#10 【2020J1第14節 コンサドーレ札幌×サンフレッチェ広島】

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節は札幌戦。7試合勝ちなしvs4試合勝ちなしという、厳しい状況どうしの戦いです。互いに浮上へのきっかけを掴みたい一戦、スタメンは以下の通りです。

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お互いに3-4-2-1の並びとなりました。広島は川辺青山のDHコンビに戻し、ハイネルを右WBで起用しました。一方の札幌は攻撃のキーマンであるチャナティップが不在。ジェイがワントップ、駒井と懐かしのアンデルソン・ロペスがシャドーに入りました。

前後分断のリスク

さて、前半は札幌がボール保持率62%を記録し、ゲームを支配していましたね。札幌はいわゆるミシャ式を取り入れていましたが、その方法はかつて広島が行っていたそれとはやや違うように映りました。

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札幌はDHの宮澤を左サイドの底に降ろし、キック精度の高い福森を左サイドに張らせていました。また、もう一人のDHである荒野も最終ライン近くまで降りていって、3+1のような形のビルドアップを行っていました。これに対して広島はペレイラヴィエイラの2人が前に残るような形になり、それに加えて札幌のDHに青山や川辺がついて行くことで対応を図っていました。

しかし札幌最終ラインに菅野と荒野を加えたビルドアップ隊のパスコースを消すことはできておらず、ジェイに縦パスを入れられる場面が目立ちました。ジェイに縦パスが入った場合は荒木が対応に出るのですが、その時に佐々木と野上はカバーを意識して札幌のシャドーに対して思い切って出ていくことができません。結果的にシャドーのロペスや駒井が広島のDHがいなくなった中盤でフリーになり、裏に抜けるWBにスルーパスを供給する場面が多くありました。

こうなってしまうと広島はピンチを作られるばかりでなく、ボールを奪えても位置が低く、前に残っているツインタワーとの距離が遠いため陣地回復をアバウトなロングボールに頼るしかなくなってしまいます。そうして出した苦し紛れのロングボールは制度を欠きやすく、札幌に回収されてしまうという負のスパイラルに陥っているように見えました。

撤退による圧縮

このままではダメだということで、広島は飲水タイムを過ぎたあたりからDHを前に出してのプレスをやめ、さらにドウグラスヴィエイラも下げて5-4-1で撤退するようになります。

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ビルドアップ隊へのプレスを放棄することでDHを戻せるようになり、ジェイにボールが入ってもシャドーをCBとDHで囲んでボールを奪えるようになります。この形になってからはシャドーに直接パスが入ることもありましたが、その際はきちんと野上、佐々木が出ていって潰すという5バックらしい守り方ができていたように思います。

後ろに重い形なのでカウンターは繰り出しづらいですが、カウンターができていなかったのは元からなので変化なし。ピンチを作られていた形から脱してゲームを少しずつ落ち着かせることができました。

前後分断はお互いさま

さて、後半の立ち上がりには広島がボールを保持する姿勢を見せるのですが、この際札幌にも前半での広島と同じようなことが起きていました。

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広島のDHがボールを持つと荒野、宮澤の両DHが奪いに出てくるため、サイドのCBやWBからシャドーにボールを入れることができます。特に右サイドでこの傾向があり、これはWBにサイドの高い位置でボールを持てる茶島が入ったのも大きかったのではないでしょうか。広島の先制点も茶島からヴィエイラへのパスが起点となっていました。

正直広島が効果的に攻撃できていたのは後半の立ち上がりの10分くらいだけだったのですが、そこで先制できたのは大きかったと思います。

札幌としては前半自分たちが利用していた弱点を逆に突かれた形となりました。攻勢に転じようにも広島はしっかり引いてウィークポイントを消している状況。4枚替えでフレッシュな選手を入れて打開を図りますが、攻撃の構造そのものに大きな変化はなく、広島のブロックを破ることはできませんでした。逆にカウンターから追加点を奪った広島が2-0で勝利。久しぶりの勝ち点3を手にしました。

試合を終えて

広島は前半うまくいかなかったものの、いったん引いて立て直し、後半の開始とともに攻め込んで先制点を奪うという試合運びは見事でした。ただ守備の危うさは相変わらずで、前半に失点していれば全く違う試合となっていたことでしょう。まだまだ油断は禁物です。

一方の札幌はこれで8試合勝ちなし。決定機の数では広島を上回っていたように思いますが、前節のPKといい決まらないときはとことん決まらないものですね。ポテンシャルの高い選手が多いだけに勢いに乗れば強いはず。今の悪い流れをどう打開するかがカギではないでしょうか。

それではまた次回。

#09 【2020J1第13節 サンフレッチェ広島×ベガルタ仙台】

はしがき

平素より大変お世話になっております。ここ3試合勝利のない広島、今節はベガルタ仙台をホームに迎えます。勝ち点14と勝ち点10ということで互いに上位進出のきっかけを掴みたい試合、スタメンは以下の通りです。

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広島は今節もハイネルがDHに起用されており、川辺と森島がスタメンに復帰。ターンオーバーの香りもしますが、3バックは出づっぱりです。一方の仙台は4-2-3-1。柳、真瀬、浜崎らニューフェイスが並ぶ中、広島のことをよく知る吉野恭平もスタメンに名を連ねています。

