#16 【J1第28節 サンフレッチェ広島×ヴィッセル神戸】

はしがき

平素より大変お世話になっております。前節は結構守備的に生まれ変わった名古屋と勝ち点1を分け合ったサンフレッチェ広島、今節はヴィッセル神戸戦です。前回対戦ではリージョ監督に引導を渡すこととなりましたが、今回は指揮官もフィンク監督になり、公式戦3連勝と良い状態で入ってきた神戸、以前とはまた違ったチームとなっているはずです。そんな試合のスタメンは以下の通り。

 

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広島はワントップにドウグラスヴィエイラが復帰したほかは前節と同じメンバー。対する神戸の並びは3-1-4-2で、スタメンは前節と全く同じだったようです。前回対戦した時の4-2-3-1よりもさらにボールを握り倒す!という意思を感じる配置、およびメンバーチョイスですね。

神戸の弱点を破れる広島の得意技

 さて、試合が始まってすぐの6分に広島は稲垣が先制ゴールを奪います。左サイドに人数を集めてから森島がダンクレーの裏に抜け、折り返しに走りこんだ稲垣が沈める、という形。

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先制点の場面



開始早々にも森島のドリブル突破から川辺が決定機を迎えていましたが、広島が得意とするハーフスペース突破からのマイナスパスという攻撃がいつも以上に刺さっているなという印象でした。

神戸は5バックで守っているので前節とは違いWBが高い位置を取ったところでハーフスペースが空くわけではないのですが、この試合では広島の攻撃陣がダンクレー、フェルマーレンの裏を取るシーンが何度も見られました。対人に強いこの2人はボールを狩るために意識が前に向きがちだからなのか、このスペースは高い頻度で使えており、広島側はここが使えることを明確に意識して準備してきたな、と感じました。

また神戸の3センター、特にイニエスタとサンペールはボールを持った時に特徴を出す選手です。彼らのパスは絶品ですが、一方で自陣まで必死で戻って体を投げ出してシュートブロック、みたいなプレーはそんなに得意ではないと言えるでしょう。少なくとも彼らの持ち味ではないはずです。そうした特性の表れとして、広島がサイドを深くえぐった際、DFとMFの間にスペースができることが多くありました。そこで広島はMFのカバーが間に合っていないこのスペースに川辺や稲垣を走りこませて決定機を演出できていました。

広島がもともと得意とするハーフスペースの突破に、神戸のMF陣が中々自陣深くまで戻ってこられないという事情が合わさり、チャンスを作ることができたという感じでした。

はっきりしていた広島の基準とビジャの列降り

さて、得点が生まれた後は広島が先制したからなのか、もともとそういうプランだったのか、神戸もボール保持の姿勢を強めていきます。前回の対戦では渡やパトリックが神戸のビルドアップに対して右往左往していましたが、今回は守備の基準がはっきりしていました。

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人を捕まえる広島

ドウグラスヴィエイラがアンカーのサンペールへのコースを切りながら大崎(もしくは飯倉)へ寄せていき、ダンクレーやフェルマーレンにボールが出ればシャドーが出ていって縦へのパスコースを封鎖します。

WBは対面のWBを捕まえ、神戸の3センターに対してはドウグラスヴィエイラが出ていったあとのサンペールを稲垣、イニエスタを青山が捕まえます。山口は結構浮いていたのですが、ボールが出たら佐々木が前に出て寄せる形になっていました。

解説の水沼さんはこの点を心配していましたが、まあ2人のDHで3センターを見る形にしてイニエスタやサンペールを自由にしてしまうよりはマシな選択かなと思います。また、山口は裏への抜け出しも行ってくる可能性がありますし、佐々木が対応するというのは割と妥当な気がします。実際前線からのプレスで神戸の最終ラインに時間を与えていなかったので、山口に効果的な縦パスが入ることもあまりありませんでしたし。

元々広島は人への意識が強い守備をしており、それによってポジションが動かされて痛い目を見ることもあるのですが、この試合では前線からのプレスについてはきちんと整備されていて神戸のボール前進を阻害するのに成功していたと思います。もちろん、基準が明確だったこと以外にも個々人がパスコースを遮断する動きを我慢強く継続していたことも要因でしょう。特に3バック+GKに対して継続してプレスをかけ続けた1トップ2シャドーの働きには頭が下がります。

