#4 【2024J1第4節 ヴィッセル神戸×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は神戸戦。昨年のチャンピオンとの試合が早くもやってきましたね。昨年はルヴァンで2勝、リーグ戦では1勝1敗と相性は決して悪くないと思いますが、強度で言えばJ最強クラスですし広島にとっても難しい相手です。スタメンは以下。

神戸は4-1-2-3。宮代のIHや広瀬のWGなど、前所属チームのイメージとは違う起用が印象的です。汰木の負傷で空いたWGのポジションに広瀬が収まるのは神戸のスタイルを象徴しているような気もしますね。
広島は4試合連続でスタメン変更なしでした。越道がシーズン初のベンチ入りを果たしています。

ロングボールを組み込んだ神戸の前進

さて、試合は序盤からお互いが長いボールを蹴り合う展開となりました。広島も神戸も高い位置から相手の最終ラインにプレスを仕掛けるため、ビルドアップ隊は相手の背後へ向けて長いボールを選択する場面が増えていきます。

そうした展開の中、神戸は長いボールを戦略的に使っている様子が見て取れました。

広島は2CB+アンカーでビルドアップする相手に対しては1トップ2シャドーでプレスをかけ、SBに対してはWBを前に出すやり方を採用しています。これに対して、神戸はGKの前川までボールを下げることを厭わず、広島の選手たちを引き出してから長いボールを使うことを意識していました。

この時ターゲットとなるのはもちろん大迫と武藤になります。特にサイドにいる武藤については東がSBまで出ていき荒木は大迫から離れるわけにはいかないため完全な1sv1となっており、1vs1の強さを存分に発揮できる状況になっていました。
神戸はビルドアップが詰まって大迫や武藤に蹴っ飛ばしているのではなく、彼らの強さが生きる状況になるまで相手を引き出してから蹴っているのが好印象でした。広島のWBがプレスに出てこない場合はフリーになったSBを起点に繋いで前進できる技術があるからこそのスタイルだと思います。

広島は前川を組み込んだロングボール攻勢に対して効果的なプレスをかけることができず、CBに負荷とイエローカードがたまっていく展開となります。

神戸のプレスがもたらす2つの効果

一方の広島も神戸のプレスを受けて長いボールを蹴ることが多くなっていました。

広島の場合ターゲットは中野になるのですが、ここが思ったより競り勝てていなかったのが広島にとっては誤算でしたね。前節の鳥栖戦ではここをターゲットにすることで鳥栖のプレスに対抗しましたが、ここが競り勝てないことで前進ルートがかなり制限されました。

また、神戸の3トップが広島の3バックに対して積極的に前に出てきていたことも広島にとっては難しいポイントでしたね。3バックが落ち着いてボールを持てるならそこから左サイドに展開して東を起点とした得意の崩しに持って行けるのですが、それもさせてもらえない状況でした。
特に荒木は中央でプレスを受けて右サイドに蹴っ飛ばす場面が目立ちましたね。荒木がプレスを受けたら中野に蹴るというのは設計としては何も間違っていないと思うのですが、結果的にここまで広島の得意技だった左サイドからの前進を減らす結果になっていました。
神戸のプレスは広島にビルドアップを許さない+得意の左サイドからの前進を封殺するという2つの意味で効果的だったという印象でした。

縦に早いのはいいことか?

この試合で気になったポイントとして、広島が過剰なほど縦に早い展開を志向していたことが挙げられます。相手のプレスを外して中盤で前を向けることもあるのですが、そこからピエロスや大橋に向けてミドルパスを蹴って失う場面が何度がありました。特に満田はその傾向が顕著で、ミドルパスだけでなくかなり遠い距離からシュートを狙うこともありました。

もちろん直線的にゴールに迫れるならその選択肢は優先度が高いのですが、当然失敗する確率も高いので攻撃の機会を失いやすくなります。この試合ではプレスで相手を押し込むことができていなかったので、すぐに攻撃の機会を失ってしまうことで神戸にとって有利な縦長のロングボール蹴り合い展開に繋がってしまったように思います。

前節のように保持で相手を押し込むきっかけを作るためにも、前節とは異なりゆっくりと前進するという手はあって欲しかったです。神戸の足が止まり、東がボランチに入った試合終盤はこうした展開からゴールに狭れていたと思いますが、これをもう少し早く見たかったですね。

雑感・次節に向けて

試合はお互いに決定機が少ないまま0-0で終了。やりたいことを実現できていたのは神戸だったと思いますが、広島の守備陣もよく耐えていたと思います。

広島としては強度と早さが武器なのはわかるのですが、同じ武器を持つ相手に対して真っ向から立ち向かうのはちょっとどうかな……と感じました。相手の得意な展開にさせないための立ち回りができるとより有利に戦える試合が増えるんじゃないかなと思います。とても難しいことを言っているんですけどね。

神戸はロングボールをロジカルに使っていたのが印象的でした。全体的な強度の高さはもちろん、CBが釣り出された際のカバーなどもしっかりとしていて隙がないチームでした。町田もそうですが、こういう凡事徹底ができるチームが勝っているのはリーグのレベルアップにとっていいことのような気がしますね。

それではまた次回。

#3 【2024J1第3節 サンフレッチェ広島×サガン鳥栖】

はしがき

毎度お世話になっております。今回は鳥栖戦の振り返りです。両チームともすでに勝ち星を挙げており、プレッシャーという意味ではそんなにない一戦。Eスタ時代はお得意様であった鳥栖に対して、広島が引き続き相性の良さを見せられるかといった第3節でした。スタメンは以下。

広島は浦和戦、FC東京戦と全く同じメンバーでスタート。ベンチには志知と茶島が初のお目見えとなりました。一方の鳥栖は4バックでスタート。前線はアラウージョがトップ下という方が正確かもしれません。昨年10得点と大ブレイクの長沼も新スタジアムのピッチに立ちました。

