木はスペースを気にしてか捕まえに出ていかないシーンも多く、そこでフリーになった加藤、上門がボールを受けて逆サイドに展開する場面が多く見られました。

また、左右のCBがSHを潰しに出てくればその裏にFWを走らせる形も持っています。

出てくるCBの裏を突くのは対広島としては定石と言ってもいいやり方ですが、これを降りてきたトップに刺すのと使い分けられるのが素晴らしかったですね。松田、山中という両SBの出し手としてのクオリティの高さが光る前進だったと思います。

また、広島の選手がマークを離しているとキムジンヒョンから直接パスをつながれることもあり、広島はプレスに行けば外され、行かないと繋がれてしまい苦しい状況でした。飲水タイムまで広島はシュートなしと苦しい状況でしたが、なんとかしのいでいました。

展開を味方につけた広島

飲水タイム後から広島は脱出にシャドーを使う場面が増えていきます。ナッシムにロングボール蹴る時に近くに陣取ってこぼれ球を拾ったり、ライン間で縦パスを受ける位置取りを増やしていきます。飲水タイム後すぐにこうした工夫が得点につながったのは良かったですね。
荒木の縦パスを受けた満田が起点となり、サイドに展開してセレッソのバックラインを揺さぶって大外の茶島でフィニッシュ。442攻略のお手本みたいなゴールでした。茶島はヘディング強いとは言えませんが、SBの外側から入ってくることでマーカーがアタッカーの為田になり、うまく振り切ることができました。ファーサイドで待って山中を釣った森島の位置取りも光るナイスゴールでした。

前半押されながらもリードして折り返すことに成功した広島。後半はプレス脱出と前進阻害について明確な対策を用意してセレッソに対抗します。

プレス脱出についてはSBが前に出てきたスペースにシャドーを流すという動きが多く見られるようになります。SBが前に出ていってCBはナッシムと1vs1という状況なのでシャドーは比較的フリーで抜け出しやすくなります。DFが前に出てくる裏を突くというのは前半のセレッソが広島に対してやってきたことの意趣返し。広島式プレスには対広島の脱出法で対抗ということでしょうか。自分たちがやられて嫌なことをそのままぶつけて脱出することができていました。

また、セレッソのビルドアップ対策はシンプル。リードしているという状況を活かして引き気味に構え、候補のスペースを消すことでセレッソが前進に使っていたスペースを消していきます。

後半の広島は1トップ2シャドーがCBへプレッシャーをかけずにDHを監視。広島のDHと合わせて中央で数的優位を作り、中央からの前進を許しません。CBは放置しておいてSBにボールが入ったらシャドーが出ていく形をとることでセレッソのSHはWBが監視する形となり、広島のCBは前に出ていく必要がなくなります。これによってセレッソのもうひとつの前進ルートであるCBの裏も消すことに成功しました。
リードしている展開を活かして引くことで、「前に出たDHの裏」「SHを潰しに出てきた左右のCBの裏」というセレッソの2つの前進ルートを消すことができました。逆にセレッソは前進ルートを広島がプレスに出てくること前提に設計していた影響か後半はなかなかゴールに迫ることができず。途中出場のパトリッキのスピードや清武の技術でも打開できず、山中や奥埜、清武からのセットプレーも対セットプレーで抜群の強さを誇る広島に跳ね返され厳しい展開となります。

広島はセレッソを自陣に引き込んでから効果的なカウンターを連発することに成功。終盤に松本とピエロスが追加点を挙げ、終わってみれば3-0のスコアで勝利を収めました。

まとめ・次節に向けて

セレッソの準備の綿密さと広島の対応力の高さが印象的な試合となりました。シュート数でもDAZN集計では前半がセレッソ9広島3に対して後半はセレッソ4広島10と完全に形勢が入れ替わっていることが分かります。

セレッソとしては普段のアグレッシブな広島への対策はばっちりだったものの、後半に試合を落ち着かされてからの応手が効かなかったのが痛かったですね。そして何よりあの前半でリードできなかったことでしょうか。勝ち筋は十分にあったのにそれを活かせない悔しいゲームとなりました。

一方の広島は見事な修正力で対応し勝利したものの、前半の出来は要反省。特にこの試合の前半を見てハイプレスで広島のビルドアップを破壊しに来るチームは増えるんじゃないでしょうか。次節対戦相手の清水は前回対戦時にこの試合のセレッソと似た感じのプレス回避をやってきており、プレッシングについてもセレッソから学んでくる可能性は十分にあると思います。
この試合で前半リードして折り返せたのは相当運が良かったと思うので、次節以降はしっかり対プレッシングのプランを用意しておきたいところ。立ち位置の調整やCBの持ち上がりで意地でも剥がすのか、長いボールの蹴り先を決めておくのか、試合開始から何らかの答えを見せてくれるといいなと思っています。

