#11 【2022J1第11節 サンフレッチェ広島×柏レイソル】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今回は柏戦。ゴールデンウィークということで僕も久々にエディスタに行きました。付き合ってくれた友人に感謝。

思い返してみたところエディスタに行くのは初優勝した2012シーズン以来なので10年ぶりでした。まあ広島に住んでないからね……

前回参戦がこれなので本当にちょうど10年ぶり

移動制限のない連休ということで観客数も1万人超えと上々でした。そんな柏戦、スタメンは以下。

広島はいつも通りの3-4-2-1。野津田と塩谷がスタメンに復帰しました。柏は3-1-4-2に見えました。序盤は中村と椎橋の2DHで3-4-2-1っぽかったのですが、徐々に3-1-4-2にシフトしていったのでこのように表記しています。

プレス対策を仕込んできた柏

さて、この試合でも広島は前線からのプレッシングを敢行します。アンカーの椎橋をサントスがマークしつつ、森島と満田の2シャドーで柏の3バックにプレッシャーをかけるというのが狙いに見えました。これで柏のビルドアップをサイドに誘導して奪うという算段だったかと思いますが、柏はしっかり対策を施してきました。

WBの選手が高い位置を取ることで広島のWBを押し下げ、その空いたスペースに左右のCBが進出してくるという方法です。札幌戦でルーカスフェルナンデスがやってきたやつですね。
ここに進出できれば2トップにくさびを入れるなり広島の中盤がスライドしてきたところの逆を取って横断するなりいろいろできます。

また、これを嫌って広島のWBとCBが縦にスライドしてきた場合は前に出てきたCBの裏が空くのでそこに長いボールを蹴って2トップを走らせます。アンジェロッティと細谷はキープ力があるためこの形でも十分前進できる可能性はありますね。

このように柏は広島の対応を観察しながら後出しで前進ルートを選択するだけの準備をしっかりと行ってきました。こうなった以上柏の前進ルートを完全に遮断するのは難しいので、広島が狙うべきは素早いプレッシングで柏のビルドアップ隊から時間とスペースを奪うこと。ボールホルダーに圧力をかけ続けて判断ミスを誘い、高い位置でボールを奪うというのが目指すべき展開のように思います。

その観点で不満だったのがWBのプレッシング強度です。柏のボール前進はサイドに開いたCBからのボールが生命線なので、広島のWBが縦へのパスコースを遮断しつつ素早くプレスをかけられればボールを奪える可能性は上がります。
しかしこのゲームでは広島のWBはボールホルダーに寄せていくものの距離が遠く、自由なパスを許してしまうという場面が何度もありました。
縦に長いボールを蹴らせてしまうだけでなく、WBとCBのワンツーで剥がされてしまう場面もあり、柏のビルドアップ隊は比較的自由にプレーできていたと思います。

こうした状況が続き、後半になると上がってきた柏のCBについて広島のシャドーは下がる場面が増えていきます。そうなるとCBには誰がプレスに行くのか、アンカーは誰が消すのか等が曖昧になってしまいますね。

それが最も顕著に出た場面の一つが同点ゴールのシーン。森島が高橋について下がったことでCBがフリーになり、そこにサントスがプレッシャーをかけに行ったことでアンカーの椎橋がフリーとなり、2トップまでのパスコースが空いてしまいました。
小屋松を野上が捕まえる形にはなっていたので野津田が出ていければ良かったですが、野津田が本来捕まえる選手ではないので瞬時に判断するのは厳しいものがあったでしょう。そこを逃さなかった椎橋の判断が光るゴールでした。
前半から再三前に出てきた広島の裏を取り続けることで広島のプレッシングを躊躇させ、空いた中盤を使う。柏が前半からやり続けてきたことが実った得点でした。

サイドの攻略方法

一方広島のボール保持についてはこれまで見られたのと同じような問題が見て取れました。

3バックから野津田塩谷へうまくボールを渡せたときは良いのですが、中央へのコースがふさがれたときにサイドのWBとシャドーが両方ボールを受けに下がってきてしまうことが多々ありました。こうなるとパスコースがないので裏に蹴るか、WBに当てて中央へ振り向きざまのパスを送るくらいしか手がありません。
この状況から裏へのロングボールでサントスへ、というシーンもありましたがその後どのようにボールと人をゴール前に送り込むかの設計まではされていないように見えました。このあたりは柏との設計の差を感じましたね。