ミスマッチを使える仙台

さて、前半は仙台がボールを持って試合を進めます。これが4分に生まれたペレイラのゴラッソの影響かというと、微妙なところだと思います。

広島は相手が4バックの場合、相手のSBにボールが出たタイミングでシャドーがプレスを開始、DHとWBが連動してパスコースを潰すことでボール奪取を狙います。

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図にするとこうなります。SBからCBへのバックパスはトップが潰し、SHをWBが、DHはDHが監視してコースを消します。トップ下やトップが受けに来てもCBが出ていって潰せるという形になっていますね。もちろんこれでも出ていったCBの裏にボールを通されるとかはあるんですが、それだけならばゴールから遠いし毎回うまくいくわけでもありません。

しかしこの試合ではプレスがこのようにはまっていない場面が多くありまして、それは仙台の立ち位置が理由です。

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仙台は浜崎椎橋の2DHのうち片方が下がり、両SBが高い位置を取ります。SBが高い位置まで出てくることで、シャドーとWBのどちらで対応するかがボケやすくなります。

それだけならいいのですが、この試合では広島のDHであるハイネルが下がっていく仙台のDHに勢いよくついて行く場面が多く、中央に大きなスペースができていました。こうなってしまうとヴィエイラが蜂須賀について下がると中央に直接パスを通され、かといってCBの平岡に寄せていっても蜂須賀を経由して中央に入れられます。そこで蜂須賀に対して茶島が出ていくと今度はその後ろにSHの石原が出てきて中央の関口も空いてる、ということになります。

ちなみに右サイドでは森島が柳について下がっていき、川辺も中央を空けてはなかったのでここまで崩されてはいなかったように思います。

とまあ色々喋りましたが、仙台は広島の選手たちの間に立つことを意識しており、人意識が強い広島の守備を空転させることに成功していました。実際には蜂須賀にボールが出てそこから左サイドでつないで中央を使われるパターンが多かったように思います。もしハイネルが中央を空けていなくてもこういう立ち方をされるとボールの奪いどころが定まらずにしんどかったと思いますが、ハイネルがスペースを空けてしまうことで左サイドの崩壊が決定的になっていたように思います。

この試合はもう終始ここを殴られ続けていたといっても過言ではなく、ハイネルが交替で下がる80分まで特に修正もされませんでした(浅野が入ってから5-3-2っぽくなったような気もしますが特に解決にはつながってなかったと思います)。

諸刃の剣、狂犬ハイネル

ここまで悪く言いっぱなしですが、ボールを持った時にはハイネルが輝きを放つ場面も見られました。

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例えば34分ごろの一連の攻撃ではハイネルが仙台ブロックの前を横切るようなドリブルで相手を引き付け、野上にフリーでボールを供給しています。何気ないプレーですが、この運ぶドリブルをできる選手が広島においてはなかなか貴重です。この他にも自陣で相手のプレスを引きはがして前進したりと、ハイネルのドリブルは広島のボール保持において確実にアクセントになっています。

ここ数試合、右サイドの茶島が縦へのドリブル突破、裏へのワンツー、カットインを使い分けて攻撃を活性化していますが、これに相手の陣形を動かせるハイネルのドリブルが合わさることでより難しい対応を迫れるはず。ボールを持たれると弱点となってしまうハイネルのDH起用ですが、ボールを持てば良いアクセントになるというのもマリノス戦からの2試合で分かってきたように思います。この試合ではボールを持たれる時間が長くてデメリットが目立ちましたが、ボールを持つ時間が増えれば相手にとって脅威となれる存在だとも思います。

気になる守備

最後に失点シーンの話なのですが、真瀬にクロスを上げられた際、広島は自陣PA内に4人しか戻っていません。

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3バックのうち2人がゴール前から離れているこの状況で、DHの川辺や5バックの一員であるはずの茶島、さらには交代で入った東や浅野までもがクロスを上げられるのを見つめるだけになってしまっています。

逆に、ボール非保持時の弱点だとあれだけ言ってたハイネルは戻ってゴール前を埋めています。(その前にサイドに出ていって中央に穴を空けてもいましたが……)広島は人に対する意識が強いというのは今シーズンずっと言われていることではありますが、人意識が強すぎるあまりに誰かが空けたスペースをカバーするという意識が失われているのではないかと思え、最近の失点の多さもうなずけるシーンでした。

試合を終えて

結局試合は1-1のドロー。お互いに決定機があり、両チームとも勝てた試合だったと思っているのではないでしょうか。

広島としてはきちんと研究されて殴られる場面が多くあったので、どうやってボールを持つのか、どうやって守るのか規則をきちんと定め直す必要があると思えます。ハイネルのDHは賛否あるでしょうが、デメリットをなくすような指導をする、あるいはデメリットを覆い隠せるような構造を作れば輝きを放てるとも感じます。扱いの難しいロマン砲ですが、ばっちりハマっている姿を見られることを期待します。

逆に仙台は思っていた以上にきっちり相手の嫌がる立ち位置をとってくるという印象。渡辺監督が退任して堅守速攻型に戻ったのかと勝手に思っていましたが、きちんと積み上げたものを受け継いでいる良いチームだと感じました。今はやや苦戦していますが、再戦時にどこまで調子を上げているかが楽しみですね。

それではまた次回。

#08 【2020J1第12節 横浜FM×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は横浜FM戦です。前節かろうじて引き分けに持ち込んだ広島と、清水との打ち合いを制したマリノス。互いに過密日程の中でのゲーム、スタメンは以下の通りです。