予習ばっちりの鳥栖が見せたカバーリングの姿勢

さて、立ち上がりにボールを保持する機会が多かったのは広島の方でした。キックオフの中野へのロングボールをきっかけに敵陣へ押し込む機会を増やし、いつものように左サイドからの前進を試みます。しかし、加藤がサイドに流れる動きに対して鳥栖はしっかりと予習を済ませていました。

鳥栖のSHとSBがプレッシングのために前に出てくると加藤がその背後に流れるのですが、そこには鳥栖のDHがしっかりとついてきてカバーしていました。また、WBの横でサポートする川村、満田に対しても逆サイドのDHがしっかりとスライドして使わせず、広島の前進ルートを阻害することに成功していました。ここ2試合で広島の前進の核となっている左サイドの振る舞いがしっかりと分析されていたのを感じるとともに、適切な状況判断でスペースを管理できる鳥栖の中盤のクオリティを感じましたね。
また、そもそも鳥栖のSHは外切りプレスを仕掛けて広島のビルドアップを中に誘導しに来るので、広島はまずCBからWBにボールをつけるのに一工夫いる形になっており、ここも前進が難しくなる要因でした。

広島のプレス威力を削った鳥栖の立ち位置

一方、10分頃から見られた鳥栖のボール保持局面でも、広島の振る舞いをよく理解しているなという動きが見られました。

本来であれば鳥栖のCBに対してトップとシャドー、SBに対してはWBを前に出してプレスをかけたい広島ですが、鳥栖は前線の選手の立ち位置で広島にプレスをためらわせていました。10分のシーンが分かりやすいですが、2トップのアラウージョやヒアンが広島の左右CB、SHが広島のWBの近くに立つことで、CBとWBの縦へのスライドを制限。鳥栖のSBに時間を与えることに成功していました。
時間をもらえた丸橋と原田はドリブルで運ぶも良し、DHにパスを出すも良しの状況。数的不利に追い込まれた広島の1トップ2シャドーはプレスの開始地点を設定できない状況になっていました。

広島は果敢にWBを上げてプレスに行くこともありましたが、そうなると広島のCBの背後が空いている訳なので、鳥栖はそこに2トップを流して前進すればOKの構え。15分のシーンのように、ここにトップを流せば広いスペースで勝負できますね。
なお、このシーンで満田がついて行ったように広島はこのスペースをDHが下がってどうにかカバーして対応していましたが、DHの後ろ向きでの対応ということで結構怪しい感じでした。

ということで序盤は保持非保持ともに鳥栖の目論見通りの展開に見えましたが、広島はいつもの激しいプレスとは違ったやり方でこの状況を打開することに成功します。

鳥栖プレスの可動域を見極めた満田

それが13分頃から見られた満田の列落ちです。鳥栖がプレスに来る前にさっさとサイドの底に降りてしまうことでボールを受けて、長いボールで展開していきます。

本来満田の対面である鳥栖のDHは広島の保持局面ではサイドのスペースを埋めるのが仕事なので、降りていく満田にはついて行きづらくなります。また、満田の移動先にいるSHはCBにプレスをかけるのが仕事なので、降りてくる満田をどうすればいいかは難しいところ。
という訳で、満田がフリーで長いボールでの展開を決める展開が続いていました。2点目はまさにその形で、満田から逆サイドの大橋、中野がいる競り合いに勝てそうなエリアに放り込んでからの展開でした。
こうして満田が鳥栖のプレスをかいくぐる術を見つけたことで、試合のペースは広島に傾いて行きます。1点目のシーンで東の横が空いていると見るやすぐさまサポートに入ったところも含めて、満田のインテリジェンスの高さが目立つ展開となりました。

なお、満田が降りていればサイドの高い位置に留まり、加藤がサイドで受けるときにはすかさず中に入っていく東の調整能力も素晴らしかったですね。

配置を噛み合わせるメリットとデメリット

後半に入ると鳥栖は2人選手を入れ替え、3-4-2-1にして広島と並びを噛み合わせてきました。

ただ、効果があったかは微妙でしたね。おそらく非保持では並びをかみ合わせることで満田を捕まえやすくし、保持ではキムテヒョンを片上げしてそこから押し込みたかったのだろうと思います。しかし広島側も非保持で対面の相手がはっきり決まるのでプレスに行きやすくなり、そっちの側面の方が強く出てしまったという印象です。結果的に後半開始早々にビルドアップが捕まりPKを献上した鳥栖はこれを決められてほぼ終戦
広島は小原や野津田の試運転もしつつ、最後まで走り切った中野にご褒美があるという理想的な展開でホーム連勝を決めました。

雑感・次節に向けて

広島にとっては大きな勝利ではないかと感じました。4-0というスコアもそうですが、保持非保持ともに対策をしてきた相手に対して、これまでならプレスを継続して強度差による力押しでなんとか主導権を握りに行くしかありませんでした。

しかしこの試合では相手のプレスに対する応手を早い段階で確立し、そこからすぐに得点を奪うというこれまでと違う引き出しが見られました。ボールを保持してくる相手に対してプレスで正面から向き合うのではなくこっちもボールを握って対応する、という間接的な解決方法は今や世界中で見られる現象ですし、強いチームならどこもやっていることでしょう。複数の引き出しで試合の主導権を掴みに行けるようになっているのは頼もしい限りです。
また、 東京戦のレビューで活用したいねと書いた「押し込んだ後のハーフスペース」についても、この試合ではまさにそこからのミドルで先制点が生まれていてよかったです。押し込んでいればああいうことも起こるわけで、クロス一辺倒ではなくいろいろなアプローチをすることが大事ですね。

鳥栖は相変わらずかなり論理的に組み上げられたチームと感じました。DHが保持非保持問わずあれだけ走れて、チーム全体で戦術を共有できているのも好印象。

一方で、J1上位とやるにはどうしてもパワーが足りないのだろうなとも感じました。スーパーなWGやCFが1人いるだけでかなり違いそうですが…… ヒアンやアラウージョ、あるいは長沼はそうなっていけるのかが見どころ。この路線で上り詰めていく鳥栖は見たいところですが、目の前の成績という現実との闘いに打ち勝っていく必要がありそうです。