それではまた次回。

#26 【2022J1第26節 サンフレッチェ広島×ガンバ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はガンバ戦。広島にとっては連戦を終えて久々に休養十分でのゲームです。なんでもオフが3日あったとかなかったとか。
一方のガンバは前節清水戦の敗戦を受けて片野坂監督を解任。後任には最近招聘したばかりの松田浩コーチが昇格となりました。残り10試合、残留に向けて落とせない中での初陣です。スタメンは以下。

広島は今週加入したばかりのソティリウがいきなりスタメン。久々に3-1-4-2採用となりました。右WBには前節決勝ゴールの藤井に代わって茶島が入っています。ベンチにもいなかったのでアクシデントかもしれません。
一方のガンバは松田監督の代名詞ともいえる4-4-2。夏の新加入組であるアラーノや食野もスタメンに名を連ねました。広島的にはパトリックとペレイラという顔ぶれに懐かしさを覚えるところです。

8人で守る難しさ

さて、試合は開始早々にガンバがロングボールから2トップの推進力を活かす形で先制。長いボールを蹴ってパトリックを野津田や森島と競らせるのはなるほど、という感じでした。

先制点が入ったからというよりはもともとそういうゲームプランだったのでしょうが、ガンバは広島の3バックとアンカーをほとんど放置して4-4-2で引き気味に構えます。

ガンバは4-4のブロックを形成していましたが左と右でやや対応が違いました。左サイドはWBにボールが出た場合SHの食野が出て行ってSBを動かさないようにしていたのですが、右SHのファンアラーノはCBまで出ていき、結果としてSBの高尾が柏に対してプレッシャーをかけに行くことになります。
その結果空いたスペースにIHの満田が飛び出していくシーンが何度か見られました。広島の1点目なんかはまさにこの形でしたね。また、広島はIHの飛び出しに限らずWBやFWがガンバのSBCB間を狙うシーンが多く見られました。そしてガンバはSBとCBの間に侵入された場合はDHが下がってスペースを消すのではなくCBが出てきて潰す!という仕組みになっていたかと思いますが、そこで潰しきれないと1点目とか5点目とかみたいになってしまうということですね。

広島は満田だけでなく森島も逆サイドでSBの裏を狙う動きをやっていましたので、両サイドでこのパターンを狙っていたのだと思います。しかし、ガンバの守備方法が両サイドで異なり、広島の狙いがハマりやすかったのがアラーノと高尾のサイドだったのかなーと思います。

アラーノと高尾が前に出ていく守備方法もありだと思うんですが、2トップが広島のビルドアップ隊を放置しているという状況とかみ合ってないという印象でした。2トップがCBとアンカーを放置しているので、CBにプレッシャーをかけても逆サイドに蹴られたりアンカーを経由してWBにパスをつけられたりして脱出されてしまいます。

この試合では広島のCBやアンカーから逆サイドへのサイドチェンジが多く見られるのですが、それも2トップによるプレッシャーがかかっていないことが原因だと考えられます。また、ガンバの4-4ブロックはかなりスライドが速く、ボールと逆サイドにはかなりスペースがあったこともサイドチェンジが決まりやすかった原因でしょう。
このゲームを通してガンバは広島のビルドアップを制限することはできず、広島はかなり好きなように前進することができていました。

この試合の広島の得点はスーパーゴールが多かったですが、シュートが理不尽だっただけでそこに至る道筋はかなりしっかりデザインされていたように思います。ガンバのSHSBが前に出てくることを利用してSBCB間に侵入して得た1, 4, 5得点目と、アンカーがフリーなことを活かしたサイドチェンジから挙げた2点目と3点目。いずれもデザインされたボール前進を結果に結びつけた素晴らしい5得点でした。

茶島の起用は旋回のため?