こうして広島が神戸の攻撃を止める中、神戸はビジャの工夫により同点ゴールを奪います。

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降りていくビジャ


 ビジャは中盤まで降りていき、DFラインからボールを受けます。本来ビジャを捕まえるはずの野上も途中まではついていきますが、さすがに中盤まで出ていくとDFラインに大穴を空けてしまってまずいのでどこまでも出ていくわけではなく、MFと並ぶあたりでついていくのをやめます(というかこの時点でDFラインにはそこそこ穴が開いているので誰かに走りこまれるとまずいのですが)。そこで自由を得たビジャから裏に抜ける古橋へパーフェクトなパスが出て同点ゴールが決まりました。

降りていくアタッカーにDFがついていくのは間違っていないと思いますし、それを途中でやめるのも正しいと思います。そこで空いた穴を使われた訳でもない。もちろん古橋の裏抜けに対してケアができたのではないかと思いますが、柏の前から佐々木の裏に抜ける古橋を捕まえるのは難しいでしょうし、後ろ向きで受けたビジャから振り向きざまに完璧なパスが出ることを予測するのも難しいかなと思います。

広島としては良く対応していたとは思いますが、それでも守備に問題を引き起こすだけの効果がこの列を降りる動きにはあるということでしょう。

やはり両チームともボールを持てば鋭い攻撃を繰り出せるため、どちらがボールを保持して攻め続けられるか、というところが試合のポイントになっていきます。

広島のボール保持に見られた成長

そんな中、広島のボール保持において明確に成長したと思える点がありました。それが右サイドからのボール前進です。

神戸の5-3ブロックに対し、広島のCBは比較的余裕を持ってサイドから持ちあがることができます。これまでの広島は左サイドからは効果的に前進できていましたが、その背景にはドリブルで持ち上がり、ハーフスペースにもパスを供給できる佐々木の存在がありました。一方、右サイドの野上はボールを運んで前進することなくパスを出してしまい、相手の守備陣に穴をあけられないことが度々ありました。

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運べる野上

しかし、この試合では39分の勝ち越しゴールをはじめ、34分にも野上が深い位置まで持ち上がって斜めのパスを打ち込むシーンが見られました。右サイドはイニエスタが守備をしているため山口がいる左よりも持ち上がりやすかったこともあるかと思いますが、左サイドでうまくいっていることを右サイドでも適用できるようになってきた感があり、大変素晴らしいと思います。

勝ち越しゴールの後もPKのチャンスがありましたがドウグラスヴィエイラのキックは失敗、2-1のまま前半が終了しました。この試合、広島の攻勢を支えた要因の一つに広島のネガティブトランジションの鋭さがあると感じましたが、このPKのシーンもそうでしたね。

 ボール保持権の奪い合い

さて、後半について一応題名はつけましたが、正直あまり話すことがないんですよね……両チームともにボールを保持できなければ殴られ続けるというチームの特性上、ボール非保持時の振る舞いを修正するのではなくよりボールを握る時間をより増やして攻め続けようとしているように見えました。神戸の修正としては前半に広島の対人守備から浮く形になっていた山口をDFラインの裏に走らせる動きは見られましたがまあそのくらいで、基本的には前半と似たような主導権争いが繰り広げられていたように見えました。

その中で65分に森島のパスから抜け出したドウグラスヴィエイラを大崎が倒してレッドカード。そこで得たFKを森島が決めて3-1となったことで、試合の大勢は決したかなと感じました。とはいっても人につく守備の悪いところが出て守備組織に穴が空き、失点はしたのですが。

ここが広島の改善点ですかね。前節も自陣に撤退した際に中盤でDHが動かされ、そこに空いた穴を使われて失点していました。前方からプレスをかける場合はきっちり人を捕まえ、自陣に撤退した時にはきちんとスペースを埋める対応をするという風に、意識を切り替えることが必要になってくるのでしょう。相当難しい課題だとは思いますが……

試合を終えて

試合そのものについては、広島が終盤にカウンターから3点取って試合を終わらせました。神戸は一人少ない上に攻撃に人数をかけているのでまあこうなることもあるでしょう。個人的には6点取ったことよりも神戸の弱点を理解してそこを叩き続け、ボール保持攻撃の威力で上回れたことが大きかったと思います。

右サイドからのボール前進にも成長が見られたこの試合は、広島にとってターニングポイントといえる試合かもしれません。この試合に匹敵するパフォーマンスを見せることができれば、ACL出場権を得ることも不可能ではないかもしれません。残り6試合のないようにも期待したいと思います。

それではまた、次回があれば。