それではまた次回。

#2 【2024J1第2節 FC東京×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はFC東京戦。広島にとっては2020シーズン以来の開幕連勝がかかるゲームです。東京は前節C大阪に二度追いついての引き分けで、ホーム開幕戦で初勝利を狙うこととなりました。スタメンは以下。

東京は4-2-3-1のスタートで、トップ下に前節2ゴールを挙げた新加入の荒木遼太郎が入っています。広島は前節と同じ11人で、こちらも前節2ゴールの大橋がスタメン起用。サブに志知とユースの井上が入っています。

練度を感じる左サイドのその先

試合開始から目立ったのが広島の左サイドのボール保持。前節も冴えていたビルドアップがこの試合も刺さっていました。

FC東京は3トップで広島のCBにプレスを仕掛けていくわけですが、CBの佐々木がこれを待って東にパスを出すとSBの長友が東までスライドせざるを得ません。長友がこの長距離の移動を行っている間に、シャドーの加藤は長友の背後に侵入、川村が東の真横にサポートに入ってきます。松木は加藤について行くか川村を迎え撃つかの選択を迫られるので、東は空いた方を選べばいいという訳ですね。
この時にピエロスが森重がスライドできないように視界に入っているのもうまいポイントです。
11分の加藤のクロスと18分の加藤のシュートはいずれもこの形で綺麗にサイドを攻略しており、これだけ好きにやれている間に先制したかったところでしょう。東は22分にもピンポイントクロスを加藤に合わせており、FC東京としてはここを放置するとまずいところ。

というわけで、25分くらいから仲川が佐々木までプレスをかけにいかず、東にボールが出たところで対応するようになっていきます。代わりに荒木が佐々木まで寄せていくようになり、東京は非保持4-4-2のような形になっていきます。

こうすることで左サイドに大穴が空くようなシーンは見られなくなり、広島の攻勢はひと段落。ここから広島は満田川村を左サイドに集めて数的優位を作って突破を図っていましたが、決定的な場面は作れていませんでした。
個人的にはここは焦らずにボールを回して大外からのハイクロスでチャンスをうかがうなど、むやみにバランスを崩す方向に入ってほしくなかったなーという気がしますね。30分以降は広島がサイドに人を集めることで東京が空いたスペースからロングカウンターを繰り出せる気配が漂っていた印象です。

なお、35分辺りで下がってきた東が仲川が寄せてくるのを見るや佐々木にボールを返して高い位置に出ていったあたりに彼のインテリジェンスを感じました。低い位置にいて長友が引き出せないならフリーの佐々木に返して、長友が釣り出せるくらい高い位置に出ていくべきですからね。

立ち位置自在で存在感を放つ荒木

一方、非保持で序盤からプレッシングを仕掛ける広島はトップとシャドーでCBを監視し、SBにパスが出たらWBが追いかけていくいつもの形。中盤の原川、松木、荒木はDHの川村と満田に加えて加藤を少し下げて対応し、前線3トップに対しては3バックの同数で迎え撃ちます。

東京ははじめディエゴへの長いボールやWGを走らせるボールでプレスを打開しようと試みますが、広島のプレスを受けたロングボールは読まれやすく、またフィジカルに優れる広島のCB陣を前になかなか前に進めません。

そのような状況を解決するべく動いていたのがトップ下の荒木遼太郎。ディエゴのそば、広島のDHの背後でボールを受ける動きはもちろん、時に最前線に出ていくなどポジションを流動的に動かしながら広島DHのマークを逃れ、前進の起点を作っていきます。

印象的だったのはサイドにボールが出た際のサポートで、DHと同時にサイドに流れてSBのパスコースを作ることで広島のプレスをかいくぐって逆サイドに展開していくシーンが何度か見られました。24分のシーンのように、東京は左サイドに人を集めて脱出するシーンが何度かありましたね。

マンツーマンでプレスを仕掛けていく広島のプレスですが、WBが出ていく例を始め縦方向への移動には思い切ってついて行く一方で、横方向の動きは割と受け渡す傾向にあります。そこで複数の選手にサイドに流れる動きをされると対応は難しくなるところで、加藤や満田、川村がついて行っていいのか少し判断を迷っている様子でした。

SBに追い込んで中央で待ち構えてボールを奪うのは定石ですが、そこに人数をかけすぎると奪えなかったときに簡単に逆サイドに展開されるわけで、ここは難しいところです。

序盤は広島が狙い通りの前進を見せるものの、ブロック守備修正と荒木の尽力によってFC東京が少しずつ流れを取り戻していったような前半でした。

交代なしでもできることは

後半も試合の景色は大きく変わらず。広島が微妙な判定から得たPKをものにして先制すると、直後にFC東京トランジションから追いつくという一進一退の展開となります。終盤にかけてはWGをはじめフレッシュな選手を投入したFC東京がゴールに迫る展開が増え、先発11人が変わらず強度の下がっていった広島の方がやや苦しくなる展開でした。

広島ベンチの攻撃的なカードとしてはエゼキエウや井上が考えられますが、いずれもハイクロスに合わせるという展開には不向き。彼らを活かすならサイドに展開してからの攻撃ではなく、カウンターから中央3レーンをゴールに直線的に迫っていくような攻め筋になるでしょう。
しかしそのやり方だと奪われてカウンターになるリスクも上がるわけで、ただでさえギリギリだった守備陣の状態を考慮して見送ったという解釈でいます。既に塩谷がジャジャシルバに、荒木が俵積田に置いて行かれて危ない状況になっていたわけですからね。