割と容易にボールを前進できる広島はガンバの守備をどのように崩すかという課題に直面しますが、ここで見られた工夫がサイドの旋回です。役割交換とも言えるでしょうか。

28分辺りに見られたのが綺麗だったんですが、森島がボールをもらいに下がったタイミングでWBの茶島がシャドーの位置に入り、CBの野上がWBの位置に入ってきました。ここから茶島に縦パスが入って前進しましたが、大外で野上がフリーだったので使っても良かったなーというシーンです。
森島、茶島、野上はいずれも複数のポジションでプレーできるのでこういった役割の交換が可能なわけですね。WBに藤井がいると単独での突破は期待できますが、彼は大外から動かせないのでどうしても相手のマークがはっきりした状態からの勝負になります。ここに中盤でもプレーできる選手がいると役割を交換して相手のマークを外しやすくなるという訳です。もちろん各選手が複数のポジションでそれぞれ求められる役割(裏抜けとか、引いてボールを受けるとか、ネガトラ準備とか)を理解する必要があるので難易度は高いんですが、うまく機能すれば相手としてはかなり守りづらい攻撃になります。
左サイドでも佐々木が柏を追い越して行ったり満田がサイドに開いたりと崩しのバリエーションが増えていますので、ぜひこういったチャレンジは続けていってほしいですね。

収支はマイナスなのか

さて、この試合ではガンバはほぼ8人で守って2トップはカウンターに専念するというやり方を採用したわけですが、5-2で敗れる結果となりました。やはり現代サッカーでは相手に自由なビルドアップを許すと守り切るのは難しいんだなということが感じられましたね。広島の5得点は出来過ぎですが、広島に限らずJ1の多くのチームは8人の4-4で守るチームからであれば複数得点取れると思います。

とはいえ、だからガンバのこの方針が間違いとは言い切れないのが難しいところ。現にガンバの攻撃陣は2得点と結果を出しています。この試合でも3点目を取れるチャンスがあり、そこが決まっていれば現実的に逃げ切りもあったと思います。
パトリックを中心としたロングボールによる前進も相手が広島の対人が強いCBだったから苦しかっただけで、今後はもっとボールを納められる場面も増えていくことでしょう。
リーグでは指折りのタレントを揃えるFW陣を揃えているチームですから、彼らをカウンターと陣地回復に専念させるというプランは十分成り立つ可能性もあります。相手との力関係も踏まえてFWにどの程度の守備タスクを課すのかがキーポイントとなってくるでしょう。4-4-2を得意とする松田監督の手腕に期待です。

それではまた次回。

#25【2022J1第25節 柏レイソル×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は柏戦。広島にとってはカップ戦を含めた5連戦のラストゲームです。東京→横浜FM→鹿島→横浜FM→柏という上位勢続きのボスラッシュもこれでひと段落。日程的にはかなりつらいですが、もうひと踏ん張り期待したいところです。スタメンは以下。

広島は負傷の塩谷に替わり川村が先発。左WBで起用されており、野上がCBです。彼も横浜FM戦負傷交代でしたが、大事に至らなかったようで何よりでした。
一方4連勝中の柏は劇的勝利となった京都戦から2人変更。結果を出した武藤がスタメンの座を射止めています。
別にどうでもいいけどピッチ上に外国人がナッシムしかいないですね。珍しいかも。

 

中盤を動かしてその先は

さて、試合は開始早々に広島がセットプレーから先制。ただし先制点がお互いの振る舞いに影響を与えたようにはあまり見えませんでした。つまりお互いにしっかりと自陣からビルドアップで前進しようとするし、敵陣までプレッシャーをかけるのをやめてもいませんでした。

広島が最終ラインでボール保持した際には柏は2トップでサイドに追い込む形を取ります。

2トップが広島のDHへのパスコースを消しながらCBにプレッシャーをかけてサイドに追い込みます。広島はWBを下げ、柏のWBがついてきたらその裏にシャドーを流して前進を試みますが、柏はWBとCBがしっかりついていって自由を与えません。CBは長いボールを蹴るか、ナッシムに縦パスを刺すかくらいの選択しかできず、苦しい状況になります。特に広島の右サイドは完璧に近い封じ方をされていました。

柏は2トップのプレスが間に合わない場合はIHを前に出してくるので、まずはこの状況を作り出せるまで最終ラインで回しても良かったのかなーと思います。
ただこの状況にしてもWBとシャドーの振る舞いは変わってなかったのでチームとしてこのスペースを狙えていたかは微妙です。時々野津田がここに入ってきて受けるシーンはありましたが、それくらいでしょうか。

前半の広島は柏の陣形を歪ませてそこを使う、という前進はできておらず、かといってナッシムが時間を作れるわけでもなかったので保持に関してはなかなか苦しかったという印象です。前半のシュート数が3、枠内シュートが先制ゴールの1本のみという事実がそれを物語っていると言えるかもしれません。

