#01 設計図【J1第1節 サンフレッチェ広島×清水エスパルス】

はしがき

はじめまして。かんだ(@syukan13)と申します。
もう10年以上サンフレッチェ広島を応援していますが、今シーズンはチームの狙いや変化を追跡してみよう!と思い、ここに試合を見て感じたことや気づいたことを記していこうと思います。
恐らく拙いものになるでしょうし毎試合できるかは分かりませんが、見てくださる方がいればよろしくお付き合いお願い致します。

背景

今年も日常が帰ってきました。DAZNマネーやそれに伴う外国人枠の拡大、大物選手の参戦など変革の時期を迎えつつあるJリーグ我らがサンフレッチェ広島も、今シーズンはよりボールを大事にするサッカーへとシフトするとのこと。迎える2019シーズン開幕戦、ホームに清水エスパルスを迎えました。スタメンは以下。

 

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広島は昨年の序盤に猛威をふるった4-4-2から、昨年の最終節で用いた3-4-2-1に変更。林、青山、稲垣ら昨年チームを支えた主力がいない中、大迫や川辺に野津田、松本泰志といった若手の目立つスタメンとなりました。

一方の清水も、昨年用いていた4-4-2から3-4-2-1に。昨シーズン攻撃の中心となったドウグラスや、今オフの目玉補強であるところのエウシーニョが不在。すっかり日本代表に定着した感もある北川に期待がかかるところでしょうか。

試合の導入と両チームの狙い

両チームともに3バックシステムを採用しているこのゲーム、当然と言っていいかは分かりませんが、両チームともに3バックでビルドアップを行おうとすることになります。両チームともに3バック+2DHによるボール前進を試みていましたが、それに対するプレスのかけ方に違いが見られたのでそれを通して試合の流れを追ってみたいと思います。

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まず、清水の3バックがボールを持った場合ですが、広島の1トップの渡は立田へのパスコースを制限し、ボールサイドのシャドーがボランチへのパスコースを切りながらCBにプレスをかけていました。降りてくるDHの竹内と河井にはDHの泰志と川辺が深い位置までついていき、WBが降りてきてもWBがついていくのでフリーの選手が作れない、という状況になっていました。ただ、広島のボランチが上がっているのでその背後にはスペースがあり、中村と金子がタイミング良く降りてきてそのスペースでボールを受けてチャンスになりかける場面が何度かありました。とはいえこのスペースも毎回使えるわけではなく、しっかりサイドに追い込んだ場合には出しどころがなくてロングボールを蹴るしかないというケースの方が多かった印象です。そのロングボールも空中戦が飛び抜けて強いわけでもない北川をターゲットにしていたので回収されることが多く、広島のプレスは割とうまくはまっていたように思えます。

 

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一方、広島の3バックがボールを持った場合の清水の振る舞いはやや異なりました。最も大きく異なる点はDHに対してDHがついていかないという点で、泰志と川辺にボールが入った場合は自由を得ることができていました。野津田と柴崎に縦パスが通ってしまうリスクを嫌ったのかもしれません。では広島のように3バックに対して3トップを当てて制限したかというと、そういう訳でもありませんでした。2シャドーの中村と金子は3バックに対してプレスに行く時と行かない時とあり、3バックから完全に自由を奪えてもいませんでした。よって、後方で数的優位を得てフリーになったDHやCBから裏へのロングボールが出たり、WBを起点に攻撃を組み立てようとしていました。この状況がヨンソン監督によって計画されたものとはちょっと思えず、いまひとつ狙いが分かりませんでした。

何にせよ、広島はプレスがはまってボールを回収でき、ボールもある程度前進できていたため、広島がボールを保持し、清水が5-4-1でブロックを築いて撤退することが増えていきました。こっちの方がヨンソン監督のプランだったのかもしれません。

撤退する清水と手詰まりになる広島の攻撃

清水がブロックを組んで撤退してしまったため、広島は敵陣まで簡単にボールを運べるようになりました。ただ、相手は5-4-1なのでそう簡単には崩せません。清水の5-4-1を崩すために広島が目をつけたのは、「WBの裏」「2ライン間」の2つのスペースでした。

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WBの裏については、柏が左サイドでボールを持った場合にWBとSHが対応に出ることによってできるWBとCBの間のスペースを使った攻撃です。柏がボールを持った時に、①柴崎がWBとCBの間に走る、②①の柴崎をおとりにカットイン、③柏とボランチとのワンツー、の3パターンによって左サイドを攻略しようと試みました。ただ、クロスまで持っていったところで清水のDFはエリア内に密集しており、中央にいるのは渡や野津田であまり空中戦には期待できないため、大きなチャンスには結びついていませんでした。

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また、柏・エミル・渡が清水の5バックをピンどめしているからか清水の5と4の間には割とスペースがあったため、柴崎と野津田が引いてきてライン間のスペースで受け、そこからコンビネーションで崩そうとする動きも見られました。このあたりはミシャ式の波動を感じる形でした。泰志と川辺はスペースがある状態では積極的に縦パスを入れることができていたので柴崎と野津田がボールを受けることができましたが、そこからフリックやワンツーで最終ラインを突破するまでは至りませんでした。