一方で、サイドからのクロスを前提とするにしてももうちょっとできることはなかったかなーというのも気になるところです。サイドの高い位置でボールを渡せば仕掛けられる小原や柏を入れておくとか、右サイドなら越道や茶島がいればクロス精度で変化がつけられたでしょう(小原は帯同はしていたようなので直前で何かあったのかもしれませんが)。
クロス攻撃を主体とするチームのクロスが相手のCBも超えないようでは話にならないので、サイドからの攻め筋で変化をつけられるカードは持っておいて欲しいかなーという気がします。もちろん結果論ではあるんですけど。

また、交代カードを切らないにしてもクロスを上げる位置を工夫するという手もありますね。

広島のクロスはもっぱら高い位置を取ったWBから上がってくるわけですが、1トップ2シャドーに加えて逆サイドのWBも入ってくるので、相手としてはゴール前の守備に多くの人数を割かなければいけません。特にDHも含めて最終ラインに吸収されるような形になるので、そこで一つ手前の選手を使ってクロスを上げられると良いですね。

昨シーズンで言えばホーム神戸戦の2点目の加藤のゴール、この試合で言えば79分に満田がクロスを上げたシーンなどでしょうか。この位置からのクロスなら距離が短くて大外にも合わせやすくなるでしょうし、相手を押し込める広島のやり方にもあっていると思うのでぜひ見たい攻撃パターンです。

雑感・試合を終えて

結局試合は1-1で終了。広島としては押してはいるものの有効な攻め筋は見いだせず、なんとか1ポイント持ち帰ったという形でしょうか。WGのリレーでカウンターを継続的に繰り出していたFC東京の方が悔やまれる内容かもしれませんね。

FC東京はとにかく荒木が印象的。保持非保持ともに多くのタスクを任されながらそれを自在にこなし、さらに得点まで決めてしまう姿は2戦目にして早くも主軸そのものでした。ファストブレイクの方が合っているとよく言われるFC東京ですが、その中で輝けるタレントがやってきたなという印象です。

広島としてはやはりゲームチェンジのできなさが気がかりですね。プランAの出力が高いまま押し続けられるのはいいことなんですが、それも今日のようにいったん引かれると凌がれてしまうわけですからね。攻撃陣の層はかなり厚い中で、先発の役割を引き継ぐのではなく新たな風を吹かせられるのが誰なのかには注目していきたいところです。

それではまた次回。

#1 【2024J1第1節 サンフレッチェ広島×浦和レッズ】

はしがき

平素は大変お世話になっております。今年もリーグ戦のレビューをやっていきます。
今年はチーム数が増えて38試合ありますが、何とか1試合でも多く書けるように頑張ります。新スタジアムだから見るのも楽しいし。よろしくお願いします。

という訳で開幕戦の相手は浦和。エディオンピースウイング初の公式戦が今シーズンのJリーグ開幕を告げる一戦となりました。スタメンは以下。

浦和は新監督ヘグモさんの宣言通り4-3-3でスタート。新加入選手の起用は渡邊、グスタフソン、松尾、サンタナと多めです。
一方の広島は昨年とほとんどメンバー変わらず。新加入の大橋はシャドーで起用され、それに伴って満田がDHでの起用となっています。オフをケガの治療に充ててこけら落としをお休みした大迫も間に合いました。

綺麗に噛み合った配置

試合は序盤からショートパスでのビルドアップを試みる浦和に対し、広島が前から圧力をかけていく展開。WBをSBまで突撃させ、最終ラインが数的同数になる光景はもうおなじみですね。

序盤だけは伊藤とグスタフソンのマークを加藤と川村のどちらにするかで戸惑っていましたが、20分頃からは加藤がアンカー番という形でほぼ固定し、2CBにピエロスと大橋、SBには東と中野、DHには満田と川村という形でマンツーマンでぴったり監視する体制を確立していました。

この状況に対して浦和はあまりポジションを動かさずに長いボールで対応しようとしますが、サンタナへのロングボールが荒木に跳ね返され、WGにもなかなかボールが届かない状況が続いたことで徐々にビルドアップの出口を失っていきます。
こうして20分過ぎからは広島がボールを持って浦和陣内に攻め入っていく頻度が上がっていきました。

幅を活かすロングボールと東の異能

さて、ボールを持った広島の前進ルートとして目立ったのは主に2つ。一つが低い位置から対角へのロングボールで、もう一つは左サイドのユニットによるショートパスでの前進でした。

対角へのロングボールはそのままの意味で、サイドの低い位置から逆サイドの高い位置へのロングボールのことですね。浦和は4バックで守っているわけですが、そこに1トップ2シャドーに加えて大外からWBが突っ込んでくるので、単純にDFラインは人が足りなくなって守りづらくなります。これで大外から折り返せればよし、跳ね返されてもシャドーなりDHなりで回収して二次攻撃に移れるという寸法ですね。誰かが言っていましたが、トランジションが速いという広島の特徴とかみ合ったよいアタックだと思います。
特に右サイドの中野が渡邊の外側に入ってくる場面は何度となく見られました。中野はこの試合走行距離とスプリント数がともに1位であり、WBから最前線に入っていくという過酷な役割を何度もこなしていたことがうかがえます。
ちなみに対面のSBはこのポジションがやや不慣れな渡邊だったわけですが、ロングボール攻勢はここを狙って仕込んできたという訳ではなく、単純に東より中野の方がこの役割に適性あるから何回もやってたという話だと思っています。なので、たとえ中野の対面が酒井だったとしても同じような攻め筋で仕掛けていたんじゃないかなと。

もう一つの左サイドのユニットというのは、主に東と加藤の関係性を指します。サイドで東がボールを受けた際、加藤が中央からサイドに流れる動きを見せることで伊藤の注意を引き付けます。ここで伊藤がついてくればフォローに来た満田や川村に渡して逆サイドへ展開、ついてこずに加藤がフリーなら斜めのパスを刺して23分のシュートシーンのように加藤が前を向いて仕掛けられるという形です。