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マリノスは4-2-3-1。この夏加入した前田がスタメンに起用されていますね。一方の広島はDHにハイネルを起用してきました。これまでにもたびたび中盤で起用されてきましたがまさかスタートからやるとは……という起用です。

納得の狙いと根性論

さて、試合は開始直後からお互いに最終ラインまでプレスをかけに行くハイテンションな展開になりました。その中で目についたのは広島が狙うスペースです。

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広島はCBもしくはDHを経由してWBにボールを届け、SBを引き出してその裏にシャドーを走らせる攻撃を狙いとしていました。シャドーが受けてWBが出ていくパターンもありましたが狙いは同じで、SBの裏を取ってあとはCB引き出してシンプルにクロスを上げます。

中央ではなくSB裏のスペースを狙うのは、中央には高速で対人の強いチアゴとプレーエリアの広い朴がいてボールを回収されてしまうからですね。サイドから攻略すればこの2人から逃れることができますし、左サイドから裏を取れればチアゴをゴール前から動かすことも可能になります。

また、ハイネルをDHに起用したのもうまく効いていて、マリノスの前線が高い位置からプレスをかけに来たところでハイネルにボールを付けられれば、彼はドリブルで剥がして展開できるだけの能力を持っています。元々ハイネルはボールを持つ時間が長い傾向があり、囲まれてボールを失うリスクもある反面相手を剥がして前進できることもありました。この試合はマリノスの前線がプレスをかけて中盤にスペースがある状態でボールを持てることもしばしばあり、ハイネルのドリブルによる打開が効きやすかったと思います。ただし序盤は、ですが。

広島は前半に左サイドからの崩しで浅野に2回、ペレイラに1回決定機が来ましたが、勝てるとしたらこのどれかで仕留めておくしかなかったように思います。この攻撃方法ははDHとシャドーの頑張りによって支えられており、彼らが消耗するごとにこの形で崩すことは難しくなります。事実、彼らの消耗は時間が経つにつれてじわじわと広島を苦しめることになりました。

捕まらないSB

さて、一方のマリノスのビルドアップ、カギを握っていたのは右SBの小池でした。

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4バックでビルドアップしてくるチームが相手の広島はボールがSBに入った時にシャドーが出ていってパスコースを潰して奪うことを狙いますが、この試合では小池がサイドに開いているとチアゴが持ち上がってくる場面がたびたびありました。これをペレイラが制限しろといっても多分GKを使ってかわされてしまうでしょうし、ストライカーにそこまで要求するのも酷でしょう。チアゴが持ち上がってそのまま中盤を使われると中盤の数的優位を使えます、ということでヴィエイラがチアゴについていくと、

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降りてきた仲川を経由して小池に侵入されたりするわけですね。このあたりの判断が絶妙で、広島の左サイドはかなり好き勝手前進されていました。特に小池は中央に侵入した後もそのまま中央から左サイドの方にまで進出していくこともあり、非常に厄介な存在だったと思います。

さすがにこれはあかんとなった広島、飲水タイム明けの25分ごろからは柏を前に出す形で小池に対応させ、仲川は佐々木が見るようにして左サイドにボールがあるときは4-4-2のような形で対応することが増えます。

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実際にこれでマークははっきりしますし、ボールが奪えれば柏をそのまま前に出して素早くカウンターに移れます。あのまま殴られ続けるよりは決して悪くない、納得できる変更だったと思いますが、皮肉にも失点シーンは柏が出ていった裏のスペースが起点になってしまいました。

柏がいない分ヴィエイラが戻って4-4ブロックにはなっていましたが、ハイネルが出ていったところで扇原に間を通されてそのまま崩された形。まあ人数はいたし慌てて出ていかずにサイドに誘導すれば良かったかもしれませんが、DHとして初先発の選手を責めるのは酷というものでしょう。

マリノスの選手たちはきちんと4-4ブロックの間に陣取っているので一度間を通されるとあのようにきれいに崩されてしまう、ということがわかるゴールだったと思います。

脆くなった右サイド

さて、後半の頭から広島は野上に替えて松本、浅野に替えて森島を投入。森島を左シャドーに入れて、ヴィエイラを右に回します。しかし前半から攻撃ではSBの裏に精力的に走り、守備ではチアゴと小池に翻弄されたヴィエイラはさすがに疲労が蓄積。さらに本来のポジションではないハイネル、松本がいる右サイドはマリノス攻撃陣に蹂躙されることになります。

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この辺静的な図にするのは難しいんですが、ヴィエイラは前に出ていこうとして戻ってこれないことが増え、ハイネルは持ち場を離れることが多く、松本は自分が出ていくべきかをうかがいながらのプレーとなってライン間に大きなスペースが空いていました。最もこれは彼らだけの問題ではなく、チーム全体として前に行きたいのか下がって守りたいのかバラバラになっているという面もあったと思います。

一度はセットプレーから追いついた広島ですが、後半はマリノスに押し込まれ続け、当然と言えば当然の結果として2失点。1-3でゲームを終えることとなりました。

試合を終えて

広島としては前半から飛ばして先に点取って逃げ切り!というプランを描いていたと思いますし、そのために目を付けたスペースも妥当だったと思います。それだけに、前半に点を取れず、後半に負債が残るだけとなったのは厳しかった。後半はいつものやり方に戻すことを画策しましたが、シャドーを両方替えちゃって前半と同じことを繰り返す!くらい思い切っても良かったかもしれませんね。

