#12 サンフレッチェ広島の守備は何がまずかったのか?前編【2020J1第16節 川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島を受けて】

はしがき

毎度お世話になっております。
さて今節ですが、知っての通りサンフレッチェ川崎フロンターレと対戦し1-5の惨敗を喫しました。川崎は今シーズン多くの試合で3点以上を奪っているチームであり、5点以上取った公式戦がこれで6試合目です。なので「川崎強かった!仕方ない!」で済ませても良いのですが、「広島の守備は何かおかしい」という声が各所から聞こえてくるように、失点時の対応がどうにも変だったことが気になりました。

で、それについて考えていたところ他の広島サポの方から情報提供も頂き、どこがおかしいのかが何となく浮かび上がってきました。

ということで今回は趣向を変えて、広島の守備がどうおかしくてその結果どうなっているのか、をまとめてみることにします。

一体何がまずかったのか

先に結論を書くと、広島の守備についてまずいところは大きく2つあると思っておりまして、それは

①ボールの奪いどころが定まっていない?

カバーリングの設計が狂っている?

この2つです。
この2つが原因で広島の守備には時折不審な点が見られると考えました。以下で順番に説明していきます。

①ボールの奪いどころが定まっていない?

ボールの奪いどころと似た言葉として「守備の基準点」というのもありますね。つまり、「相手選手のうち誰がボールを持った際にプレッシャーをかけ始め、どこに追い込んでボールを奪うのか」についての約束事が不完全なのでは?ということが言いたいわけです。

広島のボールの奪い方の1つとして、5バックで構えた状態から相手のSBにシャドーがプレッシャーをかけ、連動してWBが相手のSHまで出ていき、DHは相手のDHを捕まえるというものがあると思っています。

f:id:syukan13:20200902212925p:plain仙台戦で使った図ですが、こんな感じですね。5バックで構えたところからSBの蜂須賀がボールを持った際にシャドーのヴィエイラが寄せていき、SHの石原はWBの茶島が監視。DHの椎橋を川辺が見て、間に入ってくる関口はCBの野上が出ていって対応します。図ではペレイラがCBのところにいますが、ペレイラがCBへのコースを切りつつ蜂須賀に寄せていけばボールを取れそうですね。城福監督はこのような設計でボールを奪おうとしているのだと考えていました。

ところが、広島の試合を見ているとこのパターン以外にも唐突に中盤の選手が前に出ていってプレスをかけることがあります。広島サポであれば心当たりがあるのではないでしょうか。

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例えば横浜FM戦の1失点目(動画0:37~)。直前までDFラインに吸収されるほど近い位置にいたハイネルがいきなり猛スピードで扇原にプレスをかけ、その裏のスペースを使われての失点です。

ここまで突発的なプレスはそんなに見られませんが、広島のDHが低い位置にいるボールホルダーにふらふらと寄せていって、その裏や脇にスペースが空いているということは割と良く見られる現象です。サイドに出た時がボールの狙いどころだとは思うのですが、中央にボールがあるときにどうするのかがあまり決まっていなくて、DHが思い思いの判断で行動した結果こういう現象が時折みられるのではないかと考えています。

カバーリングの設計が狂っている?

そして2番目。これこそが、「広島の守備は変」と感じられる原因なのではないかと思います。
まず、川崎戦の2失点目を確認します(動画0:47~)。

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この失点を図に起こすと、まずサイドで三笘とハイネルが1vs1になります。
(フィールドを白くしてみました)

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三笘との1vs1をハイネルは止められず、内側に侵入されます。まあこれは仕方ないと思うんですが、この時に注目してほしいのは野上と川辺の動きです。

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ハイネルが外された後に最も三笘の近くにいた野上はボールにアタックするのではなく、中央に走りこむ大島を気にしつつ逃げるように中央に戻っていきます。逆に、大島を視界にとらえていた川辺が三笘を全力疾走で追いかけて止めに行きます。
結局止めきれずにクロスを上げられて中でレアンドロダミアンに合わせるのですが、この時の対応がどうもおかしい。普通に考えれば

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こうで良いはずなんですよね。三笘に最も近い野上がカバーに入り、大島の動きを見ていた川辺がそのままついていく。これなら移動距離が短くて済むため、三笘に早めにプレッシャーをかけてミスを誘えたかもしれません。

ではなぜこうしなかったのか?野上が大島をマークしていてそのままだったからかと思っていたところ、こんなサイトを紹介していただきました。

www.jleague.jp

2016年に城福監督が執筆したコラムですね。このコラムにおいて、城福監督はこのように述べています。

「全てのシーンに共通していることは、サイドバックが空けた穴(スペース)をボランチがカバーしている点です。攻撃側のチャンスになり得るシーンでしたが、サイドバックが外へ引き出されても、しっかりとボランチが空いたスペースをカバーすることで、センターバックのポジションは動かされずに、最終ラインは4枚で相手の攻撃に対応することができます」

 

このコラムを見てから先ほどの失点シーンを見ると、違う見方が浮かび上がってきます。つまり、「ハイネルが空けたスペースは本来川辺がカバーすべきもので、野上は本来守らなければいけない中央に慌てて戻っていった。つまり、川辺と野上の2人がとった行動はチームの決まりごとに従った正しい動きである」という見方です。

コラム上で城福監督は、CBが中央から動かされていないことによって安定した守備ができたと語っています。そこで、城福監督が守備ブロックの構築において優先しているのが「CBを中央から動かされないこと」だと考えると、野上と川辺の不可解な動きについても合点がいくのです。CBは中央から動いてはいけないので、野上は慌ててゴール前に戻って行った。そして、WBが空けたスペースはDHの川辺が埋めに行った。と考えれば辻褄は合うように思えます。野上は大島に釣られたのではなく、自分が本来埋めるべき場所に戻って行ったのだと考えられるのです。

これと同じような形の失点として思い出されるのがセレッソ大阪戦の1失点目(動画0:20~)。

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坂元の切り返しでWBの清水が振り切られ、クロスを上げられてニアで合わせられての失点です。このシーンでも清水が出ていって空けたスペースに対してCBはスライドせず、青山が埋めようとしているように見えます。しかし間に合っておらず、坂元はほぼフリーの状態でクロスを上げています。

さて、この2つの失点に共通することとして、CBがスライドしていないことの他に「DHのカバーが間に合っていないこと」「CBは3人きちんと中央にいるのに失点していること」が挙げられます。たとえCB中央から動かされまいが、クロスを上げる選手がフリーで質の良いボールを上げられたりドリブルで深い位置まで侵入されると失点する可能性は十分にあるということですね。そしてそれを防ぐためのカバーリング要因であるDHは移動距離が長すぎて間に合っていないのです。
つまり、「WBが空けたスペースをDHが最終ラインに降りてカバーし、CBは中央から動かない」という約束事は不完全であり、カバーが間に合わずクロッサーをフリーにしてしまう可能性が大いにあると言えるでしょう。こうした事実を鑑みて、カバーリングの設計が狂っているのではないか?と考えました。

じゃあどうやって守るのが良さそうか、について書こうとしたのですが、すでに3,000文字になっていて書くのも疲れたのでとりあえず今回はここまで。後編に続きます。