また、87分の失点はサイドでのパスミスを奪われてそのままカウンターでやられたものですが、このシーンもWBとCBにプレッシャーがかかった状態でした(シャドーの浅野は気づいて裏に走ろうとしていますが……)。サイドからの前進ルートのなさが失点を招いたとまでは言えませんが、柏のように高い位置でCBをフリーにできていればサイドでのミスが即ピンチに繋がりにくくなったのかもしれません。

ちなみにサイドからの前進という意味では柴崎の投入に可能性を感じました。

相手のWB裏に走ることでCBをサイドに引き出し、WBやDHの追い越しを促します。また、CBが潰しに出られなくなるので中央へのパスコースも空けることができますね。左利きの野津田や東と組むとクロスが上げやすくなるのでさらにグッド。ある程度高い位置まで運んでからでないと効果を発揮しませんが、福岡戦やこの柏戦のような得点の欲しいタイミングでは今後も目にすることになるのではないかと思います。

今後に向けて

広島としては強みのプレッシングが空転し、ビルドアップでもなかなか活路を見出せない苦しい試合でした。勝ち点1取れれば御の字のところでミスからの失点で敗れましたが、まあ文句は言えないでしょう。プレッシングでは強度と意思統一が足りず、ビルドアップでは立ち位置で相手を動かすという設計が足りず。まだまだ課題がたくさんあることに気づけましたね。

柏は連敗をストップして自信になる一勝。この試合だけ見るとなんで3連敗してたのか分からないくらいちゃんとしたチームでした。森海渡という新星も現れて点を取れる選手が豊富にそろっており、今後も上位争いに加わっていけるだけのポテンシャルを感じました。

それではまた次回。

あと何回来られるだろうか



 

#10 【2022J1第10節 清水エスパルス×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は清水戦。前節に続き雨の中での試合となりました。スタメンは以下。

広島は前節から変更なしの11人。清水はサンタナが復帰して2トップの一角に起用されています。

プレスを逆用する清水

広島はこの試合も前線から激しくプレッシャーをかけていきますが、空転して何度か決定機を作られていました。

広島は2シャドーが清水の2CBにプレッシャーをかけ、サントスがDHを監視する形。ただし清水が2DHで一人余ってしまうためそこは東が出てきて捕まえることが多かったですね。そしてSBに対しては両WBが出ていきます。

4-4-2に対する広島の対応としては通常営業という感じなのですが、これで困ったのは中盤に残された松本。降りてくる鈴木唯人と中央に入ってくる白崎のどちらを捕まえれば良いか分からず、空けた方から前進させてしまう場面が何度かありました。

前にサンタナが残っているだけに3CBが出て行って潰すという対応も取りづらく、実際野上が白崎に対して出ていったときにはその裏に長いボールが出てサンタナが走るという設計になっていたように思います。精度の高いボールを蹴れる山原と中央でもプレーできる白崎を左サイドにそろえているからこその前進で、広島のプレッシングを研究したとても理にかなった戦略だったと思います。

"裏"と"ライン間"の組み合わせ

一方の広島は前半はうまく前進できていませんでした。これは前節に引き続き、背後に抜ける動きの少なさが原因のように感じましたね。

特に右サイドは藤井も森島も下がってくる場面が多く、清水のプレッシングをもろに受けているような感じがしました。25分頃から森島と満田の左右を入れ替えたのですが、右サイドに裏へ走れる満田を配置することでスペースを作ろうとしたのかもしれませんね。

なお、後半からは2シャドーの左右が元に戻り、藤井の裏への動き出しも増えたように感じました。ハーフタイムにその辺の役割分担を整理したんじゃないかなーと思います。

執拗にハーフスペースを狙う

後半から2DHと1トップを後退した広島は、ビルドアップの形を変えることで一気に清水を押し込みます。

後半から入った塩谷は中盤から最終ラインに降り、右CBの野上を高い位置に押し出します。また野津田は中盤で自在に動き回り、清水のDHが捕まえづらい振る舞いをしていました。この辺りの仕組みによって清水のプレッシングを回避し、ボールを前進させることができていましたね。

また、ボールを前進させたらWBが高い位置でSBを引き出し、CBとの間をシャドーが使う動きは両サイド共通で行っていました。この辺はもう板についてきましたね。敵陣深い位置への侵入からのクロス攻撃は完全に広島の強みとなっていることが感じられました。

清水はこのスペースを埋めるために配置を変えたりしてくるかなーと思いましたが、FWのディサロを投入するくらいで4-4-2から変えてきませんでしたね。前線で収まりどころを増やしたいという狙いだったかもしれませんが、最終盤に広島のビルドアップにミスが増えるまでは苦しい時間が続いていました。