まあしかし、それをやっても分の悪い勝負にはなったでしょう。やはりボール保持について積み上げてきたものが違います。いつもやっていることが問題なくできるマリノスと、やっていることを放棄して急襲せざるを得なかった広島。安定した戦いができるのがどちらかは言うまでもないでしょう。普段からビルドアップやポジショニングの細かいところにこだわっているか、その積み重ねが勝負を分けた試合だったと思います。

それではまた次回。

#07 【2020J1第10節 浦和レッズ×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。湘南戦は飛ばしてしまいまして、浦和戦のことを書きます。広島は鳥栖戦がまたも中止になってしまったのでやや日程に余裕がある状況、対する浦和は前の試合で6失点と厳しい負け方をし、悪い流れを払拭したい一戦となりました。スタメンは以下。

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浦和は4-4-2の形をとってきました。開幕前から注目され、始まってみればここまで6ゴールと前評判通りの活躍を見せるレオナルドが攻撃の軸になるでしょうか。今の浦和がどういうやり方を志向しているのかは知らないので、オーソドックスな4-4-2で何をしてくるかは見てみないと分かりません。

一方の広島はメンバーを湘南戦から変えず。勝っているチームは変えない、セオリー通りかつ城福監督らしい選択ではないでしょうか。

明確になった図式

さて、試合は開始早々の3分に浦和が汰木の抜け出しで得たPKをレオナルドが決めて先制。このシーンに関してはジャッジリプレイで議論もされていましたが、それ以前にハイネルの対応がまずかったという印象です。中央へのパスコースをを切りながら外に誘導するのがセオリーだと思いますが……いきなり手痛いミスが出てしまいました。その前にセカンドボールを奪いに行った川辺と青山がかわされて空いたところを使われた、というシーンでもありますが、敵陣での即時奪回を目指すなら背負わなければならないリスクでもあるので、まあ致し方なしかなと思います。

さて、前半5分で浦和が先制したことで、広島がボールを持ち、浦和が自陣に引いて構えるという構図が明白になります。この試合の浦和はもともと広島に持たせてカウンターを狙うプランだったのでしょうが、先制すると自陣でしっかりとブロックを組むことをかなり優先してきました。特に対応がきっちり決まっていると感じたのは広島の左サイドに対してです。

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左WBの柏がボールを持った際、SHの関根が下がってきて対応し、SBの橋岡はサイドまで出ていかないことが徹底されていました。これによって森島が裏に抜けていく動きをしても橋岡が見ることができます。関根はこのタスクを相当頑張ってこなしており、攻撃に出てくるシーンは前半の40分くらいまでほぼなかったと思います。

で、浦和は森島が裏に抜けていわゆる「ポケット」で受ける動きを相当ケアしており、もしSBの橋岡が出ることになった場合であっても

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DHの柴戸がついて行って自由にプレーさせません。ただしこの場合は柴戸が元いた場所が空くので、そこに青山や川辺が入ってきて崩しに行ったり逆サイドへ展開するシーンは何度かありました。

浦和がしっかり対策を練ってきているとはいえこれだけの対応を続けていれば必ず疲れが出てくるものですし、左サイドはこれをしつこく続けていれば去年のA東京戦のようにチャンスが来るのではないかと思って見ていました。

ハイネルの位置が低すぎる問題

一方の右サイドについて、チャンスができていないわけではなかったのですがずっと気になっている問題がこの試合でも起きていました。ハイネルの位置が低すぎるのです。

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ハイネルはDHと同じくらいの高さまで下がってボールを受ける傾向が強く、浦和はSHの汰木が前に出ていく形で容易に対応することができていました。右サイドではシャドーの浅野がサイドに流れていく動きも多く見られたので、それでSBを引き付けてCBSB間に川辺を走らせたいという狙いのような気はするのですが、だとしてもその移動をしている間にパスコースがなくなってしまうように感じます。実際に試合でも降りていったハイネルから効果的なボールが入ることは少なかったように思います。

25分ごろに青山からのパスで右サイドの奥まで侵入したハイネルがクロスを上げるシーンがあったのですが、この時のようにSHの汰木を後ろに下がりながらプレーさせるようなシーンがもっと見たかったなと思います。高い位置を取ってSBを引き出せば浅野や川辺が走りこむスペースができますし、SHの汰木はカウンターになるとドリブルでハイネルを抜き去って行くシーンもあったので尚更です。

一方で後半になって入ってきた茶島は積極的に高い位置を取るようになり、特に森島との組み合わせになってからは左サイドと同様に整理された攻撃ができていた印象があります。ハイネルはこの試合でも見せたように決定的なチャンスを作るプレーができる選手ですが、組織として右サイドが活きていたかというと首を縦には振れないかな、という感じですね。

紙一重だった采配

さて、浦和は前半の30分過ぎあたりから関根を下げた5-3-2のような形で守り、後半に入ってからは5-4-1で完全に撤退の構え。63分には得点の期待できるレオナルドを下げてキープ力のある杉本健勇、74分にサイドの汰木に替えてDFの岩波を投入するなど、この試合では一貫して点差を守るためのカードを切っていきました。

一方の城福監督もハイネルと浅野を下げて茶島と東を入れて右サイドに手を加えると、さらに柏に替えて藤井を投入、左が藤井と東、右が茶島と森島という組み合わせに変更します。ここが城福監督の考えが見えるようで面白かったですね。基本的には森島と柏を強いユニットとして考えているので柏がいる間は森島を左に置いていますが、柏がいないなら裏抜けしてクロスを上げやすいようにシャドーは効き足と同じサイドに配置するという意図なのかなと思います。