先制点のシーンではピエロスがサイドに流れる動きをしているので、チームとして設計している前進ルートなのだと思います。これは東という出し手として優秀な選手をWBに配置しているからこその攻撃であると言えるでしょう。
広島の最終ラインはプレスを受けると大きく蹴ってしまうことも多かった中で、この左サイドからの前進については常に信頼できるルートであり続けたと思います。昨シーズンの終盤からやっている形ですが、東のWBはしばらく動かせない重要なポジションなんじゃないかなと感じました。

そして、優勢に進めていた広島は45分に川村のミドルのこぼれ球を大橋が詰めて先制。前半の広島はちょっとシュート打つの早すぎないか?というシーンがいくつかあったのですが、高いシュート意識が奏功する形で大きな先制点を得ました。

試行錯誤するグスタフソンと小泉

ビハインドとなった浦和は、保持の意識を強めることで変化をもたらそうとします。前半と比べると、配置を動かすことで広島のプレスをかいくぐろうという取り組みが印象的でした。

例えば50分のグスタフソンのシュートシーンでは、小泉が下がりながらグスタフソンが高い位置に進出することで広島のプレスを回避し、そのまま高い位置まで入っていったグスタフソンがフリーでクロスに合わせています。
また、その前の48分にも小泉とグスタフソンがそれぞれ列を降りたところからピエロスの背後を取ったグスタフソンを起点に綺麗に前進するシーンが見られました。浦和はなんとか中盤の入れ替わりで広島のマンツーマン守備を外そうとしており、それは一定の成果を上げていたように思います。

一方、SBを経由したビルドアップは前半から大きな変化がなく、浦和は後半開始から何度となく広島のプレスによってSBのところでボールを失っていました。そして52分、出しどころを失った渡邊から小泉へのパスを加藤と大橋が引っ掛けてPKを獲得することになりました。
このPKは失敗に終わり直後に関係ない形で広島が追加点を挙げるという謎の展開になりましたが、浦和としては小泉とグスタフソンの工夫が及ばないところで広島のプレスに屈した形になったと言えるでしょう。

トーンの落とし方が広島の課題

追加点を挙げた広島はしばらくしてピエロスに替えてドウグラスを入れ、プレスの強度を下げてやや引き気味に対応するようになります。
ただ、ここの対応はやや中途半端だったかなという風に映りました。

広島はプレスのラインは下げるのですが、SBに対してWBが出ていくという形は継続していたようで、結果的にWGとCBが大外で1vs1になるシーンが結構ありました。特に佐々木と東のサイドで顕著。前半のようにプレスに出ていって剥がされて自陣で佐々木とWGの1vs1ならまだしも、ミドルゾーンで構えているのに大外でCBとWGの1vs1が発生する状況は結構危険です。ここはWGに対してWBとCBが対応し、SBはシャドーに任せておくのが良かったんじゃないかなと思います。

なおCBが引き出されたスペースはDHがカバーすることになりますが、満田はここのカバーにかなり無頓着だったのでそこも怖いポイントでした。満田は前半からカウンター対応でCBが引き出されたスペースのカバーに走れていなかったり、64分のシーンなど中盤にかなりスペースがある状態でハイリスクなチャレンジを仕掛けたりと、中盤の守備者としては怖い対応が見られました。ボールを持った時の視野の広さやキック精度は抜群ですしロングカウンターの中継点にもなれるのですが、リードした展開で中盤に置いておく選手ではないかなという気がします。
この試合は82分に松本泰、92分に山崎が入ってきて中盤の守りは厚くなっていきましたが、満田をいつまでDHに置いておくかは今後の試合でも重要なポイントになっていきそうです。

雑感・次節に向けて

試合は広島が逃げ切って2-0で勝利。終盤はやや怪しさも残りましたが、チームとしての成熟度の高さは見せられたのではないでしょうか。トランジションの速さを活かすロングボール攻勢にショートパスでの前進、待望のゴールゲッターの鮮烈デビューなど、上出来の船出と言えそうです。昨年からの課題である得点力不足には改善の見られそうな中で、今日のようなリードした展開での試合の終わらせ方、あとはスカッドの底上げが伸びしろかなといったところ。

浦和は随所にアイデアの光るボール保持を見せましたが、全体的にはこれからといったところでしょうか。この試合では広島のプレスの的になったサイド起点の前進にどれだけ選択肢を用意できるかは重要になりそうです。とはいえ他のチーム相手なら前線3人がもう少し優位を取れるでしょうし、勝ち点に困ることはないんじゃないかなという感覚でした。

それではまた次回。

【サンフレッチェ広島2023シーズンレビュー】

はしがき

毎度お世話になっております。2023シーズンはとっくに終了し、2023年ももうすぐ終了ということで、サンフレッチェ広島の2023シーズンを振り返っておこうと思います。

概要

今シーズンの成績はこちら。

J1リーグ……勝ち点58、42得点28失点の3位
ルヴァンカップ……グループステージ3勝3敗の2位で敗退
天皇杯……3回戦敗退

昨シーズンと比較するとカップ戦こそ早期敗退しているもののリーグ戦の勝ち点は増えており、シーズン中の主力流出や負傷離脱があったにしては頑張った成績なのではないかなと思います。

で、今シーズンの戦いぶりを振り返るにあたり、満田の負傷離脱とそこからの復帰がターニングポイントであったことは今更指摘するまでもないでしょう。満田の負傷前、離脱中、復帰後それぞれのリーグ戦の成績は以下の通りです。

1. 離脱前(第1節札幌~第12節福岡まで11試合)
7勝2分2敗の勝ち点23、16得点8失点
2. 離脱中(第12節神戸~第22節湘南まで11試合)
2勝2分7敗の勝ち点8、8得点14失点
3. 復帰後(第23節浦和~第34節福岡まで12試合)
8勝3分1敗の勝ち点27、18得点7失点

もう明確に違いますね。今回は、
①なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わってしまったのか?
②満田離脱前と復帰後でどのように戦い方が変わったのか?

の2点について考えてみようと思います。また、昨シーズンの振り返り記事で今後の課題について書いていたので、その答え合わせと来季に向けての展望も少し書いてみます。

syukan13noblog.hatenablog.com

 

①なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わってしまったのか?