ということで、広島はボールを前進できるものの最終ラインを崩せず、なかなか決定機を作り出せませんでした。42分の柴崎のシュートが六反に防がれたシーンくらいでしょうか。

一方の清水も5-4-1で守っているのでカウンターを繰り出しづらく、前述のプレス回避以外には有効なボール保持攻撃はあまり見られなかったように思います。しかし、ロングボールに反応した北川や残っていた金子、中村を起点としたカウンターが発動することが何度かあり、清水の先制点はそこから生まれました。広島が敵陣に押し込むと自陣には大きくスペースが空いており、北川の動き出しに合わせたロングボールはそれなりに有効だったと言えそうです。広島の撤退守備は前半にはほとんど見られなかったのですが、先制点のシーンでは川辺と柴崎の間のスペースが空いてしまい、そこにフェイクを入れてフリーになった金子が降りてきてフリック、北川が抜け出すという形でした。金子のテクニックと北川の決定力が光るゴールでワンチャンスを生かした清水がリードを奪い、広島はどうやってネットを揺らすのかという課題に直面したまま前半は終わります。

 

変わる並びと広島の揺さぶり、そしてパトリック

後半の頭から城福監督は並びを変更します。

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野津田と柴崎を入れ替えてシャドーの左右を変更、さらに川辺を一列前に上げてボール保持時3-1-5-1のような並びに見えました。

この変更の狙いとしては主に2つあると考えます。まずより機動力に優れる野津田を左に置いたことにより、WB裏のスペースへのランニングを高頻度で使えるようになりました。次に川辺を1列上げたことで野津田をサイドのスペースに流してもゴール前の人数を確保できるようになります。前半は片方のシャドーがサイドに流れるため柏のクロスに対してエリア内に2人しかいないこともあったのですが、得点シーンではエリア内に5人入っているなど、ゴール前に人数を割けるようになっています。また、清水は前線に北川1人しか残していなかったので、3バックと1ボランチでボール前進に十分な数的優位は確保できるため、この点でも理に適っていると思います。

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55分の柏がサイドでボールを持った際などがそうなのですが、左サイドに野津田が流れていることによって柏に対してカバーリングするはずだったSHもしくはDHが野津田に釣られてカバーしきれずにクロスを上げられる、という場面が度々ありました。パトリックを投入したことによりクロス攻撃の威力も増しているため、これらの方針は効果てきめんだったように感じます。

広島の同点弾もこうした局面が伏線になっており、柏に2人マークがついたことで佐々木がバイタルエリアでフリーになってクロスを上げたところから生まれました。このように、サイドでは野津田川辺のランニングによるコンビネーションをちらつかせながら柏の質的優位を生かし、そこからパトリックへのクロスを中心に相手を押し込んで2ライン間でのコンビネーションやバイタルエリアへの侵入も狙う、という設計はよくできていたのではないかと思います。

清水の改訂版ビルドアップ

さて、点を取りに行く必要が出てきた清水は、ビルドアップの形に変化を加えます。

DHの竹内が立田とファンソッコの間に降りて4バック+1DHのような形になります。ずっとこの形というわけではなかったですが割と多くやっていて、ミシャ式でいえば森崎カズの動きに近いような感じでした。

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この動きによって困ったのは広島のシャドーで、寄せていこうとしたらDFが一人多いし、コースを切るはずのDHはいないし、とどこを基準に守備をしたらいいのかわからなくなっていました。野津田がボールを持った立田に元気よく寄せようとしたらなぜかサイドにヴァンデルソンが開いていて追うのをやめた場面が印象的です。

さらにはこの形を逆手に取り、3バックのまま2DHの横に中村が降りてくるという前半からやっていた形も織り交ぜることで広島のプレス隊をさらに混乱させる清水。広島はこれに対して5-4-1での撤退守備を選択。清水はハーフラインまではボールを前進できたもののそれ以降はWBの単騎突破くらいしかチャンスを作る術はなく、一方の広島もボールを持てないと怖さを発揮できず、トランジションからパトリックに決定機があったものの決められず。1-1のまま試合は終了しました。

試合を終えて

広島としてはビルドアップ、敵陣からのプレスについてはある程度整備できていたものの、最後の20mの攻略はやはりパトリックに依存するところがまだ大きいなと感じました。とはいえ、最終ライン攻略にはどのチームも大なり小なり問題を抱えるのが常ですので、前半戦はある程度パトリックをちらつかせつつ、コンビネーションの成熟を図っていくというくらいで良いのではないかと思います。ただ今期やりたいことの設計図が見えたとはいえ、今日はたまたまボールが保持できただけという可能性もありますし、もう何試合か見てみないと完成度についてはわかりません。また、カウンターを食らいやすかったり撤退守備が破られたりとまだまだ前途は多難、旅は始まったばかりという感も強いところです。

清水は組織的なプレスが実装できていない点が気になりました。途中からは割としっかり撤退できていたので、立ち上がりになぜあんなに中途半端なプレスのかけ方になってしまったのかはよくわかりません。しかし、ボールが保持できないなりに効果的なカウンターも繰り出していましたし、ワンツーやフリックを用いた攻撃は相手に脅威を与えるに十分なものでした。同点になってから用いたような複数のビルドアップをうまく使い分けることができれば、状況に合わせて柔軟な戦い方のできるチームになるのではと思います。

 

それではまた、次回があれば。