さらに青山とペレイラに替えて野津田とヴィエイラを投入しますがこの辺りから攻撃はトーンダウン。特に左サイドは藤井のドリブルに対し、左利きの東と野津田はサイドの方がプレーしやすいのか寄って行ってスペースを狭めてしまう場面も見られました。この辺の連携はまだ発展途上ということかもしれません。個人的には相手がこれだけ引いてるなら中盤かDFを削ってペレイラヴィエイラのツインタワー戦術も面白いと思いましたが、それはやりませんでしたね。

結果的には浦和が逃げ切りに成功して大槻監督の采配が当たった形になりましたが、広島も東と茶島の投入以降は攻撃がうまく回っており、もしそのタイミングで追いついていれば城福監督の采配が的中、レオナルドを引っ込めてしまった大槻監督は途方に暮れることとなったでしょう。紙一重のゲームだったと感じます。

試合を終えて

結局開始5分のゴールを守り切った浦和が勝利。守護神の西川を中心に何としても守り切るという気迫を感じる戦いでした。前節の反省を踏まえてまずは守備を優先するというのは分かっていてもやり切るのは簡単なことではありません。勝ち点3への執念を感じるゲームでした。

広島は敗れはしたものの多くのチャンスを作りだしました。しかし交替で入ってきた選手たちの連携や5バックの相手に対する攻め方などまだ発展途上と感じる部分もあります。とはいえすぐにFC東京戦、その後は横浜FM、仙台と難敵が続きます。去年からやってきた路線を継続し、さらなる成長が見られる好ゲームを期待したいですね。

それではまた次回。

#06【2020J1第8節 横浜FC×サンフレッチェ広島】

はしがき

どうもお世話になっております。今回は横浜FC戦です。名古屋戦が中止となってしまい、1週間以上空けてのゲームとなりました。ここまで4試合勝ちなしの広島。この期間にチームを立て直せたかを占う一戦となります。一方の横浜FCも4試合勝ちなしの3連敗中と振るわない成績。両者にとって飛翔のきっかけを掴みたい一戦と言えるでしょう。そんなゲームのスタメンは以下。

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広島は大迫がスタメンに復帰、左サイドには藤井が抜擢されました。また、左シャドーに東、右サイドに森島と順足の選手を配置しているのも特徴ですね。一方の横浜FCは3-5-2の並び。2トップの皆川に懐かしさを感じます。両ワイドの推進力が高いイメージはありますが、2月のルヴァンカップも見ていないので分からないことが多いです。正直。

骨格を殴れる広島

さて前節は同じ配置のガンバを相手にボールは持ててもなかなか崩しきれなかった広島。しかし、この試合ではボールを前に進めた後の形が用意されていると感じました。

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主に青山が最終ラインに降りて佐々木と野上の両CBが2トップの脇でボールを持ちます。左サイドではこの佐々木に対してしばしばIHの松尾が出てくるので、その裏のスペースに東が降りてきてボールを受けます。東はかなり深くまで降りていったので対面のCBである田代はついて行ったとしても途中でマークを話しており、東がフリーで前を向けるシーンは何度かありました。ここから藤井へのスルーパス、流れてきたヴィエイラとのコンビネーションで崩しにかかっており、先制点は東から流れてきた森島へのパスが通ってのものでしたね。先制点のシーンでは田代が降りていった東のマークを受け渡したタイミングで森島が裏を取っており、まさに狙い通りの形だったのではないでしょうか。

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また、右サイドはより練られていたように見えました。開いた野上から茶島にボールが渡った際、森島がWBの裏のスペースに走ることで手塚を引き出し、空いたスペースに茶島がドリブルしたり、川辺や野上が入ってきてワンツーによるハーフスペース侵入を試みたりというシーンが見られました。ここでは森島に手塚がついて行った場合を図示していますが、森島がフリーになった場合はもちろん森島を使いに行くのでしょう。

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さらに、森島が引いてCBの袴田がついてきた場合はその裏のスペースに川辺が得意のロングランというパターンもありました。これはお馴染みのやつですが、やはり崩しのパターンが複数あってそのうちの一つとして使う方がより対処しにくくて良いですね。

また、東が降りていった場合も森島が裏に抜けた場合も効き足と同じサイドで起用することでスルーパスやクロスといったその後の展開につなげやすくなっていると感じます。この辺も今節の起用のポイントではないでしょうか。

総じて試合序盤の広島からは「相手を動かして様子を見て、できたスペースを使って崩していく」という意識が感じられました。「サイドのCBが2トップ脇に立つ→WBが高い位置を取れる→シャドーのポジショニングで相手を揺さぶれる」という流れは非常にロジカルで、見ていて気持ちが良いものでしたね。さらにこうして崩せている間に先制点も取れたわけで、広島にとっては理想的な形でした。

マンツー気味の広島

一方、横浜FCのボール保持に関しては早い段階で広島のプレス隊に捕まってしまっていました。

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3バックに対して広島の前線3人を当てられ、サイドと中盤もつかまっている状態。3センターなので広島の2DHに対して数的優位のはずですが、そこには度々佐々木が出てきて対応している感じです。これは神戸戦でも見た形ですね。

ほぼ全員が捕まっている中で横浜FCはGKの南を使いながら勇敢に繋ぎにかかりますが、中盤までに出しどころを失って奪われるシーンが目立ちました。この辺のデュエルではコンディションの差も影響したでしょうかね。個人的にはもう少し簡単に、相手を裏返すようなロングボールがあってもいいのかなと思いました。前線の皆川は無理がきく選手ですからね。