さて、なぜ満田の離脱前後でここまで戦績が変わったか?を考えるにあたっては、広島がどのようなサッカーをしていて満田がどういう役割を果たしていたかを整理してみる必要がありそうですね。
例としてシーズン初勝利を挙げたガンバ戦のスタメンを見てみます。

シーズン当初の広島は割と2トップもやっていて、満田はWBに配置されることも多かったですね。この時期の広島は昨シーズンの延長戦上という感じで、基本的にはWBを下げてその裏に人とボールを送り込み、サイドを起点に相手を押し込むというスタイルで戦っていました。

このやり方をするとシャドーやトップをサイドに流すことになるため中央から人がいなくなってしまい、最終的にシュートを打つ人がいなくなりがちになるという問題があります。しばしば2トップを採用していたのはその対策という面もあるのでしょうが、2トップにした結果プレスがハマらなくなるという場面も見られました。
また、DHをハーフスペースの高い位置まで進出させるのも崩しの人数を確保するためには必要なことだったと思いますが、こちらもカウンター対応がおろそかになってしまうという弱点があります。
総じてサイドに人を流すという前進の方法にやや難があり、それを解消するためにほかのところにゆがみが生じているという印象でした。

そうしたスタイルの中で満田は貴重なWBとシャドーを両方こなせる選手であり、2トップにした結果中央からサイドに配置が変わるなど、複数のタスクをハイレベルに行う何でも屋としての側面が強かったように思います。シャドーではサイドに流れてビルドアップに関与し、WBとしては逆サイドのクロスに飛び込んでいく動きも求められます。強度の部分だけでなく、戦術の維持にも高い貢献度を誇るアタッカーですね。

また、点が欲しい終盤には満田を中央に入れて強度を維持しつつフレッシュなアタッカーを投入するという采配が多く、終盤まで点の取れない試合が多かったことで満田には負担の大きい展開が続いていました
そういった中で満田が負傷離脱したことで、なかなか点が取れないのはそのままに強度を維持できなくなっていき、相手を押し込み続けたり終盤で逆転したりといった展開が見られなくなっていったというのが失速の大きな要因ではないかと思います。

満田の離脱後もサイドからのビルドアップやDHの侵入は続けていましたが、前進した後に押し込めず中央に空いたスペースからカウンターを受ける、終盤まで強度を維持できないので拮抗した展開で耐えられないなど、リーグ戦の序盤では見られなかった負け方をするようになっていきます。

もちろん手をこまねいていたわけではなく、6月には4-3-3にチャレンジするといった取り組みもありました。

中盤がよく動くサッカーをしていたので3センターにして穴をあけにくくするという狙いは良かったと思うのですが、実際には急ごしらえのためかプレスもハマらず、中盤3センターが連動していないため山崎が過重タスクに陥るという結果になってしまいました。

満田離脱後はゲーム全体での強度の最大値という意味でも、強度の持続力という意味でも遅れを取るようになり、既存戦術のマイナスの部分が目立つようになってきた時期だったと言えるでしょう。さらに森島の移籍も発表され、いよいよこれまでの戦術を維持するのは難しいという状況になっていきました。

②満田離脱前と復帰後でどのように戦い方が変わったのか?

こうした中でターニングポイントとなったのが、8月のホーム浦和戦だったと考えています。
8月の浦和戦で最も大きなトピックは当然満田の復帰だったと思いますが、それ以外にも大きな変化が見られた試合でした。それがWBの人選とビルドアップの役割変化です。

まず浦和戦の一つ前の湘南戦からWBは志知と中野のセットになっており、このセットにすることでビルドアップに詰まった時にサイドにロングボールで逃げることができるようになります。それまではビルドアップに困ったらとりあえず背後に蹴るという形だったので、ここで勝算のある逃げ先を用意できるようになりました。

これに伴いWBが高い位置を取って相手を押し下げ、CBも高い位置でビルドアップに関与するようになっていきます。これまではトップやシャドーがサイドに流れる、いわば横移動で相手を押し込みに行っていたのをWBとCBの縦移動で押し込む形に変えました。より自然な配置のまま相手を押し込めるようになったわけですね。

ここは本当に素晴らしかったと思います。保持時にピッチを広く使って攻めるにはどうしても大外に人を配置する必要があり、それまではそれをシャドーがやっていて全体のバランスを取るのが難しかったところがありました。そこをWBが担うようになることで、シャドーは中央でのフィニッシュに、DHはカウンター対応に専念できるようになり攻守にバランスの良い陣形を保つことができるようになります。
シャドーとDHが中央に待機していることで大外には短期突破が求められるようになりましたが、志知と中野がこの役割に適応できていたのも素晴らしかったですね。

そして、塩谷と佐々木の両CBの活躍も見逃せません。ただでさえ少ない人数で相手のカウンターに対処していたのを、保持時に高い位置まで持ち上がって効果的なパスを出すことまで要求されるようになったわけですからね。この役割をしっかりこなしていた2人には頭が上がりません。リーグ後半戦でもっとも多くのタスクを背負っていたのがこの両CBかもしれませんね。
この路線は最終的には左WBに東を起用して、高さを維持しつつコンビネーションでの前進も織り交ぜていく方向でまとまりました。

それ以外にも川村が中央にポジショニングしてトランジションで絶大な存在感を発揮するようになったこと、加藤が早々にフィットして中央でのクロスに合わせられる選手が増えたことなど、様々な要素が噛み合ってリーグ後半戦の好調に繋がっていきました。

③昨シーズン上がった課題の答え合わせと来季への展望

昨シーズン書いたレビュー記事では2023シーズンの課題として
・広島対策への対応
・シーズンを走り切る体力

の部分を挙げました。

昨シーズンの広島に対する策としては、相手のボール保持時にWBやDHの配置を操作して押し込むこと、広島の保持時には最終ラインにプレスをかけてビルドアップさせないことが考えられました。
これらのうち、WBが動かされる点についてはCBとマークを受け渡して対処している場面が多く見られましたし、保持でプレスをかけられた場合には前述のようにWBへのロングボールで逃げることができていました。DHが動かされるところにはまだ少し弱いかなと思いますが、DHが中央に留まっている分対処しやすくなっているのではないかと思います。

