#08 【2020J1第12節 横浜FM×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は横浜FM戦です。前節かろうじて引き分けに持ち込んだ広島と、清水との打ち合いを制したマリノス。互いに過密日程の中でのゲーム、スタメンは以下の通りです。

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マリノスは4-2-3-1。この夏加入した前田がスタメンに起用されていますね。一方の広島はDHにハイネルを起用してきました。これまでにもたびたび中盤で起用されてきましたがまさかスタートからやるとは……という起用です。

納得の狙いと根性論

さて、試合は開始直後からお互いに最終ラインまでプレスをかけに行くハイテンションな展開になりました。その中で目についたのは広島が狙うスペースです。

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広島はCBもしくはDHを経由してWBにボールを届け、SBを引き出してその裏にシャドーを走らせる攻撃を狙いとしていました。シャドーが受けてWBが出ていくパターンもありましたが狙いは同じで、SBの裏を取ってあとはCB引き出してシンプルにクロスを上げます。

中央ではなくSB裏のスペースを狙うのは、中央には高速で対人の強いチアゴとプレーエリアの広い朴がいてボールを回収されてしまうからですね。サイドから攻略すればこの2人から逃れることができますし、左サイドから裏を取れればチアゴをゴール前から動かすことも可能になります。

また、ハイネルをDHに起用したのもうまく効いていて、マリノスの前線が高い位置からプレスをかけに来たところでハイネルにボールを付けられれば、彼はドリブルで剥がして展開できるだけの能力を持っています。元々ハイネルはボールを持つ時間が長い傾向があり、囲まれてボールを失うリスクもある反面相手を剥がして前進できることもありました。この試合はマリノスの前線がプレスをかけて中盤にスペースがある状態でボールを持てることもしばしばあり、ハイネルのドリブルによる打開が効きやすかったと思います。ただし序盤は、ですが。

広島は前半に左サイドからの崩しで浅野に2回、ペレイラに1回決定機が来ましたが、勝てるとしたらこのどれかで仕留めておくしかなかったように思います。この攻撃方法ははDHとシャドーの頑張りによって支えられており、彼らが消耗するごとにこの形で崩すことは難しくなります。事実、彼らの消耗は時間が経つにつれてじわじわと広島を苦しめることになりました。

捕まらないSB

さて、一方のマリノスのビルドアップ、カギを握っていたのは右SBの小池でした。

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4バックでビルドアップしてくるチームが相手の広島はボールがSBに入った時にシャドーが出ていってパスコースを潰して奪うことを狙いますが、この試合では小池がサイドに開いているとチアゴが持ち上がってくる場面がたびたびありました。これをペレイラが制限しろといっても多分GKを使ってかわされてしまうでしょうし、ストライカーにそこまで要求するのも酷でしょう。チアゴが持ち上がってそのまま中盤を使われると中盤の数的優位を使えます、ということでヴィエイラがチアゴについていくと、

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降りてきた仲川を経由して小池に侵入されたりするわけですね。このあたりの判断が絶妙で、広島の左サイドはかなり好き勝手前進されていました。特に小池は中央に侵入した後もそのまま中央から左サイドの方にまで進出していくこともあり、非常に厄介な存在だったと思います。

さすがにこれはあかんとなった広島、飲水タイム明けの25分ごろからは柏を前に出す形で小池に対応させ、仲川は佐々木が見るようにして左サイドにボールがあるときは4-4-2のような形で対応することが増えます。

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実際にこれでマークははっきりしますし、ボールが奪えれば柏をそのまま前に出して素早くカウンターに移れます。あのまま殴られ続けるよりは決して悪くない、納得できる変更だったと思いますが、皮肉にも失点シーンは柏が出ていった裏のスペースが起点になってしまいました。

柏がいない分ヴィエイラが戻って4-4ブロックにはなっていましたが、ハイネルが出ていったところで扇原に間を通されてそのまま崩された形。まあ人数はいたし慌てて出ていかずにサイドに誘導すれば良かったかもしれませんが、DHとして初先発の選手を責めるのは酷というものでしょう。

マリノスの選手たちはきちんと4-4ブロックの間に陣取っているので一度間を通されるとあのようにきれいに崩されてしまう、ということがわかるゴールだったと思います。

脆くなった右サイド

さて、後半の頭から広島は野上に替えて松本、浅野に替えて森島を投入。森島を左シャドーに入れて、ヴィエイラを右に回します。しかし前半から攻撃ではSBの裏に精力的に走り、守備ではチアゴと小池に翻弄されたヴィエイラはさすがに疲労が蓄積。さらに本来のポジションではないハイネル、松本がいる右サイドはマリノス攻撃陣に蹂躙されることになります。

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この辺静的な図にするのは難しいんですが、ヴィエイラは前に出ていこうとして戻ってこれないことが増え、ハイネルは持ち場を離れることが多く、松本は自分が出ていくべきかをうかがいながらのプレーとなってライン間に大きなスペースが空いていました。最もこれは彼らだけの問題ではなく、チーム全体として前に行きたいのか下がって守りたいのかバラバラになっているという面もあったと思います。

一度はセットプレーから追いついた広島ですが、後半はマリノスに押し込まれ続け、当然と言えば当然の結果として2失点。1-3でゲームを終えることとなりました。

試合を終えて

広島としては前半から飛ばして先に点取って逃げ切り!というプランを描いていたと思いますし、そのために目を付けたスペースも妥当だったと思います。それだけに、前半に点を取れず、後半に負債が残るだけとなったのは厳しかった。後半はいつものやり方に戻すことを画策しましたが、シャドーを両方替えちゃって前半と同じことを繰り返す!くらい思い切っても良かったかもしれませんね。

まあしかし、それをやっても分の悪い勝負にはなったでしょう。やはりボール保持について積み上げてきたものが違います。いつもやっていることが問題なくできるマリノスと、やっていることを放棄して急襲せざるを得なかった広島。安定した戦いができるのがどちらかは言うまでもないでしょう。普段からビルドアップやポジショニングの細かいところにこだわっているか、その積み重ねが勝負を分けた試合だったと思います。

それではまた次回。