 

スペースは埋めたけど

さて、横浜FCとしてはボールが持てずに一方的に崩されたまま先制点まで取られてしまったという状態に。引水タイムを挟んで、5-4-1での守備に変更します。

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2トップの一角だった斎藤が左SHに入る形で、右SHを松浦が担当します。これでひとまず中央のスペースを埋めて、誰かが動かされてもカバーできる態勢は整えました。しかし前線が皆川1人という後ろに重たい陣形になってしまい、ボールホルダーにプレスがかかりづらくなります。

横浜FCとしてはひとまず応急措置はしたものの押し込まれ続ける苦しい展開は変わらず。さらにセットプレーから追加点を奪われ、このまま引きこもっていては厳しい展開になります。

3枚替えは便利

というわけでハーフタイムに3枚替えを敢行!4-3-3に移行してきました。

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4バックにすることで広島の前線3人に対して数的優位を確保、3センターで2DHに対して数的優位になるという形ですね。これによって広島のマークがぼやけてしまい、ボールを前進できるようになっていきます。

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例えば51分のシーンでは右サイドに人を集め、アンカーの手塚をフリーにしてから中に入ってきた松尾に渡してプレス回避するというシーンがありました。横浜FCのビルドアップはこのような感じでミスマッチを作りながら片方のサイドに人を集め、逆サイドに一気に展開するというシーンを作りだしたいようでした。特に右サイドでのマギーニョと藤井の1対1はよく狙われていましたね。左サイドの袴田を上げて密集を作り、右サイドのマギーニョに展開という流れは意図されたもののように感じます。

広島が高い位置からプレスをかけていればこのやり方も効果的でしたが、徐々に撤退して人海戦術での守備を選択することが多くなった広島を崩すまでには至らず、得点をあげることはできませんでした。

試合を終えて

広島は長いインターバルを活かして理論的な攻撃を仕込んできたなと感じました。相手の立ち位置に合わせて自分たちのポジションを決め、そこから相手を動かしてできたスペースを突くという論理的なボールの動かし方ができていました。こういうやり方ができてしかも結果に結びついたのは大きいと思います。こういうサッカーを毎試合見られることを期待したいですね。

横浜FCは序盤苦しかったものの対応は素早く、応急処置をしてから後半に反撃の手を打てるだけの引き出しの豊富さを見せました。流れの悪い時間帯に耐え切れず失点してしまうというツキの悪さもありましたが、状況を見極めて的確に対応し巻き返せるあたりさすが下平監督のチームという感じがしました。今シーズンは降格がなく交替枠も5枚あるので、戦術的な引き出しが豊富にあるチームは有利なんじゃないでしょうか。まだ発展途上かと思いますが、今後の進化が楽しみなチームですね。

それではまた次回。

#05 【2020J1第6節】ガンバ大阪×サンフレッチェ広島

はしがき

平素より大変お世話になっております。今節も書くことにしました。前節セレッソ大阪に敗れた広島は連勝中のガンバ大阪のホームに乗り込みました。スタメンは以下。

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広島はいつもの3-4-2-1ですが、茶島と柴崎が初先発。左WBには浅野が起用されています。一方のガンバは3-5-2。遠藤のアンカーはなかなか守備面が不安そうですがどうでしょうか。

 

噛み合わせの優位とドリブルの効果

さて、試合が始まってみればガンバの2トップは広島の最終ラインにさほどプレスをかけてこなかったため、広島は比較的落ち着いてボールを保持することができていました。

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広島の3バックがガンバの2トップ脇で持てるので、DHの柴崎や川辺が降りていかなくてもボールが前進できていました。また、CBがサイドに開いていたので自然とWBが高い位置を取ることも多かったように思います。そして、そこからの崩しで効果的に映ったのが右サイドの茶島によるドリブルです。

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茶島はサイドでボールを持つとしばしば中にドリブルで切れ込んでいく動きを見せました。これによってガンバの3センターが動かされ、ペレイラヴィエイラらアタッカーや逆サイドの柴崎へのパスコースができていました。

一方で、サイドを縦に突破しようとしていく動きについてはシャドーとWBの距離が近くなり過ぎておりうまくいっていませんでした。広島はボールを落ち着かせることは割とできていましたがそこからの前進には相変わらず苦労していたという印象です。

遠藤アンカーという諸刃の剣

一方のガンバは3-5-2そのままではなく、やや形を変えてビルドアップしてくることもありました。

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東口にボールを預けてCBの2人が開いてもう1人をサイドに押し上げ、WBが中に入ってくることでサイドでミスマッチを作り出します。こうすることで森島、佐々木、浅野らが誰を見ればいいか迷いやすくなるほか、アンカーの遠藤が降りていった場合にも捕まえにくくなっています。

ガンバはこうして降りていく遠藤にボールを渡し、それを起点にボールを前進させる場面が多く見られました。遠藤はブロックの外側でフリーになればサイドにも中央にも自在にパスを通せるため、それがガンバの攻撃を活かすことに繋がっていました。その後はIHの倉田やFWの宇佐美が動き回って数的優位を作ってコンビネーションによる突破を狙う、という流れになっていました。前節のセレッソのように動きが決まっているわけではありませんでしたが、強力なタレントがいるので彼らを自由にやらせるために大枠だけ決めるという形なのかもと思いました。