今後に向けて

広島は後半に多くのチャンスを作ったものの、前半の不振と得点直後のナイーブな失点が響いて1ポイントどまり。というかそれだけの要素があって1ポイントなら御の字という気もします。
特に前半に打たれた対策については気になるところ。高い位置からプレッシャーを仕掛ける都合上、DHとCBのカバー範囲はどうしても広くなります。この弱点をどう隠すかは今後も問われそうですね。

一方の清水は理想的な前半を過ごしたものの後半追い上げられて勝ちきれず。前半のうちに2点取ってしまうか、後半の広島の猛攻を凌ぐ手当てが欲しかったところでしょうか。
5バックにされたらきついなあと思ったのですが、そういったオプションは今後見られるかも気になるところですね。

それではまた次回。

#9 【2022J1第9節 ジュビロ磐田×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は磐田戦。現地に行きましたが雨の備えが不十分だったので荷物と上着が酷い目にあいました!スタメンは以下。

広島は野津田と塩谷が不在のDHに東と松本泰志のセットを起用。1トップは永井がベンチにも入っておらず、サントスの起用となりました。
磐田は前節から松本昌也、上原の2人が変更。3-4-2-1のミラーゲームとなりました。

苦しい広島の保持

立ち上がりはいつものように広島がプレスを仕掛ける展開。カウンターからサントスや満田が抜け出すなどチャンスを作りますが、これは決めきれず。

すると磐田は守備からリズムを取り戻します。

磐田は広島の最終ラインをけん制しつつ、広島のシャドーにボールが入ったタイミングでCBやDHが一斉に挟み込む形で狙い撃ち。特にCBが背後にスペースを空けることも厭わず積極的に飛び出してきました。

広島はこれに対して出てくるCBの裏に走る選手を置いたりシャドーとWBの連携で外していければ良かったのですが、前半はWBの位置が低くシャドーは孤立気味。CBの裏に飛び出す動きも多くはありませんでした。もしかするとシャドーのところにこれだけプレッシャーがかかることを想定しておらず、ここで時間を作れると予想していたのかもしれません。
サントスはサイドに流れて受けようとする動きを何度かしていたのでそれをもう少し計画的にできれば……!と思いましたがなかなか繋がらず。

プレッシャーが強いのを見てシャドーは少しづつ受ける位置を下げていきますが、これによってさらにスペースがなくなり奪われる位置が高くなる悪循環に。
前半の広島はビルドアップについてはかなり厳しい状況だったと思います。

磐田の狙いが結実した先制点

また、磐田はボールを奪った後の狙いどころについてもしっかりと共有されていました。

ボールを保持した磐田はDHの上原が高い位置に進出して遠藤の1アンカーのような形に。中盤で数的優位を作ってサイドでのパス交換で広島のWBやCBを引き出して遠藤に落とし、1タッチでその裏を狙う!という形を何度も作り出していました。
広島のCBが即時奪回を狙って前に出てきやすいことと、DFラインはそんなにスライドしないのでスペースが空きやすいという特徴を綺麗に利用されているという感じでしたね。

磐田の先制点はまさに狙っていた形から。グラッサが満田から高い位置でボールを奪うことに成功し、前に出ていた野上の裏をとってからのゴール。準備していた2つのプランがばっちりハマる形で先制点も奪え、磐田にとっては最高の前半だったのではないでしょうか。

背後を狙うことの重要性

前半は強みを封じられていた広島ですが、後半開始直後のプレーで同点に追いつくことに成功します。カギとなったのは前半には見られなかった背後への動き。

後半の広島はシャドーとWB、さらにはDHの松本までもが磐田のDFラインの背後に積極的に飛び出していきます。同点ゴールは松本、逆転ゴールは柏と森島がそれぞれ相手の背後に抜けだしたところから生まれましたね。
前半で磐田のCB裏は空きやすいということが分かったので、ハーフタイムにそこをチームとして狙う姿勢が共有されたのだと思います。裏を狙う意識が高まったからかWBの位置も高くなり、シャドーやDHとのスムーズな連携が見られるようになったのも良かったですね。

特に広島の左サイドは
①鈴木雄斗が前に出てくるのでその裏のスペースが空きやすい
②背後をカバーする役割の大井と遠藤はスピードがない
③広島は左DHの松本まで飛び出してくるので捕まえづらい
④WBの柏がカットイン型なので裏へ走ることによってドリブルのコースを作れる
といった背後への抜け出しが刺さる要素がこれでもかと詰まっており、満田の逆転弾までの間にも何度も決定機がありました。