また、後者の体力については正直不安な部分が多いです。ターンオーバーもしつつ臨んだカップ戦で早期敗退となったためシーズン後半は基本的に週1回の試合でしたが、それでもコンディション不良が相次いでいました。特にピエロスとマルコスあたりはもっと稼働してほしかったところでしょう。来シーズンはACL2出場の可能性も高いので、どうやってプレー時間を管理しつつ結果も出していくかは重要なポイントとなります。

そして来季に向けてですが、まず戦術面では大きな不満はありません。リーグ後半戦でボール保持の部分が大きく改善されたと思いますし、もともとの持ち味だったプレス強度もしっかり維持できています。もうすこしだけシャドーがサイドの崩しに関与してもいいかな?とは思いますが、基本的にはリーグ後半戦の内容を維持してもらいたいというところです。

それよりも編成面で、いまだに絶対的な主力が定まっていないと言えるCFと川村の相方となるDHを誰が担うかという点がキーポイントではないでしょうか。両ポジションとも人数は十分なので、高いパフォーマンスを維持しつつ稼働を維持できる選手がいるかどうかです。特にサイドからのクロスが中心となる今の戦術ではCFは非常に重要です。リーグ優勝したいなら得点数が少なくともあと15点ほど必要になってくると思いますので、その増加分を担える選手が出てくることを期待したいと思います。

また、現在負荷の高い両CBも30代半ばに差し掛かっていますので、彼らの控えも考えておく必要がありますね。カップ戦などで試していくことになると思いますので、今季出番の増えた中野や山崎、レンタルバックしたイヨハらに期待がかかります。

おわりに

というわけで2023シーズンの振り返りでした。改めて見ると主力の流出や長期離脱もありつつよく3位という好成績でまとめたなという感じですね。戦術的にもバランスのとれたいいサッカーをしていますし、これを書いている12/30時点で目立った流出もなく、新スタジアムに向けて好材料が揃っています。

来シーズンは本格的にタイトルが目標になってくるでしょうし、今季よりも目線を高く据えて追っていけるといいなーと思います。

それではまた来年!

#31 【J1第34節 アビスパ福岡×サンフレッチェ広島】

はしがき

毎度お世話になっております。今回はいよいよ最終節の福岡戦です。勝てば3位確保でACLへの道も見えてくる広島と、勝てばクラブ史上最高順位、最高勝ち点を達成できる福岡。お互いにモチベーションのある状態での試合となりました。スタメンは以下。

広島は松本泰志が青山に代わって久々の先発。福岡は前節と同じ11人を送り出してきました。

プレスの狭間で起点を作る広島

この試合は両チームともに3-4-2-1を採用していたため配置が噛み合っており、お互いになかなかボールを落ち着けられず長いボールを多用する展開になりました。その中でも違いが見えたのがDHに対する振る舞いです。

福岡は1トップ2シャドーが広島の3バックに対して高めの位置からプレッシャーをかけてきます。このため広島はG大阪戦のように3バックが余裕を持ってボールを配給することはできませんでした。
一方で、福岡のDHは広島のDHについて行くよりも中央のスペースを埋めることを優先しているように見えました。これによって広島のDHは福岡の1トップ2シャドーの背後でボールを受けることができ、ここでボールを落ち着けて攻撃の起点としていました。

図のように塩谷がサイドに開いて金森を引き付けておいて松本をフリーにしたり、逆に松本にシャドーが引き付けられた場合は塩谷がドリブルで持ち上がっていくなど、数的優位をうまく使って前進できていました。

噛み合った配置で活きるCBの優位性

一方、福岡の最終ラインがボールを持った際の広島は1トップ2シャドーに加えてDHも前から追いかけていくことが多かったですね。いつものことではありますが。

これによって広島の最終ライン以上に時間のなくなった福岡の最終ラインは前線の山岸や紺野に長いボールを蹴らざるを得ない展開になっていきました。福岡側としてはもう少し山岸や紺野のところでボールを収めてカウンターに出ていける算段だったのだと思いますが、ここで荒木や佐々木がかなりの勝率を収めていたのが素晴らしかったですね。

こうして時間とともに広島がボールを握って押し込んでいく展開となり、次第に広島のシュート数が増えていきました。

中央からでも押し込める

後半も広島が押し込む展開には変わりませんでしたが、両チームの選手交代を機にその流れがさらに加速した感がありましたね。
広島は攻撃的な選手を投入して本職ではない満田や加藤がWBをやっていたので、結果的に中央に人を集めて突破を図っているような形になっていきました。福岡側は中央での数的不利をなかなか打開できず、前線に入った交代選手によるカウンターも不発に終わってしまいました。

とはいえ後半から入ってきたCFを荒木が抑え込んで沈黙させてしまうというのも今季の広島でよく見た図式ではありますね。前半から山岸に仕事をさせていなかったのも驚きでしたが。
終始押し込み続けた広島は最終盤にその荒木のゴールで1点をもぎ取って勝利。4月頃を思わせるジリジリした展開で見事勝ち切って自力で3位を確定させました。

雑感

広島はここ2シーズン軸となっていた強度の高さと配置をかみ合わせたプレッシングで終始優勢をキープできました。特に今季猛威を振るっていた福岡の前線を抑え込んだCB陣はお見事でした。なかなか得点までたどり着かないところも引き続きの課題ですが、ここまで培ってきたものが出し切れた試合だったと言えるでしょう。

福岡は守備の粘り強さを見せたもののチャンスは少なく、切り札のカウンターも不発となりました。苦しい展開からでもチャンスを作り出せる山岸や紺野がハマらなかった時にどのように打開するかというのは今後も問われていくことになるのかもしれませんね。

という訳で今シーズンのレビューはこれで終了です。出すのが遅くなったりサボったりもしましたが、1年間ありがとうございました。また来年お会いしましょう!