一方で、アンカーに遠藤で前線の選手は自由に動き回るため、ネガトラについては脆いところも数多く見られました。

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ガンバは敵陣の奥でボールを奪われた場合にWBもIHも高い位置を取っていることがしばしばあり、遠藤の脇をあっさり通過されて広島のアタッカーとCBがいきなり対峙する、という場面が見られました。この試合では三浦をはじめCB陣の対人性能と東口のセーブによって何とかしのいでいましたが、構造としてはやや不安定なものを感じました。

互いに長所と不安要素が出ている前半で、チャンスの数も互角。そんな中でガンバは41分にセットプレーから先制し、リードして前半を折り返します。

川辺の突撃とポジショニングの変化

さて、広島は後半から浅野に替えてハイネル、柴崎に替えて青山を投入。ハイネルを右サイドに入れ、茶島が左サイドに回ります。これによって広島のポジショニングが変わっていました。

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広島は青山が降りて4バック化し、ハイネルが低い位置まで降りてきます。低い位置のハイネルにボールを預けることでWBの藤春とCBのキムヨングォンを釣り出し、その裏に川辺を走らせての突破を狙います。この形を狙うためにハイネルを入れたのだとしたら納得はいきます。これ自体は普段からやっている形だし、実際うまくいけばチャンスにも繋がっていました。

しかしこの形はハイネルに要求されるプレーの難易度も高いですし、川辺の消耗も激しいはずなのであんまりこれに依存してほしくはないんですよね。しかしこれ以外のルートでビルドアップしようにも川辺と青山両方が中央から離れてしまうので前進できないという状態でした。そもそもこれだったら青山が最終ラインに落ちる必要があまりないとも思います。川辺の裏抜けと青山を経由した展開の両方を使い分けられるようになってくれればより攻撃にも迫力が増すと思います。

この試合の後半については広島がチャンスを多く作っていましたが、ボール保持で敵陣に押し込めていたかどうかは微妙なところで、半分くらいはガンバのネガトラにおける脆さを突いたカウンターからのチャンスだったように感じます。リードされた展開でカウンターからチャンスが作れていたわけなのでせめて同点にはしたかったところですが、複数あったチャンスも決められず0-1のまま終了。このあたりは連戦の疲労を感じるところでしたね。

試合を終えて

広島としては前節よりは内容の良い試合ができたと思いますが、それでもまだまだ改善点は多く、結果もついて来ないという試合になってしまいました。前半に見せた茶島のドリブルからの崩しや、後半の川辺の裏抜けには可能性を感じたのでそれらを活かす方向に向かってくれればなと思います。名古屋戦は中止が決まってしまいましたが、次の試合を気長に待ちたいところです。

一方のガンバはセットプレーの1点を守り切りしぶとく勝利。勝ってるのにカウンターを食らうなど危うさを感じる部分もありますが、三浦や東口といった守備陣の奮闘もありしのぎ切りました。前線の宇佐美、倉田、遠藤らもそうですがこうした個の強さを存分に発揮して勝ち切ってしまえるのが強みのチームといえるのかもしれませんね。

それではまた次回。

 

#04 【2020J1第5節 サンフレッチェ広島×セレッソ大阪】

はしがき

平素より大変お世話になっております。もう次の試合当日ですがセレッソ戦でございます。今季個人的に優勝を予想したセレッソですが、3勝1敗となかなか好調な滑り出しの様子。サンフレッチェはどう戦ったのでしょう。ということでスタメンは以下。

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広島は永井が初先発。シャドーに入るのかと思ったらまさかの2トップで3-1-4-2でした。鳥栖戦の終盤に2トップっぽくなったこと以外では昨シーズンの川崎戦で採用して以来でしょうか。となるとハイプレスをかける気がありそうです。

一方のセレッソは4-4-2。並びについてはお馴染みのような気もしますね。都倉には嫌な思い出しかないのでお手柔らかにお願いしたいところ。

広島の想定、セレッソのポジションチェンジ

3-1-4-2を採用した広島は、おそらくセレッソの2CBを2トップで捕まえ、SBをWB、中に入ってくるSHはCBを迎撃に出すことで出所を塞ぎロングボールを蹴らせて回収しようという魂胆だったと思われます。

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と、こう書くとうまくいきそうな気もしますがセレッソのビルドアップは様々なパターンがあり、広島は対応に苦慮することとなりました。

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ちょっと1枚の図で説明するのは難しいのですが、清武が中に入ってくることで丸橋が高い位置を取り、そこに藤田が降りてくるローテーションが良く見られました。ここで清武のマークを野上から川辺に渡すと藤田が空いてしまい、そこからフリーで運ばれてしまいます。かといって野上がどこまでもついていくと今度は都倉が流れてくることもあります。そこに荒木がついて行くのか、行けば中央が大きく空いてしまう……という風に、広島がどう対応してくるか問いかけるようにポジションを変えていました。実際にはこれらのポジションチェンジが起きないことも部分的に起きることもあり、全てのパスコースをふさぐのは非常に難しい状態でした。

右サイドも2トップ脇にいるのが松田で幅を取ってくるのが坂元という違いはありますがコンセプトは似ていて、、広島の出方を見ながら大外の坂元の突破か松田のドリブルによるボール運びを使い分けているという印象でした。

そもそもセレッソ側はポジションチェンジを繰り返して様子を見ながら空いたところにパスを通してしまえばいいわけで、これを防ぐのは非常に難しくなります。ということで広島はハイプレスをあきらめて早々に撤退する場面が増え、セレッソが割と簡単にボールを運べる展開となりました。