磐田の伊藤監督もすぐに気づいて①②の対処のため右サイドに吉長を準備しましたが、交替する直前に逆転される形となりました。「相手の背後に走る」というだけでここまで形勢が変わるのかと驚かされる展開でしたね。

~試合終盤、今後に向けて

ビハインドとなった磐田は鈴木雄斗をCBに置く攻撃的な配置に打って出ますが、ブロックを作った広島をなかなか崩せず。逆に低い位置でボールを失い、遠藤アンカーシステムによって薄くなった中盤を通過されて決定機を作られる場面もありました。

それでもファビアンゴンザレスの投入から前への圧力を強めると、89分にサイドからのクロスを押し込んで同点とすることに成功。
広島としては何でもないサイドチェンジからサイドの広いスペースで1vs1を作られてしまい、そこに中央でのクリアミスが重なってしまう痛いミスの連続でした。この辺は5連戦や離脱者の多さによる疲労が響いているような気がしますね。
とはいえ前半の出来からすると後半の巻き返しはお見事。欲を言えば前半のうちに機能不全の原因に気づいて裏抜けを多くしてほしかったです。前半ATにはその兆しがあったような気もしますが。

あと、最終ラインがスライドしないことで広いスペースを与えてしまう点はこの先も狙われそうだな……という気がします。5バックなのでもうちょっとCBがスライドすることは許容してもいいんじゃないかという気がしますが、どうでしょうね。これ以上CBにタスクを求めるのは酷かもしれません。

一方の磐田は1stプランは完璧にハマったものの、きっちり対応されて手詰まりになったという印象。遠藤を起用している以上後半のような背走させられ続ける展開は避ける必要があるので、やはりボール保持と崩しの質を上げていくことになるのでしょうか。とはいえJ1にはボール保持の先駆者がたくさん。どのように居場所を見出すのか気になるところです。

それではまた次回。

また来ます

 

#8 【サンフレッチェ広島×アビスパ福岡】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は福岡戦です。スタメンは以下。

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広島はまさかのDH両入れ替え。試合前に新型コロナ陽性のリリースがあったのでその関係なのでしょう。代わりに青山と東が抜擢されています。福岡はいつもの4-4-2。SHの金森と田邉はやや守備的なセットと言えるかもしれません。

相手のやりたいことを封じる

この試合の福岡から強く感じられたのは、「とにかく広島に気持ちよく試合を運ばせない」という強い意志。広島のやりたいことにこれでもかと制限をかけてきました。

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福岡が狙うプレッシング

広島の左右のCBがボールを持ったタイミングでSHとSBが連動して前に出ていって縦へのパスコースを遮断。広島のパスルートをCB→WB→DHと誘導して中央で奪い切る、というのが福岡の狙いでした。これはよくハマっており、広島はうまくボールを前進させられませんでした。また、福岡は奪ったら広島のカウンタープレスが発動する前に素早く前線にボールを送る傾向が強く、ここでも広島はやりたいことがさせてもらえません。

とはいえ、広島のボール保持がうまくいかなかったのは福岡の狙いが良かったからというだけではないように思いました。

数的優位は大事?

この日DHで先発した青山は、福岡のプレスを見て最終ラインに降りて受けようとすることが多くありました、特に前半。これによって最終ラインで数的優位は確保できるのですが、4人が一列に並ぶことで選手間の距離が狭くなり、福岡は3人でも十分にプレッシャーを与えることができていました。

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こうなると中盤に青山がいないため、サイドでボールを受けた藤井は完全にパスを出すところがありません。何とかドリブルで打開しようとしますが、この試合では徹底的に縦方向を塞ぐ対応をされており、さしもの藤井も突破することは難しそうでした。

この日広島の右サイドはなかなかボールを前進させられませんでしたが、藤井が対策されていたという以外にも青山が降りて行ってしまうのが原因だろうなと感じましたね。

ここから僕の推測になるのですが……青山という選手は抜群の視野の広さとパスの正確性を持っているがゆえに、ふつうのDHと比べて「時間とスペースの配り方」がパスに特化しているんじゃないかな、と思います。
そういう選手なので当然前を向いてボールを受けられないと意味がない。という訳で、より安全に前を向ける最終ラインに降りたり、ボールがサイドにある時にそこまで出張していってしまうのではないでしょうか。それで実際に決定的なパスを出せてしまうのが彼の凄いところです。