人を動かしてスペースを作る柏

柏がボールを保持した際は広島の1トップ2シャドーは積極的にプレッシャーをかけていきます。

広島は左右のCBにボールが出た際にシャドーがプレスをかけてサイドに追い込み、WBをWBが捕まえてコースを消しに行きます。この際アンカーへのパスコースは逆サイドのシャドーが頑張って消すことを目標にしている感じに見えました。こうすることで柏の3バック+アンカーの4人を1トップ2シャドーの3人で止められますね。
IHに対しては野津田と松本がマンツーマン気味に監視します。
ただこの形はあくまで理想で、逆サイドに展開されてスライドが間に合わないときもあります。そうなったときは後方の数的優位があるので人を前に出すようにしていました。CBの高橋に対して松本、IHの土屋に対して佐々木が出ていくような場面も見られましたね。

また、柏は三丸が高い位置を取って小屋松がサイドに降りていく場面も見られました。これには野津田か松本がかなり深くまでついて行くので中央のパスコースが空き、そこを通して2トップまで直接縦パスを打ち込むというシーンも見られました。
とはいえ広島としては後方に数的優位があるので縦パスを打ち込まれても何とかなる、小屋松をフリーにして芋づる式にずらされる方がまずいという判断だったと思います。これは理解できるところですね。

広島は非保持時のプレッシングについてはそこまで悪くなかったと思うのですが、保持でうまく前進できずに相手にボールを渡してしまう場面が多く、自陣で過ごす時間がいつもより多くなったのが想定外だったでしょうか。
撤退しても3CBの強さである程度は守れるのですが、失点シーンではボール保持者にプレッシャーがかかっていない状態で荒木が前に出たところを使われて失点となりました。ホーム柏戦での失点もこんな感じでしたね。

深さの重要性

さて、後半は開始早々に柏が勝ち越し、これによって柏はややプレッシングが控えめになります。具体的に言うとIHがCBまでプレッシャーをかけに出てくることが減りました。
広島はこれに対してCBの持ち上がりとWBの裏狙い、ドウグラスポストプレーで深さを作って対処するようになります。

柏のIHが出てこないので広島のCBは高い位置である程度時間を得られるようになり、高い位置までドリブルで上がれるようになります。また、WBが背後に抜けてそのスペースにシャドーが降りてボールを受ける動きも多く見られるようになりました。シャドーに対してCBがついてくればドウグラスに長いボールを蹴って収めてもらうこともできます。複数の前進ルートを持っている広島は、柏がやや引き気味に構えたこともあって押し込めるようになっていきました。

ただし柏もロングカウンターの狙いは忘れていません。ボールを奪ったら高い位置を取ったCBの裏に走る武藤に長いボールをつけることでカウンターの起点に。広島はDHやCBを高い位置に上げる分、柏が高い位置に進出できれば一気にチャンスになります。

お互いに狙いを形にできている展開の中、得点したのは広島。左サイドで森島と柏のコンビネーションからクロスを上げて最後は松本のミドル。このシーンでは森島が高橋を引き出した後のスペースを柏が走り込んで使うというアイデアが秀逸でしたね。

さらに畳みかける広島は67分にカットインした藤井のクロスが直接ゴールインで逆転。縦への突破が警戒されていた藤井のカットインは意外性があってよかったですね。柏の方は押し込まれる時間が増えていたためこういう事故が起きやすくなっていたとも言えます。特に武藤が先述したカウンターの起点に加えてIHが出てこないのでプレッシングの先鋒としても働いていため消耗が激しく、彼を起点に自陣を脱出できなくなっていたのが効いていたかなーと思います。

ビハインドとなった柏はFWやIHを交替して勢いを増そうとしますが、ドウグラスを起点に前進する広島にうまく時間を使われて押し込むことはできず。小屋松や椎橋が下がったことで彼らのポジションチェンジや縦パスを起点とした攻撃ができなくなったのも大きいかもなーと感じました。

今後に向けて

広島は上位陣との連戦を4連勝でフィニッシュ。メンバーを固定して相当しんどかったと思いますがしっかり結果を持ち帰れたのは素晴らしいですね。負傷者も出ましたが、野上川村のWBなど新しいオプションを得られたのも好材料でしょう。新ストライカーの加入も発表され、タイトル獲得に向けてチーム状況は上向きなのではないでしょうか。

柏は連勝が4でストップ。ハードワークできるし戦術の切り替えも意思統一してしっかり行える、上位にいることも納得のチームでした。この試合で気になったのは保持で小屋松や椎橋への依存度がやや高いかな?ということくらい。細谷も相変わらず脅威でしたし、この負けでチーム状況が悪くなるとは考えにくいと思います。

それではまた次回。