3-5-2の弊害、ミスマッチと連携不足

こうした中で生まれたセレッソの先制点は、セレッソのビルドアップのうまさと広島の3-5-2の欠点が出たシーンだったと思います。

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セレッソの右SBである松田がボールを受けたのは5-3-2の広島にとって空きやすい場所で、ここでボールを持たれるとボールホルダーがフリーになりやすくなります。このシーンでは森島が行く意思を見せますが松田はほぼフリーで坂元にパスを通せます。いつもの5-4-1であればシャドーがいるエリアなのでもう少し圧力をかけられるのですが、今回は坂元と清水があっさりと1vs1になってしまいました。

そして、この時セレッソは中央に3人が入ってきており、佐々木はカバーに出ていくことができません。森島がカットインをケアしますが縦に抜けられてフリーでクロスを上げられての失点となりました。

清水の背後のスペースには佐々木が出ていくのか、その場合最終ラインに誰を下げるのか、あるいは清水に縦を切らせてカットインされた場合森島がカバーするという形なのか、そういったところまでは詰め切れていないのかなと感じました。城福監督はこの3-5-2の併用も考えているかもしれませんが、ハイプレスやボール保持だけでなくこういった地味な部分の対応にも注目したいと思います。

ボールを持った広島の悪癖

一方広島のボール保持について、この試合ではほぼ封じられていたと言っていいのではないでしょうか。広島は3-1-4-2なので最終ラインと中央のミスマッチを生かしつつボールを運びたいところですが、良く見られたのは以下のような現象でした。

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広島の最終ラインからWBへ早めにボールが出てしまいWBが低い位置でボールを受けることになるため、セレッソのSHがWBに対して圧力をかけることができます。その上SBもしっかり前に出てくるため、WBのパスコースはほぼなくなり、残された選択肢は中央にパスを入れて難しいコンビネーションによる突破を試みるくらいです。

さらにこうした現象が続くことで、広島の悪癖である列移動が頻発してしまいます。

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相手の守備基準を狂わせるために列を移動することは効果的なのですが、広島のそれは単に数的優位を確保するために行われることが多く、結果的に相手にとってボールを受けられると怖いゾーンから人がいなくなってしまうことが良くあります。

この試合でも青山が最終ラインに降りたり川辺、森島が降りていって中盤に人が全然いないことがしばしばありました。これだとセレッソは怖くないし、全体をスライドさせることで簡単に押し上げることができます。ただでさえボールを進められない広島はこれによって自らの首を絞める結果になっているという印象でした。

それでもペレイラのキープ力や中盤でのコンビネーションによって前進できることはありましたが、安定してボールを運べている状態ではなかったと言えるでしょう。広島はいい形をほとんど出せず、ビハインドのまま折り返すことになります。

ポジショニング修正という希望

さて、後半に入って早々広島が自陣でのミスから失点、直後にPKを得て追いすがるという慌ただしい展開になりました。それとはあまり関係ないのですが、後半は広島側にポジショニングの変化が見られたことが気になりました。

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46分のシーンですが、野上から川辺、荒木、佐々木を飛ばして藤井までリズミカルにパスが繋がり藤井が松田と1vs1になったシーンを取り上げます。このシーンでは森島がデサバトと坂元の間に位置することによって坂元の注意を引き、藤井が高い位置で松田と1vs1になれる状況を演出できました。荒木から佐々木を飛ばして直接藤井に繋がったのも良かったですね。

もちろんリードしたセレッソが引き気味に構えたこともあるでしょうが、後半はこのようにサイドの選手が高い位置を取れる局面が増えたと感じました。ここでは突破できませんでしたが、こういう形を繰り返し作れれば藤井が森島やヴィエイラとの連携から突破するといった形も狙いやすくなります。

この後のPKに繋がった場面でも森島は中央でデサバトと入れ替わっていますし、やはりライン間にいてなんぼの選手なのかなと感じます。森島は藤井に対してさかんに高い位置を取るようなジェスチャーが見られましたし、自分のポジショニングによって起こせる変化を理解してプレーしているのではないか?と感じました。柏がいない今、攻撃面で彼にかかる期待は大きくなるばかりです。

個人的にはこうしたポジショニングで相手を揺さぶる攻撃が見たかったのですが、森島も途中で野津田に交代、ハイネルを中央に入れるなどどちらかといえばパワーのある選手を残すことで圧力をかけ続けるという選択になりました。そうしたパワーにモノを言わせてチャンスを作ることもできてはいましたが結局はセレッソにしのぎ切られ、広島は今シーズン2敗目を喫することとなりました。

試合を終えて

チームとしての完成度に大きく差があることを実感させられる試合だったのではないでしょうか。スコアこそ1点差ですが、10回やったら6~7回は負ける内容なんじゃないかなと感じてしまいました。まだ今日のシステムは発展途上であるとはいえ、これまでの課題も継続して出ており、根本的に変えなければならない部分も多いなと感じます。まずは今日のガンバ戦、何か変化が見られるか期待したいと思います。

一方セレッソとしては大筋では狙い通りの試合ができたのではないでしょうか。やはりチームの熟練度は高く、選手、監督、スタッフによる準備の質が高いことがうかがえます。個人的にはこういった理詰めで相手を揺さぶっていくサッカーは大好物なので、前節の鳥栖同様ぜひ好成績を収めてほしいと思います。

それではまた次回。