とはいえこの試合のように周りの選手が苦しくなってしまうこともありますし、立ち位置が偏ることでこぼれ球を拾えなくなってしまうというデメリットもあります。青山を見ているとトランジションの局面で遅れているように見えることがありますが、スピードが不足しているというよりはそういったアンバランスな立ち位置が一因かもしれませんね。

機能した左と後半の修正

一方で左サイドは右に比べると福岡のプレスから脱出できる場面がちらほら。

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21分の左サイドの脱出

例えば21分に見せた前進は、シャドーの満田が裏抜けしてDHの中村を動かしたことで中央で東が受けられました。中盤は数的優位なので、東が中央にいることで福岡のDHを動かしたスペースで受けられたんですね。配置のミスマッチを利用した良い駆け引きでした。
東はこの試合ミスも多かったですが、いるべき場所にいることで自分がフリーになったり味方をフリーにしたり、という仕事を果たしていたと思います。

また、後半に入ると青山が最終ラインに降りる場面が激減しました。ハーフタイムに指示があったんじゃないかなーと思いますが、こうなると福岡のDHは広島のDHとシャドーどっちを見れば良いのか迷いやすくなります。

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後半は森島や柴崎に直接パスが入る場面がしばしばありましたが、DHがうまく福岡のDHを引き付けられていたことが理由なのかなーと思います。
3バックがプレスを受けて余裕がないときは大迫まで下げて回避という選択ができるようになったのも好印象。後半のビルドアップは整理されていたなーと思います。

今後に向けて

福岡のプレスを無力化しつつ敵陣で試合を進められるようになった広島。永井のPK失敗もあったもののラストプレーで柴崎が決めて3連勝を飾りました。
得点自体は福岡守備陣のエラーという側面が大きいと思いますが、粘り強く前進に取り組み続けたご褒美がもらえたということでいいんじゃないかな、と思います。
野津田と塩谷というチームの心臓を欠き、藤井の突破力を削がれながらも3ポイントもぎ取ったのは大きな意味があると思います。

一方の福岡はほとんどチャンスを作れず連敗。相手の前進を阻む連動はさすがでしたが、どうやって点を取るか?という部分が気になりました。
最も強い得点パターンは中央高い位置で奪ってのカウンターだと思いますが、それが炸裂しないとビルドアップは大外レーンを使って最後はクロスというパターンなのでCBが強いチームから点を取るのはなかなか難しくなります。
ルキアンが爆発してショートカウンターから得点量産するのが一番簡単だと思いますが、それができなければボール保持からどうやって点を取るかというソリッド4-4-2永遠の課題に挑む必要が出てきそうです。

それではまた次回。

#7 【J1第7節 サンフレッチェ広島×横浜F・マリノス】

はしがき

平素は大変お世話になっております。ミッドウィーク開催のマリノス戦です。
スタメンは以下。

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広島は前節から浅野に代わって柏を起用。満田と森島のシャドーという組み合わせになりました。マリノスは前節から6人変わっており、ACLを控えているというチーム事情が垣間見える編成となっています。

確立した対4-3-3プレス

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この日のマリノスは喜田アンカーの4-3-3。ということで広島はこれまでの数試合で確立した4-3-3対策をこの日も披露することになりました。1トップの永井がアンカーの喜田を消しつつ、森島と満田の2シャドーがCBにアプローチ。両SBには柏と藤井の両WBがそれぞれプレッシャーをかけていきます。
マリノスはGKの高丘を使ってプレス回避しようとする場面もありましたが、そこは2シャドーがCBへのパスコースを切りながら寄せて無効化しており、これまでの積み上げが感じられました。

そんな中、マリノスの左サイドは逃げ道として度々機能していました。山根が降りたり小池を経由してエウベルまでボールを届けられればスピードで対面の野上を外して一気に前進できます。マリノスはこの形で逆サイドの宮市に際どいボールを入れるシーンを何度か作り出したほか、野津田と野上にイエローカードを出させることに成功していました。

列落ちへのマンツーマン対応

この形で脱出できることでしばらくはマリノス優勢だったのですが、30分頃から広島のプレスがハマり始めます。広島側がマリノスのビルドアップに慣れ始めたというのもあるでしょうが、僕が気になったのは山根の列落ち。

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IHの山根が左サイドの底に降りて小池とポジションを入れ替えることでフリーになろうとする動きが頻繁にみられるようになったのが30分ごろでした。列とレーンを同時に移動する動きに対してはマークを受け渡すのかそのままついていくのか難しい判断を要求されるため、フリーになれる可能性は高いと思います。