#30 【J1第33節 サンフレッチェ広島×ガンバ大阪】

はしがき

毎度お世話になっております。札幌戦を飛ばしてしまいまして、今回はガンバ戦。3位をめざす広島ですが、クラブ関係者にとってはエディオンスタジアム終戦という意味合いの方が意識されていたかもしれません。一方のガンバは引き分け以上で残留とこちらもなんとか勝ち点を確保したい状況です。スタメンは以下。

広島は荒木とドウグラスがスタメン復帰、エディオンスタジアムとともに歩んできた青山が今季初先発となりました。ベンチには今季限りで引退の林に加えて柏、柴崎のベテラン勢も顔を揃えています。
一方のガンバは3-4-2-1でスタート。苦しい状況もあってか3バックで守備の安定を図っているということでしょうか。前節からは福岡、石毛に代わって佐藤、ダワンが起用されています。

ミラーで際立つずらし方

試合は序盤からガンバが5-2-3で構えたため広島の3-4-2-1とはがっちり噛み合う形となりました。保持で相手をどうずらすかに苦労してきた広島にとっては難しい展開かと思われましたが、この試合では一味違いました。

開始早々の2得点の起点となった左サイドでは、東が中央へ入っていく動きが印象的でした。佐々木あるいは自らが縦パスをドウグラスや加藤につけて、その落としを中に入っていって受けに行く動きですね。
ドウグラスや加藤がサイドに流れていくのと入れ替わりで東が中に入っていくのでその分スペースがあり、ボールを受けた後の選択肢が多くなりやすいのがいいところです。また、DHを突撃させるのと違ってボールを奪われたとしても中央が手薄になりにくいためリスクヘッジもできているのが素晴らしいですね。

列を上下する動きならともかくレーンを移動する動きはかなりマークを受け渡しづらいというのは広島もよく知っているところ。実際ガンバもなかなかこのレーン変更はつかまえきれておらず、広島があっという間の2得点で大きなアドバンテージを得ます。

司令塔で輝く青山

ポジションチェンジにより華麗な崩しを見せていた左サイドに比べると右サイドはおとなしめでしたが、時間の経過とともに塩谷を高い位置に押し出す動きがみられるようになってきました。

このとき青山が最終ラインに降りることで食野あたりの目を引き付け、塩谷がフリーになりやすくなっていたのがグッドでした。青山の列落ち自体は以前からよくやっていたことだと思いますが、それに呼応して塩谷を上げていたのが良かったですね。以前は青山が降りて4バックになる以外の変化は特になく手詰まりがちでしたが、この試合では青山が落ち着いてボールを持てるほか、攻撃力の高い塩谷を高い位置に押し出すというメリットをしっかり生み出せていました。

また、高い位置にボールを運んだあとはしっかりとサイドのフォローに入れるのも青山の良さでしたね。

6分の加藤のシュートシーンでは、満田が裏抜けしてダワンを動かしたところにすかさず入ってきて中野からパスを受け、加藤へのクロスに繋げています。このようにWBに入ったときに中央にパスコースがなくて詰まるというシーンは今季結構あったので、ここがスムーズに脱出できるのは素晴らしかったです。

これまでの青山は前線への飛び出しや列落ちなど定位置を離れすぎてしまうことが多く、それによって保持がやりにくくなったりカウンターのリスクが増えたりといった印象がありました。しかしこの日は動きすぎずに配給役に徹し、3点目のシーンのように要所で強度も発揮するという、アンカーとして理想に近い働きをしていたと思います。

この日の先発に関しては前々から決まっていたようで記念出場という意味合いはあったでしょうが、パフォーマンスとしてはまぎれもなくチームの中核を担っていました。この先も広島の中盤で攻撃のタクトをふるってほしいと思えるだけのものをピッチで見せてくれたと思います。

保持に振ったものの……

2点のビハインドで後半を迎えたガンバはボール保持の意向を強めてきます。具体的には右サイドの半田と佐藤を上げて4バックのような形にしてきました。広島が塩谷を上げていたのと同じようなずらし方ですね。これによって右サイドから広島のプレスをかいくぐれる場面が増えていきます。

ただ、こうした場面が増えてくるころには広島が加藤のゴールで3-0としていた後であり、広島としては無理して前から追わずにミドルゾーンで構えていればよかったため大きなチャンスにはつながっていきませんでした。
結局ガンバが大きなチャンスを迎えたのは前半にカウンターでゴールに迫ったシーンくらいとなってしまいました。広島同様に相手をずらす方法は持っていたので、前半からここに取り組んでいればもっと違った展開もあったかもしれません。

雑感・次節に向けて

後半の早い時間にリードを広げた広島は余裕を持って林、柴崎、柏に出番を与えることに成功。エディオンスタジアム終戦の空気をかみしめつつ、危なげなく3-0で勝利。他会場の結果により3位に浮上しました。一方のガンバも残留が決定して一安心。苦しいながらも最低限の成果は手にしたと言えるでしょうか。

広島としては保持が改善傾向にあるのが頼もしい限り。東と青山の移動を軸に据えた前進は整備されており、楽しく見られました。この試合では強度で勝てるマッチアップも多かったので、そこが互角の相手とぶつかった時にどうなるかがポイントでしょうか。そういう意味では福岡戦の出来には注目したいところですね。

一方のガンバは慎重な入りが裏目に出る結果になってしまいました。配置をかみ合わせることである程度全員を捕まえられるという算段だったと思うのですが、列とレーンの移動を織り交ぜた広島の保持に振り回されてしまう形に。

なまじ対面の選手がいるのでどこまでついて行くか細かい判断が必要になり、さらに広島の強度に終始押されてしまったのも誤算かもしれません。やはり吹田での対戦時のように主体的に配置をずらして相手を動かしていく方があっているチームなのではないかなと感じました。

それではまた次回。