しかし広島はこの動きに対してマンツーマンを継続する形で対応。山根と小池に時間を与えませんでした。個人的にレーンを入れ替える動きに対してはWBとDHが迷ってしまってついて行けないんじゃないかなーと思っていたのでさらっと対応していたのには驚きました。対応したというか相当思い切ったマンツーマンと言ってしまえばそれまでなのですが、ポジション入れ替えに対する原則をきちんと準備していたのは素晴らしいな、と感じます。

クロスの狙いも明確に

山根と小池がポジションを入れ替える労力に見合う時間とスペースを得られなかったことでエウベルまでボールが届かない展開が増え、広島が敵陣でボールを奪える機会が増えていきます。勢いに乗った広島はショートカウンターから先制すると、後半に入っても押し続け、マリノスが交替カードを切る前に2点目を奪うことに成功します。

どちらもサイドからの折り返しによる得点でしたが、最近重点的に練習しているというクロスからの攻撃がしっかり結果につながりましたね。特に2点目は広島の攻撃の狙いが良く出ていたと思います。

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佐々木がボールを奪ったタイミングで満田がSBCB間に走ってペナルティエリアの角で受け、折り返しをニアに突っ込んできた森島が合わせたこのゴール。
この時に永井がペナルティーアーク付近で待機しています。ペナルティエリアの角を取れれば相手のDF陣はゴール前まで下がってくるためここは空きやすいわけですね。このほかに湘南戦の得点シーンのように大外から入ってきてファーで合わせる形も捕まえづらいと思うので、ここにも人を配置できるといいんじゃないかなと思います。今回はカウンターだったので難しかったでしょうけれども。
何にせよ、高さがある選手がいない中でやみくもに高いボールを放り込むのではなく、一つ一つのクロスに狙いをもって仕掛けられているのは素晴らしいと思います。

今後に向けて

水沼や畠中を投入してビルドアップを改善してきたマリノスに対し、自陣でブロックを形成するときとハイプレスを仕掛けて速攻に転じるときのメリハリをつけて対応していたのはお見事でした。結局決定機らしい決定機を与えずに完封勝利。広島としては完勝と言っていいゲームだったと思います。
チーム全体の狙いが機能したのはもちろんですが、常に裏を狙って深さを作り続けた永井、圧倒的なスピードで脅威を与え続けた藤井など個人の頑張りも光る試合でしたね。ショートパスによるビルドアップを志向してくるチームに対しては川崎でも横浜FMでも押し込めるという自信をつけられたのは大きいですね。あとは4-3-3でない相手に対してどのような対応を見せるのかは気になるところです。

横浜FMとしては序盤に見せた素早い脱出を続けられなかったのは残念。ACLを見据えてメンバーを入れ替える中でビルドアップの手口を共有するのは難しかったのではないかなと思います。とはいえサイドからビルドアップに関われる水沼の投入など応手の的確さは流石。修正しようと思えばもっと早くできたんじゃないかなと思うので、選手たちの修正力をどこまで信じるかといったチームマネジメントの難しさがあるのかなーと感じました。

それではまた次回。

#6 【2022 J1第6節 湘南ベルマーレ×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。横浜FM戦も終わってしまいましたがまずは湘南戦から。スタメンは以下。

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湘南は前節から6人変更。新型コロナ感染のリリースがあったのでそのあたりも影響していそうな感じです。広島はGKを大迫、1トップを永井に変更してきましたね。お互いリーグ戦勝ちなし、勝って勢いに乗りたい一戦です。

相手と対話して前進

東京戦、川崎戦と保持率は低いものの相手を押し込めている、という展開になっていた広島ですが、この日は保持の意識が強め。自陣でボールを保持したらGKの大迫も使いながらビルドアップを図っていました。

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噛み合わせ的に湘南は中央が堅いため、野上や佐々木、時には野津田が2トップ脇に降りて保持を安定化し、WBが高い位置を取るという形が見られました。中央が堅い湘南に対してサイドからの前進を第一に考え、その際にはCBが2トップ脇の高い位置まで出ていくという相手をよく見た対応ができていたのは素晴らしかったと思います。

一方でその後の展開には苦労していたところ。湘南は5バックなのでシャドーが裏抜けや列降りしてもついて来られ、DHを動員してサイドから密集で崩そうとしても人海戦術で対応されていました。
このように固められた時の崩し方は今後の課題かもしれませんね。5バックで来られた場合は中盤を左右に揺さぶって疲弊させたいところ。そのためには低い位置からのクロス等が手っ取り早いですが、ターゲットのいない現状ではそれも難しく……悩ましいところです。
ショートパスでの崩しが難しい場合はトランジションで奪い返すことを前提としたボールの進め方をしてみても良いかもしれません。いわゆるゲーゲンプレスですね。

裏返されることのやりにくさ

一方の湘南がボールを保持した場合の前進ルートはおもに中央。鈴木大橋の2トップに対して近い距離でタリクがサポートできる布陣であることを活かし、長いボールも積極的に使って前進してきました。

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長いボールであれば広島DF陣の得意なところですが、湘南は中央に人が多いため跳ね返された後のセカンドボールの回収で優勢。前から行っても裏返されるため、広島得意のプレッシングについても効果は薄いように見えました。特に広島のDHは湘南のDHを監視するために前に出がちだったためトップ下のタリクは浮きやすい感じでした。

総じてこの日の広島はボール保持時の崩しと非保持のプレッシングがあまり効いておらず、難しい戦いを強いられていました。

クロスの狙いと試合運び

両チームとも決定機に乏しい展開の中、広島は藤井のドリブル突破から先制。この試合通して狙っていたサイドからの攻撃はお見事。これまではターゲットがいないのに中央に高いクロスを送って跳ね返されることが多かった中、手薄になりやすいペナルティーアーク付近を狙ったクロスは効果的。
チームとして中断期間に取り組んできたことの成果を感じます。ファーにしっかり入ってきていた満田もお見事でした。

そして終盤にはサントスを入れてサイドで起点を作り、アディショナルタイムにはコーナー付近で全力の時間稼ぎ。目の前の勝ち点3のためにできることを全部やる、このあたりの試合運びは素晴らしかったと思います。

今後に向けて

広島は難しい展開の中、サイド攻撃からの1点を守り切って勝利。東京戦川崎戦と比べると良さを出しにくい難しい試合でしたが、狙い通りのサイド攻撃で勝ち切ったのは大きいですね。内容が良くても勝てない試合が続いていただけに、成功体験が得られたのは大きいのではないでしょうか。

一方の湘南は6試合勝ちなしに。広島にとって嫌なことを的確に実行してきたという印象ですが、膠着状態を打ち破るだけの策を示せませんでした。町野や田中、ウェリントンがいればそのあたりも違ってくるのかもしれませんが……
次の試合も近い中、違いを出せる選手が出てくるでしょうか。

それではまた次回。

#5 【2022 J1第5節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ】

はしがき

平素は大変お世話になっております。川崎戦です。リーグ戦未勝利のまま迎えたチャンピオン戦、スタメンは以下。

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広島は前節と同じ11人。川崎は出場停止のチャナティップに代わり小塚が先発となりました。

学んだことを活かして

前節の東京戦と同じ対4-3-3となった広島は全く同じメカニズムでハイプレスを敢行します。1トップのサントスはアンカーへのパスコースを消し、2シャドーがCBにプレス。WBがSBまで奪いに出ていき、後方は数的同数を受け入れて対人の強さで守ります。

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前節の東京戦でも通用したやり方ですが、川崎相手にも十分に効いていました。アンカーを経由させないことで川崎のビルドアップをサイドに追い込み、前線に長いボールを蹴らせて回収します。
後方は同数なのでリスクのある守り方ですが、広島のCB陣の対人能力は流石。特に荒木はJ最強のCFと言っても良いレアンドロ・ダミアンポストプレーをほとんど許さず、この試合の立役者の一人だったと思います。ダミアンがフリックして後方のスペースで3vs2の数的不利となったシーンなどヒヤリとする場面もありましたが、そのリスクに見合うだけの成果を出せていたと思います。

ただし川崎に綺麗にプレスを脱出されるシーンもあり、それはアンカーの橘田を捕まえきれない状況で起こっていました。

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プレスの役割を整理しきれていない状況でサントスがCBにアプローチしてしまうなど橘田へのパスコースが空いてしまうことがあり、そうなると中盤の数的優位を活かして一気に前進されてしまいます。
出る場所とタイミングの分かっている長いボールであればこそ広島のCB陣の対人性能を活かすことができたわけで、プレスのない状態で綺麗に運ばれてしまえば対応は難しくなります。
川崎レベルのチームともなればこういった隙は見逃してくれない訳で、プレスのスイッチを入れるタイミングはやはり重要と分かりますね。

しかし、こういったエラーがなければ川崎の前進を綺麗に阻止できていたわけで、広島のプランはしっかりと通用していたと言えるかと思います。

ミスマッチを活用した保持

また、ボール保持についてもこれまでの試合で得たものを活かせていました。

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川崎の3トップによるプレッシングに対してGKの林もビルドアップに参加して数的優位を確保して前進していきます。DHの塩谷と野津田は川崎のIHの動きを見つつ、寄せてくればフリックして背後のシャドーにつなぎ、自分がフリーならターンして運ぶという風に相手をしっかり見ながら最適なプレーを選択してボールを前進。さらに森島はこれまでの試合でも見せたアンカー脇への顔出しでビルドアップの出口となります。

この試合の保持率は川崎より低かったものの、効果的なビルドアップと素早いトランジションによって川崎陣内でのプレー時間は多く、スキッベ監督の言うように失点する73分までは川崎に対して優勢をとれていました。

得点のためには

ですが、73分に失点してからは意気消沈。DFの住吉を前線に入れておきながら長いボールを使わないなど混乱したままバランスを崩し、川崎のプレスをもろに浴びて沈むことになりました。
住吉のFW起用については練習していない中やったんじゃないかと思うのでうまくいかなかったのは仕方ないと思います。(鮎川投入の後なのでちょっと伝わりづらかったと思いますが……)

それよりも問題なのは各所で指摘されているように優勢の間に得点を奪えないこと。明らかに相手を押し込んだ後のところがうまくいっていません。ハイプレスによって敵陣に押し込む場面は作れているので尚更その課題が目立ちます。

この試合でも望み薄のクロスを放り込んではあっさり跳ね返されるシーンが目立ちました。長身の選手がサントスくらいしかいない中でハイクロスからの攻撃はなかなか無理があります。
それよりも繰り返してほしいのはシャドーのランニングによるスペースメイクによる攻撃。この試合でも良いシーンがいくつか見られました。

まずは38分のサントスのシュートシーン。

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高い位置でボールを受けた藤井は、対面の佐々木が前に出てきたのを見てその裏に走った浅野に斜めのパスを入れます。ペナルティエリアの角で受けた浅野が谷口を引き付けて折り返し、フリーとなったサントスがシュート。GKの正面に飛んでしまいましたが、シャドーがスペースを使う良い攻撃だったと思います。このペナルティエリアの角を取る動きは城福監督時代からよく見られる効果的な動きですが、今シーズンは特に意識的にやっているように思えます。

そして、このランニングを繰り返すことのメリットが出たのが60分の満田のシュートシーン。

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満田にパスを出した森島がそのまま裏抜けし、これにIHの小塚がついてきます。森島へのパスコースはなくなりますがかわりに満田が中央へドリブルするスペースができたため、これを見逃さず中央へ侵入。サントスとのワンツーでシュートまで持ち込みました。守備陣に阻まれましたが、崩しとしてはこの試合でも最も綺麗だったのではないかと思います。

このブログでも何度か言及していますが、シャドーがCBとSBの間を裏抜けするのは、それについていくかどうかでフリーな選手を作るかスペースを空けるかの2択を迫れるのが良いところ。相手が選ばなかった方を選んで攻略していくことでチャンスを作れます。

シャドーの選手は体力的にもきついでしょうが、このようなシーンを多く作って地上戦での仕掛けを挑んでいく方が今の広島のキャラクターには合っているのではないかと思います。

そして、おそらくチームもそれが分かっているはずです。だからこそ大外に開いてからのカットインを狙い続けられる満田が起用されているのでしょう。
就任から3か月やそこらであれだけのプレッシングをチームに落とし込んだ監督とスタッフですから、得点が奪えない問題についても必ず回答を用意してくれると思います。

今後に向けて

リーグ戦5試合が終わって3分け2敗の17位。結果だけ見ればスタートに失敗していますが、内容では神戸や東京、川崎といった強豪を追い詰めるだけのものを展開できています。また、課題についても明確になっています。あとはそれを改善していくだけ。

そこで最も重要なのは今のやり方を信じることだと考えています。背後に広大なスペースを晒しても前からボールを奪いに行く今のやり方は一瞬の迷いが命取り。選手がチームの方針を信じられなくなれば、その時こそすべてが崩壊してしまうでしょう。

テクニックと俊敏性に優れたアタッカーと、高い対人能力を誇るCBを多く抱える広島というチームにあって、今のやり方ほど選手の強みを引き出せるサッカーは他にないはず。近いうちに必ず結果が出ると信じて、まずは次の湘南戦を見守りたいと思います。

それではまた次回。